トップメッセージ
新たな経営体制のもとで、持続的な成長を目指す
2017年、ちょうど横浜ゴムの創業100周年のとき、私は社長に就任しました。
「心と技術をこめたモノづくりにより、幸せと豊かさに貢献します」という基本理念を目指すべき姿として、当社は成長し続けてきましたが、あえて厳しい言い方をしますと、この100年間の「垢」のようなものが溜まっていたことは否めません。
具体的には、横浜ゴムの本家本元といえる技術・生産の部門です。コストを考えず、良いものさえつくれば勝てるという、自己満足な意識が残っていました。自動車業界が、100年に一度の大変革期に直面している中、競争力が落ち、中国やインドなど新興国のメーカーに脅かされるようになったのは、この技術・生産の意識の遅れがあったからです。
私の使命は、あと100年存続できる組織にするため、そうした「垢」をきれいにしていくことにあると考え、この7年間、変革を進めてきました。
事業構造の改革、特に、企画部門、営業部門、マーケティング部門の変革は進みました。一方で、まだ技術、生産の部門は改善の余地があります。企画から開発、生産、物流、販売と、一気通貫ですべての部門の意識変革ができれば、生き残っていけると考えています。
私が社長に就任した当時、売上収益は6,000億円ほどでした。それが事業買収などにより1兆円に届こうとしています。しかし、海外の売上が急拡大し、組織も大きく変わったために、間延びしている部分も見えてきました。
そこでこのたび、これらの経営課題に本気で取り組むため、新たに責任者を据えることにしました。私が代表取締役会長兼CEOとして経営全般と北米を担当して大きな意思決定をしていきます。そして、清宮眞二氏が技術生産、品質保証、および日本・中国・アジアを担当する代表取締役兼COOに、Nitin Mantri氏が当社の虎の子であるOHT(オフハイウェイタイヤ)とその他の海外地域を担当する取締役専務執行役員兼Co-COOに就く体制としました。
それぞれが役割を責任もって遂行し、急拡大した横浜ゴムの経営に当たってまいります。
横浜ゴムグループが向き合う社会課題と存在意義
気候変動や生物多様性、人権など、環境や経済・社会の持続可能性に向けた課題への危機意識が世界的に高まっており、ステークホルダーの皆さまと共有価値を創造していくことが重要です。そこで横浜ゴムグループでは、2024年度に開始した新中期経営計画「Yokohama Transformation 2026(YX2026)」の策定に合わせ、事業環境や社会課題の変化を踏まえてマテリアリティ(重要課題)の見直しを行い、事業活動が社会や環境に与える影響と社会や環境が事業活動にもたらす影響の双方を考慮した新たなマテリアリティを特定しました。マテリアリティに沿って、目指す姿に向けた取り組みを進めていきます。
ここ数年、中国タイヤメーカーの生産能力は勢いを増すばかりです。タイヤ消費財については、今や全世界のタイヤ消費財の生産本数のうち、3分の1が中国国内で生産され、その約半数が中国国外に輸出されています。タイヤ生産財のTBR(トラック・バス用タイヤ)事業はさらに中国の勢いが顕著であり、全世界の生産本数のほぼ半分を中国タイヤメーカーが占め、その半分が輸出されているという状況です。
とはいえ、日本のメーカーの地位は、依然として確固たるものがあります。世界の20兆円ほどの市場規模の中、タイヤメーカー大手4社(ブリヂストン、住友ゴム工業、横浜ゴム、TOYOTIRE)で4分の1のシェアを持っています。自動車関連の多くの産業領域のシェアが落ちる中、日本のタイヤメーカーはまだ強い市場地位にあるということです。また、海外拠点が増えてはいるものの、日本国内で生産し、雇用を生み、さらに輸出して外貨を稼いでおり、技術力を発揮した日本企業としての存在意義は十分あると考えています。私はJATMA(一般社団法人日本自動車タイヤ協会)会長を務めた経験もありますが、4社、それに経済産業省も同様の捉え方をしています。
中でも横浜ゴムグループの強みは、OHTタイヤです。市場規模は約4兆円で、市場成長率はタイヤ消費財の年2%に比べ約6%と高い成長率となっており、需要の40%を占める農業・林業用機械向けタイヤでは、ミシュランを抜き、当社がNo.1のシェアを占めています。市場の4分の1を占める産業・港湾用車両向けタイヤでも、当社は市場2位のシェアを確保しています。
こうした地位を守りつつ、社会課題解決のために、「心と技術をこめたモノづくりにより、幸せと豊かさに貢献します」の基本理念を実践し、メーカーとしての責務を果たしていきます。
「YX2023」の振り返り
「過去100年の集大成」と銘打ち、2021年から2023年の3年間で取り組んだのが、中期経営計画「Yokohama Transformation 2023(YX2023)」です。達成度とすれば、100%に近いと考えています。
各年度とも当初設定した売上収益・事業利益の目標を大きく過達できました。2023年度については、売上収益は目標としていた1兆円には届かなかったものの、当初設定の目標7,000億円は大きく上回り9,853億円に、事業利益も当初目標の700億円を上回り991億円を計上しました。またD/EレシオはTrelleborg Wheel Systems Holding AB(TWS)の買収により未達となり、ROEも目標にわずかに届かず9.9%でしたが、営業キャッシュフローは3年間の累計で2,672億円と目標値2,500億円を達成できました。
タイヤ事業構造の変革という「大戦略」も断行できました。YX2023策定の2020年当時、タイヤの世界市場はタイヤ消費財とタイヤ生産財の売上比率が1:1でしたが、当社の割合は3:2でした。2023年度にTWSを買収したことで、タイヤ生産財の生産能力・売上収益がともに飛躍的に拡大し、OHTカテゴリーにおいて業界トップクラスの商品ラインアップを揃えることができたうえ、タイヤ消費財とタイヤ生産財の割合を1:1と、市場と同じ割合にできました。なお、市場ではタイヤ生産財であるTBRとOHTは2:1の構成比であるのに対し、当社は収益性の高いOHT比率が2、TBRが1の割合になりました。
また、2021年11月にハマタイト事業の売却、2022年3月には航空部品事業を工業資材事業へ統合するなど構造改革を完遂し、次期中期経営計画の基盤を整えました。
政策保有株式については、私が社長に就任した2017年以降、売却を進め、銘柄数122銘柄、貸借対照表上の合計額961億円から、2023年末には、それぞれ86銘柄、770億円にまで減らしています。遊休資産や事業・子会社の売却も実行し、それらの合計額は7年間で1,000億円を超え、成長による企業価値向上のための戦略投資へ振り向けました。
新中期経営計画「YX2026」の概要と中長期に目指す姿
ただ、私はYX2023で横浜ゴムの変革をやり切れたとは思っていません。そこで掲げた「深化」と「探索」をさらに推し進め、絶対に次世代に負の遺産を引き継がないよう「総仕上げ」をするという強い思いで、2024年度に「Yokohama Transformation2026(YX2026)」をスタートさせました。
中国勢が、当社の一丁目一番地の乗用車向けタイヤに攻め上がってくるのに対し、どう抗っていくか。レッドオーシャン化するような領域から少しでも外れたブルーオーシャンで、いかに事業を展開していくか。YX2026はその基盤をつくる位置付けです。
当社の企業価値向上の基本方針は「成長戦略」です。それも、これまでのような微増に甘んずることなく、「Hockey Stick Growth」(「うなぎ昇り」の成長)を目指して、ステークホルダーの皆さまに応えていきたいと考えています。
まずは、日本の一流企業の証ともいえる売上収益1兆円、事業利益1,000億円を目指します。これは今年度にも達成する見込みですが、2026年度の財務目標としては、売上収益1兆1,500億円、事業利益1,300億円を掲げました。
YX2026後の目指す姿としては、乗用車用タイヤは、当社がAGWと呼んでいる高付加価値商品「ADVAN(アドバン)」「GEOLANDAR(ジオランダー)」「ウィンタータイヤ」が全体生産量の半数を占め、高い利益率を実現することを見込んでいます。残り50%の汎用タイヤについては、コストダウン、利益確保、中国への対抗をしっかり進めることで売上・利益を伸ばしていきます。その一環として、北米市場で地産地消の能力を増強するため、メキシコに乗用車用タイヤの新工場を建設します。生産能力は年産500万本で、2027年第1四半期からの生産開始を予定しており、将来的な拡張も視野に入れています。
一方、タイヤ生産財では、TBR事業では中国メーカーが台頭しているため、横浜ゴムにしか作れない領域にリソースを集中することで、売上・利益を高めていきます。少しずつですが、今、成長しつつあるので、その領域を増やしていきたいと考えています。また、OHT事業では、TWSの買収によってメイン市場であるヨーロッパや米国に生産拠点を持つことができたため、今後シナジーを創出していきます。
サステナビリティ経営のさらなる高度化に向けて
企業である以上、増収増益を目指し、成長していかねばなりませんが、当社はサステナビリティ経営を、事業を強化する実際的な事業戦略の一つと捉えており、「環境」「社会」「ガバナンス」の観点からさまざまな活動を通じて持続的な企業価値向上につなげています。
サステナビリティ活動は企業活動である以上、企業の成長に資するものであるべきで、過剰な投資により次の世代の経営に負担を負わせるのではなく、環境投資も当社の通常の回収の規律に従い、企業収益と両立させる必要があります。
温室効果ガス排出量の削減については、Y-TWS(Yokohama-TWS)を含め、2019年比で2026年に30%、2030年に40%を新たな目標とし、コストを下げながら目標を達成する計画を作っています。その後も2050年のCO2排出量ネットゼロ達成に向けた取り組みを継続していきます。
サステナブル原料拡大の促進については、足元ではコストアップなしで2026年に28%、2030年に30%という目標を設定しました。当社の技術力をもってすれば、YX2026の中で追加負担をせず、2030年に40%を達成することも可能と考えています。
また、従業員エンゲージメント調査を2024年度から実施する予定です。当社の利益を上げる仕組みや手法が見えてきた中、従業員にそれを理解し、目標に向かって努力してもらい、その成果を報酬として分かち合うという組織にしたいと考えています。また、2026年度のKPIとして、MBA等経営教育受講率を部門長の15%、DXリーダー育成教育受講率を事務・技術系職員の10%とする目標を掲げています。
当社の持続的な成長と企業価値向上を実現するため、企業収益と両立させた形でこれらの取り組みを行い、事業戦略としてのサステナビリティ経営をしっかりと進めていきます。
コーポレートガバナンスの強化に向けた取り組み
当社は取締役会の監督機能を強化し、一層のコーポレートガバナンスの充実を図るため、2023年に監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しました。
取締役は社内8人、社外7人、役員人事・報酬委員会は社内2人、社外3人にして、ガバナンスの実効性を担保していきます。
今後の課題としては、これまでの歴史を尊重しながら、私たち自身の意識を変えるということです。グローバルな戦略を遂行するうえで、外国人の取締役がNitin Mantri氏一人では少ないので、増員も視野に入れていきます。また、横浜ゴム本社の社員から海外子会社や販売会社の社長に就くと、どうしても日本人的な考え方にとらわれてしまいます。現地や販売のことを理解している優秀な経営人材を、社内外問わずに実力本位で起用する意識改革が必要です。それを取締役会がきちんと管理し、成長を進めていきます。
ステークホルダーの皆さまへ
横浜ゴムは創業当初、国内トップの売上を誇りましたが、モータリゼーションの波に乗り遅れ、今や業界3位に甘んじています。売上がすべてではないとはいえ、規模の経済であるタイヤ産業を牽引していくため、また従業員だけでなく、株主など多くのステークホルダーの皆さまから見ていただくうえで、市場での地位を一つでも上げていかねばならないと考えています。
当社は「生産事業は社会奉仕なり。」で始まる創業の精神をもとに、企業理念、経営方針を設定しており、100年前から変わらぬ精神で事業に取り組んできました。この精神は今後100年も変わることはなく、歩みを止めてはなりません。新体制となり、まずはYX2026の3年間、どれだけやり切れるか、成果を出せるかを、ステークホルダーの皆さまにお見せしていきます。100年後も存続できるような、持続可能な信頼される企業として成長してまいりますので、さらなるご支援を賜りますようお願い申し上げます。