ADVAN CHALLENGE

SUPER FORMULA
× YOKOHAMA / ADVAN
未来への挑戦 / 後編

2023.3.31

『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』は、サステナブルなモータースポーツ業界づくりを目的としたプロジェクトだ。YOKOHAMA / ADVANはサステナブル素材(再生可能原料&リサイクル材料)を使用したコントロールタイヤを供給するが、プロジェクトの全容はマシンやタイヤ開発だけではない。社会に寄り添いながらもエンターテイメント性の高いレースを開催する取り組み、またレース自体をより広く深く楽しむためのデジタルシフトも実施される。後編ではスーパーフォーミュラを運営する日本レースプロモーションに『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』に懸ける想いを訊く。

Words:中三川大地 / Daichi Nakamigawa
Photography:田村 翔 / Sho Tamura

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SUPER FORMULA × YOKOHAMA / ADVAN

社会に寄り添い、馴染む
日本のトップカテゴリーへ

「私自身が、仕事を忘れてレースを何度も観てしまうぐらい、スーパーフォーミュラは本当におもしろい。一度、ご覧になれば必ず好きになっていただける自信を持っています」

サステナブルなモータースポーツ業界づくりを目的としたプロジェクト『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』を掲げる、日本レースプロモーションの代表取締役社長 上野禎久(うえの・よしひさ)氏に話を聞いた。冒頭の言葉は、同プロジェクトの意味と意義を掘り下げたいと、初発の動機を訊ねたときの回答である。拍子抜けするほど話はシンプルだった。誰よりもスーパーフォーミュラに魅せられた男だからこそ、この日本最高峰の闘いの場を永続的に発展させていきたいと願う。だからこそ『サステナブル』が必要だと判断したのだ。

日本レースプロモーションの上野禎久代表取締役社長は、常にスーパーフォーミュラの未来を見据えてきた。日本のトップカテゴリーである自負を持ちながら、その魅力を誰よりも理解し、世の中に訴えていく活動を続ける。

前編で記したのは、『サステナブル素材(再生可能原料&リサイクル材料 / 以下同様)を活用したADVANレーシングタイヤ』というYOKOHAMA / ADVANの挑戦だった。それは日本最高峰のモータースポーツを『カーボンニュートラルの実験場にする』という理念の一環だ。ほかにもパワートレイン、シャシー、燃料などあらゆるコンポーネントでサステナブル素材の開発が続けられている。

「それが日本最高峰のモータースポーツだからといって、あるいは技術開発であっても、私たちは決して社会と乖離したくはない。今やカーボンニュートラル化に向けた言い訳は許されません。しかし、スーパーフォーミュラはお客様(観客や視聴者)に楽しんでいただく良質なエンターテイメントでもあります。サステナブル素材を使ったからといって、圧倒的にタイムが落ちたり、レースが退屈になってしまっては本末転倒でしょう。既存のクオリティを維持しながら、サステナブル素材を取り入れていくことを、横浜ゴムさんを含め、各サプライヤーさんにお願いしてきました」

2023年シーズンのスーパーフォーミュラではSF19に代わるニューマシン、SF23が投入された。ダラーラ製のシャシーに、トヨタ製、ホンダ製パワーユニット(2.0ℓ直噴ターボ)のいずれかが搭載される。マシンが発生する空気の乱流を抑え、かつスリップストリームの効果を高めるなど、よりエキサイティングなレース展開ができるように仕上げられている。

目指したのは、社会に寄り添い、そこに馴染むトップカテゴリーだった。カーボンニュートラル化に向けた技術蓄積が、ひいては一般市販車へも活かされることを考えると、社会を牽引するトップカテゴリーでもある。モータースポーツという文化を未来にわたって発展継承させ、そしてモビリティの開発現場として機能させるためにも、とても重要な活動だと思えた。

『SFgo』ですべての情報を開示し
新しいレースの視聴体験を提供する

いかに社会に寄り添いカーボンニュートラル化を進めるからといって、性能面でレースの魅力をスポイルすることがあってはならない。その実験の場としてスーパーフォーミュラを位置付けるのなら、その次に続く言葉である『エンターテイメントの実験場』とはなにか。

『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』は、エンターテイメントとしての価値を向上させるため『デジタルシフト』という軸を掲げる。デジタルツールの活用によって、スーパーフォーミュラをよりおもしろいエンターテイメントにしていくという。

その象徴的な存在が『SFgo』と呼ばれるデジタルプラットフォームだ。アプリを介していつでもレース中継を視聴できるだけではない。すべてのドライバーのオンボード映像、テレメトリーから転送される車両データ(車速や位置情報、タイヤ温度、オーバーテイクシステムの残量等)を、さらにはドライバーの無線までが届く。ドライバーやチームの戦略、駆け引き、トラブル、そして感情などそのすべてが丸裸になると言ってもいい。レース全体から各ドライバーの一挙手一投足まですべてを公開しているモータースポーツなど、今まで存在しなかったのではないか。

「各コーナーを映し出すモニターが並び、レース運営をコントロールするコントロールセンターの中でレースを観ると、すべての情報が届く。これこそがレースをいちばんおもしろく観られる場所だと思い、それをお客様にもお届けしたいと考えました。実際にコントロールルームに入ることはできなくても、可能な限り情報をデジタルの力でご提供しようと。しかし、ドライバーやチームにとっては真剣な闘い。当初は情報開示に対しての抵抗もありましたが、業界全体を活性化するためにと、理解していただきました。マシンやタイヤなどまでがメーカー間の開発競争であれば、とうてい不可能だったでしょう。一定の範囲内がワンメイクであるスーパーフォーミュラだからこそ、ここまでの情報開示ができたのだと思います」

という上野代表の言葉を受けて、日本レースプロモーション マーケティング部で『SFgo』の開発に取り組んできた横野翔太(よこの・しょうた)氏は、「既存のTV放送であれば、お気に入りの選手があまり映らないなど、我々が届けたいものをすべてお伝えできていないというジレンマがありました。しかし、我々は主催者側だからこそ、持ちうる情報を規制していくのではなく、あえて公開していくことに新たな可能性を感じました」と続ける。

トヨタ自動車(TGR)から出向し、現在は日本レースプロモーションのマーケティング部 部長を務める柳澤俊介氏(写真左)。プロジェクトを実行しながら、独自にあらゆるアイディアを提案する。また横野翔太氏(写真右)はHRC(ホンダ・レーシング)から出向している。幼少期からレース好きであり、今までにない視聴方法を模索して『SFgo』の開発を手がけている。

同じくマーケティング部の部長として統括する柳澤俊介(やなぎさわ・しゅんすけ)氏は、「静止画や、30秒以内の動画についてはSNSに投稿できるなど、自由に使っていただける仕組みをつくりました。スーパーフォーミュラの放映権は弊社に帰属しているところを強みに変えて、スーパーフォーミュラの新たな楽しみ方を、ファンの皆様と一緒になって創り上げていきたい」と言う。

こうしたデジタルシフトによって、新たなモータースポーツ視聴体験が可能となり、それは視聴者側の創意工夫によってさらに発展する可能性まで秘めている。

デジタルシフトの核となるツールが『SFgo』という独自開発アプリだ。いつでもスーパーフォーミュラの中継映像が見放題なほか、各マシンのオンボード映像、テレメトリーから転送される車載データ(車速、タイヤ温度、オーバーテイクシステムの残量等)やGPSでの位置情報などを確認できる。PCとスマホを併用する2画面同時視聴も可能。『SFgo』で得た画像、30秒以内の動画は、ユーザーのSNSなどで自由に公開できる。有料プラン(月額1,480円/年額11,880円)のほか、機能は制限されるものの無料プランもある。現在、有料版・早期登録トライアルとして、4月8 - 9日に開催される開幕戦、および第2戦(富士スピードウェイ)を無料視聴できるキャンペーンを実施中だ(キャンペーン期間は4月6日まで)。

なお、柳澤氏はトヨタ自動車から、そして横野氏はHRC(ホンダ・レーシング)から日本レースプロモーションに出向している。この大手自動車メーカー2社は単にパワーユニットのサプライヤーとして協力するだけではない。メーカー間の垣根を越えて三位一体となって『SUPER FORMULA NEXT50(ネクストゴー)』に取り組んでいることがわかる。

誰よりもレースを愛するからこそ
そのリアルな興奮をお届けしたい

『SFgo』に代表されるデジタルシフトには、大いなる可能性を感じさせる。この施策によってレースが盛り上がれば、それはスーパーフォーミュラという垣根を越えてモータースポーツ全般に波及していく可能性を秘めている。しかし、そこで上野代表は強調する。いかに視聴方法がデジタルにシフトしていくからといって、決してデジタルだけで完結することはない、と。

「魅力を訴える入り口をつくる、新たな視聴方法を見出すという意味でデジタルシフトには大きな意味があります。しかし、そこに興味を抱いたのであれば、今度はサーキットに足を運んでいただきたいですね。スーパーフォーミュラに限らずモータースポーツは、人間の脳だけでなく、感覚を刺激するスポーツです。エンジンやタイヤの音や匂い、マシンが走る風切り音や全体の歓声など、その中で彼らは時速300kmを厭わず、コーナーへ突っ込んでいく。この興奮と、そして臨場感を現場で体感してほしい。それが我々の大きな願いです」

デジタルシフトはあくまできっかけであって、本筋はよりリアルな興奮を届けること。それはYOKOHAMA / ADVANの技術者たちと同じ熱量でモータースポーツを愛し、スーパーフォーミュラに魅了される上野代表の本音だと思えた。よりモータースポーツを発展させたいと願うからこその、カーボンニュートラルでありデジタルシフトだとも理解した。そんな熱い想いを胸に秘めた人たちに支えられ、スーパーフォーミュラは次なる50年を歩み出した。

(了)

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