TOYOTA 86 / SUBARU BRZ with YOKOHAMA (5)

全日本ラリー選手権は、今年からクラスが再編されて6つのクラスで競われている。そのうち、JN5と改造範囲を制限されたRPN車両によるJN4クラスに86/BRZは属するが、台数的には今や完全な主役の座にある。
そして、昨年の旧JN3クラスにスバルBRZで第5戦のモントレーから参戦しているのが鎌田卓麻選手。WRC(FIA世界ラリー選手権)やAPRC(FIAアジア・パシフィック・ラリー選手権)など海外での経験も豊富な鎌田選手だが、そのキャリアは事実上4輪駆動ターボ車とともに積み重ねられてきた。そんな鎌田選手にFR(後輪駆動)のBRZがラリー車として持つポテンシャルについてお聞きした。


強みはオールマイティな速さ – 鎌田卓麻 選手

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国内ラリーの最高峰である全日本ラリー選手権。最高峰クラスは4輪駆動のターボエンジン車が覇を競い合っているが、そのほかのクラスでは2輪駆動車も多く出場している。古くは三菱スタリオンや日産フェアレディZなども参戦していた全日本ラリー選手権だが、国産FR(後輪駆動)スポーツモデルとしては久しぶりの登場となったのが86/BRZ。
まずはこの86/BRZがラリーというフィールドで、どのようなパフォーマンスを持っているのかを鎌田選手にお聞きしてみよう。

「ラリーという競技は過酷なもので、天候や路面コンディションの変化が激しいという特徴があります。そんな中で86/BRZは、僕が参戦しているJN5クラスに揃っている多彩な車種の顔ぶれにおいて、常にオールマイティな速さを持っていることが大きな特徴だと思います。
特定の路面やコンディションに特化することなく、コンスタントに速さを出せる。意外に思われるかもしれませんが、トラクション性能の良さがラリーにおけるオールマイティな速さにつながっているんですよ」

鎌田選手が語るオールマイティな速さ。その理由であるトラクション性能について、もう少し詳しく聞いてみよう。

「86/BRZは“コーナーリングマシン”という性格の車です。フロントタイヤを上手く使って曲げるという今までのラリー車の概念とは違い、リアにどうやってトラクションをかけて曲がっていくかが重要な車だと思います。
また、FRということでウェットなどの滑る路面が苦手だとか、挙動がピーキーになるという印象を持っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし僕は逆に、86/BRZは滑りやすい路面のほうが得意じゃないかと思っているくらいなんです。車が持つ全体的なポテンシャルも高いのですが、なによりもトラクション性能が高いのでうまくタイヤのグリップを路面に伝えられる性質を持っている車なのだと。今年は雨に見舞われることも多い全日本選手権ですが、FF(前輪駆動)も含めた2輪駆動の中では圧倒的な速さを見せる場面も多くありましたね」


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86/BRZのようなスポーツモデルでグラベル(非舗装路)を走るというのは一般的ではないかもしれないが、全日本ラリー選手権で言えばタフな道を86/BRZが豪快に駆け抜ける姿はお馴染みのものになった。
2014年の選手権、第2戦の久万高原と第3戦の福島はともにグラベルラリーだったが、鎌田卓麻選手は久万高原で2輪駆動勢のトップとなるクラス3位表彰台を獲得。福島は初日にトラブルでデイ離脱を喫したが、2日目はトップで満点デイポイントを獲得する速さを見せた。



アクセルを踏んで曲がることが速さの秘訣

鎌田選手の走りは、86/BRZ勢の中でももっとも見応えがあると言っても過言ではないだろう。コーナー進入では手前から姿勢を作り、豪快なドリフトアングルをキープしてクリアしていく。このスタイルこそが、86/BRZを速く走らせる秘訣だと鎌田選手は語る。

「特にグラベルでは、リアのグリップがとても高いという86/BRZの特徴を活かすことが速さにつながりますね。実は僕のBRZはリアの限界をやや低めにして、コントロール性を重視した仕上げにしているんです。そうすることでリアの滑り出しがなめらかになり、滑ったときのコントロール性も良くなるんです。
走らせ方としては、FRですからステアリングを内側に切って曲がるというよりは、リアを流して車を内側に旋回させるというスタイルが、何よりも速く走るための秘訣だと思います」

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“鎌田流ドライビング”の秘訣、もう少し詳しく聞いてみよう。

「普通、コーナーで曲がれない状況になったり、曲がるためのモーションを作る時というのは、アクセルを抜く方向になります。しかし86/BRZでは正反対に、アクセルを踏んで曲がるんですよ。
ですから僕もそれまでの考え方を正反対にして、アクセルを開けながらコーナーに進入していきます。そうしないと、アクセルオフの時はリアのトラクションが勝って路面を食ってしまい、アンダーステアが強くなっていくのでリアが旋回しなくなってしまうのです」

こうしたドライビングスタイルが、多くのギャラリーを沸かせる走りにもつながっている鎌田卓麻選手×スバルBRZ。
昨年のモントレーでデビューした鎌田選手のBRZも、間もなく選手権開催地を一巡して一年が経とうとしているが、マシンの進化はどのような状況にあるのだろうか。

「サスペンションやダンパー、ブレーキなどもどんどん進化を続けています。その進化というのは、86/BRZが元来持っている良さを引き出す方向であり、昨年の初参戦から常にこの車のどこが良くてどこが物足りないのかを見極めて開発に反映してきました。
そうして検証を続けた結果、トラクション性能を引き出すためにはドリフト走行もしなければならないし、そのためにはある程度の車高を持ってロールもさせて、というようにだんだん仕様が決まってきたんです。
例えば足まわりのセッティングについては、僕の車はサスペンションもダンパーも柔らかめです。それらを上手く動かしながら曲がる、というのが車の特性に合っているんですね。セッティング全体の方向性としては、間違いなくコントロール性重視です」



タイヤへの絶大な信頼感でアクセルを踏める

全日本ラリー選手権、JN5クラスを戦う86/BRZはターマック(舗装路)ではADVAN A050、グラベルではADVAN A053が主にその走りを支えている。同じ86/BRZでもJN4クラスの場合、規則によりターマックはADVAN NEOVA AD08Rを装着することになる。

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「まずターマックで装着するADVAN A050ですが、絶大な安心感があるタイヤです。特にG/2Sコンパウンドは、ウェットコンディションにおけるパフォーマンスのアドバンテージは、ライバルを大きく引き離していると感じています。
グラベルで使うADVAN A053ですが、こちらは横方向のトラクション性能が86/BRZに最適なんですね。タイヤそのものはハイパワーな4WDターボ車を軸に開発されたかと思うのですが、比較的パワーの小さい86/BRZにとっても縦横トラクション性能の高さはコーナーリングスピードに効いてきます。

特にドリフトアングルをつけたときのトラクションは最適で、この走らせ方はADVAN A053でなければ出来ないものだとさえ思っているんです」

最後に鎌田選手に、シリーズも後半戦に入る今年の全日本選手権の抱負をお聞きした。

「昨年はいろいろなデータを採れたのですが、一方ではクラッシュも多かったんです。どうしてだろうと検証してみると、抜きどころというか、これぐらいまでペースを落とせば安全だというところが分かりにくくて、大丈夫だと思って行ったらコースオフしたり壊れたりするというケースが多かったんですね。その辺りの抜きどころ、攻めどころがはっきりしてきたのは、とても大きいことだと思います。
ライバルも多い中で、僕の強みはデータをたくさん持っていること。車を壊さないでフィニッシュまで運べば、おのずと結果はついてくるものだと考えています」

DRIVER VOICE

全日本ラリー選手権のJN5クラスでは、ターマックではADVAN A050、グラベルではADVAN A053がヨコハマタイヤ勢の走りを支える中心的な存在だ。
中でもグラベル用のADVAN A053はP-WRC(FIAプロダクションカーラリー選手権)やAPRC(FIAアジア・パシフィック・ラリー選手権)といった、アベレージスピードも高い海外ラリーでその性能を鍛えられたものがベース。ここから国内のラリーステージに最適化を図った国内仕様は昨年の全日本選手権・第3戦でデビューをワン・ツー・フィニッシュで飾った。今年も第2戦、第3戦とグラベルを二連勝して優れたポテンシャルを遺憾なく見せつけている。