Life with YOKOHAMA

タイヤが支える人々の営み―
YTJ沼津営業所の日常に見た
“責任”と“誇り”の在り処 / 前篇

2022.8.19

現場にこそ真実が宿る――これはどの世界にも当てはまる格言だが、タイヤ製品の販売・管理の業務においても現場にこそ真実の姿が見えるのは確かだろう。その真実の姿に直に触れるべく、ヨコハマタイヤジャパン(YTJ)沼津営業所の日常に密着取材を試みた。ユーザーにYOKOHAMA製品を確かな形で届けるべく日々業務に邁進する現場スタッフたち、さらにはその先につながる販売店の経営者たちの言葉から感じ取る“YOKOHAMAの真の姿”を、前・後篇を通してレポートする。/前篇

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:真壁敦史 / Atsushi Makabe

YTJ沼津営業所

後編を読む

見事なまでの職人技が光る
倉庫管理の現場

それはまるで、アスリートが取り組むストイックなトレーニングのような光景だった。

7月中旬――身の危険すら感じる連日の猛暑こそどうにか収まったものの、その日も朝から少し動いただけで汗が噴き出すほどのたいそうな暑さに見舞われていた。

株式会社ヨコハマタイヤジャパン(YTJ)静岡カンパニーが運営する沼津営業所では、朝の9時前から大型のパネルトラックが搬入口に付けられタイヤ商品の入荷作業がはじまっていた。10t積みのトラックを一杯にして工場から出荷されてきたYOKOHAMAの多種多様なタイヤ製品が、営業所のスタッフたちの手で次々と倉庫内へと仕分けされていく。

事務所スペースと隣接する倉庫の1階にはトラックやバスなどの大型車両用タイヤ、小・中型フォークリフト用タイヤなどに加えて、建設・産業車両用の巨大なタイヤまでがうず高く積まれ、整然と並べられている。それは思わず吸い込まれそうな漆黒のゴムの回廊のようで息を呑むほどの光景だが、それ以上に圧倒されるのは2階へと途切れることなくベルトコンベアーで上げられていく乗用車用タイヤたちの、その膨大なまでの本数だった。

「次〜っ! イチロクゴ〜、ハチマルジュウサンのロクプラ〜ッ!!」

1階の荷捌き場でトラックの配送ドライバーから1本ずつタイヤを受け取り丁寧にベルトコンベアへと載せる倉庫の管理責任者の掛け声が、2階で待ち受ける3名のスタッフたちに飛ぶ。倉庫の2階は体育館ほどの広いスペースにスチール製の大きな棚がずらりと並べられ、続々と上がってくるタイヤをスタッフたちが所定の場所へ黙々と、それでいて互いの阿吽の呼吸は感じさせる素早く連携のとれた所作で収めていく。

ベルトコンベアで続々と2階倉庫スペースへと上げられていく乗用車用タイヤ。その作業は素早さと同時に丁寧さ、そして正確さまでが求められる。2階で受け取るスタッフに製品ラベルが見えやすいようにベルトコンベアに載せるなど、実に細やかな配慮がそこに貫かれている。

ただ文字にしただけではどこか単調な作業と映るかもしれないが、実際に作業を目の当たりにすればその複雑さ、求められる正確さ、そして何よりこの蒸し暑さの中(倉庫内には申し訳程度の扇風機以外の空調設備はない)でも衰えない驚くほどの体力と集中力とで繰り広げられるまさにスポーツのようなリズム感のあるスタッフたちの動きに、ただ目を奪われ圧倒される。

体育館ほどの広さのある2階の倉庫スペースにはスチール製の大型の棚がずらり整然と並ぶ。銘柄やサイズによって細かに収納場所は区分けされており、その位置を正確に覚えるだけでも一苦労である。

例えばそれがすべて同じ銘柄(ブランド)のサイズ違いだけだったならばまだしも、その日の入荷の状況次第で銘柄やサイズには幾通りもの複雑な組み合わせが生じ、さらには入荷本数もそれぞれで異なる(例えばパンクした場合のオーダーなら1本のみなど顧客からの注文数も都度状況によって異なり、それに対応して調整される入荷数にもばらつきが生じる)ことから、銘柄やサイズのラインナップは当然として、現状の在庫本数、そしてそれを収めるべき場所の状況までをしっかり把握して各自が適切なポジションを取らなければ、この膨大な量と複雑な組み合わせを相手とした仕分け作業は上手く機能しない。

加えてより複雑なのはそれが同じ銘柄の同じサイズ設定であっても、「ロクプラ〜ッ!!」と冒頭に記した掛け声のように、バン向けなどの商用タイヤには6プライや8プライといった“対荷重プライス”の細かな設定区別までが存在する。しかもその表記(呼称)が新たな規格によって変更される(切り替え時期などは新旧表記が混在する)ことまであるというのだから、もはや聞いているだけでも頭の中が混乱してしまう。

ともあれ銘柄とサイズごとに細かく区分けされた所定の場所(棚)に素早く、正確に当該製品を収めるにはまず何より、それを仕分けるための十分な知識と判断力が必要となる。加えて決して軽くはないタイヤを広い倉庫内で運び、さらには数段分の高さのある大棚に手際良く収めるというかなりのコツをも要する俊敏性と技量、そして極めつけは製品ラベルをすべて同じ方向(天地左右で異なる)にしっかり揃えて前向きに並べるといった緻密さまでが求められるのである。

高さのある大棚にタイヤを収める作業には腕力よりも技を要し、そのコツを掴むにはやはり相応の経験が必須となる。製品ラベルをすべて同じ方向に揃えて前向きに並べるなど、緻密さも同時に求められる作業である。

そう、この作業を暑く蒸した倉庫の中で大量の汗を掻きながらも黙々と確実にこなしていくスタッフたちの姿には、まさに全神経を集中させてハードなトレーニングに勤しむストイックなアスリートの姿が、どこかで重なって映ったのである。

間違いのない製品を届けたい
“最後の出口”を担う使命感

「今朝は600本ほどの入荷がありました。需要のある軽自動車用のバンタイヤが特に多い日でしたね。入荷の仕分け作業は大体2日に1度ほどで、スタッドレスのシーズンや販売キャンペーンなどの繁忙期にはこれ以上の本数の入荷が連日続くこともあれば、1本50kgほどの重量がある大型車両用のタイヤが100本以上という日もあります。沼津営業所の倉庫には1階のトラック・バスなどの大型車両用で1,000本ほど、2階の乗用車(商用含む)用で4,000本から5,000本と、トータルで常時5,000本から6,000本は在庫しています。スタッドレス商戦の時期だと在庫数が1万本を超えることもあります。お客様が必要とされたときにすぐに製品をお渡しすることができるよう、常に備えているわけです」

沼津営業所の在庫管理責任者を務める三枝茂行は朝のルーティンとも言える入荷の仕分け作業を終えると、そこに疲れなど一切滲ませることもなく的確かつ誠実な言葉でそう説明してくれた。

三枝はYTJ静岡カンパニーに就職後、20年近くに渡って管理業務一筋でそのスキルと経験を磨き上げてきたという職人肌のスペシャリストである。

大型車両用のタイヤや日常ではなかなかお目に掛かることのない建設・産業車両用の巨大なタイヤが整然と置かれた1階の倉庫スペースに立つ、沼津営業所の管理責任者である三枝茂行。入社以来20年近くに渡って管理業務に従事してきたスペシャリストである。

「倉庫内のどの場所にどの銘柄がどれくらいの本数あるかという情報は、基本はすべて私の頭の中に入っています。日ごとの現物(製品)の入りと出(入出荷)に際しては各自が必ず手書きのカード(棚カードと呼ばれている)に“誰がいつどこから入れてどこに出したか”を記した上で、銘柄、サイズごとに数量を管理しながら、目視も含めた実数の確認を怠らないように心がけています。もちろんフロントと連携して常にデータベースへの入力管理もするのですが、やはり生身の人間が日々入出荷の仕分け作業をしている以上、ズレや間違いはどうしても起こる。だからこそ、しっかり人間の目と手を通して幾重にも管理していくことが大切なのです」

1日の出荷量は300本から400本ほどが平均だというからこちらもかなりの本数である。実際、朝の入荷作業中にもフロントに注文が入れば倉庫の棚から出荷されることもあって、都度、機械任せではない人の目と手による“生きた在庫数”の管理が不可欠となる。

データベースでの管理ももちろん行うが、重ねて人の目と手で在庫を管理することも常に心がけている。“あくまで人が扱い管理する”という責任感をそこには強く感じる。

「販売拠点となる営業所の業務は大きく分けてセールス(営業)と管理です。沼津営業所の場合は販売店様への1日の取引ボリュームが静岡県東部では最大規模なのでセールスによる配送(基本は午前・午後2回で可能な限り注文の入った即日配送を心がけている)も私たち管理部門も常時フル稼働しています。
入出荷も含めた在庫管理は時代の省力化の流れに則したオートメーション化も全国の営業所で順次進められています。しかし、例えば商品の配送先のお客様(主に販売店)がアナログ対応だった場合などは、やはりデジタルだけでは対応しきれないといった現実もある。地域ごとのお客様の特性や要望に合わせた適切なサービスを提供することが私たち販売会社の大切な役割です。YOKOHAMAとして製品をお客様にお渡しする際の最後の出口となるのが自分たちなのだという意識をもって、そこに最大限の注意と配慮を払って業務に取り組んでいこうと常々考えています」

タイヤは2万点以上あるとされる自動車の構成部品の中にあって、唯一路面と接している、それはまさしく乗る人の安全に直結した重要な部品である。YOKOHAMAのタイヤ製品ラインナップにおいても当然、ADVANブランドに代表されるグローバルな高性能を標榜したフラッグシップ系のタイヤのみならず、より多くの人々の日常生活を支えるエコタイヤや商用タイヤ、さらには流通インフラの要となる大型車両用タイヤなどにも、それを履くユーザー1人ひとりの大切な営み(=命)を預かるという絶対的な使命がある。

以前に横浜ゴム新城工場を訪れた際に聞いた現場の“職人”たちの声を思い出す。

「効率的にオートメーション化された製造ラインのインフラを構築しても、それを動かすのはあくまで人間です。私たちはだから良い意味で、機械を信用し過ぎない。人の命を預かるタイヤはあくまで人が作るという信念は、この先の時代にも受け継がれていくと思います」

DX(デジタルトランスフォーメション)化の波が急速に押し寄せている昨今のトレンドにあって、企業としてさらなる高効率を求めてオートメーション化を各所で整え導入していくのは当然の流れでもある。

しかし、だからといってすべてを機械任せにすることはしない。なぜならものづくりとは本来、“人”が“人々”の生活をより豊かなものとするために長い歳月をかけて真摯に、何よりそこに想いを込めて向き合い形にしてきた、掛け替えのない“営みの術”なのだから。

沼津営業所でYOKOHAMAの多種多様なタイヤ製品と汗だくになって向き合うスタッフたちの姿に触れて何より印象的だったのは、タイヤに対する“責任”をそれぞれが強く意識していたことである。丁寧な製品の扱いや正確な仕分けはもちろん、それはどこか言葉では表しにくい、いわば愛情にも似た確かな体温のようなものが、そこには感じ取れた気がする。

「ユーザーの安全に直結するタイヤ製品には、万が一はあってはいけません。それでも、ときに万が一は起こり得るという危機意識をもって、私たちは日々入出荷されるタイヤ製品と向き合っています。直接目で見て手で触れることで、もし万が一のことがあった場合でもすぐに発見し対処ができる。お客様に信頼されるタイヤづくりの最後の関門を担う以上、お客様に間違いのない製品をお渡しできることこそが、私たちの何よりの喜びとなるのです」

そう言って微笑む三枝の表情には、強い責任感と確かな誇りが漲っていた。

後編へ続く

YTJ沼津営業所

後編を読む

いいね