2015 WTCC -FIA World Touring Car Championship- (3)

岡山、鈴鹿と開催されてきたWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)の日本ラウンド、今年の舞台はツインリンクもてぎ。関東初開催ということで、この機会にWTCCを生で観戦してみようという首都圏のモータースポーツファンも多いことだろう。今回は、改めてツインリングもてぎをご紹介するとともに、その見どころを検証してみよう。


1997年のオープンから幾多の名勝負が繰り広げられてきたツインリンクもてぎ!!

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栃木県茂木町という名がモータースポーツファンに知られるようになったのは、1997年。この年の8月1日にツインリンクもてぎが華々しく開業、全長4,801mのロードコースに加えて、日本国内では初の本格的なオーバルコースとなる、2,414m(1.5マイル)のスーパースピードウェイも併設していることから、ヨーロピアンスタイルのレースに加えて、アメリカンレースの開催も計画された。

1988年の3月の最終的な計画決定からおよそ10年の時を経てオープンしたサーキットは「ツインリンクもてぎ」と名付けられたが、この名称こそが世界的にも珍しいロードコースとオーバルコースを併設した施設の特徴を物語っている。2003年からはスーパースピードウェイを舞台にインディカー・シリーズを開催し、アメリカンモータースポーツの息吹を感じたことをご記憶のファンも多いことだろう。

一方のロードコースではSUPER GTやスーパー耐久、フォーミュラ・ニッポンなど日本を代表する各シリーズが開催されてきた。オープンした1997年の9月27日には初の全日本格式レースとしてフォーミュラ・ニッポンとF3が併催されたが、この時のF3で「TOM’S F397」を駆って優勝を飾ったのは、WTCCドライバーの一人でもあるトム・コロネル選手。また1998年には、この年が最終シーズンとなったJTCC(全日本ツーリングカー選手権)が開催され、「ESSO TOM’Sチェイサー」の関谷正徳選手が優勝、「ADVAN エクシヴ」の土屋武士選手が3位表彰台を獲得している。



勝負の鍵になるブレーキとトラクション!!

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WTCCの舞台となるロードコースは、直線をタイトなコーナーでつなぐ“ブレーキング・サーキット”と言われている。モータースポーツ・アーカイブサイトで掲載した国内サーキットの解説ページで、土屋武士選手は次のようにツインリンクもてぎを解説している。

「ツインリンクもてぎを一言で表現するなら“ブレーキング・サーキット”。ブレーキングがしっかり出来なければ、このコースは攻略出来ないと言っても過言ではないでしょう。 マシンにとってもやはりストップ・アンド・ゴーというのは結構きつい部分があります。走行会などを走っている一般車は更にきついので、体感されている方も少なくないかと思います。ブレーキへの負担がきつく、温度がこもりやすくて、冷える場所もなかなかありません。こればかりはサーキットの特性上、どうしようも無い部分ですね」

「そんなツインリンクもてぎですが、攻略のポイントはトラクション。基本的にブレーキングしてヘアピン状にターンすることが多いサーキットなので、低速コーナーをきちんと曲がってちゃんとトラクションがかかるというのが大前提になります。それに加えて3コーナーと4コーナー、特に4コーナーの立ち上がりでどれだけアクセルを踏んで行けるか。ここが、その後のスピードに影響しますし、次の5コーナーがレースでは意外とパッシングポイントになったりするんです」

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「もうひとつのパッシングポイントはダウンヒルストレートのエンドにある90度コーナー。ここももちろん重要なブレーキングポイントですが、低速コーナーのトラクションがとても重要なポイントになってきます」

「本音で言ってしまうとドライバーとしてはストレスが溜まりやすいコースでもあるんです。攻めすぎてしまうとタイムが出なくて、ブレーキはブレーキでしっかり止めて、その後は丁寧にコーナーを曲がっていかなければいけません。トラクションを丁寧にかけてコーナーをクリアしていくことが求められ、いわゆる“攻め甲斐”という面が希薄な部分もあるんですね。」

「行きたい、攻めたいという気持ちを抑えに抑えて丁寧に走って、でもブレーキングは攻めつつアンダーステアは出さないようにステアリングを切る前にはきちんとブレーキをリリースして。突っ込みすぎは厳禁ですから、『ここで一発行ってやろう!』という時にこそ我慢が求められるんです。鈴鹿サーキットなどでは『行くぞ!』となると気合いを入れて攻めていくのですが、もてぎは丁寧な走りが終始求められます。そんなドライバー同士の根比べや我慢比べ、なかなか観客席からは見えない部分かもしれませんが、実は最も注目すべき観戦ポイントなのかもしれませんね(笑)」



タイヤエンジニア視点で予想する勝負の行方は!?

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WTCCへのワンメイクタイヤ供給10周年を迎えたヨコハマタイヤ。地元・日本での開催ということでタイヤへの注目度も高いWTCC Race of JAPANであるが、WTCCを担当するヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルのエンジニア・金子武士は、タイヤ視点からツインリンクもてぎでの戦いの行方を次のように予想する。

「ツインリンクもてぎは、まさにテクニカルなコーステイアウトで何本もの短いストレートと曲がり込むコーナーが連続するセクションがあります。加えて、勾配を下りながらハードブレーキングを強いられるダウンヒルストレートエンドの90度コーナーはパッシングポイントともなっており、ストップ&ゴーの多いレイアウトですね」

「このようなコースレイウトですから、レースではレースラインをブロックして走られてしまえば前の車を抜きずらくなりますので、特に予選の戦い(=予選でいかに良いグリットに付く事ができるか)が非常に重要なサーキットであると思います。また、『ブレーキを制するものがツインリンクもてぎを制す!』と言う程 と言われるほどにブレーキの使い方が勝敗(特に第1コーナー及びダウンヒルの90度コーナーでしょうか?)を左右するように思います」

「そうした中でWTCCがどんな展開になるのかを一個人として予想した時、やはりシトロエン勢を中心に展開される可能性は高いと思います。まずは予選で誰がポールポジションを獲得するのか。その結果によっては、第1レースはスタート直後の1コーナーで順位変動が無ければ、予選オーダー順でのフィニッシュもあり得るでしょう。一方の第2レースはリバースグリッドになるので、こちらもグリッド順が気になるところ。シトロエンのマー・チンホワ選手あたりが、予選で10番手を狙ってくるのか気になりますね」

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「シトロエン勢では、シリーズリーダーのホセ・マリア・ロペス選手にまずは注目。おそらくツインリンクもてぎを走るのは初めてでしょうが、初めてのコースでもマシンセッティング能力の高さとタイヤの美味しいところの使い方の巧さを発揮するのか否か。予選とスタート直後の第1コーナーでの動きをしっかり見ていただきたいと思います」

「また、ホンダ勢はこの夏休み中に十分なテストを行ってセッティングを煮詰めていると思いますので、個人的にはシトロエン勢以上に注目の存在で期待大だと思っています。鈴鹿と並んで本拠地のひとつということで相性は抜群でしょう。カテゴリーは違いますが先日の全日本F3選手権でも、ホンダリアルレーシングの福住選手がブッチ切りのポール・トゥ・ウィンを飾っていますので、ホンダ&もてぎの組み合わせは特に注目だと思います」