Race Report

YOKOHAMA / ADVAN
“D1 GP”に挑む!

2022.6.15

YOKOHAMA / ADVAN は2022 年シーズン、「FORMURA DRIFT® JAPAN」だけではなく「D1 GRAND PRIX SERIES」に参戦するチーム / ドライバーをサポートする。供給するタイヤはADVAN ブランドの最新モデル「NEOVA AD09」だ。齋藤 太吾、そして上野 高広という実力派ドライバーを擁して、D1 ならではのフルサイズ、フルパワー、フルスピードの限界域で、AD09 は果たしてどれほどのパフォーマンスを見せるのか?「OKUIBUKI DRIFT」に参戦した2人のドライバーを追う。

Words/ Photography:真壁敦史 Atsushi Makabe

伊吹山の彼方に
トップドリフターが集結。

2022 年6 月11 日(土)、12 日(日)、奥伊吹モーターパークを舞台に「2022 GRAN TURISMO D1 GRAND PRIX SERIES RD.2 & 3」こと「OKUIBUKI DRIFT」が開催された。

YOKOHAMA / ADVAN は、TRAIL MOTOR APEX RACING 齋藤 太吾(RD.1 はFORMULA DRIFT® JAPAN と開催が重なり欠場)が操る87 号車「GR SUPRA Monster Edition」、TMAR x TEAM VERTEX 上野 高広が操る78 号車「VERTEX 超EDGE LEXUS RCV」を、“ストリート最強”を謳う最新のハイグリップラジアル「NEOVA AD09」でそれぞれサポートする。

「OKUIBUKI DRIFT」はRD.2 とRD.3 が同じ週末に行われる“連戦形式”での開催。まずはRD.2の開催となった土曜日、冬季はスキーを楽しむ人々で賑わう駐車場スペースを利用した特設コースに、ドリフトマシンたちの勇ましい轟音がこだました。

東海道新幹線の車窓から望むことができる、格別の荘厳さで目を奪われる伊吹山。その急斜面と荒々しい岩肌の向こう側に、全国各地からトップドリフターが集結した。

RD.2 は麓からの冷たい風が吹きつけ、今にも雨が降り出しそうな空模様の中はじまった。

D1GP の予選は単独走行(単走)により合計2回のチャンスが与えられる。予選1本目、オレンジの発色が眩いTMAR カラーを纏った齋藤のモンスターマシン、GR スープラが登場。駐車場から駐車場へと接続されるスロープ(通称:連絡通路)の下り坂を利用して勢いよく加速すると、齋藤の持ち味と言える攻撃的な進入で会場内の興奮を誘うが、電子制御スロットルの不調の影響あってか残念ながらセクター2・ゾーン1に届かず、事前の期待値が高すぎただけに、会場には実況の悲鳴が響きわたる。

しかし、それでも続くセクター3 ではとてつもないエンジンパワーとAD09 のハイグリップを生かしてフロントタイヤが浮き上がるほどの走りを見せつけ、その怪物は観客を釘付けにした。

迎えた2本目、駐車場を利用した特設コースの短距離にもかかわらず、齋藤のマシンは111km/h という進入速度で飛び込んでいく。繊細なアクセルワークとアンチラグの爆発音を轟かせ迫力の走りを見せたが、「DOSS」(D1 オリジナル・スコアリング・システム)の判定によりセクター2の角度、および角度の安定性の不足を指摘され敗退となってしまう。

ここでまず、齋藤の走りは十二分に会場を沸かせ、得点が算出されるまでは会場の誰もが「獲った!」と確信するようなアグレッシブな走りであったことを強調しておきたい。

しかし、それでも“魅せる走り”だけではなく、車体の挙動までを精密に測定し丸裸にしてしまうのがD1GP 独自の採点方式である「DOSS」の役割であり、“競技”としての厳しさを高めている大きな要素でもあるのだ。

今シーズンはFORMULA DRIFT® JAPAN(FDJ)にもエントリーする齋藤だが、 D1GP がFDJ と大きく異なる点は、D1 オリジナル・スコアリング・システム、通称「DOSS」が採用されていることである。D1GP 出場車両は専用の計測機を搭載することが義務化されており、その計測器により、位置情報、角度、速度をはじめとした走行情報が記録され、「最高速」「角度」「角度の安定性」「区間平均速度」「振りの躍動性」「角度変化の速さ」等の項目でセクター(区間)ごとに採点されるのである。

齋藤に続きTMAR x TEAM VERTEX の上野もコースイン。自身が代表を務めるエアロブランドのボディキットを装着したLEXUS RCV を操り、1本目は挑戦的な振り出しをするも敢えなくスピン。2本目は昨シーズンのクラッシュ時から発症していたというパワーステアリングの慢性的な不調により攻めの走りができず、予選敗退となった。そして翌日の予選も同様に不調に見舞われ、こちらも残念ながら敗退となってしまった。

D1GP の初期から参戦する大ベテランの上野高広。かつては30 ソアラで参戦するなどその独自のアプローチで多くの人気を集めた。オリジナルのエアロブランド「VERTEX」を世界的な注目を集める存在にまで高めた敏腕のビジネスマンでもある。

壊れるか壊れないかのせめぎ合い
限界を超えた戦い。

前日の悪天候とは打って変わり、日曜日のRD.3 は鋭い日差しが差し込み絶好の対戦日和となった。それだけに、誰もが昨日の無念を齋藤太吾が晴らしてくれると願っていた。

「やけにエンジンの吹けが良いから、これは今日うまくいくんじゃないかと思った」

齋藤は、レース後にそう語っている。

それは朝一番のチェックランで起こった。

金曜のチェックランやRD.2 の走行では聞くことのできなかった快音が、コースが隠れて見えないピットにも響きわたっていた。

しかしその直後、会場全体が凍りつく事態が起きてしまう。

不吉な煙を後に残しながらオフィシャルカーに牽引されるオレンジ色のスープラ――それは、誰もが落胆した瞬間だった。

TMAR のメカニック達が慌ただしくピットに運び入れ、エンジンの再始動を試みるが、辺り一帯は白い煙に包まれ、エンジンが再び息を吹き返す事は無かった。

エンジンブロー――齋藤はRD.3 に挑むことなく奥伊吹での週末を終えてしまった。

クルマが壊れるということは、裏を返せば常に限界を超えて120%のレッドゾーンで戦っているということだ。ファンの期待に応えようとする強い意志が人馬ともにオーバーレブするような形に終わってしまったが、マシンが持つパフォーマンスの80%を計算し、温存しながら走る齋藤の姿など誰も見たくないのではないだろうか。

自分のマシンは自分で作る
熱きドリフターであり、熱きビルダー。

「自分のマシンは後回しにして、仲間に託された他の2台を一生懸命メンテナンスしていた」

齋藤の担当マネージャーはレース後にそう打ち明けた。

TMAR がエントリーするマシンの内、RD.2、RD.3 で見事優勝を飾った中村直樹、松山北斗の2台も齋藤率いるFAT FIVE RACING がその製作からメンテナンスまでを担っている。

エンジンは再起不能となり、スペアエンジンに載せ替える決断をしたが、予選までに残された時間は十分では無かった。苦渋の決断でリタイヤの申告をすると、中村選手の助手席に乗ってオープニングセレモニーに登場した。

世界的な知名度を持つトップドライバーともなれば、ドライバーは走行に合わせて会場入りし、メカニックの手でウォーミングアップをして調整が済んだマシンに乗り、走行が終われば先に帰るのが慣例であるように思う。

しかし齋藤は違う。ライバルと全力で戦い、マシンから降りヘルメットを脱ぐと、溶接マスクに被り直してレーシングスーツのまま地面に膝をついて溶接をはじめてしまう。

今大会期間中も、齋藤自らが作業を買って出る場面が多々見受けられた。チームを代表するドライバーという立ち位置である上、マシン整備の棟梁でもある齋藤。フォーミュラカーやツーリングカーレースの常識とは一線を画す。

「自分でやらないと気が済まないということはないけど、好きですね」

情熱を内に秘めた、寡黙な男の口からは言葉数少なく、そう本心が溢れた。

今回は無念極まりない結果に終わってしまった OKUIBUKI DRIFT。

「タイヤの性能は十分あると思うので、2戦落としてしまったけど、次戦以降はまた活躍を見せられたらいいなと思います」と齋藤は言う。

次戦「2022 GRAN TURISMO D1 GRAND PRIX SERIES Rd.4&5」は福島県エビスサーキット西コースで開催予定。

D1GP の2022 年シリーズはまだはじまったばかり。

YOKOHAMA / ADVAN アスリートの今後の活躍を熱く見守りたい。

(了)

(文中敬称略)

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