2017 VITA-01の世界 (2)

全国の主要サーキットを舞台にシリーズが展開され、高い人気を集めているVITA-01。前回はその生い立ちと特徴についてご紹介したが、今回はさらにこのマシンならではの特徴にクローズアップして、VITA-01を“徹底解剖”していこう。


コストとパフォーマンスがベストバランスのVITA-01

VITA-01の特徴として、いちばんに挙げなくてはならないのが、極めて低いコストでレースができることだ。前回、286万円(税別)で購入すれば、あとはタイヤやホイールなどを用意するだけで即レース可という話をしたが、これだけのスーパーイニシャルコストが実現した理由に、エンジンとミッションの存在がある。現在はトヨタ・ヴィッツRSに積まれる1500ccの1NZ-FEエンジンを、ミッションともに使用しているのだが、すべて中古車からの流用なのだ。それまでのレーシングカーといえば、新品のエンジンを購入して搭載するというのが、ごく当たり前のパターンだった。

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「エンジンは何にしようか、っていうのが最初にあって、まず頭の中にあったのは値段。それとホンダのエンジンはSuper-FJやフォーミュラエンジョイでも使っていたから、トヨタもいっぺんいいだろうと(笑)。その時に調べていたら、ヴィッツRSが売れていて、市場に数もあることに注目しました。そこで我々がやったのは、中古車を買ってきて安く、ということ。その中古エンジン、ミッションをそのまま使いましたが、これは今までのレースではなかったこと。従来は新品のエンジンを使っていましたが、中古を使うことによって車両価格を下げるひとつの要因になりました。人によっては中古を使うのは邪道だという声もありましたが、それで安くなったことも事実。ひとつ心配だったのはイコールコンディションが保てるかということでしたが、今の自動車メーカーさんのエンジンは信頼性が高まっていて、かなり走っていても使えますからね。実際に走らせてみたら、その心配は無用でした」

そう語るのは前回に続いて登場してもらった、VITA-01生みの親、ウエストレーシングカーズの神谷誠二郎会長だ。もちろん、イコールコンディションを保つための配慮も欠いていない。

「エンジンは全部ベンチ(試験機)にかけています。ベンチにかけてパワーチェックをして、問題ないとされたエンジンしか積んでいないんです。でも、もしかしたら、とてつもなくいいコンディションのエンジンも、中にはあるかもしれません。そこで鈴鹿シリーズでは、予選の上位6台には決勝レースでデータロガーを搭載して、速さなどをチェックする規則を入れています。連続優勝の方には、次回からハンデキャップを課すことも規定に入れています」と神谷会長。

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余談だが、この中古エンジンをノーマルで、という発想は今年からSuper-FJでも取り入れられており、現状で問題は一切発生していない。それどころか、従来は軽いとはいえチューニングが施され、オーバーホールのたびコストがそれなりに派生していたものの、現在では封印もされているから、コストダウンを図ることが出来たと、むしろエントラントから歓迎の声も聞かれている。このあたりは完全にVITA-01でのノウハウが生かされたことになる。

さらにシャシーも、実は完全な新設計ではない。むしろ、すでに存在していたフォーミュラエンジョイのノウハウが注ぎ込まれ、極端にいえば、それにカウルを被せたものと考えていいほど。開発コストが最小限で済んでいることが、イニシャルコストを下げた理由のひとつでもある。

ヴィッツRSのエンジンをミッドシップに積んだシャシーは、いわゆるパイプフレーム。その外側には鋼板が当てられている。昨今のレーシングカーはカーボンモノコックが主流であり、剛性や安全性が気になる方も多いだろうが、そこは110馬力のエンジンであるだけに、コーナーでのフットワークはともかく、絶対的には速くない。そのスピード域に対する安全性は問題なく保たれている上に、カウルの内部にはサイドにアルミのストラクチャーを、そして前後にはパイプで組まれたバンパーを備えて万全を期しているため、これまで重大な事故は一度も発生していない。

フロントカウルは3種類が用意され、いずれも選択は自由。誕生順にタイプB、タイプA、タイプMとされる、それらはイニシャルからイメージされる輸入車のようでもあり……。カラーリングによって精悍にも、愛らしくも、それぞれ個性が打ち出されてもいる。

その特性は、ツーリングカーとフォーミュラの中間的と、誰もが口にする。なおかつ、VITA-01はミッドシップでありながら、それまでFF(前輪駆動)だけを乗り継いできたドライバーにも違和感なく操れるように配慮されている。あえてフォーミュラ特有のクセ、ある意味、繊細さや機敏さを抑えているのは、誰でも乗りこなせるレーシングカーであるよう、しっかりとしたコンセプトを打ち立てているからに他ならない。

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VITA-01の走りを支えるヨコハマタイヤ

さて、VITA-01は原則としてタイヤをワンメイクとし、岡山シリーズを除き、ヨコハマタイヤの 「ADVAN FLEVA V701」が今年からコントロールタイヤとなっている。

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その選択理由に関しては、「昨年まで使用していたタイヤが生産中止となって、これを機会に見直そうとなりました。というのも従来のタイヤではグリップが良すぎて、鈴鹿サーキットではコーナーが全部直線になってくるんです。ずっと踏みっぱなしでは面白くないし、なおかつそのようなタイヤのままだと、エンジンの良し悪しがタイムに影響する可能性もあるので、やはりドライバーとしてはコーナーに来たら、アクセルを離してコントロールしなくてはならないと思いました。そこで選んだのがADVAN FLEVA V701だったんです。ウェット性能が上がって雨のレースの安全性が高まった一方、若干タイムが落ちたことで不満も出るかと思ったのですが、ほとんどの人が満足しているようです」と神谷会長。

ところが、「ADVAN FLEVA V701」を製造する海外の工場が火災にあって、現在は製造がストップしている。そのため9月以降、年内のレースは「ADVAN NEOVA AD08R」がコントロールタイヤに改められることとなった。やむを得ず今回はこうした決定となったものの、2018年からは「ADVAN FLEVA V701」が、再び用いられる予定となっている。



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