Grip the Soul
小林可夢偉の夢を乗せて
Z世代のクリエイティブ集団が
クラブマンの祭典「K4-GP」に挑む。
2026.4.3
富士スピードウェイを舞台に20年以上にわたって続く「K4-GP」は、クラブマンの入門編にして、玄人をも唸らせる奥の深いエコラン型耐久レースとして知られる。そんなレースに異色チームが現れた。世界のトップカテゴリーで闘い続ける小林可夢偉が率いるZmedia Racingだ。2026年2月21日(土)に開催された冬の4時間耐久、翌22日(日)の7時間耐久にエントリーした彼らの想いはひとつ、もちろん勝つことだ。そのうえで根底には、小林可夢偉がZ世代に象徴される次世代の若者を育て、夢を託そうとする想いがあった。
Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa
Photography:Z media
世界のトップドライバーがK4-GPに挑む。
大会の公式ウェブサイトにはこう記されている。「初心者からトップドライバーまで、仲間と力を合わせて走り切ることがK4-GPの原点であり、最大の魅力だ」と。さらに「泥臭く、仲間と一緒にゴールを目指す一体感に重きを置く」ともある。
そんなコンセプトを如実に体現したチームがいた。
名実ともに世界を代表するトップドライバーである小林可夢偉(こばやし・かむい)が率いるZmedia RacingによるK4-GPへの挑戦だ。このレースは、毎年、夏と冬に開催される耐久レースであり、軽自動車をレギュレーションの範囲内で好きなように改造して闘う。とはいえ、クラスごとに使用できる燃料が厳密に制限されたエコラン競技である。

K4-GPは単なる耐久レースではなく、限られた燃料でいかに燃費良く走るかを競う“エコラン競技”とされる。初回は2001年にまでさかのぼる歴史のある競技で、徐々にレギュレーションが整備され、昨今は毎年冬と夏に開催されるようになった。軽自動車とそれに準ずる車両(排気量アップは最大で800ccまで)で争われ、2026年2月22日(日)の7時間耐久レースには、130台ものマシンがエントリーした。
Z世代による、気鋭のクリエイティブチーム。
単なるお遊びや話題づくりではないことは、チーム名が明確に示している。正式名称は「#880 / Zとコペンの夢物語♡ / Zmedia Racing」。この「Zmedia」とは、小林がZ世代の若者たちを集めて結成した「クルマやモータースポーツに特化したクリエイティブチーム」だ。つまりは「Z世代が創るメディア」という意味である。彼がZmediaのメンバーに託した想いが、今回のK4-GP参戦への動機へとつながる。

2010年からF1にフル参戦し、2012年の日本GPで日本人最上位となる3位を獲得した。その後、WECには2016年からフル参戦し、2017年のル・マン24時間ではコースレコードでポールポジションを獲得。2019-20シーズンは4勝して初チャンピオンに、2021年にはル・マン24時間連覇を達成する。世界を代表するトップドライバーにして耐久王である。2026年もTOYOTA GAZOO Racingのチーム代表 兼 エースドライバーとしてWECへ挑戦するほか、日本ではスーパーフォーミュラにも参戦する。Zmediaの代表として彼らを牽引する役目も担う。
「レースの世界に身を置きながら、若い世代にもっとクルマに興味を持ってもらうにはどうすればいいかと、ずっと考えてきました。そこで僕が注目したのはSNSの世界。たとえクルマやレースに興味がなかったとしても、そこにカッコいい映像や写真がスクロールしてくれば、ぱっと手を止めると思うんです。クルマやレースの世界には、無尽蔵に現れるコンテンツを凌駕するインパクトがあると信じているし、それが入り口になって、クルマに興味を持ってもらうことにつながるかもしれない。そのうえで、SNSには国境がない。いきなり世界中へとコンテンツを届けることができる。小さいころからSNSに通じているZ世代のチームがそんなコンテンツをつくったら、どんなモノができるのか。果たして世界は広がるのだろうか――? それがZmediaを立ち上げた動機です」

小林可夢偉とZmediaのクリエイターたちで結成された「#880 / Zとコペンの夢物語♡ / Zmedia Racing」。ドライバーは小林可夢偉のほか、KAITA、SOTA、SHUTO、WATARUという4名のクリエイターたち。サポーターやメカニックもZmediaのスタッフやその仲間たちばかり。誰もがドライブやマシンメンテナンスをしながら、並行して動画や写真の撮影もこなすという異色チームだ。
絶対的な経験値という意味では浅い若者たちだ。いきなりプロフェッショナルレースの現場に踏み入れたのだから、最初は戸惑っただろうし、失敗も数知れずあったのだろう。それでも小林は、若者らしい独特の感性と、彼らのコンテンツづくりにかける情熱を信じて、ひたすらトップカテゴリーの現場で経験を積ませてきた。小さい現場で修行を積ませるのとは真逆の、いきなり最高峰から攻めるトップダウン方式である。そんな荒修業が功を奏し、いまでは国内外問わずモータースポーツやカーカルチャーを、独特の表情で切り取った映像や写真を世に発信する、優秀なクリエイターチームへと成長している。
普段は撮る側のスタッフのうち4名が、今回ばかりはドライバーとして主役となり被写体となる。ドライバーは、小林のほか、KAITA、SOTA、SHUTO、WATARU。エンジニア兼メカニックは自動車大学校に通う現役の学生と、すべて手弁当で用意した。普段は撮影現場としてサーキットに精通している彼らながら、WATARU以外はレースはおろか本格的なサーキット走行も初めて、という初心者軍団だ。
すべてが未知数のなか、勝利を模索する。
縁あって借りることができた初代ダイハツ・コペン(L880K型)は、大会の前々日に届いたばかり。吸排気やタービン、そして足まわりなどに手が加わったライトチューニングカーといった風情だ。電動メタルトップ(アクティブトップ)の除去など随所に軽量化が施され、ロールバーで補強されている。


吸排気やタービン、足まわりなどに手が加わり、随所が軽量化された初代ダイハツ・コペン(L880K型)が、Zmedia Racingの参戦マシンとなった。大会直前に手に入れたばかりで、燃費などのデータ採りも何もできていない。メンテナンスをして、マシンのデータを取り、運転に慣れて、と急ピッチで準備が進められた。それでも、突貫工事ながら外装をビシっとレーシングカーに仕上げてくるあたりにZmedia Racingらしさを感じる。
そんなマシンを支えるのが、最強のストリートスポーツタイヤ※と謳われるADVAN NEOVA AD09となった。単純なドライグリップ性能だけではなく、耐摩耗性の高さ、ブロックの強度、ウェット性能、そしてドライバーに伝わるインフォメーションの濃さなど、全方位的な高性能を見越して抜擢されたのだ。サイズは前後とも165/55R15 75V。2日間にわたって合計11時間も周回する計算ながら、NEOVA AD09が有する耐摩耗性の高さに、コペンの軽量性能を見越して、タイヤ交換を前提としない作戦である。
とはいえ、燃費性能を含めたマシンのポテンシャルはまるで未知数だった。データは何もなく、メンテナンスするだけで精一杯の状態で、いきなりレースへと挑まざるを得ない。それでも、お遊び的なレースだと認識している者は、誰ひとりとしていなかった。誰もが小林をリスペクトしつつも、過度なまでに臆することはない。同じ目的を持つ対等なチームメンバーとなった。もちろん、目的とは勝つことだ。レースというのは勝つためにやるのであって、それ以外の理由はない。という真っ当な理由を、彼らは普段の仕事を通して学んでいた。
※横浜ゴムのタイヤ商品内における位置付け

4時間耐久、7時間耐久と連続する2日間に託したタイヤはADVAN NEOVA AD09を1セットのみ。万が一、バーストをした際の予備タイヤこそ用意したが、結果として無交換のまま走行を終えた。走行後もまだ充分に溝が残った状態で、NEOVA AD09の耐久性の高さを如実に感じさせた。サイズは前後とも165/55R15 75V。軽自動車で闘う競技ゆえに、銘柄やサイズに数多くの選択肢があることもまたK4-GPの魅力だ。
「小林可夢偉×Z世代」の絆。
K4-GPは、一発の速さよりも燃料消費を抑えつつ、安定したタイムを刻み続けること。そしてマシンというバトンを確実に次のドライバーへと届けることが重要だ。そのため、7時間耐久で結果を残すことを目標に、デビュー戦となる4時間耐久では、練習とデータ取りに徹した。まずはクルマに慣れて、グランツーリスモでしか練習したことのない富士スピードウェイのリアルな感触を確かめる。走りかたにより変化する燃費の測定も忘れない。
こうして得た経験をもとに、彼らは夜遅くまでミーティングを続けた。
「昨晩のホテルでは、誰もが真剣にひたすらレース運びを相談していました。グランツーリスモで似たようなスペックのマシンをつくって練習したり、AIを利用して燃費計算表をつくったり。そのうえで走りかたから、ドライバーの順番、そして5回課せられた給油をどうこなしていくか。考えるべきことは山ほどありました」
と、リーダー格のSOTAはいう。さりげなく今ドキのデジタルツールを駆使するあたり、いかにもZ世代らしい。そして、そこに寝食を忘れて寄り添うのが小林だ。豊富な知見をもとにアドバイスする熱量は、トップカテゴリーの耐久レースに挑む姿と何ら変わらない。いまある状況に対して、己の経験を踏まえて、考えうるベストアンサーを提供する。


「レースをすると、自分たちで考えるチカラがものすごく大事になる。今回、全員がほぼ初心者だというメンバーたちをまえに、僕は過去のレース経験を踏まえてあれこれと指示を出しました。だけど、本来、これはメンバー全員で考えて実行すべき。“自分たちで考えるチカラを身につける”ために、これ以上相応しい挑戦はない。それがひいては仕事にも役立つはずだし、こういう挑戦を続ける立派な動機になるのだと考えています」
その努力は実を結ぶかに思えた。7時間耐久は130台ものマシンが入り乱れ、序盤からコースアウトや接触、クラッシュが頻出する荒れた展開となったが、誰ひとりとしてミスをせず、それぞれが1時間以上を走り切って、次のドライバーへとバトンをつないだ。最終ドライバーの小林へとバトンを渡す前の段階で、クラス2、3位付近に位置し、総合でも12位を安定して走っていたのだから、彼らの実力はなかなか侮れない。




「初めてのサーキットで、しかも富士の耐久。最初は怖かったけれど、だんだん慣れていって、燃費を気にしつつも、自分なりに全開で走れたと思う。タイヤ(ADVAN NEOVA AD09)の頼もしさもわかってきたと思います。100Rとかの高速コーナーでもタイヤが粘ってくれて、安心感をもって攻めていくことができました」
と、初めてサーキットに挑んだドライバーたちも、徐々に感触をつかみ始め、競技を楽しむようになっていた。しかし、20年の歴史を持つK4-GPにして、そこに毎年のように参戦する熟練チームが集う場で、そう簡単には勝たせてくれないことも知った。

コペンが属するGP-3Fクラスが使える燃料は最大で64ℓ。純正燃料タンクを満タン(40ℓ)でスタート。義務給油5回と規定されているので、残り24ℓをどういう配分で給油するかも重要な作戦となる。何度もシミュレーションをして燃費計算表をつくり、作戦を立てていった。
頼りにしていた車載燃費計に何らかの誤差があったのか。事前のシミュレーション以上に、実際は燃料を消費していたのだった。彼らの属するGP-3Fカテゴリーでは、7時間を走行するために使用できる燃料はわずか64ℓのみ。燃料が底をつきかけていたことが判明したのは、レースが終盤に差し掛かったころだった。
結局、小林にバトンを渡して数周後、やむなくガス欠症状が出てピットへと戻らざるを得なかった。「失格を覚悟で、再度、給油をしてチェッカーを受けよう」という小林の願いもむなしく、あえなく6時間と数分が経過したところでリタイヤとなった。
夢物語を、現実へと手繰り寄せるために――。
結果には悔いが残ったものの、誰もがこの挑戦を「楽しかった」と断言した。そして「悔しい」と続けていたのが印象的だ。それを真剣勝負として挑んでいる以上、「悔しい」気持ちのほうが強かったのかもしれない。やはり急ごしらえで用意したマシンではだめだ。クルマのことを完璧に理解して、データを取って、あらためて綿密な作戦を立てなければ、決して勝利の女神は微笑んでくれない。もちろん、個々のドライビングスキルも上達させなければならないだろう。そんなことを肌で体感した彼らは、レースが終わるとすぐに「このコペンを手に入れて、僕たちのマシンとして育てていこう!」と、早速、具体的な話を進めていた。
活き活きとした若者たちの表情を見ながら、小林がつぶやく。
「レースは生き物だと思う。終わったら、またたく間に熱が冷めてしまう。だから映像や写真などコンテンツは、できるだけ即日に納品するよう彼らに課しています。予選が終わったら翌朝までに納品し、その当日、決勝が終わっても同じ。だからこそ彼らのチームワークはとても大事。膨大な量を撮影して、編集して、納品をする。ひとりではとても抱えきれないと思うから。そうした意味で僕は、彼らのチームを相手に1000本ノックをしている感覚――」

こうして「#880 / Zとコペンの夢物語 / Zmedia Racing」は幕を下ろした。しかし、物語はまだ終わらない。まだ、1000本ノックの真っ最中であり、耐久レースへの参戦もその一環だからだ。
前日の4時間耐久レースに加えて、7時間耐久レースのうち6時間強を走ったのに、ADVAN NEOVA AD09はまだたっぷりと溝が残っている。あと24時間を走っても充分に耐えそうな、綺麗なトレッド面を前に、小林とZmedia Racingのメンバーは確信をしていた。
Z世代のクリエイターたちと、世界のトップドライバー。この奇妙で新しいチームは、まだ成長の途中にある。
Zとコペンの夢物語――。それは空想ではなければ、「非現実的な夢」を追いかける無謀な活動でもない。「実現可能な目標」として、夢を現実とする物語である。

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