2015 WTCC -FIA World Touring Car Championship- (2)

2008年に岡山国際サーキットで初めて開催されたWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)の日本ラウンドも、今年で8回目を数える。’10年まで岡山、’11年からは鈴鹿サーキットの東コースで3回、フルコースで1回開催されてきた日本ラウンドは、いよいよ初めての関東開催となるツインリンクもてぎへと舞台を移す。新たな歴史の1ページを刻むこととなるツインリンクもてぎでのWTCC、この戦いに姿を見せるマシンと主なドライバーをご紹介していこう。


シトロエン・Cエリーゼ – 今季14勝と圧倒的な強さを見せる!!

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フランスを代表する自動車メーカーのひとつであるシトロエン。ハイドロニューマチックサスペンションを筆頭に、独創的な車づくりで知られるところだが、モータースポーツもWRC(FIA世界ラリー選手権)での活躍で知られるように積極的に展開を続けている。

そんなシトロエンは2014年に満を持して、WTCCにマニュファクチャラーとして参戦を開始した。そして、ベース車両に選ばれたのが3ボックス・セダンボディをまとう「Cエリーゼ」である。このモデルは2012年に発売されているが、その主な市場は新興国。事実、母国フランスでのラインナップには加えられておらず、新興国でのレース開催も多いWTCCをプロモーションでも上手く活用しているかたちになる。

TC1車両規定の導入と同時にWTCCデビューしたCエリーゼであるが、2014年は開幕5連勝を飾って圧倒的な強さを見せ、同年のドライバーとマニュファクチャラーのダブルタイトルを獲得。その強さは2015年になっても変わらず、やはり開幕5連勝を飾ると、今季ポルトガルまでの16戦なか、実に14勝を挙げて二年連続のタイトルに向けて快走を続けている。


DRIVER PROFILE

ホセ・マリア・ロペス 選手 [Citroen Total WTCC]

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1983年4月、アルゼンチンのリオテルセロ生まれ。2001年にレースデビュー、フォーミュラ畑を歩んで着実にステップアップを果たし、2006にはF1でルノーチームのテストドライバーをつとめた。

WTCCには’13年、母国アルゼンチンで初めて開催された大会にスポット参戦。この時はBMW320TCを駆ってWiechers-Sportからの出場であったが、第2レースでは好スタートからポールポジションのミシェル・ニュケア選手をかわしてトップを奪うと、見事な初参戦での勝利を飾る。そして’14年はシトロエンのドライバーに抜擢されると、日本ラウンドを含む年間10勝を飾ってチャンピオンを獲得。今シーズンも目下タイトル争いをリードしており、日本での連勝も期待される存在だ。

イヴァン・ミューラー 選手 [Citroen Total WTCC]

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1969年8月、フランスのアルトキルシュ生まれ。レーシングカート出身で、4輪転向後はイギリスF2選手権でのチャンピオンなどを経て’94年からツーリングカーに主戦場を移す。BTCC(イギリス・ツーリングカー選手権)を8シーズン戦った後、’06年からWTCCへの参戦を開始。セアトで’08年、シボレーで’10年と’11年に、合計3回のドライバーズチャンピオンに輝いた。

2014年にはシトロエンに移籍、チームの優勝請負人としてホセ・マリア・ロペス選手やセバスチャン・ローブ選手のコーチ役と、マシンの開発も担ってきた。もちろんドライバーとしての実力は折り紙付きで、今シーズンもモロッコ、ドイツ、ロシア、スロバキアとここまでに4勝を挙げている。WTCCの通算勝利は45勝に達しているが、意外にも岡山、鈴鹿と日本ラウンドでの優勝経験は無い。今年、もてぎで日本での初優勝を飾れるかが、最大の注目ポイントとなる。

セバスチャン・ローブ 選手 [Citroen Total WTCC]

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1974年2月、フランスのアグノー生まれ。1997年にラリーデビュー、翌年にはサクソ・トロフィーに参戦し、’98年にチャンピオンを獲得したところから、シトロエンとの深い関係が始まった。’02年からWRCに出場、’04年から’12年まで前人未到の9年連続チャンピオンという偉大な金字塔を打ち立てたのは、レースファンにも広く知られているところ。

’13年には活動の場をレースフィールドにシフト、’14年のシトロエンによるWTCC参戦においてドライバーの一人として名を連ね、開幕戦のモロッコでは第2レースで早々に優勝を飾った。今シーズンも開幕のアルゼンチンで優勝、その後しばらく表彰台の真ん中に立てなかったが、スロバキアとフランス、ポルトガルと第6大会から目下3連勝。この勢いを日本にそのまま持ち込み、もてぎで表彰台の真ん中に立つことへの期待も高まっている。



シボレーRML・クルーズ – 日本での今季初優勝に期待!!

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2005年のWTCC発足初年度から、マニュファクチャラーとして活動を続けてきたのがシボレー。日本でも販売されていたラセッティ(日本名オプトラ)で参戦、’09年にはマシンをクルーズにスイッチして、’10年から3年連続でダブルタイトルを独占、黄金期を築いてきたのは記憶に新しいところ。シボレーのメーカーとしての参戦が終了した後は、RML(レイ・マロック・リミテッド)がそのノウハウを活かして中心となりTC1規定車両を開発して現在に至る。

現在のWTCCにおいては、シトロエン、ホンダ、ラーダがメーカーとしてのマニュファクチャラー体制を整えているので、参戦環境としてはやや厳しいのも事実。しかし多くのユーザーがクルーズでの戦いを続けており、’14年にはハンガリーと中国・北京を制して2勝を挙げた。今シーズンはこれまで残念ながら勝ち星を掴むに至っていないが、シボレー陣営は日本ラウンド最多勝を記録しているトム・コロネル選手を擁しているだけに、今季初優勝を飾る可能性は高いといえるだろう。


DRIVER PROFILE

トム・コロネル 選手 [ROAL Motorsport]

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1972年2月、オランダのナールデン生まれ。’90年にレースデビュー、’96年に全日本F3選手権に参戦し、翌年にはオープンしたばかりのツインリンクもてぎで優勝を飾った。その後、フォーミュラ・ニッポンと全日本GT選手権にステップアップして活躍したことは日本のレースファンにも広く知られるところで、日本通のドライバーとして親しまれている。

WTCCには発足初年度の’05年から参戦、セアトとBMWのステアリングを握り、’14年からはTC1規定となったシボレーRMLで戦っている。’08年には日本に初上陸した岡山でのWTCC、第2レースで総合優勝を獲得。その後、’11年と’13年のの鈴鹿(東コース)でも優勝を飾り、日本ラウンドでの3勝はドライバー別の最多記録となる。日の丸もあしらわれた“必勝はちまき”姿も日本ラウンドではお馴染みとなったコロネル選手だが、もちろん目指すは日本でのWTCC4勝目である。

トム・チルトン 選手 [ROAL Motorsport]

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1985年3月、イギリスのライギット生まれ。世界的な大手保険会社の幹部だった父の下に育った貴公子であり、F1にも参戦した弟のマックス・チルトン選手とともに、兄弟揃って世界選手権を戦うドライバーとして知られている。また、14歳でのレースデビューは当時のイギリスで最年少記録であり、こちらも大いに話題を集めた。

2002年からBTCC(イギリス・ツーリングカー選手権)を10年間戦い、インディペンデントトロフィーのタイトルも獲得。WTCCには’12年から参戦、初年度はフォード・フォーカスを駆り、’13年からシボレー・クルーズのステアリングを握る。そして同年、アメリカと中国・上海を制して2勝を挙げた。端正な顔だちで女性ファンも多いチルトン選手の走りは、想像以上にアグレッシブ。先行車に一寸の隙があればノーズをねじこんでいくドライビングは、もてぎでも大いに注目を集めることだろう。



ホンダ・シビック – ホームコースでの優勝に期待!!

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日本のモータースポーツ史においても、重要な1ページを刻んできたシビック。中でも1997年に登場した“タイプR”は、レースのみならず様々なカテゴリーで活躍を見せてきた。そんなシビックが初めてWTCCにマニュファクチャラー参戦を果たしたのは、’12年の鈴鹿で行われた日本ラウンド。この年はテスト参戦という位置づけで、’13年から本格的にシーズンを戦いはじめると、同年の第3大会・スロバキアで初優勝、さらに表彰台を独占して存在感を見せつけた。

TC1車両に移行した’14年は、参戦を重ねる毎にマシン開発を着実に進めた。その結果、終盤戦の中国・上海と最終戦のマカオを制して2勝を飾る。’15年はシトロエン勢が強さを見せるなか、これまでにハンガリーとロシアで優勝。昨年は日本ラウンドにおいてガブリエレ・タルクィーニ選手が自身初の日本での優勝を飾っているが、新たに舞台となるツインリンクもてぎもホンダにとってはホームコースであるだけに、今年も表彰台の真ん中に立つことが期待されている。


DRIVER PROFILE

ティアゴ・モンテイロ 選手 [Honda Racing Team JAS]

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1976年7月、ポルトガルのポルト生まれ。’97年にフランス・ポルシェカレラカップでレースキャリアをスタート、フランスF3やFIA F3000を経て、2002年にはF1ルノー・チームの育成ドライバーにも選ばれた。その後、アメリカのCARTやヨーロッパのワールドシリーズ・バイ・ニッサンと世界各地でレース活動を展開。’05年にはジョーダンからF1に参戦し、年間18戦をすべて完走して安定感を見せた。

WTCCへの参戦は’07年からで、黄金期を迎えていたセアト陣営の一員に名を連ねる。翌年にはブラジルでWTCC初優勝を飾り、このカテゴリーにおいてもトップドライバーの一人として認知度を高めた。そして’12年にホンダへと移籍し、同年のテスト参戦マシンの開発にも尽力。翌年の中国・上海では優勝を飾ってホンダ陣での活動がひとつの実を結んだ。そして今シーズンも、ロシアでWTCC通算6勝目をマーク。シビックのホームコースとなるもてぎでの活躍も大いに期待されるところだ。

ガブリエレ・タルクィーニ 選手 [Honda Racing Team JAS]

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1962年3月、イタリアのジュリアノバ・リド生まれ。F1ドライバーとしての経験も持つ大ベテランは、スパイダーマンの大ファンで蜘蛛の巣模様のヘルメットを愛用していることも広く知られている。イタリアF3選手権、FIA F3000、そしてF1へとステップアップしてきた経歴の持ち主だが、’94年からは活躍の場をツーリングカーレースに移した。同年はBTCC(イギリス・ツーリングカー選手権)に参戦して、開幕5連勝という破竹の勢いを見せてシリーズチャンピオンを獲得。その後、DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)やETCC(ヨーロッパ・ツーリングカー選手権)を戦ってきたが、BTCCではホンダのステアリングも握っている。

WTCCには発足初年度から参戦、’05年はアルファ・ロメオを駆っていたが翌年はセアトに移籍して“セアト黄金期”を支える重要な一人となる。’09年にはチャンピオンを獲得、47歳にして初めての世界タイトルを手中におさめた。’13年にホンダへと移籍、第3大会のスロバキアにおいてホンダでの初優勝を飾る。これまでのWTCCでの通算勝ち星は20だが、そのうちの3勝をホンダでマーク。昨年は鈴鹿も制しているだけに、もてぎでの戦いぶりも楽しみなところだ。



ラーダ・ヴェスタ – ‘14年には悲願の初優勝で勢いに乗る!!

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ロシアを代表する総合重工業メーカーのひとつがアフトバス社。自動車製造もソビエト時代から手がけており、モータースポーツにおいてもWRCに参戦した経験を持っている。ラーダは同社の輸出向けブランド名であり、過去には少数ながら日本にもクロスカントリー4WDの「ニーヴァ」が輸入されていたことをご記憶の方もいらっしゃることだろう。WTCCには2008年から第一期の参戦をスタート、2シーズンにわたって戦ったが、他車と比べてボクシーなスタイリングのラーダ110が見せる独特な存在感は、日本への参戦時にも大いに注目を集めた。

その後、一旦はWTCCから離れたラーダであったが、’12年にスポット参戦で復帰すると、’13年からは再び本格的な参戦を再開。マシンは第一期に110からプリオラにスイッチしたが、’13年の第二期本格参戦からはグランタを投入。そして’14年のTC1規定仕様に進化させた後、今シーズンからはニューモデルとなるヴェスタを投入。110時代とは一線を画す現代的なシルエットもさることながら、レーシングマシンとしてのポテンシャルも格段に向上した。その結果は’14年に表れ、アルゼンチンでの第16戦で準優勝を飾りWTCC初表彰台を獲得。そして続く中国・北京での第18戦で悲願の初優勝を獲得すると、最終戦のマカオでも優勝を飾った。今季はまだ勝ち星に恵まれていないものの、昨年同様に終盤戦で勢いに乗るきっかけに、もてぎがなることも十分にあり得るだろう。


DRIVER PROFILE

ロブ・ハフ 選手 [LADA Sport Lukoil]

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1979年12月、イギリスのケンブリッジ生まれ。レーシングカート出身で、プロ・カート耐久シリーズでは参戦した6シーズンで5回のシリーズチャンピオンを獲得。4輪レース転向後はBTCC(イギリス・ツーリングカー選手権)などで活躍を見せたのち、2005年の発足初年度からWTCCに参戦を続けている。WTCCでは8シーズンをシボレーで戦い、黄金期にはチームメイトであるイヴァン・ミューラー選手と激しい争いを幾度も演じてきた。そしてマニュファクチャラー参戦の最後となった’12年、最終戦までもつれ込んだタイトル争いを制して悲願のWTCC初チャンピオンに輝いた。

’13年はセアトを駆って参戦、そして’14年からラーダに移籍してTC1規定のヴェスタを開発から手がける。なかなか表彰台に手が届かなかったラーダにとっては大きな戦力となり、’14年に初表彰台獲得から2回の優勝を飾るに至ったことは前述の通りだ。しかし、意外にもシボレー時代を含めて日本ラウンドでの優勝経験は有していない。それだけに日本ラウンド初優勝に期待がかかる一人でもあり、今シーズンのラーダ初優勝とあわせて勇姿を見せてくれることが楽しみなドライバーである。