Takuma Aoki Challenge Story (2)

2014年、8年連続となる「アジア・クロスカントリーラリー(AXCR)」への参戦を果たした青木拓磨選手。ドライブするマシンは2013年の10月にフルモデルチェンジした新型のいすゞmu-X(ミュー・エックス)、タイやオーストラリアを中心に海外市場で展開している人気のSUVモデルだ。
その走りを支えたのは、ヨコハマタイヤのSUVブランド「GEOLANDAR(ジオランダー)」。青木選手を初参戦から支えており、2001年から11年連続で同大会をスポンサーとしてもバックアップしてきている。
2014年の戦いを振り返りつつ、青木選手にはヨコハマタイヤのサポートについても語っていただいた。


メコン川を境に変わる道 – 2014年の大会を振り返って

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前回もご紹介しているように、2014年の「アジア・クロスカントリーラリー」は8月9日にタイのパタヤをスタートし、15日にカンボジアのプノンペンでフィニッシュする、7日間の競技日程で開催された。この間に走る距離は約2,200km、東京から福岡を往復するのに等しい。ただし、東京-福岡間の往復は距離こそ長いものの整備された高速道路を使うことが出来る。それに対してアジア・クロスカントリーラリーのステージは、多種多様な道が待ち受けている。
まずは青木選手に、2014年の戦いについて全体的な印象をお聞きしてみよう。

「毎年過酷なことで知られるアジア・クロスカントリーラリーですが、今年は少しだけ過酷さが和らいだような感じを受けました。全体の中でハイスピードなステージの割合が少なかったんですね。
今年もタイとカンボジアをまたいで戦いましたが、実はステージの性格はメコン川を境にしてタイ側とカンボジア側で大きく異なっています。一言で言えばカンボジア側は路面が硬くてハイスピードなのに対して、タイ側は路面が柔らかいんですよ」

ここで2014年のアジア・クロスカントリーラリー、その大まかな流れを説明しておこう。
初日の9日はリゾート地としても知られるタイのパタヤ近郊にあるヴィラ・サーキットで、車検やドライバーズブリーフィングなどが行われる。その後、近くに設けられた3.93kmの短いステージが行われるが、これは最終チェック的な意味合いも強いと言える。夜にはパタヤ中心部で盛大にセレモニアルスタートが催されて、大会は華々しい幕開けを迎える。
翌日からは本格的な戦いが待ち受けており、200km前後のステージと移動区間を合わせて一日の走行距離は300~400km以上にもおよぶ。その道もハイスピードなグラベルからジャングルのようなところまで、いろいろな表情を見せているのだ。

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「タイとカンボジアの道の違いが大きいことはお話しした通りですが、では勝負どころはどちらになるのかと言えば、僕はタイ側だと思います。
カンボジア側はハイスピードで、あまりミスコースをしないようにステージが設定されているのですが、タイ側はミスコースの危険性が高い。だからミスしないように、しっかり前に食らいついていくことが重要になってくるのです。
このラリーにはタイの選手も出場していますが、彼らは土地勘や道をより理解している地元で勝負をかけてきます。でも、そんな地元勢でもタイ側の過酷なステージで車を壊してしまうことが多いですね」



ノートラブルで2,000kmを走破 – 日本人最上位の好成績を獲得!!

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一般的に知られるラリーでは、競技本番の前にレッキと呼ばれるコースの下見走行を行い、コースの様子を記したペースノートを作って戦いに臨む。しかしアジア・クロスカントリーラリーは競技エリアが2ヶ国におよぶ広大さゆえ、レッキは行われない。主催者から道順を記したマップが渡されるのみで、選手たちはミスコースしないようにステージを攻略していくのだ。
アジア・クロスカントリーの戦い、その様子を青木選手にお聞きしてみよう。

「事前にテスト走行はしますが、現地では練習走行もレッキも無くて、いわゆる“ぶっつけ本番”で2,000km先のゴールを目指します。これがなにより楽しいんですよ。今まで行ったことの無い場所に、走ったことの無い道で行く、ずっと走れるという楽しさがあるんです。
スタートしたらコ・ドライバーは基本的に道案内に徹します。ペースノートは無いので、基本的には有視界走行。主催者からはスタックしやすいポイントなどの情報が事前に出されますが、その場所ごとに臨機応変なドライビングや戦い方も求められますね。ただ、やはり行ってみなければわからないこともあって、2014年はなんとステージ中に道路工事をしている箇所があって足止めされたりもしましたが、これもまたクロスカントリーラリーなんですよね(笑)」

予想外のハプニングこそあったものの、青木選手は快調にステージをクリアしていく。そして青木選手は日本人最上位となる総合/クラス4番手でフィニッシュを果たした。

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「全体としては、長く参戦を続けてきてここまでトラブルが無かったのは初めてかもしれません。本当に何も壊れず、何の不安も無くフィニッシュまで走りきれました。
マシンはいすゞのmu-X(ミュー・エックス)で、改造範囲は限られていて日本のレースで言えばスーパー耐久のような感じになるかと思います。市販車の持つポテンシャルが明確に現れるのですが、昨年まで乗っていたD-MAXはリアが板バネ(リーフ式サスペンション)だったのですが、mu-Xはマルチリンクに進化しています。ゆえに走破性能が格段に向上していて、路面の凹凸に対する追従性などが高まりました。だからドライバーの疲労も小さくなりましたね。
今回、mu-Xは僕の一台だけでした。エンジンもコンピューターもほぼノーマル状態だったので、他のマシンと比べたらあまり手を加えていないほうです。その中での4位という結果は悪いものではないし、戦闘力の高さも実感できたので、来年に向けて開発を進めればもっと速くなるという手応えを掴めました」

過酷な印象のあるアジア・クロスカントリーラリーだが、タイやカンボジアを舞台とすることは、厳しい暑さも敵になるのではないだろうか。

「それがですね、日本よりも涼しいんだな、これが(笑)。
もちろん暑いんですけれど、最近は日本の夏も猛暑続きじゃないですか。タイやカンボジアは日陰に入れば涼しいですし、日本ほど蒸し暑くないんですよ。
それに、競技車両にはエアコンが装備されているんです。純正のエアコン、これが無いと死んじゃいますよ(笑)。暑さの問題もありますが、エアコンがついていないと車内の人間の汗と息ですぐに窓が曇ってしまいます。2年前にはメカニックが速く走れるようにと気を利かせてエアコンを取り外したことがあるのですが、もうなんということをしてくれたんだ、と(笑)」



挑戦を支える存在 – 横浜ゴムが支える青木選手の走り

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日本人最上位という好成績をおさめた、8回目となる青木選手のアジア・クロスカントリーラリー参戦。その挑戦を支えたのは横浜ゴム、装着したタイヤは「GEOLANDAR (ジオランダー)」だ。

「2007年の初参戦から、ずっとヨコハマタイヤで戦い続けています。今回も『GEOLANDAR』を使ったのですが、約2,000kmの戦いで一度もバーストやカットなどが無く、一日を走り終えてチェックしてもタイヤには全くトラブルの無い日が続きました。
いろいろな場面を走るアジア・クロスカントリーラリーですが、特にガレ場のようなところを走る際のカットが怖いんです。その点では耐カット性能にとても優れていることを改めて実感しましたね。
今回は4位でしたが、2位との差が12~13分くらいでした。この程度の差は一回のタイヤ交換を強いられてしまうと簡単にひっくり返ってしまいます。今回は残念ながら表彰台には届きませんでしたが、終始安定して戦えたのは『GEOLANDAR』のおかげですね」

タイヤが青木選手の駆るマシンの走りを支えているのと同時に、青木選手の身体そのものも横浜ゴムの「Medi-Air (メディエア)」が支えた。この商品は車椅子用のエアーセルクッションで、体圧を分散させつつ上下ピッチや左右のGに対して高い座位のホールド性を有している。
青木選手はこの「Medi-Air」をドライバーズシートに装着して戦いに臨んだ。

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「アジア・クロスカントリーラリーの場合、横Gというのはほとんど無いのですが、縦方向の揺れは物凄いんです。それに慣れる二日目くらいまでは、何を食べても走ると吐きそうになるくらいで、胃や腸がおかしくなるかと思うほどです。
そんな中を一日に6時間以上も走るのですが、そこでは『Medi-Air』ももちろん効いています。普通のシートだとスポンジの皮が薄いので、お尻が褥瘡(じゅくそう)になってしまう可能性があるのですが、その心配がいらないんですよ。
『Medi-Air』はバケットシートのお尻の部分に敷いているのですが、マシンがmu-Xになってドライビングポジションがとても低くなりました。それが思っていた以上で、前方視界がかなり狭くなってしまったのです。それが『Medi-Air』のおかげで適正な視界を得られるという効果もありました。
タイヤで車全体がゴムと空気によって支えられていることに加え、僕自身も『Medi-Air』でゴムと空気に支えられているんです。だからこそアクセルをいつでも開けていけるし、身体のことを心配しないで戦うことが出来ているんですよ」