MOTOR SPORTS

日本最高峰のフォーミュラカーレース。
その裏側にある、もうひとつの戦い。

2026.8.28

300km/hに迫るスピードで繰り広げられる、日本最高峰のフォーミュラカーレース、SUPER FORMULA。その激しい戦いを足元から支えているのが、YOKOHAMA / ADVANのレーシングタイヤだ。しかし、サーキットに持ち込まれたタイヤは、そのままマシンに装着されるわけではない。1レースに1000本を超えるタイヤを運び込み、一本一本を管理し、ホイールに組み付け、最高の状態で各チームへと送り出す。華やかなレースの舞台裏、パドックの片隅では、もうひとつの戦いが繰り広げられている。SUPER FORMULAを支える、YOKOHAMA / ADVANタイヤサービスの仕事を追った。

Words:吉田拓生 / Takuo Yoshida

Photography:真壁敦史 / Atsushi Makabe

日本最高峰のレースを支える
YOKOHAMA / ADVAN

今年も4月の開幕戦から11月の最終戦まで、日本最高峰のフォーミュラカーレースである全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)が開催されている。静寂を切り裂くようなエンジンの咆哮を合図としてはじまるレース。その戦いをサーキットで観戦すれば、目に飛び込んでくるのは300km/h近い日本最高峰のスピードで駆け抜けるマシンと、トップドライバーたちの激しいバトルである。しかし、SFの華やかな舞台を成立させるために戦っているのは、コース上でマシンを操る24人のドライバーだけではない。

2026年のSFではイコールコンディションが保たれた24台のマシンがグリッドに並んでいる。その足元を黒く引き締めているのは、サステナブル素材の使用率が46%まで高められたYOKOHAMA / ADVANのレーシングタイヤである。横浜ゴムが開発・製造を手掛けるレーシングタイヤを実際のテストやレースの現場で公平性をもって各チームに供給する仕事は容易ではない。タイヤのグリップが深く関係する0.001秒が勝敗を分け、また同時に日本最高峰のスピードとその安全性を担保する。レースを強力に下支えするレーシングタイヤをそのホイールに装着しチームに渡す中心的な役割を担っているのが、横浜ゴムのサービススタッフなのである。

トランスポーター4台
タイヤ1200本の大部隊

2026年6月30日と7月1日の2日間、静岡県の富士スピードウェイ(FSW)で今シーズン2回目となるSFの公式テストが行われた。その前日、人もまばらなFSWのパドックに赤と黒の特徴的なカラーリングが施された4台のトランスポーターが現れた。YOKOHAMA / ADVANのタイヤサービス部隊である。
彼らはパドックの片隅に常設されているファクトリーの裏手にトランスポーターをつけると、黙々と自分たちの前線基地を組み上げていく。作業スペースは建物内だけでは収まらないので大型のテントを展開し、そこに専用の機材をレイアウトしていくのである。

トランスポーターのウイング(荷台の屋根)が開くと黒々としたレーシングタイヤがうず高く積まれており、スタッフはそれを慣れた手つきで黙々と降ろしていく。トランスポーター1台に搭載できるタイヤは200~300本ほど。「今回のテストではドライ(スリック)タイヤとウェットタイヤそれぞれ600本ずつを持ち込んでいます」と教えてくれたのは、横浜ゴム株式会社のタイヤ消費財商品企画部モータースポーツグループでタイヤサービス担当をしている島田大介さんだ。
持ち込まれたタイヤはトランスポーターから降ろされ、ファクトリー内に持ち込まれていく。その際にサイドウォールに貼り付けられたバーコードを読みとったり、チョークでマシーンのゼッケンが書かれたりというマーキング作業が行われてから保管される。実際にチームが持ち込んできたホイールにタイヤを組付ける作業は明日、走行本番の朝ということになる。

より高い精度が求められる
タイヤの組み付け

テスト当日の朝、7時過ぎにサーキットに着くとすでにYOKOHAMA / ADVANのタイヤサービスは活気に溢れていた。作業の行程を目の当たりにして最初に驚かされたのは、持ち込まれた全てのタイヤの中に黒いフタがされていたこと。よく見るとそれは空気栓がある黒い風船のようなものだった。市販車のタイヤよりはるかに太くて迫力のあるレーシングタイヤだが、その単体を持たせてもらうと拍子抜けするくらい軽い。構造自体が市販車用のタイヤよりはるかに薄くできているのである。だからこそタイヤ単体では変形しやすく、トラックの荷台に積む際にも工夫が必要になるのだ。この黒いバルーンをひとつひとつ取り除いていく作業もなかなかの手間なのである。

朝から各チームのタイヤ担当たちが続々と専用のラックに収められたホイールをタイヤサービスに持ち込んでくる。それはホイール単体という場合もあるし、古いタイヤが付いたままのものもあった。実際の組み付け作業のプロセスは、市販車用のそれと大きく異なるようなことはない。古いタイヤが付いていれば空気を抜いて専用のマシンを使って外していく。機材はイタリア・メーカーのものが多かったが、長年の実作業を経て細かな部分に改造が加えられていることが多いという。

新品のタイヤがそのままホイールに組付けられると思っていたのだが、その前にひと行程追加されていた。ハケでタイヤのビード(リムと接する内側のフチ)部分に何かを塗っているスタッフがいる。ホイールとタイヤを組み合わせる際に滑りを良くするためのワックスか何かかと思ったのだが、聞いてみるとリムずれ防止剤を塗っているという。レーシングタイヤはエンジンのパワーも凄ければ、タイヤのグリップ自体も強烈なので万が一にもリムとタイヤの位置関係がずれないようにするために軽く接着する必要があるのだ。

旧いタイヤを外したホイールを専用のタイヤチェンジャーに固定し、その上から新しいタイヤを嵌め込んでいく。その際、普段は見ることができないホイールの内側に黒いパーツを発見した。空気を入れるバルブと一緒になっているそれはタイヤの空気圧とトレッドの裏側の温度をモニタリングするためのセンサーだという。走行中のタイヤの状態をコックピット(ステアリング上のモニターに表示)やピットで絶えず確認できるのは、こういったセンサーのおかげ。ちなみに各チームが用意しているこの危機はイギリスのマクラーレン製のものが主流になっているという。

使い込まれた機材が証明する
モータースポーツの歴史

トレッド幅の関係もあって専用品となっているタイヤチェンジャーは実によく使いこまれていたのだが、聞けば横浜ゴムが大昔からずっと使い続けている機材とのこと。なんと往年のグループCカーのタイヤを嵌めていたのもこのタイヤチェンジャーなのだとか。そう言われると、日本のレースを支えてきたYOKOHAMA / ADVANの歴史的な時間の流れが使い込まれたチェンジャーにぎゅっと詰まっているように感じられたのだった。

組付けられたタイヤには空気が入れられるわけだが、その工程も市販車用のタイヤのそれとは一風異なっていた。万が一破裂するような事態に備えて赤い鉄の檻のような中にセットされ、一気にバンッと空気が送り込まれる。レーシングタイヤに充填する気体というと温度の変化が少ない窒素を入れることが一般的だが、ここでは湿気を抜いた空気が入れられていた。またその際のコンプレッサーの圧力計に目をやると400Kpaも入れていて驚かされた。ざっと市販車の倍である。聞けばそれはビードとリムを強く圧着するための高圧であり、実際に走行する際は各チームがあらためて中の気体を入れ替えつつ、空気圧も調整し直すのだという。

装着し終わったタイヤ・ホイールにはバランス取りを施す。3基用意されたバランサーに固定されバランスを計測したあと、指定された部分にウェイトを貼り付ける。これは市販車と同じ工程なのだが、そのトップスピードやタイヤの回転数を考えればより入念な作業が必要なことは言うまでもない。貼り付けられたウェイトの上にさらにテープが貼られるというのもこれまでの経験則から導き出された保険のようなものなのだろう。

パドックの片隅で
繰り広げられる戦い

一連の作業を行うタイヤサービスのスタッフは皆、年齢も手さばきも含めてベテランに見える。と同時にYOKOHAMA / ADVANの作業着に身を包んでいることもあり、社内の人間だと思ってしまうのだが、実はそうではないという。総勢20人ほどで構成されるYOKOHAMA / ADVANのタイヤサービスのスタッフの中には走行中はピットウォールに張り付いている設計エンジニアも含まれている。だがタイヤサービスの実作業を行っているスタッフは、前出の島田大介さんを除けば、トランスポーターのドライバーだったり、サーキットがある地方のヨコハマタイヤの販売店のスタッフだったりするのだという。だが彼らに共通しているのは、モータースポーツに情熱を持って長年この仕事に関わっているベテランであること。そして自分たちが日本最高峰のフォーミュラカーレースに欠かせないタイヤに関わり、チャンピオンシップを支えしているという意識を持っていることだろう。

タイヤメーカーの仕事は指定されたタイヤを届けて終わりではないのだ。レーシングタイヤをホイールにきちんと組付けて走れる状態に仕上げ、走行後はファクトリーに持ち帰って走行後の状態をチェックしてさらなる開発につなげる。それはなかなかチェッカーが出ない、果てしない仕事なのである。タイヤサービスのスタッフもテストやレースといった分刻みで正確な作業が要求される世界に身を置き、フリー走行にはじまり予選や決勝といった逐一を気象条件や路面温度などと一緒に見守り、天気が一転して雨になればウェットタイヤを用意して、チームやドライバーと同じように戦っているのである。

2日間のテスト走行が終わると、再びタイヤサービスのスタッフたちは静かに、そして速やかに撤収作業を進めていた。レーシングコースだけでなくサーキットを広く俯瞰して見ると、自動車レースという競技が、そこに関わる多くの人間の細かな仕事によって成立していることが分かってくるのである。次にSFのレースを見に行った時、グリッドに並んだ色とりどりのマシンが装着しているタイヤを、少しだけ意識して見てほしい。そこにはドライバーが心置きなくコース上で限界を突き詰めるため、その舞台裏で汗を流すYOKOHAMA / ADVANのスタッフたちの情熱が詰まっているのだから。

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