A professional tire service (4)

A professional tire service (4)

国内外のレースシーンで活躍を見せるヨコハマタイヤ装着車。ツーリングカーによるスプリントレースの世界最高峰であるWTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)を筆頭に、フォーミュラやプロトタイプ、ナンバー付のワンメイクレースに至るまで、幅広いカテゴリーで選手やチームの戦いを支えているのが、サーキットレースのタイヤサービスだ。
様々なカテゴリーのヨコハマタイヤサービスをご紹介してきた特集、その締めくくりとしてSUPER GTや全日本F3選手権などのサービスを担当する松澤浩(まつざわ・ひろし)が、サーキットレースのタイヤサービスを紹介する。


大所帯になることも多いサーキットのタイヤサービス!!

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2014年は全日本F3選手権のタイヤサービスを取り仕切る松澤は、昨年まではSUPER GTのサービスも現場責任者としてサービス業務の中核となっていた一人。シリーズを追って日本全国の主要サーキットはもとより、SUPER GTではマレーシアラウンド、さらにWTCCやF3が行われるマカオグランプリなどでも豊富なサービス業務経験を有するプロフェッショナルだ。
そんな松澤にサーキットレース、特にSUPER GTなどのビッグレースイベントにおけるタイヤサービスの特徴を、まずは聞いてみよう。

「ラリーやスピード行事と比べて、特に大きなシリーズのレースにおけるタイヤサービスは関わるスタッフの人数が多く、サービス隊が大所帯であるという特徴があります。
例えばSUPER GTの場合、ひとつのレースでサービスにあたるスタッフは総勢15~20人くらい。これにタイヤ開発エンジニアなども加わりますので、サーキットのパドックではヨコハマタイヤのスタッフウェアに身を包んだ人を多く見た、というファンの方もいらっしゃるのではないかと思います。」

SUPER GTの場合、特にGT300クラスではヨコハマタイヤを使うチームが多く、タイヤの本数も増えることになる。一方で全日本F3選手権やスーパー耐久シリーズのようにヨコハマタイヤのワンメイクで行われているカテゴリーもあり、時にはサポートレースにもSuper-FJのようなワンメイクカテゴリーが加わることもあるのだ。
扱う本数が多いのでサービスが大所帯になるのは必然とも言えるが、だからこその苦労も存在する。

「タイヤサービススタッフは個性的な面々が多いですね(笑)
みんなそれぞれに幾多の経験を有するプロフェッショナルですが、やはり年齢も違えば経験値や立場もいろいろで、それぞれの得意不得意もあるわけです。ですから、その得意不得意を見極めつつ、適材適所で担当業務を割り振ることが円滑で安全なサービスの実現に向けての第一歩と言えるでしょうね」



“先を読む力”が求められるタイヤサービス

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タイヤサービスの基本的な作業については、本特集連載の第1回で紹介している通りだ。この作業内容について、サーキットレースでは何か特別な違いがあるのだろうか?

「タイヤサービスの作業そのものについては、他のカテゴリーと大きく異なるところはありません。あえて言えば、例えばタイヤワンメイクカテゴリーの場合には、タイヤの管理にシリーズの規定に沿った流れが加わることがあります。
ただ、SUPER GTはユーザーさんも多いですし、サポートレースも含めると作業のボリュームがとても多くなる場合が少なくありません。いまのSUPER GTは金曜日の走行が無く、土曜日に練習走行から公式予選へと続くスケジュールが組まれますが、その時々の天候や路面コンディションもしっかり見極めて、先を読みながら作業を進めなければなりません」

天候や路面の変化は、タイヤサービスに作業が集中する大きな要因となる。昨今は“ゲリラ豪雨”などと称される急な大雨も珍しくないが、突然のコンディション変化は急遽ウェット用タイヤの準備が必要なり、タイヤサービスには一度に多くのチームから作業依頼が集中することになる。

「実は過去に一度だけ、コンディションの変化を読みきれなくて作業が後手後手にまわってしまい、数チームに迷惑をかけてしまったことがありました。その反省も踏まえて、各カテゴリーの走行開始に余裕を持って作業を完了できるような組み立てを心がけています。
そのためには、サービススペースの効率的なレイアウトも重要ですね。サーキットには常設のガレージがありますが、大会や会場によってはキャパシティが足りずに大型のテントで対応していることも少なくありません。ユーザーさんが多いのでタイヤの本数も多く、サービススペースのみながずタイヤを運ぶトラックの留め置きにも広いスペースが必要になってきますからね。
サービススペースの機材配置などはおおむね基本形が出来上がっているのですが、それでも常によりよい形がないかと考えています」



速くて安全なサービスを支えるのは“人間”

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カテゴリーを問わず、タイヤサービスは多くの専用機材と、それを扱うスタッフで構成されている。そんなタイヤサービス、松澤が常に業務にあたって心がけていることがあるという。

「サービスを上手くまわす方法として、その要素には機材と人材のふたつがあります。中核となるメンバーは全国をまわっていますから経験値も高いですし、それぞれがやるべき仕事をしっかり認識して作業にあたっています。
そんな面々で、速さと正確さを高い次元で両立したサービス作業が求められます。その中で、仮に作業の遅いスタッフが一人いたとしても、それを『早くしろ』とせかすだけではダメなんですよね。それぞれのスタッフの持ち味を活かしながら、全体的なレベルアップを図る方向に持っていかなければなりません。作業でいえばタイヤチェンジャーが一周するのにかかる時間は、誰がやっても変わるものではありません。その一周でいかにしっかり作業できるのかが重要になってくるわけです」

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迅速、確実、そして何よりも安全。これがタイヤサービスに関わる者の全てが大切にしていることだと、松澤は締めくくった。

「大所帯にもなるサーキットのタイヤサービスですが、スタッフが互いに一番気をつけていることは事故の無い安全な作業をすることですね。スタッフ同士がフォローし合いながら、事故だけは絶対に起こさないように心がけています。
もちろんそのためには、使う機材についても使用前後でしっかり状態をチェックして必要なメンテナンスを施し、本番でトラブルが起こることの無いようにしています」



国内外の多彩なモータースポーツシーンで挑戦を続けているヨコハマタイヤ。栄光の歴史はこれからも脈々と受け継がれていくが、そこには戦う選手やチームを支えている、熱い思いを胸に抱いたプロフェッショナルが存在する。
そしてモータースポーツの最前線から得られたテクノロジーは、幅広い市販タイヤへとフィードバックされている。それもまた、彼らタイヤサービス・プロフェッショナルが支えていればこそと言えるだろう。