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持続可能なサプライチェーンの構築

アグロフォレストリーの推進

アグロフォレストリーとは

アグロフォレストリー(Agroforestry)とは、農業(Agriculture)と林業/森林地(Forestry)からの造語で、樹木の植栽の間で家畜を放牧したり農作物などを栽培したりすることをいいます。横浜ゴムは天然ゴム農園でのアグロフォレストリーを推進しています。

天然ゴム農園でのアグロフォレストリーに取り組む意味

天然ゴム林に果実、薬草、木材など複数の種類の作物から収穫があることで収入が安定し、また農園内の生物多様性が向上するなど多くの利点があります。特に天然ゴムは、植樹してから天然ゴムを産出するのは20~25年程度で、その後は産出量が低下していきます。そのため効率よく生産量を確保するには植え替え(Replanting)が必要です。しかしパラゴムノキが天然ゴムを作り出すには植樹後5~6年してからとなります。ゴム農家は、その間収入が途絶えるため、植え替えの時期が遅れたり、天然ゴム経営を断念したりすることがあります。天然ゴムを持続的に生産していただくためにもアグロフォレストリーは有効な手段となります。

アグロフォレストリーによる期待される効果

アグロフォレストリーは、パラゴムノキの苗木が若くラテックスの収穫ができない時期の収入補助となる他に、次のようなメリットがあります。
天然ゴムは相場により価格が大きく変動します。天然ゴムが収穫できるようになった後も、農園に植えた多種類の作物により天然ゴム農家の収入の安定化に寄与します。
パラゴムノキには、一定の期間に一斉に葉を落とす落葉期(ウィンタリング)があります。それ以外の時期はほとんど葉を落とさないため、落葉期に落ちた葉が昆虫や微生物などに分解されると土の表面を覆うものがなくなり、土の乾燥が進むことがあります。しかし、さまざまな植物を植えることで、地表面が常に落葉で覆われやすくなり、土が乾燥から守られるようになります。また葉っぱは分解されることによりパラゴムノキの肥料となり、生産コスト削減にも寄与します。
パラゴムノキがかかる病気の一つに「根白腐病」があります。東南アジア地域では最もリスクが高いとされています。一度根白腐病が広がると、瞬く間に近くの木に広がってしまいます。病気が広がった土地では少なくとも5年はパラゴムノキを植えることができません。アグロフォレストリー農園には多様な植物が生えているため土中の菌類の種類も複雑になっています。そのためか根白腐病が発生しにくいといわれています。
また、ゴム農園にパラゴムノキだけの単作(モノカルチャー)ではなく多種類の植物があることで、それを利用する虫や鳥などが増え、生物多様性が豊かになるメリットもあります。

単一栽培の天然ゴム農園

アグロフォレストリーの農園

サラ教授との出会い

YTRCではアグロフォレストリーを研究してこられた専門家である、ソンクラ大学のサラ教授に協力を仰ぎ、スラタニ地区近辺の天然ゴム農家に対してアグロフォレストリーの講習会を行ったり、サラ教授と農家との窓口を担ったり、講習会場の提供などを行ったりしています。サラ教授による研究では、アグロフォレストリー農園は通常の天然ゴム農園より収量・収入ともに増加したという結果が出ています。しかし、まだ事例が少ないためYTRCではこの農法を多くの農家に採用してもらうよう努めています。YTRCがこの取り組みを開始した2016年には、参加農園数は10農園で面積では約12ヘクタールでしたが、2023年末には69農園に増え、面積は約196ヘクタールになりました。2030年末までにアグロフォレストリー農園を約420ヘクタールに拡大する予定です。

サラ教授

※2023年の苗木提供は14,602本で、累計67.7千本となりました。

アグロフォレストリー勉強会

農家の方の声

天然ゴム農園主 プラジュアプ・ヌーペットさん

天然ゴム農園の一角でアグロフォレストリー農法を始めて8年になります(取材当時)。初めてアグロフォレストリーの話を聞いたときは、「とても素晴らしい農法だ」と思いました。この農法を始めてから数年で化学肥料を使うことはなくなりました。農園にはフルーツや香料の原料となる植物、家具などになる木などを植えています。収入の安定化だけでなく公共の役に立っていると感じられ、この取り組みを行っていることを誇りに思っています。
スラタニ地区は近年、開発が進んで野生動物の数も減ってきましたが、アグロフォレストリーに取り組み始めてから、私の農園にはチョウなどの昆虫や野生の鶏など、生物の数も種類も明らかに増えたと思います。また、スラタニ地区では乾季はほとんど雨が降りませんが、落ち葉が保湿の役割を果たし、土壌の乾燥もしなくなりました。YTRCからは苗を支給してもらっており、大変ありがたく思っています。農法の知識や天然ゴム以外のマーケット情報など分からないことも多いので、そういった情報がもっと手に入るようになると嬉しいですね。今後はコーヒーや野菜など色々な作物を植え、自分がアグロフォレストリーのエキスパートになって、自分の農園をラーニングセンターにしていきたいと思っています。

今後の課題

天然ゴムを持続可能な資源にする取り組みはまだ始まったばかりです。今後、天然ゴムの国際基準の策定に向けた動き、トレーサビリティの確立、天然ゴム農家との対話・連携の強化など取り組んでいかなければならないことは多岐にわたっています。
横浜ゴムはこれらの課題を一つ一つ丁寧に取り組みながらSDGsの達成に向けた活動を行っていく予定です。