ステークホルダーダイアログ

社外取締役対談

2023年度は、中期経営計画「YOKOHAMA Transformation 2023(YX2023)」の最終年度にあたります。社外取締役のお2人に、YX2023の進捗や現在のグループガバナンスに対する評価を伺うとともに、中長期的な企業価値向上のために取締役が果たすべき役割などについて、客観的な立場から意見を語っていただきました。

岡田 秀一 社外取締役
略歴:通商産業省(現経済産業省)入省後、通商政策局長、経済産業審 議官を経て石油資源開発(株)で代表取締役社長を務めるなど、国内 外の社会・経済情勢および経営全般に関して深い見識を持つ。2013 年より当社社外取締役。

金子 裕子 社外取締役
略歴:1993年公認会計士登録。早稲田大学商学学術院教授として研究、指導も行っていた会計および監査に関する豊富な知見を活かして、三菱HCキャピタル(株)などで取締役・監査役を務める。2022年より当社社外取締役。

    

昨年取締役会で行われた議論で印象に残ったことについて
お聞かせください。

岡田

私は2013年から社外取締役を務めていますが、その間、当社はM&Aや事業の売却、本社の移転など、大きな決断を数多く下してきました。世界のマーケットで一定のシェアを得るために、積極的にリスクを取りながらポートフォリオの変更に取り組んでおり、その際の議論の数々が印象に残っています。TWSの買収については金額が大きいこともあり、かなりの決断であったと思いますが、結果的に当社の国際的なプレゼンスを大きく向上させ、マーケットからも株価の上昇という形で評価されています。

金子

TWSの買収については私も印象に残っています。社外取締役に就任した2022年はすでに買収の是非は決着していましたが、買収の進め方等について精緻に議論されていました。一方で、設備投資についても時間をかけて議論されていることは当社の取締役会の特徴であると感じました。特に印象的だったのは、工場担当の役員の方が熱心に設備投資について説明してくださったことです。投資の必要性や技術的なメリットについて、詳細かつ分かりやすく説明いただき、製造現場に立つ方々の製造に対する思いや情熱が伝わってきました。当社のモノづくりに対する熱意が企業の成長に大きく貢献していることが分かり、強く心に残っています。

    

横浜ゴムの経営・事業に対する問題意識と評価をお聞かせください。

金子

私は2つの点について課題認識を持っています。まず、当社は非常にスピーディな経営判断がなされており、一体感が強く感じられます。一方で、ダイバーシティ&インクルージョンの観点では、女性社員がマネジメントレベルで活躍する機会がまだ不足しているように思います。社会が複雑化し、人々の意識も変化しています。本社と平塚製造所の統合もありますので、リモート技術の進化等を活かして、さらに多様な働き方の工夫を進めることが重要になるのではないでしょうか。2つ目の課題として、グループガバナンスが挙げられます。当社は売上収益における海外比率が6割を超えるグローバル企業ですが、異なる文化や背景を持つ企業が共に成長するためには、グループ共通の価値観や企業理念を持つための工夫が非常に重要になります。この課題は、さらなる海外展開や当社グループの成長に伴ってさらに重要性が高まるでしょう。

岡田

私もその2点については今後の課題であると認識しています。これからは単なる製造業としてではなく、社会に貢献し、社会における重要な一員であるというメッセージを国内外に向けて発信する必要があると感じています。また、これは2番目の課題とも関連するのですが、企業の社会的な使命やビジョンを明確にし、そのメッセージをグループ内で共有することは、グループガバナンスの強化に寄与すると考えます。

金子

この課題についてはすでに取締役会でも取り上げられていますね。また、基盤強化のために内部監査や内部通報体制のあり方などについても検討されています。今後も取締役会が真摯に課題と向き合い、随時見直しや改善に向けて取り組みを進めることが、当社のさらなる成長と発展につながると思います。

岡田

私が取締役に就任した頃は、社外取締役の人数も少なく、社外取締役が取締役会に提言できる分野も今より限定されていました。それが今はどんどん広がり、社外役員や女性役員の人数も増えてきました。そして監査等委員会設置会社への移行により、ガバナンスについても新しい横浜ゴムにふさわしいものに向けて変えていこうという意志が見て取れます。

金子

ガバナンスについては、常に見直しと進化が求められ、到 達点はありません。特に海外を含めた体制は文化の違いなども あるため、横浜ゴムとしての文化や企業理念などをしっかり育て、求心力となるようなものを共有していく必要があります。それぞれの地域や部門でビジネスの進め方は異なっているとしても、根幹の価値観や理念はしっかりと共有できるような工夫が重要です。各地に権限の委譲を行いながらも、横浜ゴムグループとしての一体感を醸成するために、継続的な働きかけが求められるでしょう。

    

中期経営計画YX2023の進捗については、どのように評価されていますか。

岡田

YX2023での大きな施策としてはTWSのM&Aがありますが、当社ではM&A後のポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)を重視していることが特徴的です。2016年のATGのM&Aにおいても、当時の副社長を派遣して細やかな対応が行われました。当社が、買収先の企業を本当の意味で一体化させ、共に成長していこうとしていると感じ、感心したことを覚えています。
現在も、山石社長はTWSにおけるPMIの重要性を強く認識しておられ、人的資源や資金などしっかり投資していく姿勢を示しておられることは素晴らしいことだと高く評価しています。

金子

当社のグループ戦略が順調に進んでいる理由は、各社の人材を大切にしてきたからだと考えられます。買収先の企業を理解し、共に成長するためには、本社を含むすべての従業員が現地のメンバーと協力しあうことが不可欠です。人的資本をうまく活用するためには、適切な人事制度や働き方改革が重要です。中途入社や異なる国籍・性別の従業員も能力を発揮できるような環境を整え、従業員のモチベーション向上や活躍を促すことが、YX2023の成功とともに、中長期的な企業価値の向上につながると考えられます。

    

横浜ゴムが持続的な成長を実現するにあたって、社外取締役が果たすべき役割とは何でしょうか。

金子

当社グループの成長において最も重要な要素は、人的資本であると考えます。従業員が意欲的に取り組み、自己実現を感じられる環境は、組織の持続的な成長に欠かせません。そのためには、多様性を尊重し、個々の能力を発揮できる場を提供し、活躍できる環境を構築することが大切です。

岡田

不確実で複雑なVUCAの時代にあっても、企業は確実に成長していくことが求められています。社員が一体となり、横浜ゴムの文化を共有しながら強い使命感をもって社会に貢献していこうとすることが発展の原動力となると確信しています。

金子

私が社外取締役として期待されている役割は、会計監査、内部統制、そしてガバナンスに関する専門知識をもって、取締役の業務執行を監督することだと認識しています。取締役会においては、社外取締役は会社の業務に精通している社内取締役の視点とは別に、客観的な視点で意見を述べることが期待されています。

こうした役割分担により、取締役会が合理的な意思決定を行い、課題を明らかにしていくことに貢献できます。また、近年はリスクを取って成長につなげる「攻めのガバナンス」が提唱されています。私自身も、経営陣の健全なリスクテイクを支えるリスク管理が適切に行われているか、意思決定のプロセスにも目を向けながら皆さんをサポートしていきたいと考えています。

岡田

社外取締役の役割は大きく次の3つに分けることができます。第一に、社外の人間として、社内の論理に縛られない建設的な議論や意思決定を促すこと。第二に、中長期的な視点から、当社が持続的に成長するために必要な考え方などを提言すること。第三に、執行の立場から独立して、経営陣が適切に業務を執行しているかをチェックすること。私は、経済産業省では約80カ国を訪問し国際的に活動し、退官後はIT企業や石油開発会社の役員を経験してきました。今後の当社グループの成長を支えるために、これらの経験を活かして社外取締役の務めを果たしていきたいと思います。

ステークホルダーとの対談
自動車社会とタイヤの未来

一般社団法人 日本EVクラブ 代表理事/自動車評論家
舘内 端 様

取締役執行役員 技術統括 兼 タイヤ製品開発本部長 兼 品質保証本部担当
清宮 眞二

電気自動車(EV)の普及などによって自動車社会はどのように変化し、タイヤに求められる性能や役割はどのように変わっていくのか。約30年にわたり日本国内のEVの発展に尽力されてきた舘内 端氏をゲストに迎え、当社のタイヤ技術責任者と対談を行いました。

タイヤの環境性能における横浜ゴムの取り組み

舘内

横浜ゴムは国内外のタイヤメーカーの中でもエコに関する取り組みが特に早かったと思います。当クラブは1994年に設立され、1995年からEVの一大レースイベントである「日本EVフェスティバル」を、2014年から長野県白馬村で「ジャパンEVラリー白馬」を毎年開催していますが、現在に至るまで長年にわたりサポートしていただいています。

第20回日本EVフェスティバル(2014年)
(写真提供:一般社団法人 日本EVクラブ(Japan Electric Vehicle Club) 撮影:三浦康史(Yasushi Miura))

第3回ジャパンEVラリー2016白馬~乗鞍~高山(乗鞍スカイライン)
(写真提供:一般社団法人 日本EVクラブ(Japan Electric Vehicle Club) 撮影:三浦康史(Yasushi Miura))

清宮

当社では、時代に先駆けた環境性能をキーワードに、燃費の改善、CO2排出量の削減につながる新たな核となるタイヤとして、「DNAプロジェクト」を1996年にスタートしました。ちょうど日本EVクラブの活動がスタートした頃ですね。
当時は、タイヤのグリップ力を低下させることなく、ころがり抵抗を低減させることをずっと目指してきました。この相反する条件を両立し誕生したのが、1998年に発売した日本初の低燃費タイヤ「DNAシリーズ」です。

舘内

特に印象深いのが、2001年に実施したEV-Aクラスによる「2001年充電の旅」です。約半年間で621回の充電を行い、日本一周を果たしました。横浜ゴムのエンジニアの方々にもご協力いただき試行錯誤の末に実現したものです。

清宮

このEV-Aクラスに装着したタイヤが「DNA dB」です。当社は、「走る喜びと環境との調和」「電気自動車用タイヤの研究・開発」をテーマに、EVに関する技術開発の促進を継続的に行っています。
2013 年には、EVコンセプトカー「AERO-Y(エアロ・ワイ)」を開発し、「東京オートサロン2013 with NAPAC」で披露しました。EV のモータリゼーションの成長に向けて、環境に配慮した技術をあらゆる面で採用しつつ、直感的に走る喜びを感じてほしいとの思いから製作したものです。開発にあたっては、空気抵抗低減をテーマとし、空気力学(エアロダイナミクス)を活用したタイヤ設計やボディ設計をはじめ、航空部品などの開発で培ったさまざまな部門の最新技術を結集しました。

2013年に開発したEVコンセプトカー「AERO-Y(エアロ・ワイ)」

舘内

その2013 年には、急速充電だけでEVを走行させて日本一周を目指す旅にチャレンジしました。”急速充電のインフラが整ってないからEVは普及しない”と言われましたが、航続距離80kmで約2カ月をかけて8,160kmを走破したのです。この時も横浜ゴムのエコタイヤを履いての出場でした。

清宮

20年くらい前まで、タイヤの環境性能に関する主な開発テーマは、ころがり抵抗と軽量化でしたが、今では他にもさまざまな性能が求められてきています。EVだからといってタイヤの機能そのものが大きく変わることはないのですが、燃費(航続距離)につながる要求水準が非常に高くなっていますね。また、EVは特性上トルクが大きいので、タイヤにはそれに耐えられる摩耗性が求められます。静かな走行音を邪魔しないような静粛性に対する要求もあります。

舘内

一般的に日本国内では、京都で開催された1998年のCOP3(気候変動枠組条約第3回締約国会議)から地球温暖化問題がクローズアップされましたが、すでにこの頃、横浜ゴムはタイヤの構造や材料も含めて低燃費、低CO2の研究開発を進められていました。その蓄積が今日の製品に結びついているのだと思います。

清宮

今ではDNAから「BluEarth」にブランドが引き継がれ、さらなる環境性能の向上を実現しています。さらに最近では、再生可能原料やリサイクル原料比率の拡大に向け、原料メーカーと協業しながらタイヤ開発を進めています。

BluEarthブランド

両者をつなぐモータースポーツという絆

清宮

長年にわたって舘内さんとの協力関係がうまくできてきたのは、その取り組みの根幹に「モータースポーツ」があったからだと思います。やはり我々もクルマを走らせることが大好きなので、サーキットで実証しながらEVを勉強できたらという思いがありました。そうしたところがうまくマッチングしたのではないかと感じています。

舘内

うれしいですね。そんなこと言ってくれるのは御社だけですよ。実は横浜ゴムとの出合いは1970年代にまでさかのぼります。私は当時レーシングカーの設計を手がけていたのですが、そのチームがF2に出場することになり、レース用タイヤを提供していただきました。それからのお付き合いです。ちょうどADVANがすごい勢いで出てきた時ですね。
モータースポーツはクルマの生命線と言っても過言ではありません。私の原点です。また、電気を充電して走るクルマには大きな可能性があります。EVでレースをやれば認知度が上がり、多くの方々にその可能性を伝えられます。走って競い合って楽しむのがモータースポーツの本質であり、それは人類が生きていく上で重要な役目を果たすのではないかと思っています。

清宮

フォーミュラカーの世界では、サステナブルなモータースポーツ業界づくりを目的に「SUPER FORMULA NEXT50(ゴー)」というプロジェクトが始まっています。再生可能原料の比率を高めるという目標に向けて、当社でもステップを踏みながらさまざまなことにチャレンジしています。時速300kmを超える世界での実証は大変貴重であり、技術開発の進化に大きく役立っていると考えています。
今後は、既存のものをテストしてレベルアップするというより、モータースポーツを通じて新たなものを見つけていかなければならないと感じています。もちろん、これらの技術を市販タイヤにフィードバックするには、コストの壁という問題もありますが、知恵を出し合っていきたいと思います。

横浜ゴムが開発中のサステナブル素材の比率を向上したレーシングタイヤのイメージ

SUPER FORMULA NEXT50 テストカーイメージ
※PlayStation®4用ソフトウェア『グランツーリスモSPORT』にて制作

舘内

タイヤを開発されている方がモータースポーツの本質を理解してくださっているのはとてもうれしいです。御社で開発されたタイヤは、きっと地球を救うに違いないと思います。

自動運転とカーシェアリングでタイヤのあり方が変わる

舘内

未来の社会においても自動車が街の中を走るということは大きく変わらないと思いますが、自動運転によって運転の概念が変わってくるかもしれません。また、カーシェアリングが増えればクルマの所有に対する概念が変わるかもしれません。「ドライブ」や「自家用車」という言葉は過去のものになる可能性もあります。そうした中で、タイヤはどのように変化していくと考えられますか。

清宮

自動運転とかカーシェアリングが普及すれば、乗用車用のタイヤはある意味で生産財のような使われ方にシフトしていくと思います。タイヤに対する楽しみの要素は少なくなるのですが、その一方でメンテナンスフリーやセンシング技術が求められ、これまでにないようなデータを使ったタイヤの開発がされていくのではないでしょうか。しかし、クルマを所有する人やドライブの喜びを享受したいというユーザー様は、必ず存在し続けるとも考えています。

舘内

今後クルマを運転するのは特権階級になるかもしれないですね。サーキットを走るのは特に恵まれた階級の人たちなります。私の個人的な意見ですが、移動するという欲望が失われた社会は駄目になる。動くことに対するワクワク感を失っては駄目だと思います。
 しかし、タイヤは自動車と共にあり続けます。ショックアブソーバー、ブレーキ、タイヤの3つはクルマの形が変わっても生き残ると信じています。

清宮

生産財という意味では、トラック・バスなどの世界でもEV化が進んでおり、商用タイヤも燃費向上や環境対応のニーズに応えるために、変わっていくとみています。

横浜ゴムに対する期待

清宮

新型コロナウイルス感染症の影響により、当社でもリモートワークを導入していますが、やはりモノづくりは、現場で見て、触れて、体感することが重要で、この働き方のバランスが大事だと考えています。

舘内

自動車やタイヤは触れてなんぼですよ。当クラブの「中学生EV教室『電気フォーミュラカーを作ろう!』」では、2人乗り電気フォーミュラカーを分解し、組み立て、サーキットで試乗する体験教室を行っています。エンジン車でこうしたことを実施するのはハードルが高いですが、モーター車は比較的容易にできるものです。横浜ゴムでもスポーツEVを作ってみてはいかがでしょうか。

2人乗り電気フォーミュラカー「EV SIDE by SIDE」(2007年/中学生EV教室製作車両)
(写真提供:一般社団法人 日本EVクラブ(Japan Electric Vehicle Club) 撮影:三浦康史(Yasushi Miura))

清宮

コンセプトカーではなくて、実用車を製造するということですか。

舘内

自動車を巡るエネルギーと環境の問題に対して、これほど熱心に取り組んでいるのは、私の知る限りカーメーカーも含めて横浜ゴムだけです。これからはカーメーカー以外でも、工場がなくともEVを作れるようになります。超高性能なエコタイヤを履かせたスポーツEVを開発して、ル・マン24時間レースのエコカー部門にチャレンジするのです。多くの子どもたちに夢と勇気を与えられると思います。

清宮

そこまで先を見据えて仕事をしなさいということですね。自動車に関わる者としてEVには大きな可能性を感じていますので、前向きに考えさせていただきたいと思います。