MOTOR SPORTS

サステナブルかつエキサイティング。
ワンメイクのコントロールタイヤで
日本のトップフォーミュラを支える。

2026.8.7

上手いドライバー、速いマシン、強力なエンジン。自動車レースに欠かせないファクターは数多ある。だが結局のところ自動車レースは「タイヤを上手に使えるか選手権」でもあるのだ。加速する、曲がる、止まるというマシンの一連の動きは、タイヤと路面のコンタクトに端を発しているからである。草創期から日本のトップフォーミュラを支え続けるYOKOHAMA / ADVAN。今年6月末に富士スピードウェイで開催された全日本スーパーフォーミュラ選手権の公式テストにおいて、その来し方行く末にフォーカスしてみた。

Words:吉田拓生 / Takuo Yoshida

Photography:真壁敦史 / Atsushi Makabe

Photography:Japan Race Promotion(JRP)

YOKOHAMA / ADVANと日本の
トップフォーミュラの深い関係性

F1グランプリを頂点とするフォーミュラカーレースの世界。世界選手権もあれば国内選手権もあり、マシンの大きさや搭載されているパワーユニットも種類が多い。これらは若手ドライバーが腕を磨くステップアップカテゴリーか、トップドライバーが覇を競うチャンピオンシップに大別できる。後者で大切なのは選手権の独自性であり、F1以外では日本のSF(スーパーフォーミュラ)と北米を中心に開催されているインディカーシリーズがその代表的なものといえるだろう。

日本全国5か所のサーキットで全7ラウンド、12回のレースが開催される今年のSF。シャシーはイタリアのダラーラ社がSFのために設計、製造したSF23によるワンメイクとなっている。一方、エンジンは2ℓの4気筒ターボで、トヨタ製とホンダ製がそれぞれ供給されている。これに対しタイヤはYOKOHAMA / ADVANがドライ(スリック)とウェット各1種類ずつのコントロールタイヤを供給している。

YOKOHAMA / ADVANと日本のトップフォーミュラの歴史は長い。‘60年代にレーシングタイヤの開発と販売をはじめた彼らはマイナーツーリングやフォーミュラ・パシフィック、そしてラリー等のモータースポーツにADVANカラーのマシンとともに積極的に参戦してノウハウを蓄積。1980年にはついに日本のトップカテゴリーである全日本F2選手権への挑戦を開始している。以降、全日本F3000選手権、全日本選手権フォーミュラ・ニッポンを経て、今日の全日本スーパーフォーミュラ選手権まで実に46年もの間、日本のモータースポーツの最前線に挑戦し続けているのである。

2013年の発足以来、コントロールタイヤ制を採用してきたSF。2016年からはYOKOHAMA / ADVANがそのサプライヤーを務めている。複数のタイヤメーカーが性能を競い、レース毎に熾烈な開発競争が行われていたコンペティションの時代とは異なるタイヤのワンメイク供給。だがそこには時代に先んじた「挑戦」が待っていた。2023年に実際の供給がはじまったサステナブルな原料を使用したレーシングタイヤがそれである。2023年に登場した最初のスペックでは原材料に33%の再生可能原料やリサイクル原料が含まれていた。現在のタイヤは2世代目で、サステナブルな原料の使用比率が46%まで高められているのである。

※ドライ・ウェット用の平均値

サステナブルを前にした不安
そして根源的なレースの楽しさ

世界でも例を見ないトップフォーミュラにおけるサステナブルな原料を使用したレーシングタイヤの採用。それを最初に言い出したのは果たして誰なのか?

「どちらからともなく、お互いに……という感じですね。我々JRP(株式会社日本レースプロモーション)としてもSDG’sやカーボンニュートラルといったことを重要視しはじめていて『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』という取り組みを打ち出していました。それに横浜ゴムさんも応えてくれたかたちです」

そう説明するのはJRPの代表取締役社長を務める上野禎久氏。コンマ1秒の中で競争を繰りひろげる日本の最高峰フォーミュラレースと脱炭素社会の実現のような世界観は相反するもののように思える。だがそれでは自動車レースというスポーツ、興行自体がサステナブル(持続可能)なものにはなりえないのも事実だ。環境への負荷を極力減らしつつ、しかし日本の最高峰フォーミュラレースを支えるに足るパフォーマンスを発揮する。YOKOHAMA / ADVANに課されたミッションは非常に大きなものだったのである。

実際の開発を行っている横浜ゴム株式会社MST開発部 技術開発第2グループの坂入将太に、SFのタイヤ供給の難しさ、重要視していることを訊いてみた。

「トップフォーミュラのタイヤを一般タイヤと比べると、速度域とかタイヤにかかる負荷が別次元に高いので、一番重視しなければいけないのは安全性ですね。そして完成したタイヤを1年間同じ品質で供給し続ける製造技術も大切になります。そういったタイヤの安心、安全がしっかりと整ったうえで、国内最高峰の舞台に求められるパフォーマンスを追求し、さらにはタイヤのデグラデーション(タイヤのグリップが落ちていく様子)などがレースを面白くしたりすることにもアプローチができていると理解しています」

では実際にコントロールタイヤにはじまり、今日のサステナブルな原料を採用したタイヤまで一連の流れを理解しているトップドライバーたちはどのように感じているのだろう?

「(レース用の)タイヤってそういうのでいいんだっけ? っていう不安はありました」と正直に話してくれたのは、SFの最多ポールポジション獲得記録を更新中であり、2021年、2022年シーズンのチャンピオンでもある野尻智紀選手(#16 / TEAM MUGEN AUTOBACS)だ。

「(再生可能原料・リサイクル原料と聞くと)タイヤになんか全然違うものを入れられちゃうんじゃないか! みたいな漠然としたイメージを持っていました(笑)。でも試してみたらすぐに、今まで通りの扱い方をすればちゃんとグリップはするし、これまでのタイヤの延長線上にあるんだということがすぐに理解できました」

2024年のチャンピオン、坪井翔選手(#36 / VANTELIN TEAM TOM’S)もまた、サステナブルな原料を採用したタイヤを最初に試すにあたって、キャラクターが激変してしまうのでは?と心配していたという。 / TEAM MUGEN AUTOBACS)だ。

「パフォーマンスが落ちたり、何らかのネガが発生するという懸念はありました。でも実際に走ってみると、自分が知っているヨコハマタイヤのキャラクターの範囲内にちゃんといて、性能的にも一貫性がありました。レーシングタイヤとしてのパフォーマンスが優れているのに、それが環境にいいというのはなおさらいいことですよね。SFのようなレースを長く続けていくための活動として(YOKOHAMA / ADVANは)、すごく大きな仕事をしてくれているんだなと思っています。」

国内最高峰のフォーミュラカーレースを支えるレーシングタイヤでありながら、時代の空気をしっかりと汲み取り環境性能にも配慮したレーシングタイヤを作る。しかもドライ(スリック)とウェット1種類ずつというと、色々な特性を持ったタイヤを揃えるよりも楽に思えるかもしれないが、実際にはその逆の側面もある。キーワードは「オールシーズン」にあると力説するのはKDDI TGMGP TGR-DCの片岡龍也監督。自身もドライバーとして日本のトップカテゴリーで活躍し、横浜ゴムの市販タイヤの開発にも関わっているというタイヤを知る男だ。

「寒い時期から暑い時期までをひとつのタイヤでカバーする。そういうタイヤを作るのはとっても難しいと思います。ある意味オールシーズンタイヤでありながらサステナブルでもあり、グリップレベルやライフを犠牲にすることもできない。タイヤが1種類しかなければ使う側として迷うことはなくなりますが、その性能をうまく引き出すためにマシンのセッティングやドライバーの乗り方、チームとしての総合力が試されることになる。レースは結局のところタイヤを一番うまく使えたドライバーやチームが勝つわけですから。だから、今のSFのタイヤ・サプライヤーに求められる責任というか仕事量は相当なものですよね」

SF人気が高まっている理由と、
パドックの裏手で続く作業

今回富士スピードウェイで開催された公式テストは各チームともいつも以上に熱が入っているように見えた。何しろ富士スピードウェイは2週間ほど後に開催される次戦の舞台であり、また霧と雨で延期された第3戦の決勝レースも含め2日間で2回の予選と3回の決勝レースが行われる、今シーズンのシリーズの行方を決定づけると言われているレースに向けた公式テストなのである。そんな背景もあって、平日にもかかわらず多くの観客がグランドスタンドや各コーナー、パドック等で熱心に推しのドライバーの走りや各チームの作業を見守っている姿が印象的に映った。

ピットエリアやレーシングコースにおいて、2日間絶え間なく響いた咆哮。そんなレース本番さながらの喧騒とは少し距離を置いた、静かな一角がパドックの隅っこにはある。開け放たれたシャッターの奥に黒い極太のスリックタイヤが山積みにされ、裏手にはADVANカラーで彩られたトランスポーターが壁のようにして作業スペースを作る、YOKOHAMA / ADVANのタイヤサービスである。ここでは公式テストが行われる前日からベテランのスタッフたちを中心として淡々と準備が進められ、各チームが持ち込むホイールに新品のタイヤが装着されていく。どんなレースでもそうだが、トップレベルのフォーミュラカーレースにも相応のタイヤがなければはじまらないのである。

タイヤのパフォーマンスが直接的にレースの勝敗を左右するSFの世界。近年その観客動員数が飛躍的に伸び、脚光を浴びているのはしかし「レース自体が面白いから」ということに他ならない。JRPの上野社長は熱く語る。

「サステナブルな原料を使用したタイヤや、今年から使用がはじまったE10燃料(国産セルロースエタノールを10%配合した低炭素ガソリン)などをシリーズに盛り込むことで自動車レースでありながら社会的な課題もクリアしていけるということを証明でき、シリーズ自体のブランドも強化されていると思っています。でもそれと同時に、SFはとにかくレースが面白いんですよ。私自身、仕事とはいえレース自体に見入ってしまっています。ワンメイクの車体だからこそ実力が拮抗して、コンマ1秒の間に何台ものマシーンがひしめき合って、サーキットのあちこちで激しい争いが展開されている。とにかく多くの人に見に来てほしいですね。すぐにファンになっていただけると思うので!」

ドライバーやチーム、マシンやサプライヤー、そして毎回レースを楽しみにしてくれている多くのファン等々。これらいくつものファクターが嚙み合うことで、華やかでスリリングな日本最高峰のフォーミュラカーレース、SFが成立しているのである。実際のレースを目の当たりにするとき、その足元を支えている黒い塊が果たす役割について思いを馳せてみてほしい。きっとレース自体をこれまでよりも深く楽しむことができるはずだから。

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