トップメッセージ
5年連続の過去最高業績を達成
2025年度は、国内では米国関税引き上げの影響はあったものの、エネルギー価格低下などのコスト減を背景に全体としては底堅い推移となりました。一方で海外では、米国での個人消費を中心とした景気減速、欧州での関税引き上げによる外需不振、中国における内需減速に加え、中国新興メーカーの台頭による競争激化など、楽観を許さない状況が続きました。
しかし、そうした厳しい環境の中にあっても、2025年度の実績は、売上収益が1兆2,350億円(前年度比1,402億円増)、事業利益が1,666億円(同322億円増)、当期利益が1,054億円(同305億円増)となりました。これにより、5年連続の増収増益・過去最高を更新いたしました。また、2025年8月に上方修正した公表値に対しても、事業利益で136億円、当期利益で174億円を上回る結果を収めています。
私が社長に就任したのは2017年ですが、就任前年の2016年度との比較では、売上収益は2.1倍、事業利益は3.9倍に拡大し、ROEも中期経営計画の目標10%を上回る11.0%を達成いたしました。この結果、当社の事業規模はタイヤ業界で世界第6位※1、国内第2位※2へと上昇しており、市場環境に左右されず、着実に他社を上回る成長を遂げることができたと考えています。
- 1 タイヤ事業 売上収益ランキング(横浜ゴム調べ)
- 2 全社(タイヤ・MBその他)売上収益ランキング(横浜ゴム調べ)
「Best Alternative戦略」が成長を牽引
他社を上回る成長は、10年以上にわたり一貫して推進してきた「タイヤ事業の大戦略(グランドデザイン)」の成果だと捉えています。現在の世界のタイヤ市場は、乗用車用タイヤなどの「消費財」と、トラック・バス用、農業機械用タイヤなどの「生産財」の2つに分かれており、1ドル=152円換算で、それぞれが約15兆円とほぼ同じ市場規模になっています。
そのうち、生産財は、トラック・バス用タイヤが約9兆円、OHT(オフハイウェイタイヤ)が約6兆円となっています。
当社は、2016年のATG※3、2023年のTWS※4、そして2025年2月のグッドイヤー社OTR※5事業の買収を通じ、消費財と生産財の比率を世界市場と同じ1:1としました。これらの買収事業はいずれも高いEBITDAを有し、投資規律に合致する上、買収後の適切な投資と経営改善により、一度も減損を計上することなく、着実に成果を上げてきています。その結果、当社は「OHTの会社」として認知・定義されていますが、近年の「Hockey Stick Growth(うなぎ昇りの成長)」を力強く牽引しているのは、買収したOHT事業以上に既存タイヤ事業の成長であるのが事実です。
「大戦略」が本質的に目指したのは、Tier1のトップメーカーに並ぶ商品ラインアップを揃えることで、彼らに代わって選ばれる「Best Alternative(最善の選択肢)」となり、全品種での増収増益を達成することです。
2025年2月のグッドイヤー社OTR事業買収によって商品のフルラインアップ化が完成し、業界で唯一、Tier1トップメーカーに並ぶ商品ラインアップを実現し、彼らの「Best Alternative」としての地位を確立することができました。これにより、「さまざまな品種のタイヤを1社からまとめて仕入れることで、複数社に発注する手間を省き、インセンティブの金額を増やしたい」という主要市場の販売先の約6割を占める独立系のタイヤディーラーのニーズに応えることができる数少ないタイヤメーカーとなり、買収してきたOHTのみならず、既存の乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤも含め引き合いが大きく増加しています。その結果、2016年度との比較では、M&Aにより成長したOHT事業の事業利益が334億円の増益であるのに対し、既存のタイヤ事業は874億円の増益を達成しました。
一方で、M&Aのシナジーによるコスト競争力の向上も増収増益に寄与しています。中国新興メーカーが世界の生産量の約半分を占めるようになり、激しい価格競争が繰り広げられている「レッドオーシャン」市場を勝ち抜くため、買収したATGの低コスト生産モデルを既存事業へ応用するとともに、M&Aによるスケールメリットを活かした調達・物流の効率化を推進してきました。TWS買収に伴うシナジーの創出も当初の計画を上回るペースで進捗しており、2027年に5,000万米ドルとしていた目標を1年前倒しし、2026年度には約6,000万米ドルの刈り取りを見込んでいます。
- 3 Alliance Tire Groupの略称。オランダの農業・建設機械用タイヤ生産販売会社。
- 4 Trelleborg Wheel Systems Holding ABの略称。スウェーデンの農業機械・産業車両用タイヤ生産販売会社。
- 5 Off the Road Tireの略称。鉱山・建設車両用タイヤ。
成長痛を乗り越える構造改革を断行
中期経営計画「YX2026」の最終年度となる2026年度において、最大の経営課題は「絶対に次世代に負の遺産を残さない」ための構造改革の断行です。M&Aによって急拡大した組織が抱える「成長痛」を克服し、持続的な成長基盤を確固たるものにするため、聖域なき改革を推進しています。
その一環として、米国バージニア州のセーラム工場の閉鎖を前倒しで決定したほか、OHT事業においてもプラハ(チェコ)やスパルタンブルグ(米国)の工場閉鎖を決断しました。これにより、高コスト・低効率拠点の抜本的なグローバル再編を急ピッチで進めていきます。
一方で、新興国メーカーの圧倒的なコスト競争力に対抗するため、未来への投資は継続していきます。中国の杭州では、市場競争力の高い工場を1年間で立ち上げる「1年工場」に挑戦し、当初計画を1カ月前倒しして2025年11月に試作タイヤの生産を開始しました。また、メキシコにおいても、Y-ATGのマネジメントノウハウを活用した新工場を建設中です。2026年後半の試作開始、2027年の量産開始を目指し、低コストかつ高効率な生産体制の実現に向けた取り組みを継続していきます。
成長投資と株主還元の両立を推進
基本方針として、成長投資と株主還元のバランスを重視した事業運営を行っていきます。中期経営計画「Yokohama Transformation 2026(YX2026)」当初のキャッシュイン計画に対し、政策保有株式や土地などの資産売却を計画以上に進めることで、成長投資と株主還元の 原 資となるキャッシュフローを創出していく考えです。これにより、M&Aなどの成長投資を行っても、当初計画した株主還元に対し、総額180億円を増額するなど、成長投資と株主還元の両立を図っています。
「Hockey Stick Growth(うなぎ昇りの成長)」に向けた積極的な戦略投資としては、持続的な利益成長を実現するため、M&Aや中国・メキシコでの新工場建設といった大型案件に優先的にキャッシュを振り向けています。同時に、自己資本比率50%を目安とする財務規律をしっかりと維持し、健全性を確保しながら投資を継続します。株主還元については、当社のこれまでの基本方針として、2022年までは外部環境に関わらず安定配当を行い、2023年以降は配当性向20%としてきました。今後は、成長投資の成果によるさらなる収益性向上が見込まれるため、2026年度の還元目標を「配当性向30%、総還元性向30%以上」へと上方修正しました。利益成長に伴う着実な増配を目指しており、2026年度の配当は前年比38円増配の1株当たり172円と、6期連続の増配を計画しています。さらに、自己資本比率が目安の50%を超過する場合など、株主資本や余剰資金の状況に応じて、機動的な自社株買いなどの追加還元策も検討していきます。
次期中計でも「Hockey Stick Growth」を継続
企業の使命は企業価値を持続的に高めることです。そのためには常に増収増益を達成し続けなければなりません。当社は、この目的を果たすため10年以上にわたり大戦略を推進し、「Best Alternative戦略」を各地域・事業で展開しています。次期中期経営計画「YX2029」においても、目新しいものを追うのではなく、企業本来の目的に合った経営計画を継続していくことが肝要です。
2027年度からスタートする「YX2029」でも「Hockey Stick Growth」の増収増益を続けるため、我々が強みとする既存事業のさらなる「深化」と、100年に一度の大変革期である市場変化を捉える「探索」という2つのアプローチを徹底して進めていきます。
具体的には、少子高齢化や新興メーカーの台頭といった将来の市場変化を見据え、各地域の実情に即した独自の事業戦略を策定し、着実に実行していきます。また、市場の周期性(景気変動)に対する耐性を備えたOHT事業戦略の構築や、MB(マルチプル・ビジネス)事業等における従来のビジネスモデルからの抜本的な脱却を図ります。
あわせて、原材料費や加工費のさらなる削減に向けた詳細な計画を遂行することで収益力を強化し、成長投資と並行して、ステークホルダーの皆さまへの継続的かつ積極的な利益還元を行っていく所存です。株主還元につきましては、次期中期経営計画の最終年となる2029年に配当性向40%を目指すなど、長期的な企業価値の向上に努めていきます。
実効性を重視したガバナンス改革へ
2025年3月より、取締役の員数を15名(うち社外取締役7名)から12名(うち社外取締役6名)へと見直し、徹底した議論と意思決定の迅速化を図る体制へと変更しました。
また、役員人事・報酬委員会については、構成メンバー5名のうち過半数となる3名を社外取締役としていますが、2026年3月27日以降は、新たに同委員会の委員長も社外取締役(河野 宏和 社外取締役)に担っていただく体制へと変更し、ガバナンスの実効性をさらに高めてまいります。
サステナビリティと収益性の両立を追求
企業活動においてサステナビリティの追求は不可欠ですが、過剰な環境投資によって次世代に負担を負わせることは避けるべきと考えています。環境投資においても通常の投資回収規律を厳格に遵守し、コスト削減や持続的成長につなげる「サステナビリティと企業収益の両立」が当社の基本方針です。
温室効果ガス(GHG)排出量については、2019年度比で2026年度に30%削減、2030年度に40%削減、2050年度のネットゼロを目標に掲げており、既存工場での排出量は着実に削減が進んでいます。一方で、「Hockey Stick Growth」に向けたM&Aや既存工場の増産、新工場建設といった積極的な成長投資が続くため、排出量の総量は2029年から2030年頃までは一時的に増加していく見通しです。これについては、次期中期経営計画において新たな目標を策定し、事業成長と環境負荷低減の両立を目指します。
また、生物多様性の保全においては、従業員が生産拠点の敷地内で苗木の育成や植樹を行う「YOKOHAMA千年の杜」活動や、従業員による生産拠点周辺の環境影響調査からスタートした生物モニタリングや保全活動が評価され、2026年3月までに国内生産拠点5拠点が国の「自然共生サイト」に認定されました。これは、生産拠点の持続可能性向上と地域の生物多様性保全を両立した活動の成果であると受け止めています。
人材とグローバル経営基盤を進化させる
私は、数ある投資の中でも「人への投資」が最も高い効果を生み出すと考えています。なかでも、現在の「Hockey Stick Growth」を一時的なものに終わらせず、次世代へと確実につないでいくためには、経営を担うリーダーの育成が不可欠です。そのため、「次世代経営者サクセッションプラン」として、各役員の後継者候補を指名し、社外の知見も踏まえた育成計画を策定しています。将来を担う部課長クラスに対するEMBA等の経営教育や、海外のプロフェッショナル経営者の下での研鑽など、インプットと実践の両面から次世代経営者を育成しています。
DX人材の育成については、事務・技術系従業員の10%をDXリーダーとして育成するという目標に向け、実践的な「DXリーダー育成プログラム」を実施してきました。2026年度からは「社内DX認定制度」を導入して全社のDXレベルを可視化し、実効性のある推進体制と全社的なDX人材づくりの強化を目指します。
女性の活躍推進についても、約12年前に一般職を廃止して管理職を目指せる総合職へ転換して以降、登用の母数拡大を図ってきました。2025年12月末現在で課長以上の女性管理職比率は3.5%ですが、次期管理職候補である係長クラスの女性比率は18.9%、早期登用で管理職への配置が可能な主任クラスの女性比率は43.3%となっており、多様性の底上げに向けた土台が着実に形成されています。
また、2024年度の従業員エンゲージメント調査において課題であった「生産現場における戦略の浸透不足」についても、組織内の対話を強化した結果、2025年度は「YX2026」の戦略浸透度のスコアが大幅に改善し、生産部門と事務・企画部門間のギャップも大幅に縮小しました。今後も、従業員一人一人が戦略を深く理解し、意欲を持って活躍できる組織づくりを進めていきます。
グローバルマネジメント体制についても、経営の進化を加速させています。従来のように日本本社から経営トップを送るのではなく、各地域の市場に精通した海外のプロフェッショナル人材に権限を委譲する体制へと移行しており、これが近年の既存事業の伸長や業績向上に直結しています。幹部層に対しては「成果主義」を徹底し、コミットメントに対する達成度のみで評価する欧米型の制度を導入しています。あわせて、買収したATGやTWSが持つ厳格なガバナンス体制を取り入れつつ、月次の経営会議などを通じて本社が適切にグリップを効かせる体制を構築しています。こうした人材と体制の進化を両輪として、さらなる企業価値向上を目指してまいります。
ステークホルダーへのメッセージ
これまで横浜ゴムは、「Hockey Stick Growth」の実現に向け、M&Aや生産能力増強など、将来の成長に向けた積極的な投資を継続してきました。そして現在、その「種まき」の多くが実を結び始めています。
市場環境が大きく変化する中にあっても、当社は「Best Alternative戦略」を軸に、他社を上回る成長と収益性の向上を目指してまいります。今後も、ステークホルダーの皆さまの期待に応え続ける企業でありたいと考えています。

