2015 GRC -Global Rallycross- (3)

三次元的に繰り広げられる、GRC(Global Rallycross)のアグレッシブなバトル。フィールドをところ狭しと駆け回るGRCマシンとドライバー、その走りはワンメイクタイヤサプライヤーをつとめるヨコハマタイヤが支えている。2015年のGRCをご紹介する特集の最終回は、ますますの盛り上がるを見せるGRCを支えているタイヤにスポットを当てていこう。


2014年からGRCを支えているヨコハマタイヤ!!

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GRCのタイヤは、ヨコハマタイヤが2014年シーズンからワンメイクタイヤを全マシンに供給している。専用開発したADVANレーシングタイヤは、240/640R17というサイズ。

ヨコハマタイヤはバイアスタイヤのころからヨーロッパ向けにラリークロス用タイヤを供給してきたが、GRC用のADVANレーシングタイヤはそれをベースとしながらも、舗装セクションが多いコース設定に合わせた1段硬めのコンパウンドを採用。土煙を上げながらダートセクションを走るマシンの姿を見ると意外に思うかもしれないが、GRC用のADVANレーシングタイヤは溝のないスリックタイプである。

GRCはターマック(舗装路)とグラベル(非舗装路)がミックスされたコースでレースを行うが、どちらかというと舗装路の比重が大きい。そして、未舗装路に関しても整備されたフラットな路面が多いため、ラリーで使われるようなブロックデザインの未舗装路専用タイヤは必ずしも必要ない。溝がなくともトレッド面全体で必要とされるグリップ力を確保することができるのだ。


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グルーブが刻まれていないADVANレーシングタイヤで初めて走るルーキードライバーは走行前に一抹の不安を感じることもあるようだが、実際に走ってみるとすぐに何も問題がないことに気がつく。そして、溝の無いタイヤでも未舗装路で予想以上のグリップが感じられることに驚き、全開でレースを戦えることを確信する。もちろん、舗装セクションでは強力なグリップ力と高い剛性でスーパーカーが発する600馬力のパワーをしっかり路面に伝達。バトルでコンタクトがあっても、ちょっとやそっとでは音を上げないタフネスさも備えている。

GRCにワンメイクタイヤを供給するため、ヨコハマタイヤは全米で行われる各レースに大型トレーラーを派遣。各チームに対し技術的なアドバイスを行うエンジニアや、タイヤフィッター、そしてサポートスタッフがGRCを文字通り足もとから支えているのだ。



タイヤエンジニアが語る、GRCの魅力と開発秘話!!

前述の通り、GRCはターマックとグラベルが混在し、かつ大きなジャンピングスポットが設けられるといった特徴を持つ。ラリーとレースの面白さを“いいとこ取り”したカテゴリーと言われることもあるが、その走りを支えるタイヤはどのようなものなのか。GRCを担当するヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルのエンジニア、内藤充が解説する。

「まず、タイヤはサーキットレースでもお馴染みの、溝の無いスリックを使っています。今だから言うと、当初は両立させることに不安がありました。しかし最初のテストを行った結果、意外に行けそうとの感触を得られました。最終的にはトレッドのゴムと内部の構造を調整することで、グラベルとターマックの両立を図ることが出来ました」

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ほかのカテゴリーと比べて、GRCならではの特徴やタイヤ開発の難しさとは、どういったところなのだろうか。

「出場する車両は全て4輪駆動であり駆動方式に例外がないことから、GRCならではの難しさといったものは、実はあまりありませんでした。ただ、ジョーカーラップの導入等もあり、また短い周回を最後まで全て全開で行くという気を抜けないレース構成となっているので、すばやくピークグリップへ持っていくこととピークを落とさないことに気を使いました」

では、GRCを象徴するシーンとも言える盛大なジャンプ、これはタイヤ開発において考慮すべきポイントとなっているのだろうか?

「実はこの部分に関しては特別な対策を盛り込まなくても問題は有りませんでした。着地の際に大きな衝撃を感じさせないスムーズな着地が出来ていることも要因と思われます。GRCドライバー 達の腕に助けられているので特別な対策が必要が無いのかもしれません。ドライバーの皆さま、ありがとうございます!!」

意外なまでに、GRCならではの特別に大きな苦労はなかったという。もちろん開発の現場では何もかもがスムーズに運んだ、というわけではないのだが、WTCC(FIA世界ツーリングカー選手権)に代表されるサーキットレースから、P-WRC(FIAプロダクションカー世界ラリー選手権)やAPRC(FIAアジア・パシフィック・ラリー選手権)といったラリーまで、ヨコハマタイヤがこれまで世界の舞台で幅広く活躍してきたことで蓄積された経験と技術がバックボーンにあればこそ、GRCのタイヤも生み出されたといえるだろう。

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さて、この特集の締めくくりとして、内藤の目から見たGRCの魅力を語ってもらうことにしよう。

「GRCの面白さや魅力ですが、まずはレースの作り自体が面白く、見ていて思わず熱くなってしまうところです。コースが短く周回数も少ないため誰が一番なのか一目でわかります。更にヒートレースからの勝ち抜き戦であるため、気の抜けないレースをいくつも見ることもできます。タイヤを作っている側から見ると、ちょっとタイヤを労わって欲しいなと思う瞬間も実はあるのですが、全てが熱いレースになるという意味ではWTCCにも合い通ずるところがあるかもしれません」

「更に、レースの合間にパドックで行われる壊れた車両の修理も見逃せません。凄腕メカニック達の豪快にして繊細な技を間近に見ることが出来るのも個人的には好きです。それ以外にもマニアでなくとも誰でも楽しめること、会場は家族連れも多く雰囲気が良いところもいいなと思います」

「まだまだあります、個人的な趣味になるかもしれませんが出ている面々がすごいです。現在ランキングトップのケン・ブロック選手を始め、ブライアン・ディーガン選手、バッキー・ラセック選手、トラビス・パストラーナ選手、ジェフ・ワード選手など、ちょっと違ったところから来たスーパースターがエントリーしていることがすごい。そういった人達がパドックをウロウロしているので会場ではサインペンが必須アイテムです。等々、魅力を挙げるとキリがありません」



日本でも注目度が高まりつつあるラリークロスの世界。残念ながら日本国内での開催は未だ実現していないが、一部では国内開催に向けた気運も高まりつつあるという。日本で間近に楽しめる日が来ることを期待しつつ、ヨコハマタイヤが走りを支えるGRCについて多くのみなさんに注目していただきたいところだ。