2021 JRC – 「ADVAN KTMS GRヤリス」が始動!!

2021年、新たに自身でチームを立ち上げて全日本ラリー選手権に参戦することとなった奴田原文雄選手。若手コ・ドライバーを起用、マシンはトヨタ・GRヤリスと、体制を一新してのチャレンジがスタートする。その皮切りとなるのがこの週末に佐賀県で開催される「ツール・ド・九州 2021 in 唐津」だが、大会前に完成したマシンのシェイクダウンが行われた現場でフィーリングなどをお聞きした。


手応えを掴んだ「ADVAN KTMS GRヤリス」のシェイクダウン

関東にあるミニサーキットで行われたシェイクダウン、その場に勇姿を見せた「ADVAN KTMS GRヤリス」が今シーズンから奴田原文雄選手がドライブするマシンである。伝統のRed in Black、ADVANカラーをまとうマシンは、製作とメンテナンスを担当する山田淳一チーフエンジニアが徹夜も厭わず「ツール・ド・九州 2021 in 唐津」でのデビューに向けて造り上げた。シェイクダウンを終えた奴田原選手に、マシンのフィーリングをお聞きしていこう。

[Photo]

「現状では足回りだけしか変わっていない状態で、ランサーで培ってきたことをGRヤリスに置き換えて山田チーフエンジニアが仕立ててくれました。走らせてまず思うことは、圧倒的に車がランサーと比べて軽いですね。一方でエンジンはランサーより排気量が400cc少ないこともあり、パワーはもっと欲しいところです。この点については何も手を着けていない状態でもあるので、これから開発を進めていく必要がありますね」

ファーストインプレッションをこう語った奴田原選手、さらに詳しく聞いてみよう。

「シェイクダウンを行ったコースでは、過去に三菱・ランサーエボリューションⅩを走らせたことがあるので、タイムなどを比較することが出来ました。結果としてはランサーに対してコンマ数秒まで迫るタイムを出せたので、思っていた以上に上出来なシェイクダウンだったと言えるでしょう」

「ラリーマシンとしては、とても軽快に走ってくれます。回頭性が高く、予想以上に安定していて、多少挙動を乱しても突然に破綻するようなことはありませんでした。ランサーと同じ4WD(全輪駆動)ですが、GRヤリスは機構的にも制御的にも同じ4WDでもランサーとは別物ですね」

「いずれにしても、まだ“生まれたばかり”という状態ですが、伸びしろがたくさんあるという手応えを掴みました。ノーマルでこれだけの走りとタイムですから、素性が良いのは間違いありません。ライバルとの比較は走ってみなければわかりませんが、まずは唐津のオープニングステージで自分たちがどの位置にいるのか、すべてはそこから始まると思います」

ENGINEER VOICE

山田淳一 チーフエンジニア

マシンを作っていて思ったのは、トヨタが競技ベースであることを謳って世に出しただけに良く出来ているということです。ある意味で、ランサー時代のほうがマシンを作る上ではやるべきことが多かったですね。そういう点から、「これは、ただのヤリスじゃないぞ」と感じました。

[Photo]

シェイクダウンについては、結果は上出来だと思っています。いまの段階でやれていることと、熟成されたランサーをタイムや走りで比較したときに、今回ヤリスが見せたものは凄いと思います。アフターパーツもまだ少ないですが、これから開発が進んでくると現状のパフォーマンスからの伸びしろはとても大きいだろうという手応えを掴んでいます。

もちろん、長丁場となるラリーの本番では耐久性などがどうなのか、さらにグラベル(未舗装路)でのパフォーマンスはどうなのか、といった未知数の部分もあります。ただ、ターマック(舗装路)仕様でおかしなところも無く動いているので、大きな不安はありません。唐津では3位以内、表彰台に立ちたいですね!!



ラリー人生の大きなターニングポイントに思うこと

奴田原選手は、語弊を恐れずに言えば日本でただ一人と言っても良いプロフェッショナルのラリードライバーである。ショップの経営などは行わず、ドライバーそのものを職業としているからである。そんな奴田原選手が長年のラリー人生で初めて、自らチームを立ち上げ率いていくこととなった。

[Photo]

「最初にも話したように、ラリードライバー・奴田原文雄がいまあるのはタスカ・エンジニアリングのお蔭です。タスカ・エンジニアリングは玄人の技術屋集団で、ドライバーもパーツのひとつと考えて全体で良い車を仕上げてくれました。本当に長年にわたって、良い環境で育ててもらったことに感謝しています」

「自分はあくまでもドライバーとしてラリーをやってきたので、周りのチームを見て『チームを運営するのは大変だろうな』と思っていました。そんな自分が運営する立場になったのですが、思っていた通りチームの運営はホントに大変です。そこで大切なのは応援してくださる多くの方々の存在で、みなさんのお力でチーム設立を実現させられました」

ドライバーとして、そしてチームオーナーとして感謝の気持ちを語る奴田原選手。さらに“人の縁”の大切さも続けて語った。

「自分は大学時代に先輩からラリーマシンを買ったことがラリーを始めたキッカケですが、その車を作ったのがラリー界で広く知られている鎌田豊さん(注:鎌田卓麻選手のお父さんで、モータースポーツショップを経営)でした。先輩から『何かあったら、鎌田さんに相談すれば良い』と言われ、その縁で鎌田さんにお世話になったことがラリーを本格的に始めることへ繋がりました。いろいろな方とのご縁、こうして今もラリーを続けられていることの基盤がそこにあるという感じですね」

[Photo]

[Photo]

[Photo]

[Photo]



全ては“ラリーが好きだから”

[Photo]

既に大ベテランの域にあり、輝かしい戦績を残している奴田原選手。話していると、ラリーが好きということについては他の誰にも負けないという印象が深い。

「今でも覚えているのは、初めて出場したウィンターラリーでの出来事です。我武者羅に走らせていたら、あるコーナーにオーバースピード気味に突っ込んでしまい『曲がれない!!』と思う場面がありました。しかし、何事も無かったように、ハイスピードでそのコーナーをクリアできたのです。何をどうしたのかは全く覚えていないのですが、その後は不思議な気持ちになりました。たぶんあれは、アドレナリンが大量に出たのでしょうね。その時だけの経験ですが、思えばあれがラリーにどっぷりハマるきっかけになったと思います」

NUTAHARA Rally teamの初戦となる「ツール・ド・九州 2021 in 唐津」は、いよいよ明日4月10日(土)から競技がスタート。「ADVAN KTMS GRヤリス」で戦う奴田原文雄選手/東 駿吾選手組がどのような戦いぶりを見せてくれるのか、大いに期待です!!