Tire Impression

加速する進化の連鎖―
A052とAD09をゼンカイで試す。
/ 前編

2022.9.22

かたやYOKOHAMA / ADVANのハイグリップスポーツタイヤの頂点と位置付けられるA052。こなたストリートスポーツタイヤの最強を謳うNEOVA AD09。走りを愛する者たちに向けたADVANスポーツタイヤの両雄、その比較レポートはこれまでも幾度か行ってきた。今回は今年2月にローンチされたAD09のさらなるサイズ拡充に合わせてよりハードなシチュエーションでのテストを実施。世界的ラリーストの新井敏弘選手とトップレーサーの谷口信輝選手がそれぞれのメインステージでA052とAD09をゼンカイで試す。そこにはスポーツタイヤの進化のあり方がどう見て取れたのか? / 前編

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui

A052とAD09をゼンカイで試す

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世界的ラリーストが
“ストリート最強”で峠を攻める

「例えばドライコンディションでサーキットを走るとしたらタイヤのグリップはドライバーの予測の範囲内にあることが多い。一方で路面に不確定要素が多いラリー競技の場合はグリップの向こう側、要は予測の範囲外までをドライでもウェットでも常に意識していかないと速くは走れない。だからこそ、予測の幅がより広く持ててそれが信用や信頼に繋がるタイヤがラリーでは望ましいんです」

そう語るのは日本人初のWRC(ERC)優勝やPWRCでのチャンピオン獲得など“世界のトシ”としてその名を知られる日本を代表するベテランのラリースト、新井敏弘選手。今シーズンも全日本ラリー選手権(JRC)のJN1クラスにスバルWRX STI(VAB)で参戦し表彰台にも度々登る現役のトップランナーである。

WRC(ERC)での優勝やPWRCでのチャンピオン獲得など世界的ラリーストとしてその名を知られる新井敏弘選手。現在は全日本ラリー選手権(JRC)のJN1クラスに参戦する。テストの舞台となった群馬サイクルスポーツセンターは地元のコースということもあり、あらゆるコンディションを知り尽くす“群サイ・マイスター”でもある。

時は今から少し遡って6月初旬の群馬サイクルスポーツセンター。“ゼンカイでアタックできるクローズドの峠”として腕利きの走り屋に愛されるこの場所で、世界的ラリーストであり経験豊富な新井選手にYOKOHAMA / ADVANのハイグリップスポーツタイヤのひとつの頂点たるA052、そして2022年2月にローンチされた新世代のストリートスポーツタイヤであるNEOVA AD09のパフォーマンスをそれぞれ真正面から比べてもらった。なお、装着サイズは両銘柄共に前後245/40R18となる。

「A052は全日本ラリーでも朝一のSS(スペシャルステージ / SS1)ではレギュラーで使っているから馴染みが深いです。朝露なんかでターマックの路面が濡れていたりするとメインで使っているA08Bではピーキーさが出て怖いことがある。でもA052は水(の流れ)に入っても過渡特性(路面状況への変化への対応力)が強い。そう、何よりオールラウンダーとしてA052は信用できるんです。だから完全なウェットでも使います」

アライモータースポーツが作り上げたスバルWRX STI(VAB)は全日本ラリー / JN1クラスの規定に基づいた仕様となる。エンジンこそ基本はノーマルだがボディや足回りの補強とセッティングは経験豊富な新井選手のノウハウを駆使して徹底的に煮詰められている。装着タイヤサイズは前後共に245/40R18となる。

この日に新井選手が主宰するアライモータースポーツが用意してくれたWRXはJRCのJN1クラスの規定に基づいた仕様で、エンジンは基本ノーマルであるもののボディやシャシーには入念な補強やセッティングが施されている。無論、軽量化に関してもレギュレーションの範囲内でノウハウを駆使して効果的に対策されている。

「それでもWRXは軽くはない。だからタイヤのケース剛性が足りないと重さの分だけ“ヨレ”がてきめんに現れてしまう。A052に関してはこれまでの経験上でもヨレることは一切なく、そこはモータースポーツ直系の“A”の頭文字に3桁数字を持つタイヤとしての芯の強さがある。そういう意味でも、今回の新しいNEOVA(AD09)がストリートスポーツタイヤとしてどういうパフォーマンスを見せてくれるのかが興味深いですね」

“ストリート最強”としてのAD09の進化
その“凄み”はしっかりと感じ取れた

新井はこの日、A052とNEOVA AD09をそれぞれ2回ずつテストしている。走行コースの設定は全周ではなく連絡通路を使ってショートカットするもので、路面は概ねドライながら前夜の降雨の影響が残って一部にウェット箇所があるというコンディション。テストを実施した午前中の気温は初夏の山の気候らしく21℃から24℃の間と過ごしやすく、路温についてはA052の一発目が26℃と少し低めだったもののそれ以外は30℃台前半となった。

「水は3箇所出てました。さらに一部ではグチャッと泥が混じってマッドになっていた。今日のマシンは本番同様にギリギリまで攻めてもコントロールしやすくセッティングしています。簡単に言えばシャープな感触にしてある。このセッティングに合うのはやはりフィーリング的にはA052の方ですね。ケース剛性とグリップのバランスがとてもいいので。これ以上硬くなるとグリップがケースに負けて舵角を入れてタイヤを潰してもたわまなくなる。そうするとまずアンダーが出てその後にケツが出たらドバーっと止まらなくなる。でもA052はこのあたりのバランスが本当にいい。グリップはすこぶるあるのだけれど動きはマイルドで、そこに上質感すら感じさせてくれるんです」

では新しい時代のADVAN NEOVAたるAD09の印象はどのようなものだったのか?

「AD09の方がよりタイヤはたわむのだけれど乗った印象はA052より硬いと感じました。これはちょっと不思議な印象。A052は常にペタッと路面に吸い付いているのに対してAD09は切りはじめで少しタイヤが動く感じがある。それはヨレるというのではなく滑るという感覚ですね。その分だけAD09の方が(今日のコンディションでは)熱の入りが良かったのかな? あと、AD09はA052よりショルダー形状がスクエアだから面圧が低い箇所ではその分粘りが強いというのもあるかもしれない。今日の参考タイム的に見てもA052に迫るものがあるのは驚きでしたね」

レース用のタイヤを開発するモータースポーツ開発部が手掛け、レース用のタイヤと同じラインでほぼ手作りに近い製法で仕上げられるA052。一方、NEOVA AD09は一般向けの生産ラインで最新のオートメーションを駆使して製造される。この両者のキャラクターは似ているようで大きな違いがあるというのは、こうした作られ方の時点でもすでに感じられるものだが、そのあたりの印象は新井選手の目にはどう映ったのだろうか?

「前作のNEOVA AD08RとA052を比べたらそこには正直、雲泥と言ってもよいほどの差があった。A052はSタイヤ並みのグリップに加えてS2WR2(車外通過音の国際基準規制値)をクリアするなど全体のクオリティがとにかく高い。そうした部分も含めてA052は別格――という印象が強かった。少なくとも、NEOVA AD09を試すまでは。
でも、今日のコンディションではAD09はA052に確実に迫るパフォーマンスを発揮してくれて驚きました。A052と比べてもシャープさがきちんとあって、それでいてグリップの掴みどころも豊富だから細かなコントロールがしやすい。絶対的なグリップはA052だけれどグリップを感じ取るという意味では、AD09の方がフィーリングはよかったくらい。特に荒れた路面の追従性が良くしなやかと感じましたね。
もちろん最終的により細かく攻め込んだ領域でのコントロール性は今でもA052の方が高いと感じるけれど、AD09もグッとその域まで性能をまとめ上げてきた印象。この進化は本当に驚きだったな。グリップの予測の幅が広いという意味でも、AD09をラリー競技でも使ってみたいと思ったくらい。こうなると路面の不確定要素がより少ないサーキットでどんな印象を与えてくれるか? そこは興味がありますね」

今回のテストではA052にかなり迫るパフォーマンスを見せたNEOVA AD09。コースコンディションなどさまざまな要件が絡む部分もあったが、“峠”という環境下でまずは“ストリート最強”を掲げるスポーツタイヤとしての実力、何よりその進化のほどを十分に見せつけてくれた。

約8年もの歳月をかけ満を持して世に放たれたNEOVA AD09。“ストリート最強”を謳うだけに群馬サイクルスポーツセンターのような“峠道”では、その謳い文句に恥じないだけの高次元でのパフォーマンスを見せてくれた。

後編では新井選手も強く興味を示すサーキット(富士スピードウェイ)においてのA052とNEOVA AD09との直接比較を、谷口信輝選手と日産R35 GT-Rの組み合わせでレポートする。果たしてどのような印象が谷口選手の言葉として発せられるのか? レポート後編にもご期待いただきたい。

(後編へつづく)

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