Life with YOKOHAMA

タイヤが支える人々の営み―
YTJ沼津営業所の日常に見た
“責任”と“誇り”の在り処 / 後篇

2022.8.23

現場にこそ真実が宿る――これはどの世界にも当てはまる格言だが、タイヤ製品の販売・管理の業務においても現場にこそ真実の姿が見えるのは確かだろう。その真実の姿に直に触れるべく、ヨコハマタイヤジャパン(YTJ)沼津営業所の日常に密着取材を試みた。ユーザーにYOKOHAMA製品を確かな形で届けるべく日々業務に邁進する現場スタッフたち、さらにはその先につながる販売店の経営者たちの言葉から感じ取る“YOKOHAMAの真の姿”を、前・後篇を通してレポートする。/後篇

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:真壁敦史 / Atsushi Makabe

前編を読む

YTJ沼津営業所

人とタイヤとの距離感
それが大切なのです

「YOKOHAMAさんはウチの店からだと他社さんと比べていちばん(営業所まで)距離があるけれど、関係性というか、人との距離感というか、そういった部分では不思議といちばん近いと常々感じていますよ」

朗らかな笑顔でそう話すのは国道1号線(通称:沼津バイパス)沿いで「株式会社キムラタイヤ」を営む木村正己さん。父親である先代の時代から数えると、YOKOHAMAとはもう60年近い付き合いになるという老舗タイヤ販売店のオーナーである。

「製品で言えばYOKOHAMAよりピシッとしているものは他社にもある。でもね、不思議とそこには人間臭さを感じない。ものに対して人間臭さというのもおかしな話ですけれど、タイヤってすごい点数で構成されているクルマの部品の中でも唯一路面と接しているいちばん大切な存在でしょう。命にも関わるものだし、走ったときの気持ちよさだってタイヤ次第で大きく左右されてしまう。
これは私の主観だけれど、温かさや柔らかさというのかな、そういう生きた感触がYOKOHAMAのタイヤにはよく現れていると思うんです。必要以上にピシッとし過ぎてないというか、人とタイヤとの距離感が近いというか。それは製品を取り扱う営業さんの人柄まで含めて、昔から変わらないYOKOHAMAの良きキャラクターだと思いますよ」

木村さんはレース活動も含めたサーキット走行を本格的に嗜み、かつては富士スピードウェイのショートコースを舞台に独自の走行会も積極的に開催していたという。そして今でもサスペンションなどのチューニング指南もショップとして行っている、根っからの走り好きだ。

老舗のタイヤ販売店であり、チューニング系パーツなども取り扱うプロショップでもあるキムラタイヤ。店内には懐かしいADVANのノベルティなどが多数飾られている。写真は富士スピードウェイで行われていた「ADVANスクール」のステッカー。とても綺麗な状態で保管されている。

「今ではすっかり少数派になってしまいましたけれど、クルマ、特にMTのスポーツカーは何より走って楽しいものです。人とクルマが向き合うという意味でも本当に奥が深い。いまどきの安楽なAT車だとクルマとの対話なんてほとんどできないでしょう。
そうなってくると当然、タイヤの本当の大切さにも気づけない。パンクしましたって店に来るお客さんのタイヤを見たら、ゴムがもう完全に擦り切れてワイヤーが出てしまっているなんてこともある。便利な世の中になってクルマも自動で走る時代。でも、タイヤはあくまで昔と変わらず、人がきちんと管理してあげないと本来の性能は担保できません」

「そういう部分を改めて教えてあげられるような環境を、YOKOHAMAさんには作ってほしい」と木村さん。かつて富士スピードウェイで開催されていた『ADVANスクール』のようなプロによるドライビングレッスンを復活させてほしいと言う。

「それこそあの頃みたいに1万円くらいの参加料でプロが1日教えてくれたら若い世代や女性なんかも参加しやすくて、なお楽しいでしょうね。なにも目を三角にして走る必要はないんです。日常においてもタイヤときちんと対話して走ることの楽しさや意義が伝わればね、もうそれで十分」

そう言ってまた朗らかに笑う木村さんの言葉の中には、タイヤという存在がクルマと人との関係性をより豊かにするためのひとつの有効な“媒体”なのだという、今では多くの人が忘れ去ってしまったひとつの真理のようなものが込められていた気がした。

倉庫スペースには膨大な量の往年の走り系ビデオマガジン(VHS!)がコレクションされていて驚かされる。木村さんはかつてトヨタ自動車の東富士研究所に勤務していたという生粋の技術者肌でもある。

リスペクトローカル
地域に密着したつながり

株式会社ヨコハマタイヤジャパン(YTJ)静岡カンパニーが運営する沼津営業所がカバーする営業エリアは広い。沼津、三島エリアはもとより伊豆半島もそのすべてのエリアをカバーしている。

静岡県の東端部に位置し、南に約50kmに渡って突き出した格好となる伊豆半島は北部を除くとその大部分が山地で平坦地は少ない。入り組んだ山道を走っての配送業務は決して楽なものではないはずだが、沼津営業所は限られた人員ながら今も半島の隅々まで自ら製品を届けることにこだわりを貫いているという。

沼津営業所の所長を務める小林泰友が伊豆半島のディープでリアルなタイヤ販売店の現場を案内してくれた。

戸田港を眼前に臨む素晴らしいロケーションにある戸田SS / 戸田漁業協同組合。給油サービスはもとよりタイヤの販売やメンテナンス、その他、地域の人々の営みに寄り添ったサービスを日々提供している。

伊豆半島の西側の付け根に位置する戸田(へだ)地区は緩やかな時の流れが心地よい、風情漂う昔ながらの港町だった。駿河湾に向けて特徴的な形で伸びる(小さな半島のようだ)御浜岬に囲まれた戸田港に面した一軒のガソリンスタンド。戸田漁業協同組合が運営するそこは飾り気こそないが、地元の生活に密着した確かな活気が感じられた。

「観光の人が給油に寄ることはあっても、タイヤを求めてやって来る通りすがりのお客さんというのはいませんよ。ここには国道なんて通っていないし、山道の県道を抜けてくるしかないような場所ですからね。だからしっかりと地域に寄り添った商売をしないとものだって売れません」

海の男らしくよく日に焼けた精悍な表情でそう話すのは、戸田漁業協同組合 石油課 課長を務める水口敬一さんである。

漁船などの船舶用の燃料販売をメインにガソリンスタンドの運営やタイヤの販売などを手掛けている。そのすべてはそこに暮らす人々の日常の営みに寄り添うものばかりだ。

歯に衣を着せないストレートな物言いが信条の戸田漁協の水口さん。常にお客さん目線を忘れない、ユーザーに寄り添ったビジネス哲学をもつ人物である。タイヤに対する知識もかなりのものがあるが、難しい言葉や数字は敢えて使わずに、誰にもわかりやすくタイヤの本質を伝えることを大切にしている。

「全国版のタイヤのパンフレットにスペックがどうのこうのと難しいことを書き並べたってお客さんにはわからないし、伝わらない。だって、その地域ごとの環境によってタイヤの使われ方はそれぞれ違うわけでしょ? この場所でいえば戸田の山道で日常的に試してみない限りは本当のところはわからない。 山道ではね、女性のドライバーの方が減速せずにカーブでも突っ込み過ぎたりするから、アンダー出してアウト側がどんどん減るんです。逆に地形的に勾配のある駐車場も多いからそういう場所で据切りなんかを繰り返せば、今度はイン側がみるみる減ってくる。
環境なんですよ、すべては。お客さんがどういう環境でタイヤを使っているか、売っている側の人間がきちんと把握してそこに寄り添って商売をしないとダメなんです」

戸田SSの日常は、まさしく地域住民の日常を支えるための機能として徹している。パンク修理はもとより、自転車のタイヤの空気圧チェックなど、地域の人々の営みに日々寄り添い続けている。

このエリアでは以前はYOKOHAMAよりも他社のシェアの方が多かったという。しかし、時の流れの中で他社製品よりも山道でのバランス、すなわちタイヤのアウト側とイン側の強さのバランスがいちばん優れているのがYOKOHAMAの製品という結論に達したことから、水口さんは今では地域のユーザーにYOKOHAMAを薦めることが多いのだという。

「当たり前だけれどお客さんのための商売ですからね。この場所の生活環境にいちばん合ったものを推す。他社の製品の方が山道に強くなったら、だから躊躇なくそちらを推します。都会の平坦な道でなら長くもったとしても、山道が日常の環境では同じものでも半年しかもたないことの方が多い。お客さんにはそういうこともきちんとわかりやすく伝えます。ローテーションも必要なタイミングできちんとすることを薦めるし、とにかく少しでも長く使ってもらうことを考える。
商売だけで見たら早めにバンバン買い換えてもらった方がよいと考えるのが普通でしょうけど、田舎ではね、何より固定客を相手に商売をしないと続かない。だからこそ、少しでもお客さんの負担にならないような長く使えるものを推す。結局はね、人と人との信頼関係の上にこそ商売というのは成り立つものだと、僕は思っています」

一時的な儲けよりも長く続く信頼――利益効率や販売ノルマといった数値だけで左右されるようなドライなビジネスは少なくともここでは通用しないと、水口さんは言う。

水口さんは人口1000人ほどのこのエリアで年に500本ものタイヤをコンスタントに販売(写真は目標達成を称えたトロフィーの数々)する。生活に密接に関わる製品を扱うという考えを貫き、値段に関しても儲けを度外視した設定をするなど地域に還元する努力を常にしているという。

「値段だってそうです。交通の便の悪い半島だから輸送代だって手間だってかかります。でも、だからといってそれをそのまま販売価格に乗せてしまったらお客さんの負担にばかりなる。僕はだから仕入れ値の交渉も徹底的にやる。ときには利益を度外視してでも値段を抑える。日々の営みに必要なものを扱っているというプライドがありますからね。 YOKOHAMAはそういう面でも柔軟に対応してくれるところがあります。仕事でなくても定期的に様子を伺いに営業の人が立ち寄ってくれるし、こちらからの要望にも現場の判断でダイレクトに応えてくれる。『持ち帰って上に相談します』っていうのがないのがいい(笑)。大切なのは“Win Win”の関係なんですよ。売りっぱなしで自分たちの利益しか考えないようだとその先の関係はつながっていかない。田舎には持ちつ持たれつ、互いに助け合って暮らしをつないでいくという習慣がきちんと残っている。古いって言う人もいるだろうけれど、それが変わらない現実なんです」

水口さんには人口1000人ほどのこのエリアで、毎年500本ものタイヤを売ってきたという実績がある。大きな国道もない、だから飛び込みの客なども見込めないこの場所で、地域の顧客たちと真剣に向き合いそこに揺るぎない信頼関係を築き上げながら、人々の営みをずっと支え続けてきたのだ。

自転車のタイヤの空気を入れにふらっと立ち寄った地元のお客さんを、まるで家族のように飾り気のない表情で迎え入れる水口さんの姿を眺めながら、“寄り添う”ということの本当の意味を改めて学ばせてもらった。

必要とされる以上は
それに応え続けたいですよね

西伊豆を後にして向かった先は半島の東側、伊東だった。山を越え修善寺の温泉郷を抜けてまた山を越えていく。伊豆半島の移動はまさに山越えの連続だということを実感する。かつては沼津営業所だけではなく伊東や下田などにも営業所があったというが、時代の流れとともにそれらも統合され現在に至っている。さらには地域にあったタイヤの販売店も、後継者の問題などで今では店を畳んでしまったものも少なくはないという。

海岸のすぐそばに建つ自宅ガレージを活用した「タイヤサービス日吉」のショップスペース。城ヶ崎地区を中心に日々の業務を行っている。日吉さんはかつてあったYTJ伊東営業所の社員だったという、生粋の“YOKOHAMAマン”だ。

「私はもともと伊東営業所で勤務していましたが撤退を機に独立して、地域のお客さんを引き継がせてもらって今はプライベーター的な立ち位置で仕事をしています」

観光スポットの多い風光明媚な城ヶ崎海岸の一帯に顧客をもつ「タイヤサービス日吉」の日吉淑泰さんは、「こんなところで驚いたでしょ?」と笑いながら自宅前のガレージを活用したショップスペースで出迎えてくれた。すぐ近くで潮騒の音が聞こえる、まるで秘密の隠れ家のような最高のロケーションである。

「荷台でタイヤの交換作業もできるトラックがあるので出張サービスもしています。地元の皆さんとの深いつながりがあって成り立っている仕事です。この辺りは別荘も多いですけれど、地元の方の紹介などでお見えになるお客さんもいますね。クルマはタイヤがないと走れませんから、たとえそれがどこであっても、必要なときにサポートが受けられる体制があることは喜んでいただけますね」

日吉さんは専用のタイヤ作業車で出張サービスも行いながら、タイヤを通して地域の人々の生活を支えている。

若い頃からクルマが好きでType D(レーシング直系のパターンデザインが人気だったADVANの伝説的なスポーツタイヤ)を履くのが夢だったという日吉さんは、そのType Dを実際に手に入れたものの「履いたら3ヶ月で溝もお金もなくなった」と当時を振り返って笑う。

それは人を自然と笑顔にさせる、天性の明るさを感じさせる人柄だと思えた。

「そこはYOKOHAMAと一緒なんですよ! ブランド力は1番ではなくても人柄はよい(笑)」

そう言って再び大笑いする日吉さんだが、地域におけるタイヤ販売やサービス体制のこれからのことに話が及ぶと、一転して真面目な表情でこう答えるのだった。

「いちばん大きいのは後継者の問題でしょうね。私らが元気でいられる内はやり続けますけれど、10年単位で先を見たら考えさせられる部分もある。ただ、考えてばかりいても仕方がないですからね。ちなみに私の息子は横浜ゴムの三島工場に勤めています。タイヤが好きで、何よりそこに誇りをもって仕事をしている。嬉しいですよね。
タイヤは人間の日常生活の中で育てられているんだと、私なんかは思うわけです。クルマが主体の生活をする地域ですからね、タイヤという存在も不可欠なんです。だから必要とされる以上は、それに応え続けたい。そこは沼津の営業所の皆さんも同じ想いでしょう。YOKOHAMAらしい人柄の良さで、これからもこの地域の生活をしっかりタイヤで支えていってくれると信じていますよ!」

タイヤは人々の生活を支える大切な道具だからこそ、それを扱う人たちもまた、互いに責任感と誇りを共有しながら信頼関係を築いている。沼津営業所の小林所長(写真左)と日吉さんとの満面の笑顔の2ショットを眺めながら、そこに確たる信頼の絆を感じた。

今回、YTJ沼津営業所の日常に密着してみて、改めて確信したことがある。

それは、タイヤという存在は人間の日々の営みの中に深く溶け込んだ、まさに掛け替えのない大切な道具なのだということ。

そして同時に、その大切な道具を人々の生活の中に想いを込めて届け続けている人たちがいることも、心に強く残った。人の営みを支える責任感と誇り――それがある限り、これからもタイヤは豊かな日常を支える存在であり続けることだろう。

(了)

前編を読む

YTJ沼津営業所

いいね

Photo Gallery31枚

  • .