ジムカーナと同様に1台ずつが決められたコースをタイムアタックするスピード競技であるダートトライアルは、その名の通り舗装されていないダート路面のコースが戦いの舞台となる。専用のコースは北海道から九州まで全国各地に存在しており、多くの競技会が開催されている。その中で全国を転戦する全日本選手権は、ダートトライアルの頂点に位置するシリーズだ。
競技のフォーマットはジムカーナと同様で、1日に2回のタイムアタックを行い早い方のタイムで最終的な順位を決する。そして、このベストタイム方式に加えて、2回のアタックタイムを合計した合算タイム方式が2021年から採用され、大会によって主催者がいずれかの方式を選択出来るようになる点も同じである。
2回の走行前には、それぞれ選手がコースを徒歩で確認する慣熟歩行が行われる。そしてダートトライアルならではのポイントとなるのがコースへの散水で、これは走行することで巻き上がる土埃をおさえる為の措置である。一般的には各走行の1号車スタート前に加え、状況に応じて途中のクラス切り替わりタイミングでも行われる。散水のタイミングや撒かれる水量によってコースコンディションは変化するので、その点を考慮したタイヤ選択や走らせ方が選手には求められる。
また、車両が何台も走行することでコースにワダチが掘れたり、表面に浮いた砂利が掃けてその下に隠れていた路面が顔を出していく。こうした変化への対応も必要となり、さらに地盤の硬さや土質といった各コースの特徴も踏まえて、自分が走行するタイミングでどのような路面になっているのかを予想しなければならない。
全日本ダートトライアル選手権は、トップドライバーによる豪快かつ繊細な走りの応酬が観るものを魅了している。盛大な土埃があがる場合もあるので、観戦に際しては帽子やタオルを用意するのがお薦めだ。
全日本ダートトライアル選手権は許されている改造範囲などによる7つの車両部門に区分され、そのうちN、D、AEの各部門はクラス設定がされていない。ただし一般的にはNクラス、Dクラス、AEクラスと呼称されている。一方この3部門以外はエンジン排気量(気筒容積)や駆動方式によってクラスが設けられており、例えばPN部門のクラス1は一般的にPN1クラスと呼ばれている。
大会では通常、改造範囲の狭い部門から順にゼッケンが割り振られる。全体の最後に登場するのがD部門で、競技専用に造られたハイパワーマシンの競演が繰り広げられる。また、各クラスに他のカテゴリーでも多く使われている車種のみならず、個性的でユニークなマシンが参戦しているのもダートトライアルの特徴的な部分だ。
なお、PN、N、SA、AEの各部門はナンバープレートを有する車両で、もちろん保安基準に適合していることが大前提となる。SAX、SC、Dの各部門はナンバープレートの無い競技専用車両となるので、走行中のサウンドもより迫力を感じられるものとなる。
車両部門 | クラス | 排気量 | 駆動方式 | 主な車種 |
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PN | クラス1 | 1,600cc以下 | 2輪駆動 | ホンダ・フィット、スズキ・スイフト |
クラス2 | 1,600cc超 | 2輪駆動(FF) | スズキ・スイフト、トヨタ・ヴィッツGRMN | |
クラス3 | 1,600cc超 | 2輪駆動(FR) | トヨタ・86、スバル・BRZ | |
N | 区分無し | – | – | 三菱・ランサー |
SA SAX |
クラス1 | 区分無し | 2輪駆動 | トヨタ・MR2、ホンダ・シビック、スズキ・スイフト、アバルト・500 |
クラス2 | 区分無し | 4輪駆動 | 三菱・ランサー、スバル・インプレッサ | |
SC | クラス1 | 区分無し | 2輪駆動 | 三菱・ミラージュ、トヨタ・セリカ、三菱・FTO、スバル・インプレッサ |
クラス2 | 区分無し | 4輪駆動 | 三菱・ランサー、スバル・インプレッサ | |
D | 区分無し | – | – | スバル・BRZ、フォード・フィエスタ、三菱・ランサー、三菱・ミラージュ |
AE | 区分無し | – | – | (2019年はクラス不成立) |
概要の欄でも述べたように、自分が走行するタイミングの路面を読む力もドライバーに求められるダートトライアル。路面に最適なタイヤ選択も必要となるが、ヨコハマタイヤでは「ADVAN A053」、「ADVAN A036」、そして「ADVAN A031」というラインアップが戦力となっている。ラリーでもお馴染みの「ADVAN A053」は、対応路面領域の幅広さがダートトライアルでも強みとなる。散水によるウェットからドライへと路面が変化しているような状況や、まだ砂利が多い第1ヒートの走行などに使われるケースが多い。「ADVAN A036」は超硬質路面用で、砂利が履けた出走順ではドライ路面の第2ヒートでベストタイムを刻むことが出来る。軟質路面用の「ADVAN A031」は雨天のみならず、多めの散水が行われたことによるウェット路面で強さを見せる。
PN、N、SA・SAX、AEの各部門については、1大会につき使用出来るタイヤの本数が最大で8本と定められている。ただし同一銘柄は、最大4本までとされる。この規定により同じスピード競技でもジムカーナと異なり、ダートトライアルでは2回の走行でそれぞれ別の銘柄のタイヤを使うケースが多い。具体的にはドライコンディションで安定していた場合、1回目は「ADVAN A053」で走行し、路面の砂利が掃けた2回目では「ADVAN A036」を使うというケースが多く見られる。
「ADVAN A036」と「ADVAN A053」は、2019年10月にサイズラインアップを拡充。2019年は3つのクラスでヨコハマタイヤ勢がチャンピオンを獲得したが、同年最終戦では新サイズの「ADVAN A036」がチャンピオンを確定する走りを支えたことも記憶に新しいところだ。
UPDATE : 03.Jul.2020