一台ずつがスタートして、タイムアタックを行うスピード競技。レースのように直接的なバトルは無いが、1/1000秒単位で速さを競い合うストイックさが選手には求められるモータースポーツカテゴリーだ。スピード競技は舗装路面と舗装されていない路面で競われるものに大別され、前者がジムカーナ、後者はダートトライアルとなる。
講習会の受講のみでJAF(日本自動車連盟)から発給される国内Bライセンスで出場できることから、かつては「モータースポーツの玄関口」と言われたジムカーナ。実際にジムカーナからモータースポーツを始めて、経験を積んだ後に国内Aライセンスへ昇格してレースへと進んだ選手は多い。現在もこうした事例はあり、始めるにあたっての敷居が低いことがジムカーナの特徴であることは変わらない。そのうえでジムカーナという競技そのものの魅力は実に大きく、中でも最高峰に位置する全日本ジムカーナ選手権はストイックに速さを求めるトップドライバー同士の競演が観るものも魅了している。
競技はミニサーキットや駐車場の広い敷地などを利用してコースが設けられ、スタートからフィニッシュまでおよそ90秒程度のレイアウトが一般的。この中には全開加速のストレート、スラローム、360度ターンなど様々な要素が盛り込まれ、ドライバーのテクニックはもちろんマシンの繊細なセットアップも求められる。
こうしたコースを各選手が一日に2回走行して、早い方のタイム順に順位を決する。選手は各回の走行前に設けられた時間帯にコースを歩いて確認する慣熟歩行を行い、発表されたコースレイアウトや路面の状態をそれぞれ確認してから走行に臨む。なお、2021年からはベストタイム方式に加えて、2回の走行タイムを合計して順位を決する合算タイム方式も採り入れられ、大会によって主催者がいずれの方式で順位を決するか選ぶことが出来るようになる。
コースはミニサーキットや駐車場などの広い敷地に特設され、パイロンなどを用いてレイアウトされる。マシンをパイロンに接触させたり、コースから脱輪した場合には、その本数に応じてタイムペナルティが加算される。
全国各地で多数の大会が行われているが、その頂点に位置する全日本選手権は北海道から九州までを転戦。全国各地から、決勝では合計180秒ほどという短い時間のタイムアタックに全力を注いで臨む選手たちの走りが繰り広げられている。
全日本ジムカーナ選手権では、まず改造範囲等によって4つの車両部門に分類される。PN部門はもっとも改造範囲が制限されており、SA、SAX、SCと広げられている。さらに、ハイブリッドカーや電気自動車が対象となるAE部門も設定されている。
これらのうちSAXとSC部門はナンバープレートを有さない競技専用車両となり、そのほかの部門はナンバープレート付となるので、一般の車両と同様に保安基準への適合が大前提とされている。
次にPNとSA・SAX部門については、エンジンの排気量(気筒容積)や駆動方式によってクラスが分類される。SCとAEは部門設定のみだが一般的にはSCクラス、AEクラスと称され、PNやSA・SAX部門も正確にはPN部門クラス1などという表記となるが、こちらも一般的にはPN1クラスなどと称されている。
なお、クラス区分については名称を含めて2021年に再編されることとなっており、以下の内容で競われるのは2020年がラストシーズンとなる予定だ。
車両部門 | クラス | 排気量 | 駆動方式 | 主な車種 |
---|---|---|---|---|
PN | クラス1 | 1,600cc以下 | 2輪駆動 (FF、FR) |
マツダ・ロードスター |
クラス2 | 1,600cc超 | 2輪駆動 (FF、FR) |
スズキ・スイフト、ホンダ・シビック トヨタ・ヴィッツGRMN、アバルト・124 |
|
クラス3 | 1,600cc超、2,000cc以下 | 2輪駆動 (FF、FR) |
トヨタ・86、スバル・BRZ、マツダ・ロードスターRF | |
クラス4 | クラス1、2、3に該当しないPN車両 | – | 三菱・ランサー、スバル・WRX | |
SA SAX |
クラス1 | 1,600cc以下 | 前輪駆動 | ホンダ・CR-X、ホンダ・シビック |
クラス2 | 1,600cc超 | 前輪駆動 | ホンダ・インテグラ、スズキ・スイフト | |
クラス3 | 区分無し | 後輪駆動 | ロータス・エキシージ、ホンダ・NSX、マツダ・RX-7 | |
クラス4 | 区分無し | 4輪駆動 | 三菱・ランサー、スバル・WRX | |
SC | 区分無し | – | – | スバル・WRX、三菱ランサー、ホンダ・シティ、トヨタ・86 |
AE | 区分無し | – | – | (2019年はクラス不成立) |
※PN部門クラス3は、FIA/JAF公認発行年またはJAF登録年が2012年1月1日以降の車両に限る。
全日本ジムカーナ選手権は、車両部門によって規則で使えるタイヤが定められている。PN部門とAE部門は日本自動車タイヤ協会(JATMA)の定めるJATMAラベリング規格における転がり抵抗C以上、ウェットグリップd以上、またはヨーロッパのグレーディング規格における転がり抵抗F以上、ウェットグリップE以上でなければならない。これらに加えて、接地面には1周する連続した複数の縦溝を有していることも条件となる。
この規則により、PNとAE部門のヨコハマタイヤ勢は「ADVAN A08B」と「ADVAN A052」を武器に戦っている。特に2019年9月に登場した「ADVAN A08B SPEC G」はジムカーナに最適化したコンパウンドを採用、デビュー戦となった第9戦ではPN3クラスで優勝、続く第10戦ではPN1クラスでワン・ツーを飾って優れたパフォーマンスを披露した。
一方のSA、SAX、SC部門では、優れた性能に定評のある「ADVAN A050」を使用。ジムカーナ競技の特性である停車状態からの全開加速スタートや、ハイスピードからタイトターンまでという複合的な要素に対して、季節や車種を選ばない安定したポテンシャルを全ての部門を通じて発揮している。
UPDATE : 26.Jun.2020