Race Report

FORMULA DRIFT®︎ JAPAN
ROUND.3
灼熱のSUGOラウンド―
苦難の先に見えた光明。

2022.8.4

2022年7月30日(土)/ 31日(日)、宮城県「スポーツランドSUGO」にて、「FORMULA DRIFT®︎ JAPAN ROUND.3」が開催された。“魔物が潜む”と言われるほどのテクニカルなFIA公認国際レーシングコースを舞台に、5人のドリフターの足元を支える「ADVAN NEOVA AD09」は灼熱の太陽に照らされた高温のアスファルトのハイスピードコーナーでも音を上げることなく駆け抜けた。今シーズンの折り返し地点に差し掛かるROUND.3。果たしてYOKOHAMA / ADVAN勢はこれまで以上の戦果を上げることができたのか? そのリアルをレポートする。

Words/ Photography:真壁敦史 Atsushi Makabe

3度目の開催となるFDJ / SUGO戦
そこに魔物は潜んでいたのか?

レース史に残る悲喜交々のアクシデントや名勝負を生み出し、レース関係者の間では“魔物が潜む”と真顔で囁かれる「スポーツランドSUGO」。丘陵地帯に造成され、最終コーナーからホームストレートにかけての標高差73mもの上り坂の勾配は目を見張るものがある。

国際自動車連盟(FIA)により国際レーシングコースとして認定されているスポーツランドSUGOだが、「FORMULA DRIFT®︎ JAPAN ROUND.3」では過去2回のFDJ開催と同様に、レーシングコースの1stコーナーから3rdコーナーにかけての区間が競技エリアに設定された。このコースが設計された当時に、この場所でドリフト競技が行われるとは誰ひとりとして想定しなかったであろう。ゾーンも恒例のアメリカンスタイル、全てアウト側だ。

主にフォーミュラカーやツーリングカーレースが行われるサーキットということもあり、これまでFDJが開催された鈴鹿ツインサーキットやエビスサーキット西コースとは異なる攻め方が要求される。

スタート地点から1stコーナーまでは助走距離が短く、すぐに直角コーナーが待ち受ける。そしてそのまま長い直線を駆け抜けた後、再び現れる直角コーナーと、コーナー間の直線距離が長く、スタートをするや否や矢継ぎ早にシフトアップし、スピードを乗せなくては良好なドリフト状態を維持して走り切ることができないのだ。

通常のサーキット走行ではトップクラスの優れたグリップ性能を発揮する「ADVAN NEOVA AD09」。それはドリフト走行時においても劣ることはなく、操縦性の良さはもちろん、スタート時にハイパワーマシンの駆動力を無駄なく路面に伝達することができ、今回のようなスタートダッシュが不可欠となるコースでは、AD09のその優れたグリップ性能が特に強みになると事前に想像できた。

文字通り猛暑のSUGO
苦難も多く待ち受けていた

例年以上の“猛暑”に見舞われたSUGO。それはまさに身の危険を感じるほどの灼熱の炎天下での開催となった。路面はもはや触ることもできない猛烈な熱さである。

とはいえ今シーズンも折り返し地点に差し掛かり、マシンとの呼吸も徐々に揃ってきたことは好材料としても映った。その印象の通り、「TRAIL MOTOR APEX RACING -TMAR-」から参戦する齋藤太吾は練習走行において、これまで以上の圧巻の走りを披露して会場を沸かせた。

予選一本目。例の如く、獲物に襲いかかるモンスターのような迫力の加速を見せつけたかと思うと素早くシフトアップをして1stコーナーに進入。そしてすぐさまドリフトアングルに持ち込んでスロットルが全開になった瞬間、辺りは一瞬にして無情なほどの静けさに包まれたのだった。

痛恨のエンジンブロー。

エンジンが再び始動することは叶わず、そのまま惰性でSUGOの下り坂を音もなく過ぎ去っていく齋藤のマシン。ピットに戻り復旧を試みるもエンジンテンショナーのプーリーが折れ復旧することは難しく、齋藤のROUND.3はそのまま幕を閉じた。

練習走行から一切妥協せず常に100%で踏み抜く齋藤だが、本番ではさらに120%の気迫で“勝利”という名の獲物に襲い掛かったのである。

「いつも『これで戦える』というところまでマシンを仕上げているつもりなんだけど、本番となると限界を超えてしまう。まだまだ細かいところを詰めて行くしかないね」と口惜しげな表情で語った。

今回のFDJ / SUGO戦で優勝の座を獲得したのは「TMAR」のチームメートである松山北斗だった。マシンは齋藤率いる「Fat Five Racing」により製作・メンテナンスされたものだ。予選でリタイヤを喫し、日曜日は出走がなかったにもかかわらず、齋藤が灼熱のピットの中、松山のマシンの整備をずっと見守っていたのが印象的だった。

思い返せば齋藤が無念のエンジンブローで敗退した6月のD1GP「OKUIBUKI DRIFT」においても、優勝したのは齋藤が手がけるマシンを操った中村直樹だった。自分の身を削ってでも仲間のために全力を尽くす齋藤太吾という男の情の深さを感じたのは筆者だけだろうか。

「Team Cusco Racing」から参戦する箕輪大也にとっても、SUGOは厳しい戦いとなった。

ドリフトレーサーの父と母を持つドリフト一家に育った箕輪だが、今回はFDJ2との併催だったことから母である箕輪昌世もSUGOで戦った。驚くべき吸収力で中学1年生ながらに、ドリフトのテクニックを見る見るうちに上達させている箕輪。ピットでは頻繁に親子で念入りに相談している姿が見受けられ、一家一丸となり戦いに挑む。

予選では、普段は礼儀正しく物腰柔らかい少年とは思えないほど攻撃的なエキゾーストを轟かせ走り切ったが、惜しくもベスト32に届かず予選敗退となった。

「国際レーシングコースでのハイスピードドリフトは初めての挑戦ですが、私からの指示の出し方を間違えてしまったのが大也にはただ申し訳ないです。指摘を律儀に実行してくれる素直な子なので……」と、スポッターを務める父親の箕輪慎治はレース後にその悔しさを言葉に滲ませた。

箕輪家の自宅には2機のレーシングシミュレーターがあり、今回もシミュレーターにより入念なトレーニングを積んできたという。

「前回はエンジンブローなどの問題が起きてしまいましたが、今回はメカニカル面での大きな問題がなかったことは、次に繋がる好材料だと思います。今シーズンも折り返し地点となりましたが、後半に向けてがんばりたいです」と箕輪は前向きな言葉を残した。

シミュレーターで練習する際、最も好きなサーキットは岡山国際だという箕輪。FDJではROUND.5の開催が岡山国際サーキットに決定しているだけに、後半戦での巻き返しに期待したい。

一方、「Team Cusco Racing」で箕輪のチームメイトを務める金田義健は、予選では熟練の安定感を見せつけ美しくもパワフルな走りでファンと審査員を魅了して、ベスト32に進出している。

「だんだんNEOVA AD09の使い方がわかってきました。今までは安定感に助けられてばかりいましたが、グリップを生かしたダイナミックな走りでタイヤの性能の全てを引き出せるようになってきたかなと思います」と、さらにその先へと意気込みを見せていた。

しかし、ベスト32での #75長瀬幸治との追走では、1本目の走行中にプロペラシャフトが断裂、折れたシャフトが暴れ回り燃料タンクに穴が開いてしまうという不運に見舞われてしまう。競技エリア通過後のコースには燃料が漏れ出したが、不幸中の幸い、出火は免れた。ピットに戻り懸命の応急処置を施すが2本目に間に合わず、敢えなくリタイヤとなった。
「ここまでマシンのトラブルはかなり克服してきました。今回は万全の体制だと思ったんですが、NEOVA AD09のグリップの強さと1000馬力の大パワーにマシンが悲鳴を上げてしまいましたね」と振り返った。

ROUND.3で初参戦となったのは「Team kazama with powervehicles」の風間俊治である。

チームを運営する有限会社風間オートサービスの経営者であり、かつてはチューニングカー・ビデオマガジンの人気企画に出演するなど注目を集め、その親しみやすいキャラクターでチューニングカーファンからの支持も厚い人物である。

今回が今シーズン初めてのFDJ参戦となった風間は、「FDJ2も含めるとチームとして7台の参加車両があり、メンバーは50人近くになることもあります。監督として全員のマネージメントやお客様対応があるので、これまでは参加する余裕がありませんでした。しかし今回国際サーキットという設備環境の良さもあり出場することに決めました」と、参戦経緯を説明する。経営者とはいえ、メカニックやスタッフと共に設営や撤収も自ら進んで取り組む、現場主義だ。

残念ながらトップ32に進むことは実現しなかったが、「NEOVA AD09は縦方向のグリップがとても強力で、従来と同じ感覚で走るとスピード域が明らかに高いのでちょっと怖いくらいですね。でもコントロールしやすく、制御できる安心感があるのでいいですね」と、こちらも初めての体験となったAD09をベテランの視点で評価してくれた。

そして、5名いるYOKOHAMA / ADVANドライバーの中で今回もっとも輝いたのが、風間率いる「Team kazama with powervehicles」からエントリーしているケングシだった。

FDJの生まれ故郷アメリカで活躍するケングシは、予選は持ち前の超絶技巧ドリフトを発揮して、マシンの調整もままならない中で単走6位という成績を残したのである。

「レースの2日前くらいに日本に来て、終わったらすぐに帰国してアメリカでレースがあるというハードなスケジュール。だから基本的にレース本番にしかこのマシンに乗る機会がなく、調整ができないことは悔しい点ですね」と語る。

そんなアウェイな状況の中でも、トップ32の戦いでは #41植村真一に勝利。続いてトップ16の戦いは #7山元純次との追走となったが、一回りも二回りもサイズが小さく軽量なFD3Sを相手に白熱の追走を成し遂げた。しかしトップ8で惜しくも#36 高橋和己に敗れてしまうことに。

「アメリカではオーバルコースでのドリフトが多く、SUGOのようなヨーロピアンスタイルのサーキットでのドリフトは滅多にない経験です。 徐々にマシンも仕上がってきて、初戦の鈴鹿ツインのときと比べてパワーも改善して徐々に思うような走りに近づいてきています。細かい問題点はありますが、タイヤも含めてポテンシャルは十分にあるので、後半戦に向けて取り組んでいきたいです」と、次戦に向けて意気込んだ。

“魔物が潜む”とされるSUGOにおいて、YOKOHAMA / ADVANのドライバーたちはそれぞれが試練に立ち向かい、ときに口惜しさを噛み締め、しかし、その先に射し込む確かな光明までを見出していたように思う。

2022 FORMULA DRIFT®︎ JAPANもROUND.3を終え、いよいよ後半戦に突入する。

本気で戦っているからこそのトラブルはあっても、各ドライバー共にマシンとの呼吸は間違いなく揃ってきている。次戦、FORMULA DRIFT®︎ JAPAN ROUND.4は滋賀県の「グランスノー奥伊吹 ストリートコース」で行われる。

ドリフトが生まれた“ストリートコース”を舞台とした戦い。ADVANアスリートたちのさらなる健闘を祈りたい。

(了)

(文中敬称略)

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