Get Back ADVAN

“世界のKatsu Kubota”が語る
“頂点”と“原点”への想い / 後篇

2022.9.2

久保田克昭は日本を代表するジェントルマンレーサーである。彼はヒストリックカーレースの最高峰であるF1モナコ・ヒストリックGPを制し、クラシック・グループCのレースなどでもこれまで数々の栄光を手にしてきた。そんな世界の“頂点”を極めた男はしかし、同時にその“原点”に対しても変わらぬ熱い想いで挑み続けている。F1マシンからTSサニーまで――常に“速く走る”ことをストイックに追い求め、そこに真っ直ぐな情熱を注ぐ男の言葉を聞く。/ 後篇

Words:藤原よしお / Yoshio Fujiwara
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui

前編を読む

久保田克昭

YOKOHAMA / ADVANと共に
ヒストリックカーレースの文化を深めたい

甲高いエキゾーストノートを残して、白地に鮮やかなブルーのストライプが印象的なマクラーレン720S GT3が、富士スピードウェイのストレートをものすごい速さで走り抜ける。その勢いはTGRコーナー、コカ・コーラ・コーナーでも変わらない。まるで路面にピタッと吸い付いているかのように、クッと向きを変えると、グイグイと加速して次のコーナーへと消えていく――。

「僕のレース活動って、かなりの部分をYOKOHAMA/ADVANタイヤに支えられてきたんだなと改めて思いますね」

8月に富士スピードウェイで行われていた走行会で、久々に自身の所有するマクラーレン720S GT3のドライブを楽しんだ久保田克昭はそう切り出した。

このマクラーレンは2019年に鈴鹿サーキットで開催されたGT3世界一決定戦、『2019 第48回サマーエンデュランス BHオークション SMBC鈴鹿10H』にF1王者のミカ・ハッキネン選手、そしてGT500&スーパー・フォーミュラ王者の石浦宏明選手と共に久保田が出場し、22位完走を果たした“プラネックス・スマカメ・レーシング・マクラーレン720S GT3”そのもの。

『2019 第48回サマーエンデュランス BHオークション SMBC鈴鹿10H』にF1王者のミカ・ハッキネン選手、そしてGT500&スーパー・フォーミュラ王者の石浦宏明選手と共に久保田が出場し、22位完走を果たした“プラネックス・スマカメ・レーシング・マクラーレン720S GT3”。同年のDTM特別交流戦で同時開催された「auto sport web Sprint Cup」にも小高一斗選手と組んで参戦。その際に履いたYOKOHAMA / ADVANのレースタイヤの高次元でのグリップ&コントロール性能のバランスに感銘を受けたという。

久保田はその後、小高一斗選手と組んで、同年の11月に富士スピードウェイで行われたスーパーGT GT500クラスとドイツ・ツーリングカー選手権DTMとの特別交流戦と同時開催されたGT300 & GT3マシンによるスプリントレース『auto sport web Sprint Cup』に出場。その時以来、足元に履いているのがYOKOHAMA/ADVANのレースタイヤだ。

尊敬するドライバーとして松本恵二さんの名前を真っ先に挙げる久保田。繊細ながら大胆なその走りに若い頃から魅せられていたという。久保田のドライビングスタイルもまた、繊細かつ大胆な何かを秘めているように思える。

「今回もYOKOHAMA/ADVANの新品スリックを用意していただいて走ったのですが、グリップ、コントロール性ともに抜群。GT3はリストリクターでパワーが制限されているとはいえ、専用の軽量ボディ、エアロダイナミクス、レース用の6速シーケンシャルシフトなど中身は“さすがはマクラーレン”という感じの研ぎ澄まされたレーシングカーに仕上がっています。肉体的にもグループCと同等か、それ以上というくらいにキツイ。そんなマシンでもしっかりと支えてくれるYOKOHAMA/ADVANタイヤには絶大な安心感がありますね」

久保田がそう話すのには理由がある。彼にとってYOKOHAMA/ADVANは、2011年以来全日本F3選手権で共に戦い続けてきた頼れる相棒でもあるからだ。

2008年に全日本F3選手権に参戦した久保田は“40代のルーキー”として当時話題を集めた。某所にある久保田のガレージには歴代のレースマシンが大切に保管され、いつでもパフォーマンスを発揮して走れるようメンテナンスも万全に施されている。レースカーをひとつの文化財として捉え、後世にしっかりと繋いでいきたいという久保田の想いが、そこには明確に現されている。

「F3で戦った経験はすごく大きいです。レベルが高く、しっかりとコントロールされ、イコールコンディションで行われたF3で走ったから、F1もグループCもマクラーレンのGT3マシンだって臆することなく乗れたし、外国の初めて走るサーキットでも自信をもって臨めた。もしタイヤのクオリティが低かったり、ロットによって性能がバラバラだったとしたらドライブに集中できないし、そもそもコンペティションなレースができない。さすがはマカオF3のオフィシャル・サプライヤーとして長年タイヤを供給しているYOKOHAMA/ADVANタイヤですよね」

またハナシマレーシングのサポートのもと、F3でフォーミュラカーのタイヤマネジメントについて学んだことは、ヒストリック・モナコGPにも活きているという。

名メカニックとして久保田の活動を支え続けてきたハナシマレーシングの花島代表(写真右)。数多くのプロドライバーを育て、見続けてきた男をして「久保田さんの速さは本物。何より、速さに対する情熱が半端ないですから」と言わしめる。

「実はモナコのコースは去年の改修で道幅が広がり、路面が非常にスムーズになったんですよ。そのおかげでタイヤのラバーが乗りやすくなって、セッションの最後になればなるほどタイムが出る。今まではコースの混雑を避けるために先頭で出て行ったのですが、今年のモナコは作戦を変えて最後に半周ほど空けて出ていくようにした。それもタイヤの内圧を思いっきり落として、徐々に内圧を上げて最後の1周に照準が合うようにね。そういうことができたのもF3のYOKOHAMA/ADVANタイヤで鍛えられた経験のおかげです」

レースに出るからには勝つ。もちろんジェントルマンレーサーである以上はあくまで趣味の一環ではあるのだが、とはいえそれはもはや明らかに道楽のレベルではなく、60代となった今も若手プロドライバーと一緒にストイックにトレーニングに取り組むという自身の肉体作りから、マシンの整備、経済的な面を含めた環境に至るまで、一切手を抜かずに最高の状態で挑むのは、身をもってレースの厳しさ、危なさを知っているからだ。

その気持ちがなければ、モナコやル・マンでスロットル・ペダルを思いっきり踏み込めないだろうし、貴重なマシンを、そのヒストリーに恥じない姿で走らせることはできない、ということなのだろう。

そして、レースとレーシングカーが心底好きだからこそ、石浦宏明選手、吉田広樹選手、山内英輝選手といった現在日本のトップカテゴリーで活躍するドライバーが駆け出しの頃からサポートを行い、鈴鹿10Hを盛り上げようと720S GT3を購入して、ハッキネン選手、石浦選手と組んでレースに出るなど、有形無形の活動を続けているのである。

「プロはもちろんですが、我々ジェントルマン、さらにはヒストリックレースまで幅広くサポートをしてくれるYOKOHAMA/ADVANは本当に有難い存在ですよ。日本だけでなく、海外においてもYOKOHAMA/ADVANが支持を集めているのはクオリティはもちろん、何よりレースに対するその熱い姿勢なんだなと、今日久しぶりにマクラーレンのステアリングを握って確信しましたね」

そう話すと「実は今、1つ夢があるんです」と久保田は真剣な眼差しで話し始めた。

「自分1人でヨーロッパに出て行って、苦労もしたけれど一定の結果を残せて、周りの皆さんにも認めてもらえるようにもなった。例えば僕が日産のCカー(ル・マン・クラシックなど)で走っているのも、日本にはこんな凄いレーシングカーがあるんだということを日本人の手で世界に示したいと思ったから。
だから今度はYOKOHAMA/ADVANタイヤを履いて、モナコやル・マンに出て行ってポディウムの頂点に立てたら凄いだろうな――そんなことを考えているんです。面白そうでしょ? ヒストリックF1用のADVANタイヤ、作ってくれないかな(笑)」

世界の頂点を極めた男の想いは、何より芯が熱く、そしてどこまでも奥深いのである。

(了)

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