Race Report

FORMULA DRIFT® JAPAN RD.6
最終戦で見えた進化のカタチ。

2022.11.24

“新時代の最強”を謳うハイグリップストリートラジアル「NEOVA AD09」を履いて「FORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)」の2022年シーズンに挑んできたYOKOHAMA / ADVANアスリートたち。迎えた最終戦RD.6は世界に名だたるハイスピード国際サーキット「富士スピードウェイ」が舞台となった。エンターテイメント大国アメリカ仕込みの“魅せるドリフト”で競い合うFDJにおいて、YOKOHAMA / ADVANアスリートたちはそれぞれ納得のいく有終の美を飾ることができたのだろうか? 見事な秋晴れに恵まれた富士を駆け抜けたトップドリフターたちの想いに迫る。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada
Photography:田村 翔 / Sho Tamura

“新星”から“ヒーロー”へ――
確かな進化を見せた2022シーズン

「ワンモアタイム(再審査)での後追いはタイヤのエアも抜いてターボのブーストも上げてもらって攻めの姿勢で行きました。でも、インクリップでラインが外に流れてゾーン3では完全に煙の中に入ってしまって、最後は先行の高橋選手のBMWに思うように自分のマシンを近づけることができませんでした。僕のミスです。まだまだ経験が足りないなって思いました」

「FORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)」の2022年シーズン最終戦となったRD.6富士。4台のエントリーとなったYOKOHAMA / ADVAN勢の中で唯一「GREAT8(TOP8)」に勝ち進んだ箕輪大也(#771 / Team Cusco Racing / GRヤリス)は惜しくもセミファイナルに進むことなくTOP8で敗退すると、ピットに戻り13歳の少年とは思えない実に冷静な分析で自身の走りをそう振り返った。

前日金曜日の予選単走から箕輪の走りは冴え渡っていた。“若干13歳、まだ中学1年生のプロドリフトレーサー”という枕詞ばかりが先行しがちな箕輪だが、コースサイドから見るその走りは猛者揃いのトップドリフターたちの中にあっても明らかに光る何かを感じさせるものがあった。前戦RD.5岡山では誰もが驚く単走優勝を事もなげに果たし、自身、「走りに自信がつきました」と言う通り、箕輪の繰り出すドリフトは堂に入った、何よりマシンとの一体感を感じさせるまさに“一級”の走りとして映るものだった。もちろんそれは結果にも現れるものであって、YOKOHAMA / ADVAN勢のトップとなる全体(55台がエントリー)の7番手(93Point)で最終戦富士の予選単走を通過している。

「今回からタイヤのサイズ選択に幅ができて、リヤをこれまでの275(275/35R19)から285(285/35R19)に変えたことでとても安定感が増しました。富士は世界的に有名なハイスピードコースですし、実際に走るのは初めてでしたけれど思い切って走れたことは良い経験になっています。単走と先行はどちらも安定してきたのでやはり後追いでの感覚をもっともっと経験を積んで高めていきたい。チームがクルマを常に良い状態に仕上げてくれて、素晴らしい環境を整えて走らせてもらえていることに感謝しています」

そのコメントもまさにプロフェッショナルなものであり、彼自身の中でチームとの一体感を感じられていることへの揺るぎない信頼があるからこその言葉だとも感じられた。

“13歳の中学1年生”という枕詞はもはや箕輪大也というドライバーには必要ない。ルーキーイヤーとなったFDJ2022シーズンで誰もが認める成長を見せ、その先の結果までを確実に積み上げてきた。彼はもはや正真正銘の“トップドリフター”であり、日本だけではなくいずれ世界に向けて羽ばたくと熱く期待させてくれる、まさにひとりの“ヒーロー”としての道のりを着実に歩んでいるのだと思えた。

ステップアップの幅がある
それがFDJの醍醐味

「ヒロは最終戦でも活躍したけど僕は予選落ちしちゃって……なんだか取材してもらうのが申し訳ないです」と、どこか憎めない表情で苦笑するのは箕輪のチームメイトでもある金田義健(#770 / Team Cusco Racing / Cusco GR86)である。ドリフト競技に長年挑んで来たベテランだがFDJには今シーンズから上がったばかりのルーキーでもある。

「やはりFDJはFDJ2と比べたら景色が全然違う。FDJ2は参加するドライバーのレベルもどこかまちまちなところがあるけれどFDJはもう圧倒的に平均レベルが高い。正直、僕なんかはFDJ2ではチーム(Team Cusco Racing)の総合力というかマシンのアドバンテージに助けられていた部分も多分にあったんだなって、FDJに上がった今シーズンは思い知らされるところがありましたね」

ちょっとしたミスであっさりと敗退してしまうのがトップクラスの猛者たちが集うFDJの怖さであり、そしてそれが何よりの面白さだと、金田は続ける。

「走らせ方で言ったらすべて一緒なんです。そこはFDJもFDJ2も変わらない。だからこそ、もっと上に行くにはやはりどれだけ経験を積んだかが効いてくる。そして、FDJにはその経験を積んだドライバーたちが常に集まっている、ってことなんです。
ドリフトってどこか豪快にアクセルを踏み込んでいくイメージが強いですけど、実は抜くことの方が難しいんです。単に踏み抜くんではなくて、踏んだ先にどれだけアクセルを上手に抜きながらマシンをコントロールすることができるか――だからこそタイヤの存在ってものすごく大切。今回からYOKOHAMAさんがADVAN NEOVA AD09にサイズ選択の幅を増やしてくれて285サイズをリヤに履いてみたんですが、練習の1回目だけ従来の275を履いて走った印象と比べるともう驚くほど安定感が違う。100Rのゾーン1への飛び出しの時点でタイヤが喰ってくれるから思い切り行ってもその後の抜き加減(アクセルコントロール)が抜群にしやすくなる。そうなるとフロントに舵角を入れた際の初期レスポンスもこれまでよりさらにシャープな印象になるから面白い。こういう経験を自分自身の進化として身に付けていけるのがドリフトの、何よりステップアップの幅があるFDJシリーズの魅力であり醍醐味なんじゃないかなって。だから今シーズンに得た経験と、もちろん悔しさもバネにして、来シーズンは優勝を目指してさらに進化していきたいですね」

自分自身が楽しむこと
それがエンターテイメントの本質

「前回の岡山では決勝2位まで上がれたのでこの富士でも期待する気持ちで来ましたけれど、今回は僕自身の調子がイマイチなところがあって。でもチームが用意してくれたマシンは本当に調子が良いですし、今シーズン最後のレースですから決勝は思い切って、あとはやはりしっかり自分自身が楽しむことを忘れずに走りたいですね」

アメリカ本国の「FORMULA DRIFT®️」と日本のFDJとの掛け持ちでエントリーするケングシ(Team Kazama with powervehicles / Moty’s LEXUS RC VR4.3)の予選単走後のコメントである。週末のレースのためだけに主戦場であるアメリカと日本とを行き来し、双方のレースで結果を残していくには何よりタフな精神力が要求されることが想像できる。

「確かにタフな面もあるけれど、僕としてはアメリカと日本でダブルエントリーした分、レースで走れる回数が増えたことが大きかったシーズンでしたね。やはり経験は積んだ分だけ上手くなるし結果にも繋がるものです。FDJは初めてのコースばかりでチャレンジングな面も多かったですけれど、そういう部分も含めて、とにかくまず自分自身が楽しむことを大切にして走りましたね」

アメリカ仕込みのエンターテイメント精神――まさに“魅せるドリフト”にこだわるケングシらしい言葉である。TOP16の先行ではハイパワーなビッグマシンらしく圧倒的なタイヤスモークを巻き上げながら後追いの高橋和巳(#36 / TMS RACING TEAM SAILUN TIRE / BMW-E92)を飛び出しから引き離し、最後は白熱したサイドバイサイドでオーディエンスを大いに沸かしたのだった。

「続く追走はインクリップでちょっと失敗してしまって高橋選手のマシンに寄せることができませんでした。残念だけれど彼のBMWは本当に速かった(※決勝優勝は高橋選手が獲得)。いろんなタイプのマシンやドライバーと戦えるのもFDJの楽しさです。オーディエンスはまだアメリカの盛り上がりには達していないかもしれないけれど、YouTubeのLIVE配信などは世界的にも盛り上がりを見せている。僕らがもっともっと楽しんでよりエキサイティングな走りを見せてファンの気持ちを掴み取っていきたいですね」

世界のDAIGO――
秘めた闘志の向かう先

「僕自身は最終戦で本調子の走りをもっと見せたかった。でも、チームメイトの北斗がシリーズチャンピオンを決めてくれたことがまず何より嬉しい。ヒロもどんどん成長しているし、次の世代が力をつけてきていることは素直に喜びたい」

齋藤太吾(#87 / TMAR / GR86)のFDJ2022シーズンは決して満足のいくものではなかったのだと思う。度重なるマシンの不調や不運なアクシデントに見舞われ、自身初のフル参戦となったFDJシーズンはどこか歯車の噛み合わない部分が目立つものだった。

それでもRD.2での単走優勝、RD.4での単走2位&決勝準優勝など“世界のDAIGO”らしい圧倒的なランを所々で見せつけ最終戦富士にはポイントランキング5位で乗り込んだ。チームメイトであり齋藤自身が魂込めて組み上げたマシンを駆るランキングトップの松山北斗(#10 / TMAR / GR86)とは55Point差。僅かではあっても大逆転のチャンスはある。

しかし、最終戦でも齋藤のGR86は再びトラブルを抱えてしまった。練習走行も満足にできずに臨んだ予選単走は持ち前のダイナミックなランこそ披露できなかったものの世界級のテクニックを駆使して通過。ただ残念ながら翌土曜の決勝トーナメントではTOP32で早々と敗退を喫してしまうのだった。

「来シーズンはもっと調子の良いところを見せたいし、次の世代ともよりレベルの高い戦いがしたいと思ってます」

齋藤の口数は相変わらず少ないものだった。しかし、彼のその真っ直ぐな眼差しの奥には確かな、何より強い闘志が見て取れた気がする。

FDJ2022はどこかで世代交代を感じさせるシーズンでもあったが、その実、選手層の厚みがさらに増したと受け取るのが正解のように感じる充実したシーズンでもあった。

2023年シーズンはより幅の広い層がエントリーできるFDJ3がFDJ、FDJ2の下に新設されることが発表されている。YOKOHAMA / ADVANはこのFDJ3にAPEX V601(エイペックス・ブイロクマルイチ)をワンメイク供給することを決定。より多くの層にドリフトという日本が生んだエキサイティングなモータースポーツを楽しんでほしいとの想いを込めて、同カテゴリーをこの新しいタイヤでフルサポートしていく。

Grip the soul – 魂を掴み取る。

来シーズンもYOKOHAMA / ADVANアスリートたちのさらなる躍進と、また新たな“星”がドリフトシーンに現れることに期待したい。

(了)

Special Thanks
FORMULA DRIFT® JAPAN
https://formulad.jp

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