A professional tire service (3)

A professional tire service (3)

スピード行事とは、複数の車が同時にスタートしてコース上で競い合うのではなく、1台ずつが決められた回数や時間の中でタイムアタックを行い、その速さを競うモータースポーツだ。
近年ではサーキットトライアルやドリフトもJAF(日本自動車連盟)が公認するスピード行事として開催されるようになったが、古くから幅広い層の支持を集めているのがジムカーナとダートトライアル。国内B級ライセンスで出場できるため、モータースポーツのファーストステップとして認知されているが、一方で全日本選手権ではトップドライバーたちが1000分の1秒を競い合うシビアな世界でもある。


ドライバーとの密なコミュニケーションが特徴のスピード行事!!

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ジムカーナとダートトライアルの全日本選手権で、タイヤサービスを担当して全国を飛び回っているのが田辺幹晴(たなべ・みきはる/写真)。以前は全日本ジムカーナ選手権のDクラスに参戦するチームのエンジニアとしてシリーズを追っていたが、現在はタイヤサービス専門のスタッフという立場で関わっている。
まずはスピード行事のタイヤサービス、その特色について田辺に聞いてみよう。

「タイヤサービスの作業そのものは、サーキットレースなどと同じです。ただ、スピード行事はSUPER GTなどより使われるタイヤの本数も少ないので、少人数体制でサービスを動かしています。具体的には1人がタイヤチェンジャー、もう1人がインフレート(空気仮充填)とセパレーターを担当する、という流れですね。
スピード行事ならではの特徴としては、タイヤをサービスまで持ってくるのが参戦しているドライバー本人であることが多いということでしょうか。慣熟歩行などで得た情報を基にドライバーから使うコンパウンドを伝えてもらって作業することがほとんどです。ただ、一方では『タイヤ、どうすればいいでしょうか』と相談を受けることも多いですね。そういう場合は公開練習や前のヒートでのタイムやフィーリング、天気、路面状況、空気圧などを聞いて、一緒に考えながら決めていく感じになります」

ドライバーとの密なコミュニケーションが、スピード行事の特徴と語る田辺。それはジムカーナとダートトライアルともにそうなのだろうか。

「ジムカーナは天気や路面のμという要素が大きいですが、ダートトライアルの場合は埃防止の散水や土質などでタイヤの選択が変わってきます。ダートトライアルの場合、雨が降ったウェットでも硬質路面用のADVAN A036で行けるコースもあれば、ADVAN A053がベストというコースもあるのです。
こうした選択の幅についてドライバーとタイヤサービスでディスカッションをするというのは、やはりスピード行事ならではですね」



選手個々の走行後の動きも把握して作業にあたる

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少人数体制ではあるが、経験豊富なスタッフによって迅速・確実な組み付けなどが行われるスピード行事のタイヤサービス。全体的な流れについて、もう少し詳しく田辺に解説してもらおう。

「ジムカーナを例にすると、土曜日の公開練習2本目を走り終えると、じわじわとタイヤサービスにユーザーのみなさんが来られる流れですね。最終出走クラスが走り終わった頃には、サービスの周りにはタイヤが山積みになっているという感じです。ジムカーナでは、土曜日だけで120本くらいのタイヤを組んでいますね。
使い方としてはADVAN NEOVA AD08Rを使うPNクラスの場合、土曜日の公開練習で新品を使い、そのままそれを決勝でも履くというパターンが一般的ですね。
ダートトライアルについては日曜日のみの1Dayイベントもありますが、基本的にジムカーナと同様に公開練習の2本目が終わったら、みなさんタイヤを持って来られますね」

ラリーでも出走順をしっかり把握してサービスの流れを組み立てる、という話があった。その点はスピード行事も同じで、クラスや出走順は作業を進める上でのポイントにもなる。そして、さらにスピード行事ならではの、欠かせない要素があるという。

「スピード行事の参加車両を大きく二つに分類すると、ナンバープレートの有無という違いがあります。参加台数で多いのはナンバープレートがついているクラスの車両で、公道を走ることが出来るわけです。
ですから選手によって、公開練習が終わると競技車両は会場に置いて別の車でホテルに移動する人と、競技車両でホテルに移動する人の両方がいらっしゃいます。ですからタイヤサービスとしては選手の出走順などに加えて、その点を把握することも重要なポイント。帰りをあまりお待たせしないように作業の順番を組み立てているのです」



タイヤサービスはメンタル面のサポートも欠かせない

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スピード行事の会場は、ラリーやレースと異なりコースの大半を見渡せるロケーションが多い。タイヤサービスの作業を的確に進めつつ、選手の走りをチェックすることも必要だと田辺は語る。

「個々の選手の走りは、多く見ていますね。先に話したように選手からいろいろな相談を受けることも多いので、自分なりに走りを見た上でのアドバイスをすることも少なくありません。
例えば他メーカーの商品からヨコハマタイヤに変更されたユーザーさんからは、対応温度領域や空気圧などについての細かい質問を寄せられることも多いです。セッティングが決まらない、などという悩みを抱えている人もいらっしゃいましたが、そこは自分が過去に参加者としてジムカーナに携わってきた経験も踏まえてアドバイスすることがあります」

さらに技術的なアドバイスに留まらず、選手のメンタル面を盛り上げることも重要だという。

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「おおよそ1本につき90秒前後という短い時間の中での競技になるので、ドライバーを心理的に“ノセる”ことも大切ですね。いかに気持ちよくスタートしてもらうか、それが1000分の1秒を競い合う中でタイムに影響することもあると思います。
車を駆っているのは人間ですから、『あそこが良かった』とか『あのターンが綺麗だった』という一言が自信につながり、気持ちが乗って次の好走につながることも実際にはあります。ですから選手との会話では、気持ちを“ノセる”ことを常に考えています。
例えばターンをしくじった選手がいたとして、『どうして失敗したの』ではなく、『あのターンは、こういう入り方をした方が良かったんじゃないかな』という、前向きな内容で話すようにしています」

最後に、タイヤサービスから見たスピード行事の魅力を聞いてみよう。

「スピード行事、ここではジムカーナとダートトライアルについてですが、その魅力は90秒ということに尽きますね。その短い時間にかける難しさ、マシンもドライバーもそれぞれなのに戦いの結果はコンマ差、時には1000分の1秒台で決着するのですが、それが面白いところです。
決勝本番は2ヒート走行するので、90秒×2回を走るために、北海道から九州までをみなさん転戦しているんです。その戦いのシビアさ、テクニックのぶつかり合いが魅力なんですよ」