Tire Impression

加速する進化の連鎖―
A052とAD09をゼンカイで試す。
/ 後編

2022.9.27

かたやYOKOHAMA / ADVANのハイグリップスポーツタイヤの頂点と位置付けられるA052。こなたストリートスポーツタイヤの最強を謳うNEOVA AD09。走りを愛する者たちに向けたADVANスポーツタイヤの両雄、その比較レポートはこれまでも幾度か行ってきた。今回は今年2月にローンチされたAD09のさらなるサイズ拡充に合わせてよりハードなシチュエーションでのテストを実施。世界的ラリーストの新井敏弘選手とトップレーサーの谷口信輝選手がそれぞれのメインステージでA052とAD09をゼンカイで試す。そこにはスポーツタイヤの進化のあり方がどう見て取れたのか? / 後編

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui

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A052とAD09をゼンカイで試す

NEOVA AD09の進化がもたらす
A052の“次”への進化局面

「絶対的なグリップはA052。乗りやすさはNEOVA AD09。ストレートにわかりやすく評価するとこうなるね。実際には、AD09がかなりの進化を遂げたというのがより正しい印象であり僕の評価。サーキットアタックという明確な条件下においても、モータースポーツ由来のA052と、あくまでストリートスポーツという言葉を前に出すNEOVA AD09との差が縮まったことには、どこか感慨深いものがあるね」

まだ涼しさを感じさせる初夏の富士スピードウェイ。YOKOHAMA / ADVANの開発ドライバーの一人である谷口信輝選手はA052、NEOVA AD09それぞれのタイムアタックを終えると少し嬉しそうな表情でそう評価を下した。

YOKOHAMA / ADVANの開発ドライバーでもある谷口信輝選手。言わずと知れたトップレーサーでありチューニングマシンでのタイムアタックにも豊富な経験をもつ。今回はR35 GT-RでA052とNEOVA AD09のFSWアタックを実施した。

自身も深く関わったAD09の最終評価テスト(昨年9月)の時点でAD09がA052にパフォーマンス面でかなり近づいたことを谷口選手は繰り返し口にしていた。曰く、「NEOVAがここまで進化すると、製品ラインナップ的にその上に位置するA052もいよいよ次への進化局面を迎えたね」と。

とはいえ、A052とNEOVA AD09の間には明確なキャラクターの違いもいまだ存在するという。

モータースポーツ直系のA052。高いケース剛性による圧倒的なグリップ性能が高く評価されるハイグリップスポーツタイヤの最高峰である。

「当たり前だけれど作られ方のプロセス自体が違うからね。圧倒的なケース剛性、接地面の広さによるグリップ感はA052が遥かに強い。モータースポーツの領域で大切とされるピークグリップが高いのがA052の強みで、タイヤをきちんと潰して走れるドライバーならタイムも確実に稼げる性質をもっている。あと、意外と忘れられがちだけれど静粛性の高さやスッと前に転がる感じも含めて、タイヤ全体としての品質のよさがより強く伝わってくるのもA052の魅力だと思う。
一方のNEOVA AD09はそうしたA052の凄みみたいなものをとても上手にバランスさせて、ストリートスポーツタイヤとしてそこに旨味を凝縮している印象。最初にも言ったけれど本当に素直で扱いやすいタイヤだよ。タイヤのたわみも4輪ごとに感じ取りやすいからコーナリング時のフロントとリヤのグリップの使い分けがしやすい。よく“タイヤと対話する”って表現する人がいるけれどまさにそれができる。気持ちよく走れることはもちろんだけれど、タイムを拾うという面でもこの感触は有利に働くよね」

「タイヤとしっかり対話ができるのが魅力」と谷口選手が評価したNEOVA AD09。4輪からのインフォメーションが豊かでそれが“タイムを拾う”という側面でも有利に働くのだという。

この日のテストに供されたRGF R35 GT-Rはライトチューンが施されているノーマルの延長線上にある車両だ。かつて谷口選手が1分37秒733という圧倒的なタイムを叩き出したHKSのGT1000+に比べたら非常にドライバーフレンドリーな仕様である。装着サイズはA052、NEOVA AD09共にフロントが255/40R20、リヤが285/35R20となる。

「僕的には本気のタイムアタックではなく、あくまで比較評価という位置付けだと理解してもらった上で印象を言うと、A052の方がフィーリング的に速さを感じてAD09と比べて2〜3秒は速いという印象がある。でも、実際にはAD09と比べてタイムアタックで1秒22の差しかなかった」

アタック時の路温はほぼ変わらず(A052で26℃、AD09で27℃)、路面コンディションも共にドライであった。なお、スタート時の空気圧は共に200kpaの設定だ。

「A052のフィーリングは今も変わらずハイグリップスポーツタイヤの第一線級のレベルにある。でも、新世代NEOVAであるAD09がフィーリングのみならず実際のタイムでまでそこにかなり近づけてきたことは事実。NEOVAが確実な進化を遂げたからこその今回の結果だからね。A052がデビューしてもう6年になるそうだけれど、常に先端を走るモータースポーツ直系のトップアスリートという立ち位置だからこそ、そこに求められる進化のスピードもよりシビアなものになるのかもしれない」

「長い歳月をかけてNEOVA AD09がここまでの進化を遂げて登場したことは素直に喜ばしいよね」と谷口選手は続ける。そう、YOKOHAMA / ADVANのストリートスポーツタイヤの新しい時代をAD09は確実に切り拓き、今回のR35のようなハイパフォーマンスカーでFSWをアタックしてもA052にほぼ遜色のないレベルにまで仕上げてきたことは驚きでもある。

「こうなると俄然、次はA052の進化に期待したくなるのは僕だけではないと思う。タイヤの研究・開発も日進月歩で進んでいるし、今は環境性能の側面でも意識を高めていくことを求められる時代だろうけれど、それがYOKOHAMA / ADVANの製品である以上は、何よりそこにさらなるドライビングプレジャーを追求することを願うし、次世代のA052がまた再び、NEOVAの遥か先を走ってくれることに期待したいよね」

常にその先、その上を目指した進化を諦めない。同門同士で切磋琢磨するからこそ、より良い進化の連鎖がそこには生み出されていく。

A052とNEOVA AD09――“ハイグリップスポーツタイヤの頂点”と“最強のストリートスポーツタイヤ”を改めて正面から比較したことで、YOKOHAMA / ADVANが生み出すスポーツタイヤのこの先への進化の期待が、再び胸の中で熱く高まっていくのだった。

(了)

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