Race Report

FORMULA DRIFT® JAPAN
ROUND.5
岡国に差した希望の光。

2022.10.12

モータースポーツシーズンもいよいよ佳境。2022年10月8日・9日、「 FORMULA DRIFT® JAPAN ROUND.5」が開催された。ADVAN NEOVA AD09 を履いた4台のマシンは、著しい天候の変化の中、WET/DRYが混在する路面をものともせず、岡山国際サーキットを駆け抜けた。そして今回、ドリフト界に新たな歴史が刻まれることとなった。最終戦を目前に控え、差し込んできた希望の光。ADVANアスリートたちの活躍に迫る。

Words/ Photography:真壁敦史 Atsushi Makabe

それはまさに下克上
13歳の新星が成し遂げた偉業

「 練習は主にシミュレーターでやっています。得意なコースは岡山国際サーキットですね 」

表彰台の中央に立つ箕輪大也を見ていると、 ROUND.4奥伊吹戦で、箕輪がふと口にしていた言葉が脳裏をよぎった。

得意といってもコンピュータの中の世界だ。マシンの挙動を全身で感じることもなければ、クラッシュをして怪我をする危険もない。ドリフト黎明期から何台ものマシンを潰して腕を磨いてきたベテランたちは、そんなゲームなんて役に立つはずがないと思うかもしれない。

しかし13歳の少年はそんなドリフト界の既成概念を覆した。

ドリフト歴数十年の経験を持つ何人ものベテランドライバーを差し置いて、単走優勝を果たしたのだ。

e-モータースポーツをはじめ、ゲームのプロスポーツ化が進む昨今、バーチャル空間で腕を磨く選手が、現実世界でも、ドリフトの歴史を築き上げてきた選手に勝利したことは、新たな時代の幕開けとなることを予感させる。

チームクスコレーシング GR YARISを操り、単走では1位という功績をあげるが、追走ではケングシに敗れ、RD.5はTOP8という結果に終わった箕輪。

しかし、「追走で順位をあげることができなかったのは残念ですが、岡山国際サーキットは距離が長く振り返しも多いので、とにかく楽しかったです」と、最も好きなサーキットで走ることができたことを興奮気味に振り返った。

「 若くて無垢だからこそ、余計な恐怖心がなくて思い切った走りができるんじゃないかと思います。視覚的な情報はシミュレーターから学び、体感しなければわからない部分はお父さんや周りの選手から学んでるんじゃないかな。お父さん ( 箕輪慎治はFDJシリーズチャンピオン経験もあるプロドリフト選手) のスポッターとしてのアドバイスの的確さも凄いし、それを見事に実行できるヒロの柔軟性と反射神経は本当に凄いと思いますね」

と話すのは箕輪と同じチームクスコレーシングの金田義健だ。

徐々にGR86との歩調も揃ってきたという金田だが、今回はドライブシャフトの破断により敢えなく予選敗退となってしまった。チームクスコレーシングのムードメーカー的存在の金田は次戦に向けてポジティブ思考で意気込んだ。

そこで箕輪慎治に話を聞くと、彼が謙遜まじりに讃えた相手は、古くから家族ぐるみで深い親交のある、あの男だった。

「3週連続で週末に特訓してくれて、本当に感謝しています。僕がアドバイスするよりも説得力が違うし、ほんの一言でヒロの走りが雲泥の差で良くなるから、本当に凄いです」

箕輪が単走優勝を果たした、その影の立役者は齋藤太吾であった。

齋藤は自身のFFR(ファットファイブレーシング)ガレージ近くに、テーマパーク並みのショールームがジムカーナ場を取り囲む、愛称 “ FFRランド ”を保有しており、毎週末バーベキュー大会を開催しているそうだ。

そして、その傍らで、ドリフトトレーニングを行っている。箕輪はその機会に齋藤からの直々のトレーニングを受けていた。

「なんにもないところでパイロンだけ並べて走ったって感覚は掴めないよ。やっぱり本番の緊張感を作り出さないと」

そのドリフトトレーニングでは、齋藤のこだわりと工夫が詰まったレイアウトでコンクリートウォールを並べ、できる限り本番の状況と緊張感を再現した中で、どれだけリヤをギリギリまで近づけてドリフトできるかという点を極めているそうだ。

無論、接触したら身体には衝撃が伝わるし、練習用のロードスターは瞬く間に壊れていく。シミュレーターでは培えない点だ。

「一口で“ギリギリ”といっても人によってその感覚が違うでしょ。もっと限界は先にあるって感覚を伝えたい」と齋藤は語る。

箕輪の単走優勝の影には、シミュレーターを使用した次世代トレーニングの他、築き上げてきたモノを次の世代へと伝承する、箕輪慎治、齋藤太吾をはじめとする“ファミリー”の熱く、暖かな支えがあったのかもしれない。

TMAR 齋藤太吾は、練習走行時からマシンの調子が振るわず、エンジン積み替えを行う他、クラッチ故障、コンピュータのセッティングの不調により、無念にもTOP8という結果に終わってしまった。

“超絶技巧”ケングシ
NEOVA AD09のウェット性能が煌る

徐々に冬を予感させる気候に移り変わってきた10月。練習走行が行われた金曜日は冷たい雨が降っていた。練習走行開始となる午後にタイミングを合わせたかのように雨は止み、各チーム路面が乾くまで待機する様子が見られた。

路面は乾きはじめた部分と水が残る部分が混在し、最も難易度が高い状況だ。出走する車両がまばらに現れ始めるが、1回転どころのスピンで収まらないほどの荒れ模様で、まともに走行できる状態ではなかった。

しかし、そんな中でもTeam kazama with Powervehicles からMoty’s LEXUS RC VR4.3で挑むケングシは、優れた反射神経で、常に車両の状態を敏感に捉え繊細にコントロールすることによって見事に走りこなしていた。

土曜日の単走では晴れ間が見え、ドライコンディションでの走行を難なくこなし、予選突破。日曜日は基本雨模様で、午後は完全にウェットでの追走となった。

ケングシは、スケートリンクのようにトラクションの少ない路面を、またもや抜群のコントロール力でマシンを繊細に操り、トーナメントを猛進した。

そして遂に決勝戦まで登り詰めたケングシ。相手はGOODRIDE MOTORSPORTS GR YARISを操る益山 航だ。

両者ともにハイレベルな追走を繰り広げ、コントロールのかなり難しいヘヴィウェットでのコンディションの中、ケングシはコンクリートウォールにリヤを擦り付ける程の攻めの走りをするが、惜しくもわずかな差で益山に敗れた。

しかし、2位というYOKOHAMA/ADVANとして今季最高タイの順位を刻んだのだ。

「ADVAN NEOVA AD09は本当にウェット性能が高いので、安定したコントロールができました。マシンの調子もとても良かったですが、惜しかったです」とケングシは振り返った。

次回は、遂に最終戦。

日本を代表する国際レーシングコース「富士スピードウェイ」ではどんな戦いが繰り広げられるだろうか。ADVANアスリートたちのさらなる躍進に期待したい。

(了)

(文中敬称略)

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