ADVAN CHALLENGE

SUPER FORMULA
× YOKOHAMA / ADVAN
未来への挑戦 / 前編

2023.3.28

2023年の全日本スーパーフォーミュラ選手権は、例年に引き続きYOKOHAMA / ADVANのレーシングタイヤがコントロールタイヤとして使われる。しかし、そこにはYOKOHAMA / ADVANの大きな“挑戦”が潜んでいた。原材料の33%にサステナブル素材(再生可能原料&リサイクル材料)を使用したレーシングタイヤに置き換わったのだ。それは日本レースプロモーションが進める『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』の活動理念に賛同して実施したものであり、SDGsやカーボンニュートラルなど時代の要求に対するYOKOHAMA / ADVANの回答でもあった。この未来への挑戦を牽引するキーパーソンの言葉に耳を傾けた。

Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa
Photography:田村 翔 / Sho Tamura

SUPER FORMULA × YOKOHAMA / ADVAN

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サステナブル素材を活用した
レーシングタイヤを供給する

時代の様相はあっという間に移り変わる。科学技術によって常識が刻一刻と変わっていく感覚を、まさに今この時代、我々はリアルに体感している。

そうした時代背景の中、環境への負担が少なく、将来世代にわたってずっと続けていける持続可能なあり方として『サステナブル』という言葉がすっかり一般化した。いかなる理由があろうとも、今や自然環境に害を与えてもいい活動など存在してはならない。それはモータースポーツ業界であっても例外ではない。コンマ1秒を削り、誰よりも速く駆け抜けるためだからといって、ガソリンやタイヤを湯水のように使っていい時代は終わりつつある。

横浜ゴム(YOKOHAMA / ADVAN)は2016年からスーパーフォーミュラのワンメイクサプライヤーを務める。2023年シーズンからはサステナブル素材(再生可能原料&リサイクル材料)を33%取り入れたタイヤの供給が始まる。これはトップフォーミュラでは世界でも初の試みとなる。ドライ用はすでに供給が開始され、ウェット用も6月から供給されるという。2025年までにサステナブル素材比率をさらに引き上げるため、毎年、アップデートが続いていく。

この急速な変化の波をただ呆然と眺めていては、あるいは過去の流儀に固執していては、企業、そしてブランドとしての未来はない。だからこそYOKOHAMA/ADVANは動いていた。それを象徴するような挑戦が『全日本スーパーフォーミュラ選手権(以下、スーパーフォーミュラ)』にあった。2023年シーズンからサステナブル素材(再生可能原料&リサイクル材料 / 以下同様)を活用したADVANレーシングタイヤをコントロールタイヤ(ワンメイクタイヤ)として供給するのだ。なお、これはトップフォーミュラでは世界でも初の試みとなる。

この大きな挑戦を牽引するのは、横浜ゴム株式会社 消費財製品企画部 モータースポーツグループのリーダーを務める関口和義。YOKOHAMA / ADVANの芯にあるモータースポーツ活動を取りまとめてきた人物である。

「ワンメイク供給をするのは、多大な人材資源やコストがかかる。会社としては大きな決断であり挑戦です。しかし、我々はスーパーフォーミュラの掲げる『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』に大いに賛同し、サステナブルなレーシングタイヤを供給するべきだと判断しました。それこそが、いつの時代も常に挑戦を忘れないYOKOHAMA / ADVANらしさに繋がると考えたのです」

『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』とは、サステナブルなモータースポーツ業界づくりを目的としたプロジェクトだ。スーパーフォーミュラを運営する日本レースプロモーションが主導している。その内容は多岐にわたるが、脱炭素社会に向けて『モビリティとエンターテイメントの技術開発の実験場』と位置づけたところにYOKOHAMA / ADVANは挑む。速さを追求することで技術が進歩するというモータースポーツの本質に対して、そこに『サステナブル』という要求が加わることで、まったく新しい技術開発が始まったのだ。

横浜ゴム株式会社の消費財製品企画部 モータースポーツグループ リーダーを務める関口和義。日本のみならず世界中で幅広く展開するYOKOHAMA / ADVANのモータースポーツ活動をこれまで統括してきた。

レースが自動車を進化させる
新たなモータリゼーションが始まった

「サステナブルだからといって性能は二の次などという考えかたはありませんでした。サステナブルとかワンメイクタイヤという言葉を言い訳にしたくはなかったのです」

ワンメイクタイヤであればイコールコンディションが貫かれる。ゆえに性能を追い求めなくてもレースは成立する、という考えかただってある。しかし、YOKOHAMA / ADVANの開発陣は誰ひとりとしてそこに甘んじることはない。もちろん、レース運営側(日本レースプロモーション)も、それでは納得しなかった。結果として2023年シーズンに達成すべき開発目標は、グリップ力にしても耐摩耗性にしても、従来のタイヤと同等の性能を維持することに集約された。

だからこそ従来のタイヤに使われている素材を一つひとつ吟味し、配合比率を見極めながら自然由来の素材に置き換えていった。天然ゴムに加え、アブラヤシの実やオレンジの皮から生成した自然由来の配合剤を活用していく。シリカに対して籾殻を代替する技術もある。同時に廃タイヤから再生したリサイクルゴム、マスバランス式の合成ゴムも用いる。すべてサーキュラーエコノミープロジェクトの一環だった。

「昨年はスーパーフォーミュラの舞台となるあらゆるサーキットでテスト走行を繰り返しました。最初は摩耗が激しくすぐにトレッド面がボロボロになり、ときにはブローしてしまった。ケーシングやコンパウンドなどをサステナブル素材に置換することは、我々にとって試行錯誤の連続でしたが、しかしそこには新たな発見もあり、技術蓄積の場としても大いに役立つものとなったことは事実ですね」

そうした努力の甲斐あって、2022年12月に発表されたプレスリリースには『ドライ用タイヤにおいては2022年の現行タイヤと同等の性能を維持する』と明記された。そこには時代を見据える先見者の明、さらには意地までがあったように思う。2023年シーズンに使われるドライ用タイヤは、原材料全体の約33%をサステナブル素材に置き換えることに成功している。

「もちろん、開発は今も続けています。進捗が遅れていたウェットタイヤは、今年の6月以降に供給を開始する予定です。さらに、来シーズン以降も、ドライ / ウェットタイヤ共にサステナブル素材の使用比率をさらに上げるために、毎年、アップデートしていくつもりです」

先のプレスリリースを読み進めると、YOKOHAMAブランド全体でのサステナブル素材の使用比率を『2030年に30%以上、2050年までに100%とすることを目指す』とある。

「将来的には市販用タイヤでもこの技術が使われていって、レース用だけではなく乗用車用のタイヤへと発展させていくのが理想です。しかし、そのためには経年劣化などに耐えうる、つまり長期的な耐久性を保証する必要があります。そのためにはさらなる開発、実験が必要となると考えています」

逆に言えば短いスパンで使い切り、ライフコントロールがきっちりと実施されるレーシングタイヤだからこそ、今回の挑戦が可能となったとも言える。スーパーフォーミュラへの供給が先行開発的な役割を担うという意味では、モータースポーツへの挑戦が直接的に自動車技術を進化させていったモータリゼーションの黎明期に近しいものがあると思えた。より優れた性能を追い求めるのがYOKOHAMA / ADVANの常だが、ライバルと争うことのないコントロールタイヤだからこそ、サステナブル素材に舵を切ることができたという側面もある。これは決してライバルに対して速さで勝つための挑戦ではない。ゆえに他者に惑わされずに理想を追求することができる。

タイヤ単体で考えることなく
全体を俯瞰した『サステナブル』を

より俯瞰して物事を捉えれば課題はまだある。たとえば予測のできない天候変化を前にすると、シーズンが終わればウェットタイヤが余ってしまう。毎年のようにタイヤの仕様を変えると、それは翌シーズンに持ち越せず、廃棄せざるを得ない。それらは確かにサステナブルの考え方に反するものとして、今後、取り組むべき課題だという。

タイヤ設計のみならず、その生産過程での再生可能エネルギー比率を上げることも重要だ。スーパーフォーミュラ用を含めたYOKOHAMA / ADVANのレーシングタイヤは、一貫して横浜ゴム三島工場で生産されている。そして、この生産現場では再生可能エネルギー電気を100%導入するなど、カーボンニュートラル生産化に向けての取り組みが始まっている。サステナブルタイヤの開発だからといって、製造工程や物流、廃棄といった部分に環境負荷が生じていては本末転倒だ。さらにはコストが上がりすぎても、モータースポーツ業界の発展に際しての妨げとなるだろう。

「これからのモータースポーツは、環境に配慮する意識が必要ですし、そうでなければ持続できないと思う。そこに先鞭をつけたのが我々だという自負はあります。これからもYOKOHAMA / ADVANは先駆者として走り続けていきたいですね。スポーツとかレーシングだけではなく、時代の先駆者としてのADVANブランドでありたいとも思っています」

サステナブル素材を活用したレーシングタイヤとして、サイドウォールには環境意識を象徴するグリーンのラインが入り、白字で「YOKOHAMA / ADVAN」のロゴが記される。

未来を見据えたモータースポーツ活動で得たYOKOHAMA / ADVANの知見は、これから全世界へと広がっていくことだろう。それはYOKOHAMA / ADVANの技術者たちの夢が実現していくということでもある。モータースポーツ業界では、今ではまだ聞き耳を立てる人が少ないかもしれない『サステナブル』という要求性能は、今日もまた一歩ずつじっくりと、誰よりもモータースポーツを愛する人たちによって深められている。

後編へ続く

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