アニュアルレポート2020

社長メッセージ

横浜ゴムの強みを再定義し、
独自路線を強めた各事業の成長戦略を
通じて経営基盤を強化

山石 昌孝

代表取締役社長

山石 昌孝 代表取締役社長

横浜ゴムは2018年より3ヶ年の中期経営計画「グランドデザイン2020(GD2020)」をスタートしました。横浜ゴムの強みを再定義し、独自路線を強めた各事業の成長戦略を通じて経営基盤を強化、これによりきたるべき2020年代における更なる飛躍に備えることが「GD2020」の位置づけです。各戦略に基づいた2019年の主な活動と今後の取り組みについてご紹介します。

売上収益、当期利益は過去最高に

2019年度の日本経済は生産活動が引き続き低調な中、消費増税に伴う駆け込み需要の反動や台風の影響などで消費活動が鈍化し、景気は足踏み状態となりました。世界経済は米国では景気が回復基調となりましたが、欧州や中国では景気低迷が続きました。こうした状況の中、当期の売上収益は前期比微増の6,505億円、事業利益は同15.4%減の501億円となりました。また、第1四半期の固定資産の売却、第3四半期のインドの法人税率引き下げに伴うATG組織再編時に計上した税金負債の取り崩しなどにより営業利益は同9.5%増の586億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は同17.8%増の420億円となりました。この結果、売上収益、当期利益は過去最高となりました。

タイヤ消費財事業:高い製品性能を武器にプレミアムタイヤ市場を狙う

タイヤ消費財事業は4つの切り口で戦略を推進しています。1つめの「プレミアムカー戦略」では2019年もポルシェ「カイエン」に「ADVAN Sport V105」、トヨタ「C-HR “GR SPORT”」に「ADVAN FLEVA V701」が納入されるなどハイインチ高性能タイヤを中心にプレミアムカーへの新車装着を拡大しました。

2つめの「ウィンタータイヤ戦略」では国内スタッドレスタイヤ、欧州ウィンタータイヤ、ロシア/北欧向けのスタッドタイヤにおいてナンバーワンの性能を目指し、商品開発に取り組んでいます。2019年は乗用車用スタッドレスタイヤ「iceGUARD iG53」、SUV向けスタッドレスタイヤ「iceGUARD G075」を北米市場に投入し、いずれも市場で好評を得ています。

3つめの「ホビータイヤ戦略」ではモータースポーツ、クラシック、オフロード、ドレスアップなどあらゆる自動車ユーザーの趣味に対応すべく「ADVAN」や「GEOLANDAR」シリーズをはじめとした「ホビータイヤ」の新商品投入およびサイズラインアップの拡充に意欲的に取り組んでいます。2019年は、北米の世界最大規模の自動車用品ショー「SEMA Show」に11年ぶりに出展したほか、日本でも2020年1月に開催された「東京オートサロン」において、「ホビータイヤ」を全面的に訴求しました。そして、製品アワードも多数受賞することができました。「SEMA Show」の「New Products Award」では、SUV・ピックアップトラック向けタイヤ「GEOLANDAR X-AT」が「Best New Tire Winner」を受賞したほか、「GEOLANDAR X-CV」および「ADVAN APEX V601」も表彰され、3つの賞を独占受賞しました。そのほかにもSUV・ピックアップトラック向けマッドテレーンタイヤ「GEOLANDAR X-MT」が「Red dot Design Award」を、「GEOLANDAR X-AT」と「GEOLANDAR X-CV」が「シカゴ・アテネウム グッドデザイン賞 2019」を受賞しました。

ポルシェ「カイエン」に装着された「ADVAN Sport V105」

ポルシェ「カイエン」に装着された「ADVAN Sport V105」

北米市場向けに投入した乗用車用スタッドレスタイヤ「iceGUARD iG53」

北米市場向けに投入した乗用車用スタッドレスタイヤ「iceGUARD iG53」

「東京オートサロン」のYOKOHAMAブース

「東京オートサロン」のYOKOHAMAブース

「SEMA Show」で展示した「ADVAN APEX V601」装着車両

「SEMA Show」で展示した「ADVAN APEX V601」装着車両

4つめは「お客様とのコミュニケーション活性化」です。当社ではあらゆるジャンルのカーコミュニティに積極的に参加し、イベント、SNS、Webを通じてカーライフを楽しむお客様との日常的なコミュニケーションの向上に努めています。2020年もプレミアムタイヤ市場において、付加価値の高い商品のさらなる拡販に努めてまいります。

ファン・コミュニティ「ADVAN club」で行ったタイヤ工場見学

ファン・コミュニティ「ADVAN club」で行ったタイヤ工場見学

タイヤ生産財事業:オフハイウェイタイヤが力強く成長

タイヤ生産財事業ではオフハイウェイタイヤ(OHT)を成長ドライバーとして、事業拡大を図っています。2016年に買収したATGの農業機械用タイヤ、林業機械用タイヤ、2017年に買収した愛知タイヤ工業の産業車両用タイヤ、そして横浜ゴムの建設車両用タイヤを最大限活用し、事業ポートフォリオ拡充を進めています。特にインドを拠点としたATGは、圧倒的なコスト競争力と多様な商品ラインアップを武器に力強い成長を実現しています。インド・ダヘジ工場の拡張工事は当初計画通り、2019年末に1.6倍の能力増強が完了しました。

また、トラック・バス用タイヤでは北米の事業基盤を活用し拡大を進めています。米国のトラック・バス用タイヤ生産拠点であるYokohama Tire Manufacturing Mississippi, LLC.は、2019年にIATF16949認証を取得し、継続的なOE納入を実現しています。また、商品面においては横浜ゴムの独自技術であるSpiraLoop®と呼ばれるベルト構造を採用した超偏平シングルタイヤを主軸に商品開発の強化にも取り組んでいます。2019年はトレーラー向けの超偏平シングルタイヤ「114R」を北米市場で発売するなど商品ラインアップを拡充しています。超偏平シングルタイヤは堅調な需要増を見込んでおり、さらなる拡販のために三重工場の設備能力を2020年上期に倍増させました。

ATGのOHT装着車両

ATGのOHT装着車両

北米で発売したトレーラー向けの超偏平シングルタイヤ「114R」

北米で発売したトレーラー向けの超偏平シングルタイヤ「114R」

モータースポーツ活動を通じて最高レベルの技術を追求

モータースポーツ活動は先行技術開発の場として当社にとって重要な位置づけです。2019年も全日本スーパーフォーミュラ選手権のワンメイク供給やSUPER GTへの参戦など国内外のトップレースをサポートしました。ニュルブルクリンク24時間耐久レースではKondo Racingをサポートし、初出場で日本車最高位の総合9位を獲得しました。また、米国ではPorscheが開催するレース「GT3 Cup Challenge」に長年ワンメイク供給を行っていますが、2020年よりもうひとつのカテゴリである「Porsche Sprint Trophy」にもワンメイク供給を行うことが決定しています。今後も国内外のモータースポーツ活動を通じて最高レベルの技術を追求していきます。

ニュルブルクリンク24時間耐久レースで総合9位を獲得したKondo Racingの参戦車両

ニュルブルクリンク24時間耐久レースで総合9位を獲得したKondo Racingの参戦車両

MB事業:得意分野への資源集中

MB事業は持続的な成長が期待できる自動車部品ビジネスと技術優位性の高い海洋事業を戦略の柱として事業を推進しています。2019年は世界最大の超大型空気式防舷材の納入を開始し、市場での存在感を発揮しています。

ブランド戦略:グローバルでのブランド認知度を向上

当社では2015年からイングランド・プレミアリーグ「チェルシーFC」とのオフィシャルシャツパートナー契約を締結し、全世界での「ヨコハマタイヤ」の認知度向上と販売伸長によるマーケットシェア拡大に取り組んでまいりました。2019年のヨコハマタイヤの認知度は2015年に比べ、欧州で9%、東南アジアで13%向上し、グローバルでは7%向上しました。オフィシャルシャツパートナー契約は初期の目標を達成したため、当初の契約通り2020年6月で終了し、2020年7月からは新たにオフィシャルグローバルタイヤパートナー契約を締結しました。スタジアムLED、インタビューのバックボードへのロゴ表記などは継続して実施します。海外販路においては引き続きチェルシーFCを販促に活用し、販売拡大を図ります。

チェルシーFCを起用したタイヤの販促ビジュアル

チェルシーFCを起用したタイヤの販促ビジュアル

ブランド認知度

ブランド認知度

■ 2019 ■ 2015

経営基盤の強化:ESG活動のさらなる強化

近年、世界の社会情勢の変化により私たちを取り巻く環境は大きく変化しており、持続可能な社会実現のための行動が一層求められています。当社は2020年1月に持続可能な経済の実現を目指す国際的な環境非営利団体「CDP」から「気候変動 A リスト 2019」に選定されました。例えば、タイヤの主力生産工場であるYokohama Tire Philippines, Inc.に太陽光発電システムを設置し、再生可能エネルギーの使用率を高める活動を行うなど日頃のESG活動に高い評価をいただけた結果であると考えています。また「低燃費タイヤ」に代表される「環境貢献商品」の性能向上とラインアップの拡充を通じて、次世代につながる環境づくりに貢献しています。天然ゴム調達においては2018年に策定した「持続可能な天然ゴムの調達方針」に基づき、天然ゴム農園での労働状況調査や商流調査を開始しました。

コーポレートガバナンス体制においては、公認会計士、M&A有識者といった専門性の高い方々を独立社外取締役に迎えたほか、海外グループ会社の経営者を取締役として加えるなど機能強化ならびに人材の多様化を図りました。当社のESG活動は世界的にも高く評価され、ESG投資の世界的指数「FTSE4Good Index Series」に15年連続で選定されており、今後も取り組みを一層強化してまいります。

経営基盤の強化:人的資源の最大活用と育成による組織活性化

当社では「多様な人材活用」「仕事と生活の両立支援」を軸にこれまで取り組みを行ってきました。まず「多様な人材活用」です。現在、当社では総合職で2割の女性が活躍し、過去3年の総合職採用は平均して約3割が女性となっています。また、スタッフ部門と製造現場において65歳以上の社員146名、障がい者の方175名が活躍しています。2019年発足のダイバーシティ推進タスクでは主にマネジメント層を対象とした「イクボス」や「LGBT」などのセミナーを開催し、多様な人材への理解を深めるための活動を行っています。加えて、社員育成の強化も実施しており、次世代経営者の育成のため国内ビジネススクールのエグゼクティブMBAコースへ社員の派遣を行っています。

「仕事と生活の両立支援」では育児関連制度の拡充の結果、2019年の「育児休業取得率」は女性で100%、男性で62%を達成しています。当社はこれまでに時間単位有給制度、在宅勤務制度、フレックスタイム制度などを導入し、柔軟な働き方を実現するための制度を整えてきました。今後も労使間の最優先事項として働き方改革を加速していきます。

経営基盤の強化:財務体質の改善

財務戦略では各事業の収益力向上によるキャッシュ・フローの創出とグループ資金を有効活用した効率的な資金管理により、財務基盤の強化を図っています。2019年度の有利子負債は前期比で205億円と大幅に削減し、D/Eレシオは同マイナス0.12倍の0.57倍となり、財務目標の0.6倍を1年前倒しで達成しており、財務体質の改善が着実に進んでいます。

きたるべき2020年代における更なる飛躍に備える

自動車業界は今、電動化、自動運転、シェアリングエコノミーの拡大など大きな転換期を迎えており、経営環境は急速に変化しています。加えて、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、世界経済の大幅な落ち込みは必至です。私が社長として先陣に立ち、グループの総力を結集してこの難局を乗り越えてまいります。