Race Report

2022 GRAN TURISMO D1GP 最終戦
“新”エビス ドリフト。

2022.11.16

数々の名レースを生み出し、今年も遂に最終戦となった「2022 GRAN TURISMO D1 GRAND PRIX SERIES RD.8 & 9」は2022年11月12日・13日、新しいコースレイアウトが採用されたエビスサーキット西コースで行われた。その難易度の高いコースレイアウトはドライバーたちを苦戦させ、クラッシュが続出。しかしYOKOHAMA/ADVANがサポートする齋藤太吾、上野高広は、その類い稀な感性と経験値で攻略し、圧巻の走りを見せたのだった。

Words/ Photography:真壁敦史 Atsushi Makabe

“新”レイアウトのエビスサーキット
挑戦者を拒む第4セクター。

「急ブレーキがかかるような感じだから、コンクリートブロックにぶつかりに行くような勢いで行かないとだめだね」

そう語るのはTMARから参戦する齋藤太吾だ。

国際レーシングコースのハイスピードなレイアウトや、駐車場を利用したテクニカルなレイアウトで開催されてきたD1GPだが、その度、齋藤にコースの難易度を尋ねると、決まって返ってくるのは、

「別に難しくはないけど…」

という返事だった。

しかし今回ばかりは違った。
数々の伝説的な走りを残してきた齋藤でさえも「今回はちょっと難しいね」と言わしめるコース――

今シーズン2度目となるエビスサーキット西コースでの開催は、エビスドリフト史上初となる新しいコースエリアが採用された。

その見所は “ バンク” だ。

昨年2月に突如起きた福島県沖を震源とする地震により発生した、エビスサーキット内の土砂崩れは記憶に新しいだろう。懸命の復旧作業により塞がれてしまった西コースは復活を遂げた。

そして今回、抉られた山体の麓に設けられた、土砂崩れの面影を残す急勾配のバンクコーナーが、最も勝敗を分ける見所として設定された。

そそり立つ その第4セクターは、ドリフト状態のまま斜面を駆けのぼり急減速と戦いながら、並べられたコンクリートブロックへ接近する恐怖に打ち勝たなければならないのだ。

垂直に設置された画面左側のLEDビジョンの台座と比較すると、如何に傾斜角が大きいかを窺い知ることができる。そそり立つバンクは多くのドライバーの挑戦を拒み、ドリフト戻りやクラッシュ車が続出した。勾配による急減速に負けない進入速度を保ちつつ、決してコンクリートブロックに接触してはならない恐怖の中、齋藤太吾は私有地であるFFRランドでコンクリートブロックを並べて行っているトレーニングで強化したコントロール力で、急勾配に負けじとギリギリの走りを見せた。

ラストランのLEXUS RC-V
堂々たるレジェンドの走り

今シーズン序盤は、昨年の大クラッシュの影響によるマシンの不調に悩まされたTMAR x TEAM VERTEX の上野高広は、不具合が多発したステアリング周辺の負荷を考慮し、NEOVA AD09を使用してきたが、弱点の強化が成功した他、路面温度が下がってきたこともあり、より高い限界性能を誇るA052を使用して出場した。

「今年でこのマシンは終わりなんですよ。だから思い切って行こう!と意気込んで走りました」

そう振り返る上野は、バンクコーナーに尻込みするドライバーが続出する中、重量級マシンで果敢に攻めた走りを見せ、RD.8ではベスト16に進出。

ベスト16の相手は齋藤太吾。TMAR同士の熱い追走を繰り広げるが、惜しくも敗退。
RD.9では単走で16位以内に入ることが叶わず。上野の2022年シーズンは幕を閉じた。

「今、2023年シリーズに向けてLEXUS RC後期の新型車両を製作中です。課題だった車体重量も改善できそうなので、いい結果が出せたらと思います」

と、より戦闘力の高いマシンでの出場を控え、期待に満ちた表情で来年への抱負を語った。

数々の壁を乗り越えてきた最終戦
遂に爪痕を残す。

TMAR 齋藤太吾は、金曜日の任意練習走行から難易度の高い危険なコースにもかかわらず限界を超えた走りを見せ、エンジンブローというアクシデントから始まったRD.8。
メカニックの尽力により午後のチェックランには修復が完了し、戦いに向けて調整を進めていた。

そして迎えた単走。

153km/hというハイスピードでバンクに突っ込むとそのまま減速することなく桁違いの機敏さでコンクリートブロックに沿って走り抜け、97.4ptという高得点を獲得。

2本目は1本目を上回る決死の走りで会場を沸かせると、98.5ptという驚異のDOSS判定を叩き出し歓声が湧き上がった。

危なければ危ないほど、難しければ難しいほど、闘志が燃えるのが齋藤の性だろうか。

「1本目にいい点が取れたので、2本目は勝負を仕掛けることができましたね」
と齋藤は振り返った。

多くのドライバーが苦しんだ難易度の高いコースを、豊富な経験値と度胸で、自分の庭のように手の内に収めて走りきり、最後に単走1位という記録を刻みつけたのであった。

そしてセミファイナルまで登り詰めた齋藤、追走の相手はTEAM TOYO TIRE DRIFT GR86を操る藤野 秀之だ。

先行の齋藤は単走の走りと同じく圧巻の走りを見せ、後追いでもミスなく藤野のラインをトレースしたように見えたが、DOSSの判定は厳しく僅差で藤野に敗れ、追走では3位という成績を残した。

RD.9でも、難なくベスト16を突破し、ベスト8の追走の相手は、TMAR x TEAM紫
PS-13シルビアを操る中村直樹だ。

常に危ない橋を渡り、周囲を釘付けにする2人の勝負だけあって、観客席の期待が高まる中スタートを切った。

先行の齋藤は、振り出しで若干の脱輪をし砂埃を巻き上げると、中村は齋藤の挙動の乱れに戸惑い齋藤のリアにフロントをプッシュさせてしまう。

そのまま中村はフロントバンパーがへし折れたまま最後まで走りきった。

「自分のミスが原因で直樹のDOSSの点数が落ちてしまったので申し訳ない事をしたな」
と反省する齋藤。

2本目の後追いでは、中村のライン取りと歩調があわず敗退し、RD.9は敢えなくベスト8という結果となった。

Formula Drift Japanと日程が重なり第2戦からの参戦となった齋藤。

数々のエンジンブローなどのトラブルを克服し、大型ウイングをはじめとしたエアロパーツ等の追加によるマシン強化をし、最後に単走1位という輝かしい功績を残した。

これを以って「2022 GRAN TURISMO D1 GRAND PRIX SERIES」は幕を閉じる。

競技の安全性、公平性を追求し、D1ファンがより楽しめる大会にし、ドリフト文化を未来へ継承する事を目的とした「 D1 NEXT 10 YEARSプロジェクト」も今年始まったばかり。

2023年シーズンはどんな伝説に残る名レースが繰り広げられるだろうか。

(了)

(文中敬称略)

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