Race Report

D1GP AUTOPOLIS DRIFT
噴煙の先に見えたもの。

2022.10.27

2022年10月22日(土)23日(日)の2戦連続で「2022 GRAN TURISMO D1 GRAND PRIX SERIES RD.6&7」が開催された。シーズンも中盤に差し掛かり、ドリフト専用設計タイヤを投入してきたライバル勢に対抗するべく、GTウイングとリヤディフューザーで武装して戦闘力を上げた齋藤太吾。そして新たにADVAN A052を武器に挑むベテラン、上野高広の両選手は、阿蘇のダイナミックな自然の中に佇む「オートポリス国際レーシングコース」に、ハイスピードロングドリフトの轟音を響き渡らせた。

Words:ADVAN Brand Site / Takapro Inc.
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui

ライバル勢の変化を視野に
再び“勝負の舞台”へ――

181km/h ――

それはまさに異次元の速さであった。

D1 GRAND PRIX 2022の第6戦/第7戦は、雄大な自然に抱かれた阿蘇の山麓にある「AUTOPOLIS/オートポリス」を舞台とする2連戦で開催された。阿蘇山の頂がいまだ噴煙を上げる中、バブル期に開業した日本屈指の規模を誇る(そのスケール感はある種異様でもある)国際格式サーキットの本コース上では、色とりどりのD1マシンたちがリヤタイヤから盛大なスモークを巻き上げての競演を繰り広げるのだった。

10月22日の第6戦、単走1本目。

齋藤太吾の走りにスタンドがどよめく。

他の参戦マシンたちが160km/h前後でコーナーにアプローチを仕掛ける中、齋藤の駆るGRスープラだけがそれよりも20km/hは速いスピードで猛然と突入していく。左前輪を浮かせながらも絶妙にドリフトアングルをコントロールし、それでいて活火山の噴煙のごとき濃いスモークを豪快に巻き上げながらマシンをスライドさせる様は、まさしく“異次元”と呼ぶに相応しい圧巻なものだったのである。

実は齋藤のチーム陣営はこの第6戦/第7戦に向けてひとつの策を講じていた。シーズン中盤戦になって他のライバル陣営が立て続けに“超“の付くハイグリップなドリフト専用設計のタイヤを投入しそのアドバンテージを築き上げていく中、自分のマシンにもさらなるパフォーマンスアップを狙ってGTウイングとリヤディフューザーを投入し、より強力なダウンフォースによるトラクション性能=グリップ力を与えたのだった。

モータースポーツの世界には均一の性能で調整されたワンメイクのレギュレーションで戦うものもあれば、チームやメーカーごとに異なる性能(どれも最高峰のスペックであることが基本)を用いてよりコンペティティブに競い合うものもある。

D1 GRAND PRIXは後者だ。

オレンジ色のGRスープラとそれを駆る齋藤太吾はシーズン当初、ライバル勢の動向に合わせてYOKOHAMA / ADVANが2022年初頭にローンチしたばかりのハイグリップ・ストリートタイヤであるNEOVA AD09をその足元に投入した。あくまでストリートラジアルであっても非常に優れたグリップとコントロール性能を有し、同じくドリフト専用設計ではないタイヤを投入してきたライバル勢にも十分な勝負が挑めると判断したからだ。

実際、1000ps超級のパワーを秘めたモンスターマシンであるGRスープラは、不慮のアクシデントや残念なトラブルに幾度か見舞われることはあってもこと戦闘力においては他に引けを取らないものがあったが、やはり圧倒的なグリップ性能を有したドリフト専用設計タイヤが相手となればその勝負権を失うことは明白――そうした現実をしっかりと受け止め改めて判断した上で、GTウイングとリヤディフューザーでトラクション性能を向上させ、グリップ力の強化を図ったのである。

トラクション性能を高めた齋藤の速さは圧巻の1本目から続く単走2本目でも一切衰えることなく、97.8ポイントというスコアでベスト16(追走)へと進出。追走の相手は、TEAM紫 TOPTUL × VALINO TIRES ワンビアを操るヴィトー博貴。

まずは齋藤の後追い。しかし、有り余るパワーと強力なグリップによる圧倒的なスタートダッシュが逆に仇となって間合いが上手く取れず行き詰まり、96ポイント対89ポイントという差をつけられてしまう。

そして追い詰められた2本目。先行の齋藤は桁外れのスピードでヴィトーを一気に引き離すが、1本目の点数が響き、1ポイント差で敗れることとなってしまった。

パワー、スピード、そしてグリップ――ドリフト競技の世界にはそのどれかひとつでも欠ければ噛み合わない結果となることは明白の事実であり、さらにはそこにドライバーの経験、技量、そして時の運までが加味される――見た目の派手さや豪快さにどこか隠れがちではあるものの、ドリフトというモータースポーツが何より繊細なバランスによって成り立っているという事実を、改めて目の当たりにさせられた。

“スピード違反”級の圧倒的速さ
しかし、勝負の行方は無情にも……

翌10月23日の第7戦。オートポリスは朝から霧に包まれ、その後も雲に覆われるどこか不穏な空模様での幕開けとなった。午前中に行われた単走では前日同様に圧倒的な速さを見せつけ、難なくベスト16に進出した齋藤太吾。

実況席からは「スピード違反っ!!!」と興奮した声が発せられ、スタンドの観客たちからも大きな拍手と歓声が齋藤の走りに送られる。プロドリフトが一級の競技であるのと同時に良質なエンターテイメントであることを再認識する瞬間――そして、齋藤太吾という男の走りにはやはり華があると再認識させられる瞬間でもあった。

続くベスト16ではFreem TEAM G-meister 180SXを操る目桑宏次郎との追走。

ウォーミングアップ時の設置物への接触により1ポイント減算のペナルティが課せられる中での対戦となったが、齋藤は今大会一番とも言うべき気迫溢れる走りで第1コーナーに飛び込み、目桑を引き離した。スタンドからは一瞬の静寂を経てどよめきが起こり、その後は再び歓声が沸き起こった。

2本目の後追いも圧巻だった。

実況席からは「あまりに近すぎて逆に先行車が見えるんじゃない?」というコメントも挙がるほど、先行する180SXが猛烈に巻き上げるタイヤスモークの中に齋藤のマシン全体がすっぽり埋もれるような超接近戦を繰り出し、99.5ポイント対99ポイントというハイレベルな戦いに勝利。ペナルティの失点をものともせずにベスト8へと勝ち進んだ。

そしてベスト8での対戦相手はTEAM TOYO TIRES DRIFT/GR86を操る宿敵、川畑真人。過去に刻まれた因縁の対決は17回。齋藤はそのうち11勝している。

スタートラインに並ぶドリフト界のスーパースターの2巨頭。否が応にも会場全体のテンションが引き締まる。

絶対に入りたい齋藤、絶対に入られたくない川畑。

齋藤は凄まじいプッシュで川畑のサイドに終始ピッタリとへばり付き、息を呑む圧巻の追走を繰り広げた。まさに怒涛にして互角の戦い。チャンピオン経験者同士の真剣勝負には何とも言えない、それはどこか風格のようなものさえ感じ取れた。

しかし2本目――スタートラインを切り、今度もどれだけ際どい進入が見られるか?! との期待と興奮が限界まで高まったその刹那、齋藤のマシンは失速。そのまま息絶えてしまうのだった。

原因はエンジンのプーリーの落下。齋藤のAUTOPOLIS DRIFTは静かに幕を閉じた。

あまりに無情。

しかし、これもまた勝負の世界の現実であり、モータースポーツの本質的な厳しさを改めて思い知らされるような結果でもあった。

大ベテランが魅せた
“いぶし銀”の走り。

「気温が下がってきて052が使える路面温度になってきたので、今回は良い走りができるのではないかと思います」

上野高広のレース前のコメントである。

D1参加選手の中で最も経験年数が長く、常に重量級のラグジュアリー2ドアクーペでドリフトをするという信念を貫いてきた上野は今回、ADVAN A052を選択した。

SUPER GTやSUPER FORMULAなど国内トップカテゴリーで活躍するYOKOHAMAが誇る、レース用タイヤ直系の圧倒的なケーシング剛性とグリップ性能を誇るADVAN A052だが、車体が大きく重量もあるLEXUS RC-Vで灼熱のアスファルトとの摩擦を蹴散らす負荷は計り知れず、路面温度が異常に高い夏のシーズンは、限界性能ではA052に及ばないものの耐久性に優れるNEOVA AD09を敢えて使用してきたという。

しかし、気温も路温も落ち着いた秋のオートポリスでは、いよいよ大きなアドバンテージとなるハイグリップタイヤへの変更を行い、「オートポリス自体が得意なコース」といつになく自信を覗かせる。さらには、これまではボディの造形美にこだわりウイングレスを貫いてきたが、今回初めてGTウイングを装着し、万全に体制を整えてのAUTOPOLIS DRIFTとなった。

単走1本目。上野は的を射た走りをするも、スタート時のパイロンタッチにより1ポイント減算のペナルティが課せられて96.5ポイントという惜しい結果に。しかし、続く2本目は経験豊富なベテランの落ち着きを見せつけ全体の流れをまとめきり、見事98.3ポイントという大逆転を見せてくれた。

昨シーズンの大クラッシュ以降、長らくマシンの相次ぐ不調に見舞われてきた上野だが、シーズン終盤を迎えてついにベスト16に歩を進めることになった。その表情はあくまで余裕だが、しかしよく見れば、大ベテランのその目の奥には何とも嬉しげな真っ直ぐでピュアな輝きが見て取れた気がする。

迎えたベスト16。追走の相手はTEAM TOYO TIRES DRIFT GR86を操る藤野秀之。

1本目は、上野の美しい先行の走行ライン故に白煙の中に隠れてしまうほどの追走を許し、藤野に101ポイントという高得点を叩き出されてしまう。続く2本目の追走では藤野の逃げの姿勢を受け引き離されてしまうが、藤野も上野を引き離したいが故のミスにより得点は伸びず、互角。しかしながら1本目の大幅に開いた点数差により惜しくも次のステージに進むことは叶わなかった。

翌日の第7戦。単走1本目は、惜しくもドリフト戻りのミスをしてしまい、点数が伸びなかったが、2本目は第6戦と同じくベテランの貫禄を見せつける見事な走りで決め、前日に続き見事追走(ベスト16)に進んだ。追走の相手は親子ほどの年齢の離れたS15シルビアを操るTeam BOOSTAR VALINO 秋葉 瑠世である。

他の車両と比べ150kg以上重いLEXUS RC-Vのリスクを計算した上野は、先行を走るS15のクイックな振り返しに応じず、まずは安全に1.5ポイントの後追いポイントを獲得。そして続く2本目。他者に全く動じない、地に足ついた上野の先行に食い入る秋葉は進入から振り返しまでを犠牲にするも、白煙の量がより多く撒き散らされる後半に照準を合わせた走りで、3セクション−4セクションで大迫力の接近戦を繰り広げた。

秋葉のDOSSの判定は前半セクションの不安定さにより決して高くはなかったが、見る者を圧倒する後半セクションの接近戦により、4ポイントの後追いポイントを獲得されてしまい、上野のAUTOPOLIS DRIFTはこれをもって幕を閉じた。しかし、終盤に入って明らかな復調を見せただけに、最終戦エビスでの上野のさらなる活躍には期待が高まるばかりだ。

D1 GRAND PRIX 2022の最終ステージとなる第8戦/第9戦「EBISU DRIFT」は、11月12日(土)、13日(日)に福島県のエビスサーキットで開催される。新たに「バンク」が設置された挑戦的なコースでの開催となるだけに、未知の領域のコースを果敢に攻め抜いた者に勝利の女神は微笑むことになるだろう。百戦錬磨のファイターであるYOKOHAMA / ADVAN勢の2人にとっても、最後に勝利を掴み取る大きなチャンスとなる次戦。その勝負の行方に注目したい。

(了)

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