BMW M3 Competition×ADVAN Sport V107

BMW M3 Competitionと
ADVAN Sport V107が共有する
“両立”という思想。

2026.6.26

530psの強心臓を誇るBMW M3 Competition M xDriveを走らせていて強く印象に残ったのは、エンジンよりむしろクルマ全体が持つ自然さだった。高剛性でありながら快適で、俊敏でありながら神経質ではない。速いのに疲れない。本来なら相反するはずの要素が、このクルマの中では不思議なほど自然に共存している。そんなM3の完成度を支えているのがBMWのOE承認タイヤであるADVAN Sport V107だ。この新車装着タイヤの背景にはBMWとYOKOHAMAが共有する、ひとつの開発思想があった。それは「両立」である。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada

Photography:真壁敦史 / Atsushi Makabe

M3が到達した
現代的な成熟

BMW M3 Competition M xDrive(以下、M3 Competition)というクルマは、不思議な存在だと思う。

スペックシートを眺めれば、その数字は十分に刺激的である。530psを発揮するS58型直列6気筒ツインターボ・エンジン。650Nmという強大なトルク。0-100km/h加速は3.5秒。先進的なスポーツ4WDシステムのM xDrive、Mスポーツ・ディファレンシャル、8速Mステップトロニック、アダプティブMサスペンションと、並んだ技術用語だけを見れば、もはや完全にスーパースポーツの世界だ。

BMW M3 Competition M xDriveは、S58型3.0リッター直列6気筒Mツインパワー・ターボ・エンジンを搭載する高性能スポーツセダン。最高出力は530ps、最大トルクは650Nm。8速MステップトロニックとM xDriveを組み合わせ、0-100km/h加速は3.5秒を誇る。サーキット性能と日常性を高次元で両立することを目指した、現代BMW M社を象徴するモデルである。価格は1488万円。BMW Japan公式サイト(https://www.bmw.co.jp/

ところが実際に走らせると、このクルマは驚くほど穏やかである。高速道路を流していると、どこか大排気量GTのような落ち着きがある。路面に神経を尖らせる必要もない。ステアリングを握る手に余計な力も入らない。さらには運転支援システムも驚くほど高度だ。だから時々忘れてしまうのである。自分の右足の先に530psが眠っていることを。

M3は昔からそういうクルマだった──と言いたいところだけれど、正確には少し違う。E30にはモータースポーツ直系の緊張感があった。E36はより洗練されたが、それでもなおソリッドな色彩が濃かった。そしてよりGT色を強めたE46 M3も、今振り返れば十分に刺激的な一台だったと思う。

しかし世代を重ねるごとにM3は変化してきた。速さそのものを磨くだけではなく、その速さをいかに自然に使えるか。いかに日常へ溶け込ませるか。その方向へ進化を続けてきたのである。現行G80型M3 Competitionは、その到達点のひとつなのだと思う。

530psの3シリーズという驚異を乗り手に抱かせながら、高速道路では2クラスくらい上のラクシュアリーGTのような落ち着き払った所作を見せる。サーキットをレーシングスピードで周回する能力を持ちながら、日常では肩肘張らずに付き合える。それは単なる高性能化ではなく、M3(と、そこから派生したM4)というモデルが長い年月をかけて積み重ねてきた、成熟の結果なのである。

ボンネットを開ける。そこにはS58型直列6気筒ツインターボ・エンジンが収まっている。しかし視線はエンジンそのものよりも先に、その周囲を囲むように張り巡らされたアルミ製タワーバーへと向かう。M3 Competitionのエンジンルームは独特だ。モータースポーツ由来の高性能エンジンが鎮座しているというより、高剛性な骨格の中にエンジンが収まっているように見える。

もちろん見た目の演出ではない。530psという出力を支え、ステアリング操作に対する正確な応答性を実現するための構造である。しかし興味深いのは、BMWが単純な剛性向上だけを目指しているわけではないことだ。

足まわりにまで仔細に目を向けると、その思想の本質がよく理解できる。前後ホイールハウス内側には吸音材が十分に設えられていて、ロードノイズや飛び石音を抑え、室内へ伝わる不快な音を制御するための配慮も万全であることが分かる。BMWは昔からそういうメーカーだった。速さだけを追わない。快適性だけも追わない。その両方を成立させようとする。だからM3は単なる高性能車ではなく、高性能スポーツセダン(よりドイツ的に表せばスポーツリムジン)なのである。

そしてもちろん、同じ思想は装着するタイヤにも求められている。

スターマークとは
BMWとの対話の証である

BMW M3 Competitionに新車装着されるADVAN Sport V107 スター(★)マーク仕様。このスターマークは、単なるメーカー推奨を意味するものではない。BMWが求める性能を満たした証であり、もっと言えばBMWのクルマづくりを理解した証でもある。

ADVAN Sport V107は、YOKOHAMAのグローバルフラッグシップブランド「ADVAN」シリーズのウルトラハイパフォーマンスタイヤ。リプレイス用V107は、高いドライ性能とウェット性能、高速安定性、快適性を高次元で両立するプレミアムスポーツタイヤとして位置づけられる。一方、BMW承認のスターマーク仕様は、BMW M社との共同開発によって生み出された専用仕様。高いドライ性能と耐摩耗性能を両立するための専用コンパウンドや専用パターンデザイン、均一な接地を実現する「マウンド・プロファイル」、さらにハイパワープレミアムカー向けの専用カーカス部材などが採用され、BMWが求める操縦安定性や耐久性に合わせた最適化が図られている。装着サイズは F:275/35ZR19(103Y) R:285/30ZR20(99Y)となる。

一般的なリプレイス用タイヤでは、転がり抵抗性能(AAA〜C表記)やウェットグリップ性能(a〜d表記)がラベリング制度を用いて示される。もちろんそれらは重要だ。しかしBMWのOE承認では、そのさらに先が問われる。

ドライハンドリング、高速安定性、耐久性、耐摩耗性、車外騒音、そしてタイヤトータル質量(バネ下重量)──それらを総合的に、何より極めて高い領域で評価するのがニュルブルクリンク北コースでの厳しいテストである。

ニュルブルクリンク北コースは全長20.8km。高低差は約300m。170を超えるコーナーが連続する。「グリーンヘル」と畏怖される理由は単に攻略が難しいからではない。タイヤにかかる負荷の種類が極端だからだ。高速コーナーでは強烈な横Gを受け続ける。ブレーキングでは大きな縦Gが加わる。路面のうねりや高低差によって荷重は絶えず変化し、ときにはタイヤが路面から浮き上がり、次の瞬間には再び大きな入力が戻ってくる。

BMWが見ているのはラップタイムだけではない。驚くほどハイレベルに設定された規定周回数を走り切れること。トレッド面が崩れないこと。摩耗が基準内に収まること。そう、単に性能を発揮することではなく、性能を維持することが何より求められているのである。

BMWの評価はニュルブルクリンクだけで終わらない。高速周回路での連続高速耐久テストも行われる。200km/hを大きく超える速度域で走行を続けたとき、タイヤはどのように発熱するのか。直進安定性は維持されるのか。操舵応答は変化しないのか。構造耐久性は十分か。YレンジやZR表記が示す高速性能とは、単にその速度に耐えられるという意味ではない。超高速走行域でも同じく、性能を維持し続けることが求められているのである。

そしてもうひとつ興味深いのは、同じV107スターマークであってもBMWのどのモデルに新車装着されるかによって求められるキャラクターが異なることだ。M3 やM4であれば、530psという出力を受け止めるためのドライハンドリングや高速耐久性が重視される。一方でBEV(電気自動車)であるiX3では、転がり抵抗性能や電費性能がより重要なテーマになる。

同じスターマークでも正解はひとつではない。そのクルマが何を目指しているのかによって、タイヤの答えも変わるのである。

“しなやかさ”という答え

後日、横浜ゴム株式会社 タイヤ第2設計部の村田尚久に話を聞く機会があった。そのなかで印象的だったのは、BMWとの共同開発を決して特別な成功談として語らなかったことだ。

「性能をひとつだけ高めることは、現代の技術をもってすればそれほど難しくはないんです。でも、それを維持したまま相反する別の性能も高めるのは本当に難しい」

その言葉を聞いて、数日間、時間をかけてさまざまなシチュエーションでドライブしたM3 Competitionのことが頭に浮かんだ。高剛性でありながら快適。俊敏でありながら自然。速いのに疲れない。M3もまた、V107スターマークと同じ課題に挑み続けているからだ。

横浜ゴム株式会社 タイヤ第2設計部の村田尚久。BMWのOE承認タイヤの設計・開発に携わっている。

高いグリップ力を持つタイヤは作れる。静かなタイヤも作れる。転がり抵抗の低いタイヤも作れる。しかし、それらを全部同時に成立させることは難しい。応答性を高めれば快適性が犠牲になりやすい。耐摩耗性を高めればウェット性能との両立が難しくなる。高速安定性を追求すれば、静粛性や転がり抵抗との折り合いが必要になる。タイヤ開発とは、突き詰めればトレードオフとの戦いなのである。

村田はこれを「両立技術」と表現してくれた。

ADVAN Sport V107の魅力をひと言で表現するなら、筆者は「しなやかさ」という言葉を選びたい。このタイヤは決して自らの存在を声高に主張する派手なタイプではない。ステアリングを切った瞬間にノーズがインに飛び込むような過敏さもない。むしろ第一印象は穏やかですらある。だからこそ距離を重ねるほど、その良さが見えてくる。

ステアリングを切る。タイヤが荷重を受け止める。接地面が変化する。その情報が手のひらへ滑らかに返ってくる。そして車両が自然に向きを変える。一連の流れに無理がない。速さを感じさせる前に、安心感を感じさせるのである。

もちろんそれは鈍さではない。しなやかさだ。

BMWが求めるニュートラルステアも、自然なセンターフィールも、高速域でのスタビリティも、その土台にはこのしなやかさがある。実際、BMW M社との共同開発によるV107 スターマークには、専用パターンデザインやマウンドプロファイルによる最適化が施されている。さらにハイパワープレミアムカー向けのカーカス部材を採用するなど、BMWが求める操縦安定性と耐久性に合わせた緻密なチューニングが行われている。

だが本当に重要なのは、そうした技術的要素そのものではない。それらの技術が最終的にどんな感触を生み出したかである。そして、その答えが「しなやかさ」だった。

A-008Pから続く
両立性能への挑戦

実はYOKOHAMAがこうしたタイヤを作るのは、今に始まった話ではない。旧い世代のスポーツカー好きなら、A-008Pという名前に反応するだろう。1980年代後半、あのポルシェ911ターボ(タイプ930)に認められた伝説的なタイヤである。

当時、日本のタイヤメーカーがポルシェの要求に応えることは至難の技だった。高速安定性、耐久性、操縦性、快適性、そしてウェット性能。今でこそ当たり前に聞こえるが、それらを同時に成立させることは、ドイツという場所との距離も、文化との隔たりもある日本のタイヤメーカーにとっては、それは実に困難なことだった。

「YOKOHAMA A-008P」は、1980年代後半にポルシェの厳しい技術認証を取得し、名車「ポルシェ 911ターボ(タイプ930)」などに新車装着された伝説的なスポーツタイヤ。当時のクラシックなルックスと最新技術を融合させ、ヒストリックカー向けに現在も復刻・販売されている。

しかしA-008Pはそれを成し遂げた。現在のYOKOHAMAは、BMWだけでなく、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、アウディといった欧州プレミアムブランドにも幅広くOE供給を行っている。V105の世代からBMWと向き合い続けてきた積み重ねも、現在のV107につながっている。承認タイヤの開発は一度きりの成果ではない。前の世代で得た知見を次の世代へ受け継ぎ、要求性能がさらに高まる中で、もう一段上のバランスを探っていく。その積み重ねがBMWとの信頼関係を築いてきたのである。

YOKOHAMAがニュルブルクリンクにテストセンターを設置していることも象徴的だ。欧州メーカーと同じ空気の中で走り、評価し、議論する。その距離の近さが、開発の密度を高めていることは間違いない。

スターマークは
企業の総合力を示す

今回のインタビュー中で村田がもうひとつ強調していたことがある。それは、BMWのスターマークは設計・開発部門だけで取れるものではない、ということだ。

BMWのOE承認では、最終的に工場まで評価対象になる。材料開発、設計、生産技術、品質管理、供給体制。どれかひとつだけ優れていても意味がない。同じ性能を、同じ品質で、作り続けられること。そこまで求められる。

「どこかひとつの部門の努力だけでは作れないんです」

村田はそう語った。

「材料から生産まで、本当に全社で取り組まないと、承認タイヤは作れません」と。

例えばレースやタイムアタックなどで結果を出すだけなら、特別な一本を作ればいいのかもしれない。しかしBMWが求めているのはそれとは違う。世界中のユーザーへ、同じ性能を、同じ品質で、何より日常的に届け続けることである。つまりスターマークとは、タイヤの承認である前に、企業の総合力に対する承認なのだ。

M3 Competitionを走らせると、多くの人は530psという数字を語る。M xDriveの先進性を語る。そして、アスリートの筋肉のように引き締まったシャシー性能を語る。しかし、そのすべてを受け止めているのは4本のタイヤである。ADVAN Sport V107 スターマークは、高いグリップ力だけを追い求めたタイヤではない。快適性だけでもない。耐久性だけでもない。そのどれかひとつではなく、すべてを成立させようとしたタイヤである。それはM3そのものに、どこかよく似ている。

村田が語った「両立技術」という言葉を思い返す。

高いグリップと快適性。耐久性と環境性能。応答性と安定性──本来なら相反する性能を共存させること。それはM3が挑んでいる課題であり、V107が挑んでいる課題でもある。そしてその挑戦は、設計・開発部門だけで完結するものではない。材料開発も、生産技術も、品質管理も、さらにはユーザーへとつながる販売まで含めた全社の仕事である。だからこそ村田は、V107のスターマーク取得を横浜ゴムの一員として誇らしげに語ったのだろう。

スターマークとは小さな刻印に過ぎない。

だがその裏側には、ニュルブルクリンクを軸として積み重ねられた膨大な開発テストの時間があり、高速周回路で繰り返された耐久テストがあり、A-008Pから続く技術の系譜がある。そして何より、材料開発から生産現場まで、全社一丸となって世界基準へ挑み続ける人たちの誇りがある。

M3をM3たらしめているもの。その答えはエンジンの中だけにはない。そして、おそらくそれはOE新車装着される4本のタイヤの中にも、同じくらい深く宿っているのである。

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