2016 Japanese Formula3 Championship (3)

2016年の全日本F3選手権は、個性派揃い。どの選手を紹介してもエピソード満載であるだけに、断腸の思いで注目のルーキーに絞って紹介することとしていきましょう。今回は、2015年のFIA-F4で死闘を繰り広げた牧野任祐選手と坪井翔選手のお二人です。


できることを最大限やっていきたいと思っています – 牧野任祐選手

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TODA RACINGから出場の牧野任祐選手は1997年6月28日生まれの19歳。レーシングカートからモータースポーツの世界に入り、2013年のシーズン途中にはSuper-FJで4輪レースへの挑戦を始めた。フル参戦となった’14年には岡山シリーズでチャンピオンに輝いたばかりか、F1ドリームカップと日本一決定戦でも優勝。さらにこの年は国内最高峰のカートレースである全日本選手権のKF部門にも、YOKOHAMAのレーシングカートタイヤ開発に携わりながらフル参戦。’15年にはFIA-F4でこそ2位に甘んじたものの、JAF-F4では東西両シリーズを制し、やはり日本一決定戦も勝って、出たレースすべて勝っている。それだけに、現在の成績には納得がいかないのでは?

「現状は、イメージどおりです。トムスが強いのは分かっていたし、今年からフォルクスワーゲンのエンジンが使われるようになったので、まぁ厳しいシーズンになるとは思っていました」と牧野選手。

それでも、第6戦では表彰台に立っているものの、「雨になったら、テストの時からけっこう良かったので、ある程度行けるかなと思っていて、実際に表彰台に上がれました。でも、雨のレースは確率的に少ないと思うので、やっぱりドライで何とかしないといけないんですけど……。それを今、探っているところです。たぶん、僕自身のドライビングにも何か問題ありますし、クルマもセットアップで、もうちょっと改善できるとは思っているんですけれど」と語る表情は、やや硬かった。

「ただ、厳しい状況の中でも最大限、自分がやれることをやっていかなければダメだと思っているので、いろいろ試行錯誤しながらやっているところです。F4も難しかったけど、F3はそれ以上に、いろんな要素、兼ね合いがあるので難しいですね。予選はいつも6番手ぐらい。前にトムスとVW(エンジンを使うNDDP RACING)がいて、決勝では岡山と富士ではVWを何台か食ったりできていましたけれど。いきなり優勝というのは、現実的に難しい部分もあると思うので、何とかドライでも表彰台に上がれたら、と思います」と牧野選手。

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昨年までは「勝って当たり前」のドライバーが、我慢を強いられている。おそらく、もどかしさもないわけではないはずだ。しかし、その一方で成長の過程に必ず巡ってくる、試練だとも自覚しているのだろう。それだけに、

「焦ってはいません。焦っても仕方ないので、できることを最大限やっていきたいと思っています。実際に、同じ鈴鹿であっても最初はかなりきつかったんですけれど、2回目はかなりトップとの差は詰まったし、良くはなっていると自分でも思っています、ちょっとずつ。その上で、得意な雨のレースとか、そういうチャンスのあるシチュエーションでは、攻めて攻めまくって上に行きたいですね。まずはドライでも、何とかしなくてはいけないと思っています」と牧野選手は前向き。この壁を越えることができたなら、ひと皮剥けて、きっとまた「勝って当たり前」のドライバーとなるのだろう。ブレイクの時が訪れるのが、今から楽しみでならない。



まず1勝することが大事だと思っています – 坪井翔選手

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TEAM TOM’Sから出場の坪井翔選手は、1995年5月21日生まれの21歳。カートレースを経て、レースデビューを果たしたのは2012年だったものの、フォーミュラチャレンジ・ジャパン(FCJ)を3年(‘14年はJAF-F4/FCクラス)戦い、そして昨年はFIA-F4でチャンピオンを獲得したドライバーだ。それだけに下積みも長かったものの、一気に華開いた感も強い。

「3年目はランキング2位だったので、去年、上がりたいと思っていたんですけれど(笑)。FIA-F4でチャンピオンを獲れて、F3に上がれて一安心しました。ミドルフォーミュラも長かったので、早く上がらないと……という気持ちは正直あったので、ホッとしました」と待望のシートを得られた時の、素直な印象を坪井選手は語ってくれた。

FIA-F4の激戦区を制しただけのことはあり、第1戦ではいきなり3位に入り、第2戦ではひとつ順位を上げて2位に。その後も快進撃は続き、第8戦でエンジンがかからず、スタートを切ることさえ許されなかったが、そこまでの7戦はすべて表彰台に立っていた。目下ランキングは3位で、ルーキーの中では最上位ながら坪井選手は満足していない。

「表彰台には上がれていますが、正直スピードは足りていないと思うし、運も良かったりしているので……。実力でいちばん上に行けるように、ちょっとまだ、F3を操れていない印象があります。僕の中ではまだ納得できていないし、チームメイト(山下健太選手)と比べても、まだ差があるので、そこを埋めなきゃいけないな、というのはありますね」

しかし、あまりにも大きな差ではないと、坪井選手は言う。「だいぶ見えてきています。最初の頃はかなりあったんですが、今はもう、見える位置にいるので、着実にレベルアップはしていると思うので、あとちょっとのところだと思います」と。そんな坪井選手に、当面の目標を語ってもらった。

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「まず1勝することが大事だと思っているので、勝ち方を覚えさえすれば、ポンポンポンと行けると思うので。だいたい想像はできているので、あとは自分がちゃんとまとめられればいいだけだと。そこは自分でアジャストするだけだと思っています。まず1勝!!」

最後に、これまで経験してきたカテゴリーと、F3の違いについて語ってもらった。

「FCJもFIA-F4も、そんなにダウンフォースはないですし、タイヤのグリップもそれほどでもありませんでした。それと比べると、F3はダウンフォースも強いので、コーナリングスピードの違いが格段です。あとはタイヤにはピークがあって、どうしても落ちていってしまうので、タイヤのマネージメントも今までやってきたカテゴリーとはまったく違うから、そのあたりの難しさを感じています」と坪井選手。しかし、そんな課題を完璧にクリアできた時には、きっと勝つことが当たり前のドライバーになっているに違いない。



次回は、2016年の全日本F3選手権を戦う注目のドライバー紹介・第二弾をお送りいたします。