アニュアルレポート2021

社長メッセージ

新中期経営計画
「Yokohama Transformation 2023」スタート

~既存事業における強みの「深化」と大変革時代のニーズに応える新しい価値の「探索」を同時に推進し、次世代の成長に向けた「変革」を図る~

山石 昌孝

代表取締役社長

山石 昌孝 代表取締役社長

横浜ゴムは2018年から取り組んできた中期経営計画「グランドデザイン2020(GD2020)」の終了を受け、2021年2月、2021年から2023年までの新中期経営計画「Yokohama Transformation 2023(YX2023)」(ヨコハマ・トランスフォーメーション・ニーゼロニーサン)を発表しました。「GD2020」の振り返りと「YX2023」の戦略および経営基盤の強化について詳しくご説明します。

「GD2020」では各事業の強みを再定義した成長戦略を実行

「GD2020」では各事業の強みを再定義した成長戦略を実行しました。タイヤ消費財事業では「プレミアムタイヤ市場における存在感の更なる向上」を掲げ、4つの戦略を推進してまいりました。プレミアムカー戦略ではハイインチ高性能タイヤを中心に新車装着を拡大し、ポルシェ「カイエン」やBMW「X3」など13車種に採用されました。ウィンタータイヤ戦略ではオールシーズンタイヤ「BluEarth-4S AW21」や北米向けスタッドレスタイヤ「iceGUARD iG53」など3商品を投入しました。ホビータイヤ戦略ではSUV・ピックアップトラック向け「GEOLANDAR X-AT」などあらゆる自動車ユーザーの趣味に対応する6つの新商品を投入しました。コミュニケーション戦略ではデジタルを活用したダイレクトマーケティングを強化し、エンドユーザーとのコミュニケーションを活性化しました。

タイヤ生産財事業では「タイヤ生産財を次の100年の収益の柱へ」という目標を掲げてOHT(オフハイウェイタイヤ)事業、TBR事業の強化に取り組んでまいりました。2016年に買収したATGの強い成長により、売上高におけるタイヤ生産財事業の構成比率は、当初計画を上回ることができました。TBR事業では2015年に操業を開始した米国ミシシッピ工場に関して、2018年に減損損失を計上し、皆様にはご心配・ご迷惑をおかけしてしまいましたが、設備面や人材面の課題に対応するなど供給改善に取り組み、販売拡大に努めております。

最後に、MB事業では「得意分野への資源の集中」を掲げ、自動車部品事業や海洋事業を強化してまいりました。自動車部品事業では北米での自動車用ホース配管の納入拡大、海洋事業では世界最大の超大型空気式防舷材の納入などを行うことができました。

ADVAN sport v105
GEOLANDAR X-AT
BluEarth-4S AW21

売上・利益は目標未達となるも財務体質は着実に改善

各事業において成長戦略を進めてまいりましたが、売上収益、事業利益に関しては2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の全世界拡大に伴う経済減速などにより、当初目標の売上収益7,000億円、事業利益700億円は達成できませんでした。一方で、財務体質は着実に改善しました。2016年のATG買収時に3,359億円だった有利子負債は2020年度には2,078億円と大幅に削減した結果、D/Eレシオは0.5倍となり、「GD2020」の財務目標の0.6倍を達成しました。そのほか、営業キャッシュフローは3年間累計で2,000億円という目標に対し実績は2,365億円、配当性向30%に対しては安定的な配当を実施し、39%という結果になりました。

【キャッシュフロー】

単位:億円

【キャッシュフロー】

■■ 営業CF ■■ 投資CF ■ FCF

【有利子負債・資本合計・D/Eレシオ】

単位:億円

【有利子負債・資本合計・D/Eレシオ】

■■ 資本合計 ■■ 有利子負債 ■ D/Eレシオ

※資本合計は非支配持分を控除している

「YX2023」では深化と探索により過去最高の業績達成を目指す

新中期経営計画は2021年から2023年の3カ年の計画となっており、名称を「Yokohama Transformation 2023(YX2023)」といたしました。「Y」はヨコハマで、「X」はトランスフォーメーション、つまり横浜ゴムを深化と探索で変革する、という意味です。我々が強みとして持っている既存事業の「深化」と100年に1度の大変革期である市場変化の取り込み、つまり「探索」を同時に推進することにより、2023年に売上収益7,000億円、事業利益700億円という過去最高の業績達成を目指します。そして、2025年度には2006年から2017年の中期経営計画「GD100」で成し得なかった売上収益7,700億円、事業利益800億円の実現を目指し、過去100年の集大成とすることを目標とします。

YOKOHAMA Transformation 2023

消費財は「深化」、生産財は「探索」によりアプローチを推進

まず今後のタイヤ市場についての我々の考えるシナリオをご説明します。タイヤ市場は乗用車用タイヤなどの「消費財」とトラック・バス用、農業機械用タイヤなどの「生産財」の2つに分かれていますが、現在のその市場規模はおおよそ半々となっています。 しかし、今後「CASE」「MaaS」「DX」が浸透するにつれ、個人所有の車が減少し、人や物の移動を支えるインフラ車両の増加が予想されます。つまり、お客様が個人から法人へと変化することでタイヤ市場における消費財タイヤの生産財化が進むのではないかと考えております。このようなタイヤ市場の変化に対し、当社は「深化」と「探索」の2つのアプローチによる戦略を推進してまいります。

タイヤ消費財では高付加価値商品販売の「深化」を推進

まず、タイヤ消費財では「高付加価値商品比率最大化」を掲げ、ウルトラハイパフォーマンスタイヤ、SUV・ピックアップトラック用タイヤ、ウィンタータイヤの3つのカテゴリに注力し、当社の「ADVAN」「GEOLANDAR」「ウィンタータイヤ」の販売を「深化」させてまいります。タイヤ消費財における高付加価商品、すなわち「ADVAN」「GEOLANDAR」「ウィンタータイヤ」の販売本数構成比率を2023年までに現在の40%から50%以上に引き上げることを目標とし、「ADVAN」「GEOLANDAR」の新車装着の拡大、補修市場でのリターン販売強化、ウィンタータイヤを含む商品のサイズラインアップ拡充、各地域に合致した販売施策を強化します。

これら高付加価値商品の商品開発およびブランド力のさらなる強化に向け、技術力の高さの証明でもあるプレミアムカーへの新車装着に引き続き注力してまいります。また、ウィンタータイヤの氷雪性能向上にも積極的に取り組んでおり、北海道とスウェーデンに冬用タイヤのテストセンターを所有しています。北海道タイヤテストセンターでは屋内に試験設備を構えており、2020年11月には様々な温度域での開発を可能とする新たな冷媒装置を設置するなど開発体制を強化しています。そしてモータースポーツ活動ではニュルブルクリンク耐久シリーズ(NLS)の最高峰クラスSP9 Proクラスでのシリーズ・チャンピオン連覇とニュルブルクリンク24時間レースでの総合優勝をBMWカスタマーチームのWalkenhorst Motorsportとともに目指します。SUPER GT GT500では日産とトヨタの2台体制で臨み、表彰台そして優勝を目指し「ADVAN」ブランドの強化を行っていきます。オフロードレースでは北米やアジアのシリーズ戦に参戦し「GEOLANDAR」ブランドの強化を行ってまいります。

北海道タイヤテストセンター

北海道タイヤテストセンター

2020年のNLSでチャンピオンを獲得したWalkenhorst Motorsportの車両

2020年のNLSでチャンピオンを獲得したWalkenhorst Motorsportの車両

そして「商品・地域事業戦略」を推進し、各地域の市場動向に沿った商品を拡販してまいります。例えば北米ではSUV・ピックアップトラック向けに「GEOLANDAR」、日本ではスタッドレス、欧州ではウルトラハイパフォーマンスタイヤの「ADVAN」や「ウィンタータイヤ」の拡販に取り組みます。これらの実現に向け、各地域の開発、供給、販売体制を最適化し、2023年の販売本数は2019年比で「ADVAN」で150%、「GEOLANDAR」で115%、「ウィンタータイヤ」で120%、18インチ以上のタイヤで155%の販売伸長を計画しています。

タイヤ生産財では4つのテーマの下、市場を「探索」

タイヤ生産財では「CASE」「MaaS」「DX」などの大きな市場変化の取り込みとして、「コスト」「サービス」「DXの推進」「商品ラインアップの拡充」をテーマに、我々の提供価値を「探索」してまいります。まず、「コスト」では市場変化に伴うコスト低減要求の高まりを予測し、インドの乗用車用タイヤ工場であるYokohama India Pvt. Ltd.を「横浜ゴムグループで、最もコスト競争力に優れる乗用車用タイヤ工場」と位置づけ、生産体制を見直し、将来の市場を睨んだ低コストモデルの確立を目指します。また、タイのトラック・バス用タイヤ工場も同様に低コストモデルによる増産を検討します。

インドの乗用車用タイヤ工場

インドの乗用車用タイヤ工場

タイのトラック・バス用タイヤ工場

タイのトラック・バス用タイヤ工場

次に「サービス」です。「CASE」「MaaS」の進行に伴う車両保有の法人化が進むにつれ、タイヤメーカーに求められる提供価値はタイヤ単体ではなく「タイヤ+交換」、メンテナンスなどのサービスになると考えます。当社は国内47の都道府県を広くカバーする販売、物流のネットワークを活かし、サービス体制の強化に取り組んでいます。具体的にはカーディーラーやカーシェア運営会社など法人客先でのタイヤ交換、点検、管理を行うサービスカーの導入を今後も継続的に拡大し、より機動的なサービスの提供を目指します。

「DXの推進」では今後はタイヤのデジタル化による情報サービスの強化が重要になります。当社は先進センサータイヤの開発を進めていますが、機能追加により段階的にサービスと顧客を拡大していく計画です。空気圧に加え、摩耗計測によるフリート企業向け車両管理サービスを実現し、さらには路面状況の検知による情報サービス企業などに向けた新たな付加価値を創出します。この実現に向け、異業種とのアライアンス体制の構築を進めており、2021年2月にアルプスアルパイン株式会社と株式会社ゼンリンと実証実験を開始したことを公表しました。路面検知システムを搭載したセンサータイヤで得たデータを地図情報と紐づける実証実験を行うことで、新たなタイヤビジネスの検討を進めていきます。

センサータイヤによるサービス創造のイメージ

センサータイヤによるサービス創造のイメージ

そして「商品ラインアップ」です。現在は物流のステージに応じてトラック・小型トラック・VANによる輸送が運転手によって行われていますが、将来的に車両の電動化・自動運転化が進むと長距離から近距離、人の手に荷物が渡るラストワンマイルまで無人化による輸送となることが予想されます。これら物流を構成する車両の多様化が進むと、タイヤにおいても様々な品種が必要になることが見込まれます。例えばラストワンマイルでの車両にはノーパンク、ソリッドタイヤが採用される可能性があります。このような物流の変革に対し、トラック・バス用タイヤからエアレスのソリッドタイヤまで多品種のタイヤをワンストップで提供できるメーカーは多くなく、当社の強みです。今後もさらなる品種の拡充を進め、市場での優位性を確保してまいります。

OHT、TBR事業ではさらなる売上拡大を目指す

生産財事業の成長ドライバーであるOHT事業では2016年よりATG、愛知タイヤ工業を買収し、成長に向けた事業強化を進めてきました。OHT事業は2021年より開始した横浜ゴム、ATG、愛知タイヤ工業の事業統合により、本中期経営計画においてさらに成長を加速させていきます。そして「YOKOHAMA」「ALLIANCE」「GALAXY」「PRIMEX」「AICHI」のマルチブランドによる市場展開、顧客要望への対応力を強みに事業拡大を進めていきます。OHT市場は今後も旺盛な需要が見込まれており、インド第3工場の建設など積極的に増産投資を行ってまいります。2025年には売上収益1,400億円、全社利益の3割をOHT事業で稼ぐことを目指します。

TBR事業ではすでに販売が生産能力を上回りつつあります。引き続き、ミシシッピ工場の安定供給の確保に努め、需要にしっかり応える体制を構築してまいります。TBR市場についても旺盛な需要が継続することが見込まれているためさらなる増産投資を計画し、2025年には1,000億円までの売上拡大を目指します。

OHT、TBR事業ではさらなる売上拡大を目指す_01
OHT、TBR事業ではさらなる売上拡大を目指す_02

MB事業では強みの2事業にリソースを集中

MB事業では当社の強みであるホース配管事業および工業資材事業にリソースを集中することで、MB事業の成長をけん引し、安定収益を確保できる構造を確立します。特にホース配管事業では油圧ホース市場におけるプレゼンスのさらなる拡大、「CASE」対応による新技術で成長をけん引していきます。また、水素社会に向けた取り組みも強化してまいります。一方、ハマタイト事業においては得意分野に集中することで、事業体質の改善を図ります。また、厳しい環境が続く航空部品については構造改革を断行し、時代に見合った事業展開を目指します。

「人事戦略」と「ESG経営」により経営基盤を強化

経営基盤の強化として「人事戦略」「ESG経営」に取り組みます。「人事戦略」ではさらなる成長を実現するため、人事制度を変革します。管理職以上に対しては報酬と業績の連動を強化するとともに管理職をジョブ型の配置と処遇にすることで適材適所を推進します。また、社内教育を充実させるとともにキャリア採用、社内早期登用、グループ会社の人材、シニア層人材など様々な方面から最適な人材を登用することで、経営管理職層のレベル強化を図ります。そして、大きな環境変化に機動的に対応できる強い組織作りを目指し、新橋本社と平塚製造所の統合を計画しています。企画、生産、販売、技術、物流の拠点を統一しよりスピーディな意思決定を実現します。この統合に伴い、従業員の働き方改革を継続して推進します。場所・時間を問わない在宅・フレックス勤務の拡充を通じて、ワークライフバランスの改善、出産・子育て世代の女性の活躍およびキャリア形成の実現、介護や育児・配偶者転勤に伴う離職の解消などを進めていきます。

東京都港区にある横浜ゴム本社ビル

東京都港区にある横浜ゴム本社ビル

当社では「未来への思いやり」をスローガンとして掲げ「ESG経営」に取り組んでいます。まず「E」の環境では環境に配慮した商品の提供にこれまでも取り組んでまいりました。環境配慮へのさらなる高まりを受けて、自動車市場では今後EV化の加速が見込まれています。タイヤの軽量化、水素充填用ホースの拡販など環境商品の開発と販売を通じて環境負荷軽減に取り組んでまいります。また、カーボンニュートラルを目指し、再生可能エネルギーの活用拡大や省エネ活動を継続するとともにサーキュラーエコノミーへの取り組みとして、2030年に再生可能原料・リサイクル原料の使用率30%以上を目指します。2007年から継続している「YOKOHAMA千年の杜活動」では、国内14拠点、海外では8カ国21拠点で植樹を実施し、2023年までに植樹と苗木提供をあわせて106万本を目標に今後も活動を計画しています。

フィリピン工場に設置されている太陽光発電

フィリピン工場に設置されている太陽光発電

「S」の社会では、2016年に設立された従業員による「YOKOHAMAまごころ基金」の活動において、2020年は新型コロナウイルス感染症対策支援活動として支援金の寄付および当社の冬用タイヤテストコースがある北海道旭川市に消毒薬・マスクの寄付などを実施しました。また、2021年2月の福島県沖を震源とする地震の支援活動として、日本赤十字社を通じ義援金の寄付を実施しております。今後も地域社会に根ざした支援活動を通じて、企業としての責任を果たしてまいります。

「G」のガバナンスでは政策保有株式について株の解け合い時に自社株買いを実施し、株主価値の向上に努めます。またグループガバナンスでは子会社管理の強化、内部通報制度の海外拠点への展開などグローバルでのマネジメント強化を図ります。

最後に、従業員にとって安全で働きやすい環境づくりではダイバーシティを推進するためのワーキンググループを設置し、管理職向けにLGBTセミナーを開催するなど多様な人材が働きやすい環境づくりを行っています。また、工場では職場リスク体感訓練を通じたリスクアセスメントを実施するなど安全で安心して働ける職場づくりを目指しています。

当社のESG活動については世界的にも高く評価されており、ESG投資の世界的指数「FTSE4Good Index Series」において16年連続選定いただいています。今後もESG活動を推進し社会貢献に努めます。

「YX2023」の戦略を迅速かつ着実に実行

当社は2021年6月時点ですでに、「YX2023」の戦略を迅速かつ着実に実行に移しています。タイヤ事業ではポーランドのタイヤ販売会社「ITR CEE」を買収しました。主な販売地域はポーランド、ウクライナ、ベラルーシなどの中欧・東欧諸国です。また、プレミアムカーへの新車装着ではBMW社のEV車・BMW「iX3」、BMW M「M3セダン」「M4 クーペ」、そしてメルセデスAMGの新型SUV「GLB 35 4MATIC」などのプレミアムカーへ「ADVAN Sport V107」の納入を進めました。

ADVAN sport v107

MB事業では成長性・安定性の高いポートフォリオへの変革を進めており、ハマタイト事業をスイスに本社を置くSika AGに事業譲渡を発表し、11月1日に譲渡完了を予定しています。また、ホース配管事業では今後、中国建機メーカーのOEM向け、取替え用の補修市場に対応すべく中国工場の生産能力を3倍に増強します。加えて、北海道を拠点とする建設機器・油圧機器の修理・整備事業である古沢商会を買収しました。ATGでは2021年1月、横浜ゴムグループ全体のOHT事業をグローバルで統合する第一歩として、Yokohama Off-Highway Tires America Inc.を発足いたしました。また、インド3拠点目の新工場建設を開始しています。

経営基盤強化では「YX2023」発表時には計画段階だった本社ビル売却を正式に発表しました。売却資金は戦略分野への積極投資に配分予定です。また、ESGではカーボンニュートラルへの取り組みとして、世界で初めて発酵生産によりバイオマスからブタジエンゴムを生成する新技術を開発しました。

今後も「YX2023」の下、全社一丸となって成長戦略の遂行と経営基盤の強化を推進し、世界中のお客様から信頼され必要とされる企業を目指してさらなる変革を図ってまいります。

山石 昌孝 代表取締役社長