2021 SUPER FORMULA Round 6 Report

【SUPER FORMULA 第6戦 / もてぎ】

波乱の中で冷静さを貫いた大津弘樹選手が嬉しい自身初優勝、
野尻智紀選手が宣言通りもてぎで初戴冠を決めた!!

SUPER FORMULA Round 6

開催日 2021年10月16日~17日
開催場所 ツインリンクもてぎ
(栃木県)
天候 曇り のち 晴れ
路面 ウェット~ドライ
決勝周回数 35周
(1周=4,801m)
参加台数 19台
SUPER FORMULA 第6戦

2021年の「SUPER FORMULA(全日本スーパーフォーミュラ選手権)」第6戦が、ツインリンクもてぎで開催。悪天候の中、ただ一人スリックタイヤでの予選アタックを成功させた大津弘樹選手(Red Bull MUGEN Team Goh)が初めてのポールポジションを獲得すると、セーフティカー(SC)が3度も登場する荒れたレースをものにし、SUPER FORMULA初優勝を飾った。また、シリーズタイトル争いは5位でフィニッシュした野尻智紀選手(TEAM MUGEN)が最終戦を前に初のチャンピオンに輝いた。

今シーズン2度目のもてぎラウンドを目前に控えた15日(金)、野尻選手の記者会見が行われた。成績によっては最終戦を待たずにこのラウンドでタイトルが決定する野尻選手は、「『こんなにうまくいくのか、こんなに強いチームがあるのか』という気持ちで臨めています」と話し、ホームコースといえるもてぎでの戴冠に自信を見せていた。

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迎えた16日(土)は朝からぐずついた空模様で、午前中のフリー走行は途中からウェットコンディションに。併催レース中も霧雨が落ちたりしていたが、13時35分にスタートした公式予選のQ1はドライコンディションで進んでいった。2組に分けられたQ1の、まずはA組。福住仁嶺選手(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)がトップでクリアすると、そこに大湯都史樹選手(TCS NAKAJIMA RACING)、大津選手が続く。B組では野尻選手のタイムに注目が集まったが、その期待に見事にこたえ、1分29秒757と、唯一1分29秒台をマーク。8月に自身で更新したばかりのコースレコードを破り、新たな記録を打ち立てた。

スリックタイヤでの全開アタックが可能だったのはここまでで、Q2はウェットタイヤでの争いに。A組では山下健太選手(KONDO RACING)、大湯選手、阪口晴南選手(P.MU/CERUMO・INGING)、大津選手がクリアするも、平川亮選手(carenex TEAM IMPUL)がノックアウト。平川選手はスリックタイヤでスタート後、ピットに戻ってウェットタイヤに交換してからアタックしたが、スリックタイヤのままで何とか踏みとどまった大津選手が最終的に平川選手を上回って、Q3進出権にギリギリの4番手に滑り込んだ。予選でポールポジションを獲得すれば、逆転タイトルに望みがあった平川選手だったが、ここでチャンピオン争いから脱落することになった。

B組では野尻選手を上回り、関口雄飛選手(carenex TEAM IMPUL)がトップタイム。以下、野尻選手、山本尚貴選手(TCS NAKAJIMA RACING)、牧野任祐選手(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)がQ3進出を決め、いよいよ運命のポールポジション争いが始まった。Q2の時点で落ちていた雨はやみ、天候的には路面状況がじわじわと回復してくるコンディションだが、果たしてウェットタイヤとスリックタイヤのどちらが最適なのか、各ドライバーのタイヤ選択が注目された。7名がウェットタイヤでのスタートを選択した一方、大津選手のみがスリックタイヤでコースイン。

「Q2の微妙な路面状況でスリックタイヤを履き、その時のグリップの感触から考えてスリックでも行けると判断しました」と後に語る大津選手は、慎重にタイヤをウォームアップすると計測3周目にアタック。周りが1分36~37秒台に留まる中、1分33秒463で堂々のトップタイムをマークする。大津選手は更に翌周1分32秒317までタイムを削り、文句なしのポールポジションを決めた。フロントローには、昨年のシリーズチャンピオンである山本選手が、続く3番手には野尻選手が入った。

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決勝日の17日(日)は朝から雨に見舞われたが、決勝レースのスタート時刻が迫るにつれ、徐々に天候は回復。スタート進行が行われる頃には、1コーナー先の上空でわずかに青空が見えるほどに向上した。とはいえ、気温は14℃と前日よりも大きく下がり、各車はウェットタイヤで35周の決勝レースをスタートした。抜群の蹴り出しを見せたのは山本選手で、1コーナーでイン側からトップを狙うが、アウト側からスタートした大津選手がしっかりと押さえきり、オープニングラップをトップで終える。一方の野尻選手はこの時点でのコンディションとセッティングが合わなかったのか、オープニングラップで7番手に後退。翌周には牧野選手にもかわされ8番手までドロップしてしまう。ただし3周を過ぎてからはペースも落ち着き、なんとか8番手に踏みとどまり順位の回復を狙っていった。

野尻選手がポジションダウンしたのち、代わって3番手に上がったのは山下選手だったが、8周目の3コーナーで阪口選手が山下選手をかわして3番手に浮上。山下選手は急激にペースが鈍り、9周目には松下信治選手(B-Max Racing Team)、関口選手にもかわされてしまう。路面コンディションは各車が走行するレコードラインの水がなくなりはじめ、徐々に乾いてきたようで、6番手まで順位を落とした山下選手はそのままピットイン。スリックタイヤに履き替えてコースに復帰する。KONDO RACINGは第6戦にしてようやく日本への入国が叶ったサッシャ・フェネストラズ選手も同じラップでピットへと戻しスリックタイヤへ交換させた。

しかし、フェネストラズ選手はコース復帰直後の5コーナーでスピンを喫してしまい、コースサイドでマシンを停めてしまう。これでSCが入ることになり、SCボードを確認したマシンたちが一斉にピットへとなだれ込んできた。大津選手のTEAM MUGENはミスのないピット作業で、大津選手を実質のトップでコースへと送り出す。山本選手と福住選手、平川選手がステイアウトを選択したため、大津選手の後ろには阪口選手、関口選手、牧野選手が続いた。

レースは14周目にリ・スタート。ウェットタイヤのままリ・スタートを迎えた3名は、タイヤ交換分のマージンを築こうとプッシュするが、SC先導中にタイヤのウォームアップができていた大津選手が15周目には山本選手のラップタイムを上回ってくる。山本選手と平川選手はやむなくピットへ入りスリックタイヤへと交換。ほぼ最後尾に下がることになってしまった。福住選手は2人よりも1周前にタイヤ交換に入っていたが、右リヤタイヤのナットが噛んでしまい、ピット作業で大幅にタイムロスしてしまっていた。

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17周目、タチアナ・カルデロン選手(ThreeBond Drago CORSE)が2コーナーでクラッシュし、レースは2度目のSCランとなる。21周目にリ・スタートが切られると、それぞれのギャップが縮まった状態でポジション争いが一気にヒートアップ。その中で、小林可夢偉選手(KCMG)と争っていた坪井翔選手がブレーキをロックさせてしまい3コーナーでコースアウト。さらに、山本選手と平川選手も3コーナーの手前で接触し、2台はクラッシュしてしまった。このアクシデントのため、レースは3度目のSC導入となった。3台の車両を回収するため、SCランは長くなったが、25周目にレース再開。ここから残り10周は、大津選手を先頭とした6台のトップ争いが白熱する。

この頃になると天候もさらに回復し、路面状況も向上。上位陣はお互いにファステストラップを塗り替えながらトップ争いを繰り広げた。まずは27周目の90度コーナーで、牧野選手がOTS(オーバーテイクシステム)を使って阪口選手に急接近。阪口選手はこれを見て自身もOTSを使ってブロックすると、その勢いのまま大津選手に詰め寄ってくる。0.4秒差でコントロールラインを通過すると、そのまま3コーナーでアウトから並びかけサイドバイサイドの勝負に持ち込んだが、大津選手は冷静なライン取りで阪口選手の猛追をしのぎ切る。

その後方では、OTSを使い終わった牧野選手に対して関口選手が猛チャージをかけ、同じ3コーナーでこちらは逆転に成功した。関口選手もタイトル争いにわずかな望みを残しており、そのためには今大会で優勝が必須条件。牧野選手を攻略すると、そのまま上位2台に近づいていった。ところが、33周目の最終コーナー立ち上がりでオーバーランを喫し、牧野選手が関口選手をかわしていく。この瞬間、野尻選手の手元に初のシリーズタイトルが大きく引き寄せられることになった。

大津選手と阪口選手のトップ争いは終盤、大津選手がファステストラップを連発してリードする。最終ラップには1周まるまるとOTSを使ってパワーアップし、1.7秒のマージンを築いてトップチェッカー。昨シーズンの最終戦でスポット参戦し、今シーズンがフル参戦デビューイヤーとなる大津選手が自身初のSUPER FORMULA優勝を飾った。そして、一時8番手まで後退した野尻選手は5番手まで順位を取り戻してフィニッシュ。最終戦を待たずして、こちらも自身初となるシリーズチャンピオンを決定した。

DRIVER VOICE

大津弘樹 選手 [Red Bull MUGEN Team Goh]

【今回の成績 : 優勝】
予選では僕だけがスリックを履いてポールポジションを獲得できたので、言ってみればラッキーな部分もありました。でも決勝はしっかりと戦い抜いて1位になれて、本当に最高な一日になりました。フォーミュラで勝てたのは全日本F3以来なので、とにかく嬉しさがあふれ出ました。チームがホームストレートを通るたびに、周りの状況を的確に教えてくれたり、落ち着いて頑張れと無線で声をかけてくれて、そのおかげで最後まで冷静に走り切ることができました。

野尻智紀 選手 [TEAM MUGEN]

【今回の成績 : 5位 (シリーズチャンピオン確定)】
カートの頃から自分のことを振り返ると、僕はあまりいい走りをすることが少なく、自分に対して劣等感みたいなものを感じていたんです。それを、チームの皆が僕を盛り立ててくれて、皆に助けてもらいながらここまでたどり着くことができました。今週は緊張で全く寝られなかったりして、チャンピオン争いというのはこれほどのものなんだと身にしみて感じて、だからこそ過去チャンピオン争いをしてきた人たちの凄さも実感しました。ここからさらに僕が速くなる、強くなるステップにつなげられるようにこのタイトルを活かせたらと思います。

ENGINEER VOICE

高口紀貴 [横浜ゴム MST開発部 技術開発2グループ]

ツインリンクもてぎは、ブレーキに対して非常に厳しいコース特性を持っていますが、タイヤに対しては特に厳しいわけではないサーキットです。例年通りの夏の大会に加え今シーズンは秋の大会も開催され、気温が下がればコンディションによってはコースレコードを更新する可能性は十分にあると考えていました。普通にスリックタイヤで走れるドライコンディションだったQ1で、野尻選手が見事に自身のコースレコードをブレイクしてくれましたね。

いっぽう、Q2、Q3に関してはタイヤ選択が分かれる形になりましたが、あのセッションは、単純に、ウェットタイヤを履いた方が、あるいはスリックタイヤを履いた方が正解だったという話ではないと考えています。現在SUPER FORMULAに供給しているタイヤは、ソフト方向のタイヤとはいえ温まる特性としてはシビアなタイヤなので、クルマ側でしっかりとタイヤを温められるセッティングにしていないと十分にウォームアップはできません。戦略が分かれた背景には、そういった各車のセットアップの違いも影響していたのではないでしょうか。

このレースでシリーズチャンピオンを決めた野尻選手ですが、スタートで全車が履いたウェットタイヤはあのコンディションではそれほど長くはもたないだろうと思っていたので、どこまで引っ張れるかということも考えながら、マネージメントしていた結果の序盤のポジションダウンだったのだろうと考えています。今シーズン全体的にタイヤのマネージメントが素晴らしかったです。

いよいよ今シーズンのSUPER FORMULAも最終戦を残すのみとなりました。シリーズ争いには決着がつきましたが、シーズン最後のレースをいい形で締めくくるべく、どのドライバーも全力の戦いを見せてくれると思います。最後まで魅力的な戦いを足元から支えられるようサポートしていきたいと思います。