Groover’s Voice vol.10 Bose (スチャダラパー) 同じ時代のクルマと音楽って相性がいい。 やっぱりどこか“味”が似てるから。

クルマを愛し、音楽を愛する人に話を伺う「Groover’s Voice」。日本のラップグループの草分け、スチャダラパーのBoseさんに愛するクルマと音楽の話をたっぷり語っていただきました。

文/河西啓介  写真/柳田由人 取材協力/逗子サーファーズ
2022.06.11

最高の一台はフィアット・パンダでした

―― Boseさんのクルマ好きはよく知られていますが、初めて自分のクルマを手に入れたのはいつ頃ですか?

「地元の岡山から東京に出てきたばかりの頃は、お金もなかったしクルマは欲しいけど買えませんでした。弟と共有で中古の軽自動車を買ったのが23、24ぐらいのときだったかな。軽のあとは中古のシティ・カブリオレを経由して、その頃スチャダラがちょっと売れたので“少しいいクルマを買えるゾ”と(笑)、フォルクスワーゲン・ゴルフのカブリオレ・クラシックラインを。これはすごく気に入って、壊れるまで10年ぐらい乗りましたね」

―― 自動車雑誌の記事でBoseさんのクルマ遍歴を拝見したことがあるのですが、これまで乗り継いだクルマはすべて中古車、そしてヨーロッパのコンパクトカーばかりでしたよね。

「ラッパーっていうとアメ車とかメルセデスのGクラスなんかに行きがちと思われるけど、なぜかそういう方面には興味なくて、イタリア、フランス、ドイツあたりのちょっと旧くて小さいクルマが好きですね。同じお金かけるなら、無理して高級車に乗るよりも、味のある手頃な車をいろいろ乗りたい、という感じで」

―― いわゆる“ヤングタイマー”ですよね(80年-90年代のぐらいのちょっと旧いクルマを70年代以前の“オールドタイマー”に対してこう呼ぶ)。自動車雑誌で言うなら『カーグラフィック』より『ティーポ』という感じでしょうか。

「そうそう、ティーポ! いまでも読んでます。あとはカーセンサー(笑)。ゴルフのあともアルファロメオの147とかイタ車のコンパクトなやつに乗ったんだけど、自分的に最高の一台はフィアット・パンダでしたね。ジウジアーロ・デザインの四角いボディに1リッターぐらいの小さなエンジンを載せて。速すぎないから街なかでもアクセル踏んで走れるし、そのときの加速感とかほんとにいいんだよね」

小さくて速いのがカッコいい

―― 今日乗って来られたフィアット・ウーノ・ターボは、まさに80〜90年代イタリアン・ホットハッチの代表的なクルマですね。久しぶりに見ましたが、小粋ですね。

「パンダに乗って、フィアットのあの時代のクルマがいいってことが分かったので、なんとなく探していたらポッと出てきちゃったんですよね。1989年式のフェイズ1(初期型)で、内外装ともジウジアーロの設計に忠実なところがいい。手に入れてから2年ほどで、イタ車ならではのトラブルはそれなりにあるけど、まあ乗れるだけ乗ろうかなと」

―― 80年代のイタ車って日本では絶滅危惧種なので、ぜひ乗り続けていただきたいですね。とはいえこれ1台ではちょっと厳しい場面もありますよね。

 

「ウーノ以外に、1台は奥さんと共用の現行フィアット500があります。彼女はあまりクルマに興味がなかったんだけど、“グッチとのコラボモデルがあるよ”と言ったら“それがいい!”と(笑)。もう1台は『FLEX』という中古車屋さんが展開している“renoca(リノカ)”というコンプリートカスタムカーで、僕も企画から一緒に関わったトヨタ・プロボックスをベースにした“ユーロボックス”というクルマ。見た目はベーシックで往年のVWゴルフみたいな感じ。ベースはトヨタ車だから信頼性高いし、ワゴンなのでそうとう便利に使えますね。それともう1台、6年ほど乗っていたVWゴルフⅡもあったんですけど、最近手放してしまいました。いまは3台体制ですね」

―― 所有車はぜんぶコンパクトカー(笑)。趣味が一貫してますね。

「なにしろ小さいのが好きですね。若いころに流行っていた“ホットハッチ”への憧れもあるし、大きくて速いとかスゴいというより、小さくて速いほうがカッコいいというか、日本で走るのにも理に適っている気がして」

影響を受けた『ザ・ベストテン』時代の歌謡曲

―― クルマの中で音楽は聴きますか?

「もちろん聴きますよ。自分の好きな音楽をゆっくり聴けるのは、クルマの中ぐらいしかないからね。家にいるときは家族に合わせた選曲になるし、ウチでヒップホップをガンガンかける、とかはないんで(笑)。クルマで聴くのは、一生懸命レコード買ったりカセットに録音したりしてた頃の、自分にとっての“懐メロ”が多いかな。とくに80年代の曲って、やっぱり80年代のクルマと相性がいいんですよね。89年式のこのウーノに乗ってその頃の鳴ってた音楽を聴くと、やっぱり “味”が似てると思う。あとは自分の好きな曲や気になる曲の音源を集めてプレイリストにして聴いたりします。天気がいい日に1人で乗ってたらヒップホップとかレゲエ、夜だったらちょっといい感じのジャズというふうに、ジャンルを分けたりしてね」

 

―― Boseさんの「心のベストテン、第1位」はどんな曲でしょう? 気になりますね(笑)

「自分がいちばん影響受けたのはやっぱり『ザ・ベストテン』の頃の歌謡曲だし、いまだに聴きながら、“松本 隆さんの歌詞ってすげえなあ〜”とか、“気がついたら筒美京平さんの曲ばっか聴いてるな”とか思ってる。メンバーのANIがいまだに昔のカセットテープみたいな「昭和慕情」っていうプレイリストをつくってくれてるんです(笑)。夜、一人で運転して帰ってくるとき、眠くならないように歌いながら帰りたいな、なんてときは絶対それ。あ、全部歌えるな、歌詞覚えてるな、みたいなね」

音楽もファッションも90年代がリバイバルしている

―― いまお住まいはこちらのほう(取材は神奈川県・逗子の「surfers」で行った)なんですよね。

「子どもが生まれてからだから、鎌倉に住んで7、8年になるかな。それまでは都内で暮らしていて、“鎌倉に住んでる友達も居るし、あっちでちょっと住まいを探してみようか”という軽い気持ちだったんだけど、試しに住んでみたらすっかりよくなってしまって。子どもとすぐに海に行けるし、“これをタダで楽しめるのか”なんて思うとお得な気がするよね(笑)」

―― 鎌倉に住むようになって、カーライフには変化がありましたか?

「仕事で都内に行くことは多いんだけど、すると片道50kmでしょ。旧いクルマで大丈夫かな?と始めはちょっと心配でした。でもじつは逆で、都内にいるときは家を出た瞬間に渋滞……なんてこともあったけど、こっちからだと家を出てまず山道、高速、そして都内に入ってからの市街地と、クルマをいろんなシチュエーションで存分に走らせられるんです。おかげで運転するのが楽しくなったし、好きなクルマに長く乗れるんだから、クルマ好きにはお薦めするしかない(笑)」

―― 長く乗れば、好きな音楽を聴ける時間も長くなりますしね。スチャダラパーの曲のアイデアが、クルマの中で生まれたりすることはあるんですか?

「昔はスチャダラの3人でクルマに乗ることが多かったんです。レコーディングに向かうときとか、夜中に3人で集まってからクルマで友だちの家にいったりとか。そんなときのことがアタマに残ってたり、車内で喋ってたことが歌詞になったりします。『サマージャム’95』でも「みんなで徹夜明け レンタカーで 情けなかったね 海パンダサダサで」とか。クルマの中でずっと喋ってて、いつの間にかカセット一周しちゃったなー、みたいなのは今でも思い出します」

―― スチャダラパーの曲を聴いていると、80-90年代の“あの頃”の空気を感じます。Boseさん自身も“永遠の少年”というか、あの頃のままというか。

「いまは音楽もそうだけど、ファッションも90年代ぐらいのものがリバイバルしてますよね。あの当時ニューヨークあたりのチープな店で10ドルぐらいで売ってた雑な感じの洋服を、雰囲気はそのままに、キッチリ作り直した、みたいなのがあって。バイクの世界でもホンダのダックスとかリバイバル・ブームが来てるでしょ。クルマの世界でもそういうのつくってくれればいいのに。ホンダのシティとか、あの頃のデザインそっくりにつくってくれたら欲しいのになぁ」

神奈川県・三浦半島の港町、三崎の子どもたちによる「かもめ児童合唱団」はBoseさんと親交のある藤沢宏光さんがプロデューサーを務めている。『海に向かって歌う歌』では吉田拓郎、大貫妙子、奥田民生、ブルーハーツ、電気グルーヴなどのカバー曲を収録。

―― お話伺っていると、Boseさんの車の嗜好と、やっている音楽との関係性がわかる気がします。飾らないところとか、本当に必要なものだけを見極めている感じとか。

「パンダとかゴルフとか、完成されてる車って、デザインと機能がぴたりと合っていてムダがないんですよね。80年代後半から90年代始めって、そういうクルマづくりが頂点を迎えた時期で、それ以降はそこに余計なものを付け足してきたって感じもしています。だからこの時代のクルマが好きっていうのは、これからも変わらないでしょうね」

Bose
1969年生まれ、岡山出身。ラップグループ「スチャダラパー」のMC。1990年にデビューし、1994年『今夜はブギー・バック』が話題となる。以来ヒップホップ・シーン最前線で活動を続け、2020年にデビュー30周年を迎えた。

2022年6月18日(土)『スチャダラパーク2022』大阪公演を大阪城野外音楽堂で開催する。

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