2014 FIA WTCC Race of JAPAN (3-2)

7年目となるWTCC・日本ラウンドが開催される鈴鹿サーキット。各チームやドライバーは現地で戦いの本番に向けた準備を着々と進めており、ヨコハマタイヤも渡辺/金子の両名をはじめ多くのスタッフがタイヤサービス業務などにあたっている。
2014年は新規参入したシトロエン勢が強さを開幕から見せてきたWTCCだが、アジアラウンドに入ってシボレーRMLやラーダも優勝を飾り巻き返しを見せている。そしてホンダもマシンアップデートの効果が見えつつあり、地元・鈴鹿での好成績はファンの声援も後押しとなって期待されるところ。
タイヤエンジニアへのインタビュー、後半は2014年のWTCCについてこれまでの展開と見どころを聞いてみよう。

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シトロエンが席巻している2014年のWTCC

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2014年の開幕前、やはり最大の話題となったのがシトロエンの新規参入であった。そのポテンシャルは開幕戦から遺憾なく発揮されて優勝を独占すると、ここまでのシーズンを圧倒的な強さでリードしている。このシトロエンの強さ、渡辺は次のように分析している。

「今年はシトロエンの強さが際立っていますが、個人的にはちょっとつまらないですね(笑)。でも、モータースポーツには宿命的な部分もあって、予算や人材が豊富に揃っていると強いのは当たり前のことなのです。現場に立ち会っての感覚としても、やはり群を抜いた体制を整えているという印象がありますからね。
これはある現場でのひょんな会話から出てきた話なのですが、シトロエンは勝つことこそが第一のミッションとしてWTCCを戦っているんだ、と。このくらいの予算で、このくらいの結果が出ればいいんじゃない、という感じが一切無くて、とにかく予算がどうこうよりも勝つことだけを考えているんだと。
その一方ではホンダも頑張っていますよね。エンジンなどがとても良くなってきていますし、上海では今季初優勝も飾りましたからね。セットアップも進んでいるようですから、ホームコースとも言える鈴鹿での活躍は十分に期待できる存在だと思います」

金子もシトロエンの強さについては、他チームとの違いを感じているという。

「サーキットで見ていても、シトロエンはチームの一体感がありますね。見た目からも、プロフェッショナルさがわかる、そんな感じがしています」



タイヤをしっかり使うことが、勝利の条件

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TC1車両が走る初めての日本ラウンドとなる鈴鹿。速さやパフォーマンスの向上は、これまでのレースで前年と比較したラップタイムなどからも明らかだが、各車のキャラクターはTC1になったことで変化があるのだろうか。この点を渡辺に聞いてみよう。

「シボレーはTC1になって、キャラクターがガラリと変わった印象がありますね。その中でもドライバーやチームによって、タイヤに起こる現象はバラバラという特徴があります。ホンダはタイヤの使い方が優しい感じで、ラーダは速さを別にしてタイヤの使い方としてはシボレーとホンダの間というこれまでの流れになっています」

タイヤの進化による自由度向上が、チームの戦略における幅を拡げたということは、ここまでに紹介してきた通り。TC1化による各車のキャラクターの違い、これを鈴鹿で見比べてみるのも面白いポイントになるだろう。そしてシトロエンについては、レギュラーでステアリングを握る3選手の走りの違い、ここも興味深いポイントだ。渡辺は3選手の違いを次のように見ている。

「まずイヴァン・ミューラー選手ですが、今年はややコンサバティブな印象がありますね。ホセ・マリア・ロペス選手とセバスチャン・ローブ選手、この二人に『WTCCというのは、こうやって戦うレースなんだ』ということを見せながら走っているような印象があります。一方でロペス選手は自由奔放に戦っている感じ、ローブ選手はあえてラリー走りじゃないように心がけているようなところを、個人的には見て取れますね。」

個性的なトップドライバーが繰り広げる接近戦がWTCC最大の魅力だが、タイヤの観点からしてドライバーの個性は見えてくるものなのだろうか。この答えを渡辺が次のように語る。

「以前は、例えばシボレーなどでは使われたタイヤを見ただけで誰が走らせたものか分かるくらいの違いが出ました。時間の経過とともにマシンが熟成されると使われたタイヤの差も小さくなっていきましたが、それでもまだ分かるくらいだったのです。
しかし、今度の新しいタイヤはポテンシャルの余裕が大きいので、ドライバーや車種の違いが分かりにくいですね。摩耗も少ないですし、摩耗肌の差も小さいのです。もちろんこれは、狙った通りの性能が出ている証でもあります。
ただ、確実に言えることは、速い車はタイヤをしっかり使っているということですね」



鈴鹿ラウンド、初のフルコース開催はここに注目!!

4回目となる鈴鹿サーキットでのWTCCは、初のフルコース開催が話題だ。タイヤの視点から、このフルコースは昨年までの東コースとどのような違いがあるのかを渡辺に聞いてみよう。

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「東コースに比べて、フルコースはタイヤに厳しくなります。路面グリップも高く、130Rなどのシビアさは、今年の開催地でいえばオーストリアのザルツブルグに匹敵するくらいで、WTCC開催地の中ではトップクラスです。
130RはハイスピードでGが高く、旋回時間も長いのでタイヤへの負担が大きいのですが、その点で今年のTC1車両が装着する18インチタイヤは余裕があるので心配はしていません。一方で従来の17インチを使うTC2車両のほうには、いくつかのアドバイスをする必要があるでしょうね」

最後に二人には、この鈴鹿で個人的に注目しているポイントをお聞きしてインタビューを締めくくろう。金子はやはり、ジャパンパワーに期待しているという。

「ホームコースでもある鈴鹿では、ホンダに頑張ってほしいですよね。シトロエンの強さが目立っている今シーズンですが、大勢のファンからの声援も後押しとなって、ホンダが持てる力を存分に鈴鹿で発揮してくれることと思っています」

渡辺は、長くWTCCを現場で見てきた経験も踏まえて、ちょっと面白い視点で注目しているポイントがあるという。

「個人的には、ラーダのジェームス・トンプソン選手に注目しています。ロブ・ハフ選手が先にラーダ初優勝を飾っていますが、どうしてトンプソン選手なのかといえば、そこはなんとなくですが(笑)
鈴鹿はとても難しいコースで、例えばコーナーでも単純にブレーキを踏んで、ステアリングを切って、というだけではないところがあると思います。WTCCには経験豊富なドライバーがたくさんいますが、その中でもラーダで鈴鹿を速く走る術をいち早く習得するのがトンプソン選手ではないかと。
スプーンカーブあたりではタイヤの使い方の差も出そうなので、その点にも注目して初のフルコース開催を多くの方に現地で楽しんでいただきたいですね」



過去、東コース開催の時代には、パッシングポイントが限られたこともありレース中には駆け引きも多かった。執拗なプッシュを続けて相手のタイヤ摩耗を進めさせ、終盤での逆転を狙う、といったレース展開が見られたこともある。
しかしTC1車両については、タイヤのポテンシャルが大幅に高められたこともあり、こうした駆け引きではなく純粋な速さを競いあう展開になることが予想される。今年も日本に上陸した世界最高峰のバトル、ぜひこの機会に週末は鈴鹿サーキットへ足を運んで、その迫力を目の当たりにしていただきたい。