2016 Japanese Formula3 Championship (2)

2011年の供給開始から、ヨコハマタイヤによるワンメイクで全日本F3選手権が戦われるようになって6年目のシーズンを迎えている。このページでは2016年の全日本F3選手権について、注目すべきポイントをご紹介していこう。また、ヨコハマタイヤとF3の関わりについても、そのショートヒストリーもあわせてお伝えします。


“変更”は少ないものの、“変化”は大きい2016年シーズン!!

今年の全日本F3選手権に、大きな変更点はない。細かい点で言うと、F3-Nクラスの車両に昨年まで禁じられていたバージボードなど、ウィング以外の空力付加物の装着が、今年からは可能になっている程度だ。できる限り不変を貫くF3だからこそ、その程度に留められたのだろう。

ただし、変更は少なくても、大きな変化はあった。近年、国産エンジンだけで争われてきた全日本F3選手権にフォルクスワーゲン(VW)のエンジンが投じられたのだ。T41と銘打たれたエンジンを使用するのはB-MAX Racing Team with NDDP。言うまでもなくNDDPとはニッサンのドライバー育成プログラムである。昨年まではトムス・トヨタTAZ-31を使用していたチームながら、VWエンジンのヨーロッパやマカオでの高評価からすれば、むしろ渡りに船だったのではないか。

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その特徴はストレートパフォーマンスに優れること。ピックアップも良く、最高速でも国産エンジンを上回るという。国産メーカーが対策を講じようにも、F3のエンジンはFIA(国際自動車連盟)のホモロゲーションを得て使用が許され、一定期間基本構造を改めることが許されない。現在のエンジン規定は2013年に改められ、国産エンジンは揃って即座に対応したが、VWはあえて1年投入を遅らせている。つまり、この1年多い開発期間が優位差を生じさせた最大の理由だとされている。次に変更が許されるのは2018年だから、国産エンジンユーザーたちは、あと2年間は我慢を強いられることとなる。

ただし、TOM’Sの山下健太選手が目下ランキングのトップに立っていることから、まったく歯が立たないというわけではない。これはドライバーの実力、そしてチームの持つセッティングのノウハウゆえ、といっても過言ではないだろう。ストレートではかなわなくても、たとえば山下選手が連勝した鈴鹿サーキットなら、130Rやスプーン、デグナーといった高速コーナーが速く、また中低速のトルクが重視されるS字コーナーが大半を占めるセクター1では、決して引けを取っていなかったからだ。逆に言うとストレートでの対抗策としてウィングを寝かせた他のチームは、ダウンフォースを欠いたことによって、トムス優位の区間が不安定になった結果、苦戦を強いられてもいる。

しかし、その一方でB-MAX Racing Team with NDDPはセッティングを、完璧に決め切れなかったことを認めている。実際、それに関して、ヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルの渡辺晋エンジニアの貴重な意見がある。「私の経験上、こういう使い方をしているチームは速いな、っていうのを今まではタイヤの摩耗肌から感じたのですが、今年の全日本F3ではトムスさんとB-MAXさんとでは、使い方が全然違うんです」という。ならば、シリーズも後半戦に差し掛かれば、戦況に大きな変化が生じないとは限らず。その時にVWユーザーが優位に立っている可能性もあるわけだ。



全日本F3選手権とヨコハマタイヤ

全日本F3選手権で用いられるタイヤは、昨年のシーズン途中に仕様変更が行われ、今年もそのまま使用されている。新しいシーズンの開幕を待たず、あえての途中変更は、ユーザーが求めるものをいち早く提供したい、という思いによる。

F3タイヤの特徴として、ドライバー育成を最大の主旨とするカテゴリーだけに、一定のコンディションを長い間、保てることが挙げられる。「予選で一発が出た後も安定した、その後に決勝レースを走ってもタイムがずっと安定している。そして、次に練習で走る際に、ユーズドであってもセットアップができるタイヤ。それをまず目指しました。その上で、スピードがなくては意味がありませんから、速さを確保しつつ、できる限りタレないタイヤということになります。以前のタイヤは後半のタレが目立ったのですが、現在のタイヤは問題ないという意見を頂いています」と渡辺エンジニア。

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セットアップや予選シミュレーションをニュータイヤで行うのは理想的ながら、無尽蔵に投入してしまうとコストの高騰にも結びついてしまう。F3では予選、決勝を通じ、1大会2レース開催の場合は2セット、1大会3レース開催の場合は3セットのタイヤ使用に制限されている。

しかし、それ以外の公式テストや予選前の練習走行を含めた、すべてを通じて年間に使用できるのは、37セットまで決められている。それだけに安定の性能は、ドライバーにも、そしてチームにも頼もしく映っているに違いない。

ちなみに、1988年にワンメイク化されるまで、つまりタイヤに関してもコンペティションが存在した時代にも、ヨコハマタイヤが全日本F3選手権に挑んでいた経験がある。発足3年目の1981年から、当時は萩原光選手や茂木和男選手、松田秀士選手らを表彰台の中央に導き、また1984年には兵頭秀二選手がチャンピオンを、そして山田英二選手がランキング2位と上位を独占したことも。マカオ・グランプリにいたっては、アイルトン・セナが優勝した1983年、F3が用いられるようになった最初の年から、ヨコハマタイヤがコントロールタイヤを供給し続けている。

余談ながら、これだけ長い間、F3に携わってきたヨコハマタイヤだけに、今年から挑むSUPER FORMULAにおいてもノウハウが活かされていると、渡辺エンジニアは言う。「初年度なので、ちょっとコンサバで、安定系を狙っているのですが、だからこそタイヤの形とか中身の剛性配分などは、かなりF3を参考にしました。それと昔やっていた、F3000の構造。両方を合体させて考えて、新しいものを作ったという感じでした。ただ、荷重のかかり方は、ダウンフォースとかパワーの違いで数値は全然違ったのですが、それ以外はかなりF3の経験が生かされています」。

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次回は、2016年の全日本F3選手権を戦う注目のドライバーをご紹介いたします。