2016 Season Review =SUPER GT・坂東正敬 監督=

GT500クラスの最年少オーナー兼チーム監督として、RACING PROJECT BANDOHを率いる坂東正敬監督。GT300から2011年にGT500へとステップアップ、6年目のシーズンにおいてGT500での49戦目で悲願の初優勝を飾った。坂東監督には初優勝の舞台裏と、モータースポーツを戦うことへの熱い思いをお聞きしました。


勝つための要素が多いGT500 – 坂東正敬 監督

2016年、GT500で6年目のシーズンを迎えた坂東監督。それまでGT300を長く戦いチャンピオンも獲得している名門チームのひとつだ。まず基本的なポイントとして、GT500とGT300の違いを、チームオーナー/監督という立場から坂東監督に説明していただこう。

坂東正敬 監督「GT300は自分たちで車を造るので、足りないものは技術屋として自分で造ってしまえばいいんです。タイヤとクルマの関係については、互いに足りないところを補い合うということが出来るんですね。

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これがGT500になるとコンペティションの争いがとても高いレベルにあり、自動車メーカーから供給されているパーツを使うことになります。さらに基本的に3年の周期で車が変わるので、3年の中で結果を出すことが求められるというのも難しいところです。また、3つの自動車メーカーと4つのタイヤメーカーが高次元で戦っているわけで、ひとつのレースに詰まっている“勝つための要素”のボリュームが違いますね。仮にその要素がGT300では10あるのだとしたら、GT500は200くらいある感じで、これを突き詰めていくことが求められるのです」

坂東監督が口にされた“勝つための要素”。そこには車両に関する部分以外でも、ドライバーという重要なポイントが存在する。そこで、坂東監督にドライバーのお二人についてお聞きした。

坂東監督「僕はGT500の中で最年少のチームオーナーですが、チーム自身を若くして世代交代をしていくことの必要性も感じています。そういう背景もある中で、ドライバーについてはSUPER FORMULAを走っているドライバーは速い、速くなければSUPER FORMULAには乗れない、と思っているので、若くてSUPER FOMULAに乗れるドライバーということで人選をしました。そこで名前が上がったのが国本雄資選手なのです。一方で関口雄飛選手は、元々速さを持っているドライバー。彼にはより責任感を持ってほしいと思ったので、さらに若い選手とのコンビを組ませようということで国本選手に決めました。その背景にはもうひとつ、’15年にKONDO RACINGさんが5年ぶりの優勝をしたのですが、僕がGT500に参戦するようになってから初めての勝利でした。同じヨコハマタイヤでGT500を戦う者としては大きな刺激になり、『自分たちは何か改革をしなければ』という思いが強くなったこともありますね」



連続入賞記録の重みと、タイでの自信

初優勝が大いに話題を集めたRACING PROJECT BANDOHだが、もうひとつ大きな記録を現在も更新し続けている。それが連続入賞記録で、’16年の最終戦を終えてその数は18、この記録は継続中である。連続入賞ということはつまり、アクシデントやトラブルによるリタイアが無く、しっかりチェッカーまで戦い抜くレースを続けているということ。この記録について坂東監督は、重みを感じていると言う。

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坂東監督「連続入賞記録は、チームにとってモチベーションにもなっています。レースでは他車と接触したり、ピット作業などでミスをしてしまうということがあり、結果につながってしまいます。しかし、僕たちは最終戦を終えて18戦連続で入賞しているということで、チームがレベルアップしていることの証にもなっていると思っています。例えばピット作業で言えば、トップで入るのと10番手で入るのでは、やはり全然違うものです。トップを走っていたり上位争いをしている時の独特の緊張感、これを優勝したタイで味わえたことは大きな収穫でした。これがチャンピオン争いの渦中となるとまた違う緊張感があるのでしょうが、こういう場面を経験していくことで人間は大きくなっていくんでしょうね」

さて、そろそろ初優勝を飾ったタイでの一戦についてお聞きしていこう。タイについては監督自身、現地に入る前から自信を持っていたという。

坂東監督「タイは事前のテストがありませんので、前年のデータを活かすしかありません。’15年は決勝で接触があったりして結果は良くありませんでしたが、予選などでも速さは見せていました。そこで実際の戦いとは違うかたちのシミュレーションをしたら、タラ・レバではないですが勝てた可能性も高いと出たんです。ですから、車をより良い状態にしてやれれば、確実に勝ちに行けるのではないかという自信を持っていました」



悲願の初優勝、そして次なる勝利に向けて

GT500での49戦目となった、’16年のタイ・ラウンド。予選から速さを見せてポールポジションを奪うと、決勝でも序盤から完全に主導権を握って関口選手から国本選手へとリレー、危なげない戦いぶりのポール・トゥ・ウィンで初優勝を飾ることに成功した。そんな中、指揮をとる坂東監督はどんな時間を過ごしていたのだろうか。

坂東監督「ポールポジションからスタートしてマージンを築いてリードする展開だったので、後半は国本選手に無線で『とにかくチェッカーまで抑えろ、抜かれなければいいんだ』と伝えるばかりでした。ハラハラ・ドキドキして祈りながら勝って『やったー!!』というよりも、結果的には圧勝みたいな形になったので、ちょっと不思議な感じでしたね。GT300では最後尾スタートから優勝したことがありますが、ポール・トゥ・ウィンは無かったんです。だから『ポールから逃げきって、スゲェ強いチームじゃん!!』なんて思いましたね(笑)

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チェッカーを受けるまでは「みんな喜んでくれるんだろうか?」と不安になったりもしましたが、いざ勝つと多くのみなさんに喜ばれて、褒められて。ヨコハマタイヤのみなさんにもとても喜んでいただけて、嬉しかったですね。諦めないで努力を続けてきて、それが結果につながったんですから。ただ、これが富士やSUGOなど国内だったら『勝ったから、今夜は呑むぞ!!』となるのでしょうが、タイだったからレースが終わったら慌ただしく片づけをしてバンコクに移動して。そこが、国内での戦いと違うところでした(笑)」

初優勝したシーズンも終わり、ヨコハマタイヤ勢としては全日本GT選手権の時代からを通じて最高位となるシリーズランキング4位を獲得したRACING PROJECT BANDOH。もちろん2勝目、そしてシリーズのさらなる高みが期待されているが、’17年に向けた坂東監督の意気込みをお聞きしよう。

坂東監督「もちろん、シリーズチャンピオンを狙っていきます。’17年は車が変わりますが、ヨコハマタイヤという強い武器、そしてレクサス・LC500という新しい武器、そこにドライバーを組み合わせたパッケージはシリーズチャンピオン候補になれるものだと思います。チームとしてはシリーズチャンピオンという最終的な目標に対して、足りないものを補っていきます。今までは「あれをやらないと、これもやらないと」という積み重ねの連続でしたが、いまはチャンピオンを獲るために必要なことが100だったとして、そこに足りないものを補うという形です。答えがわかったので、『答えを満たすには、どうしたら良いか?』という質問を解決していけば、おのずと結果につながると思っています」

チャンピオンに向けての期待も、ますます高まるRACING PROJECT BANDOH。このインタビュー、最後の質問として坂東監督にはモータースポーツの魅力と続けている理由をお聞きした。

坂東監督「いまの僕にとってモータースポーツを続けている理由は、『認めてもらいたいから』ということに尽きます。僕は、まだ浅いんですよ。例えば親父や土屋春雄さん、横浜ゴムの野地社長などに比べて、モータースポーツが好きという度合いがとても少ないと思うんです。だから結果を出すことが、そういう多くのみなさんに認めていただける最短の道なのではないかと。一年間を戦うチャンスをいただけるということは、認めていただけるチャンスももらえるということ。そこが自分にとってのモチベーションであり、“勝ちたい”と思っている気持ちは他の誰にも負けないと自負しています」

【注】親父 : RACING PROJECT BANDOHの創業者であり、現在はSUPER GTを統括する株式会社GTアソシエイション代表取締役の坂東正明さん。


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