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ウィンタータイヤ性能No.1を実現するための取り組み

2018年09月28日

横浜ゴムが新中期経営計画「グランドデザイン2020(GD2020)」の消費財タイヤ戦略のひとつとして掲げた「ウィンタータイヤ戦略」。「国内、欧州、ロシア・北欧向けウィンタータイヤで性能No.1を目指す」をテーマに掲げた同戦略の要は、当社の高い技術開発力と充実した開発体制にある。本格的な冬商戦を前に「性能No.1」を追求し続ける横浜ゴムのウィンタータイヤ開発について紹介する。

ウィンタータイヤは大きく3種類

横浜ゴム(株)は、2018年2月に新中期経営計画「グランドデザイン2020(GD2020)」を発表。その中で消費財タイヤ戦略として次の4つの柱を掲げた。

プレミアムカー戦略

技術と品質でプレミアムカーから指定されるタイヤメーカーを目指す。

ウィンタータイヤ戦略

国内、欧州、ロシア・北欧向けウィンタータイヤで性能No.1を目指す。

ホビータイヤ戦略

モータースポーツやクラシックカーなどあらゆる自動車ユーザーの趣味に対応する商品ラインナップの拡充。

お客様とのコミュニケーション活性化

「クルマのある生活をもっと楽しく!」を体現するタイヤメーカーを目指す。

冬のシーズン到来を控えた今回は、ウィンタータイヤ戦略について、市場・開発体制・技術など詳しく見ていく。

タイヤには大きく分けてサマータイヤとウィンタータイヤがある。サマータイヤと呼ばれるのがいわゆる一般的なタイヤであるのに対し、ウィンタータイヤは氷、雪、低温環境での性能を重視している。ウィンタータイヤは用途や使用条件によってさらに細かく分かれているが、降雪量が多く、またアイスバーンの出現頻度が高い日本ではスタッドレスタイヤの需要が圧倒的に高い。

一方、欧州を中心に普及が進んでいるのがいわゆる欧州ウィンタータイヤだ。横浜ゴムでは「BluEarth*WINTER V905」がこのタイプ(欧州市場向け)にあたる。雪や氷でのグリップはスタッドレスタイヤに及ばないが、ドライ性能やウェット性能に優れ、またアウトバーンでの超高速走行にも対応する。

冬の長い期間、雪と氷に覆われる北欧やロシアでは、依然としてスタッドタイヤが使われている。スパイクタイヤとも呼ばれるこのタイプは、トレッド部に埋め込んだ金属製のピンが氷をひっかきグリップを生みだす。横浜ゴムでは「iceGUARD STUD iG65」がスタッドタイヤの代表作だ。ただし最近はロシア・北欧も気候変動の影響で気温が上がり、冬場でも舗装路面が出てくる地域が増えてきた。そこで問題になるのがスタッドタイヤによる舗装の傷みと、それに伴う粉じん公害だ。日本でもかつて同じ問題が起こり、1991年にスタッドタイヤの販売は終了。代わって登場したのがスタッドのないウィンタータイヤ=スタッドレスタイヤである。温暖化や環境保護意識の高まりを受け、最近はロシア・北欧でもスタッドタイヤからスタッドレスタイヤに履き替えるユーザーが増えている。

<スタッドレスタイヤ>
「iceGUARD 6」

<欧州ウィンタータイヤ>
「BluEarth*WINTER V905」

<スタッドタイヤ>
「iceGUARD STUD iG65」

北海道のテストコースを拡大。スウェーデンにも専用テストコースを設置

横浜ゴムでは一層の高性能が問われるウィンタータイヤの強化を目指し、その設計技術、材料技術、生産技術、評価技術などの継続的な底上げを実行している。シビアな環境での技術向上こそ、グローバルに必要とされるタイヤメーカーの使命と考えての長年の方針だ。中でもここ数年力を入れてきたのは、ウィンタータイヤの試験設備の拡充である。ウィンタータイヤは、制動、駆動、ハンドリングといった各種試験を、雪、氷、ウェットなど様々な路面状況で行う必要があり、試験項目は膨大になる。

現在、横浜ゴムは茨城県にあるD-PARC(総合タイヤテストコース)の他、国内外にある複数のテストコースでタイヤ試験を行っている。そのなかでウィンタータイヤ試験の中心になるのが北海道旭川市にある北海道タイヤテストセンター(Tire Test Center of Hokkaido=TTCH)だ。将来的なウィンタータイヤ性能No.1を目指し、従来のテストコース(T*MARY:ティーマリー)から規模を拡張し2015年に開業した。その敷地面積は従来比で約4倍に達する。様々なバリエーションに富んだ試験路に加え、2018年1月には屋内氷盤試験場も完成。屋内は天候や気温の影響を受けにくいため、より精度の高い試験データが得られるようになった。

TTCH全景(写真)と屋内氷盤試験場

また、欧州ウィンタータイヤの試験・評価については2013年にスウェーデンのArctic Falls(自動車試験施設の会社)と長期貸与契約を結び、「YOKOHAMA TEST CENTER of SWEDEN(YTCS)」として稼動を開始。敷地内には様々なテストステージが独立して配置されており、氷点下の気温が安定的に続く11月頃から翌年3月頃までの間、長期間の実車試験が可能となった。

YTCS全景

最後に命を吹き込むのは熟練テストドライバーの運転技術

ハイテクを駆使して開発したタイヤでも、最後に命を吹き込むのは人だ。現在ではかなり高度なシミュレーション技術もできてきたが、それでも最後の味付けには、計測器には現れない微妙な差を感知できる熟練テストドライバーの介在が欠かせない。

仮に同じグリップのタイヤであっても、滑りはじめの挙動のわずかな違いによってドライバーが感じる不安感は大きく変わってくる。そのあたりを総合的に解析し、味付けしていくのがテストドライバーの仕事だ。当然、テストドライバーには高い運転技術が求められるが、それは速く走ることが正義のレーシングドライバーとは別種の運転技術である。実際、走行試験の大半を占めるのは一般道での使用を想定したグリップ走行であり、派手なドリフトシーンはほとんど見かけない。何十周、何百周と同じ走行ラインを正確にトレースしながら、タイヤの挙動に全神経を集中させ、わずかな違いを捉え、それを開発部門にフィードバックするのが彼らの仕事だ。

横浜ゴムは、設計を担当するエンジニアと評価を担当するテストドライバーのコミュニケーションを重視している。評価シートを使った文書のやりとりだけでは微妙なニュアンスが伝わりにくいため、構造設計や材料設計のエンジニアが実際にテストコースに行き、テストドライバーと直接対話し、ときには同乗しながら評価の摺り合わせを行う。

時間と手間のかかる作業だが、それなくしてシビアなウィンタータイヤの性能向上は達成できないと考えているからだ。特にウィンタータイヤは、一般的な使用状況下でもタイヤのグリップ限界を超え乗員がヒヤッとするケースが多い。だからこそ、絶対的なグリップ性能だけでなく、あらゆるシーンでドライバーが安心できる特性に仕上げるのが重要であり、そのためには部門を超えた密なコミュニケーションが必要だと横浜ゴムは考えている。

ウィンタータイヤ性能No.1を目指す横浜ゴムにとって、優秀なテストドライバーと充実したテストコースは欠かせない。

ヨコハマスタッドレス史上最高性能「iceGUARD 6 iG60」

さて、いよいよ日本のスタッドレスタイヤのシーズンが始まる。氷雪路での性能に特化したスタッドタイヤの代替品として登場しただけに、スタッドレスタイヤには強力な氷雪性能が求められる。

とりわけ日本の気候は世界的に見てかなり特殊だ。雪が多く降るわりに気温がそれほど下がらず、交通量も多いため、溶けた雪が気温の下がる夜間に凍りついてアイスバーンになる。その上を多くのクルマが通り、タイヤによって磨かれることで、極端に滑りやすいミラーバーンが出現するのだ。そんな状況下でいかにグリップさせるか。氷上性能向上への取り組みがスタッドレスタイヤ開発の歴史だったと言ってもいい。1985年に横浜ゴム初のスタッドレスタイヤである「GUARDEX」を発売して以来、常に氷上性能の向上に取り組んできた。その集大成となるのが最新のスタッドレスタイヤ、「iceGUARD 6 iG60」だ。

氷上でのグリップを確保するのにもっとも重要なのは氷とゴムをいかに密着させるかだ。水膜が発生しない極低温下であれば、レーシングカー用スリックタイヤのように、溝がまったくない状態のほうがグリップは上がる。しかし現実には水膜をどう処理するかがグリップ確保のポイントになる。

「iceGUARD 6」を見ると、タイヤ表面にサイプと呼ばれる細い切れ込みが多数入っているのがわかる。このサイプ内の空洞に水や雪を取り込むことによって氷とゴムの密着性を高めるのが狙いだ。また、サイプにはエッジが氷をひっかいてグリップを生みだす効果もある。つまり、ブロックや溝の配置とともに、サイプをどう入れるかが性能を大きく左右するのだ。ただしサイプが多すぎるとブロック剛性が落ちハンドリングや高速直進性が低下してしまう。

それを防ぐため、「iceGUARD 6」ではタイヤに力が加わった際、立体形状のサイプがお互いを支えあい剛性を保つ「クワトロピラミッドディンプルサイプ」と呼ばれる超複雑構造を採用した。設計技術もさることながら、細部にこれほど精巧な形状を与えるには高度な製造技術が要求される。長年にわたってスタッドレスタイヤを開発、製造してきた技術の蓄積が可能とした超複雑構造である。

「ゴムの特性も重要だ。「iceGUARD 6」が採用するプレミアム吸水ゴムは、タイヤと路面の間の水膜を取り除く「吸水効果」に加え、路面にしっかり密着する「密着効果」、氷の表面をひっかく「エッジ効果」を高めるため、ナノレベルまで追い込んだ材料技術を採用している。なかでも特徴的なのが、ゴムに練り込んだ直径50ミクロン(0.05㎜)程度のバルーン状の素材だ。走行するとバルーンが壊れ、タイヤ表面に多数の穴があく。そこに水を取り込み水膜の発生を防ぐのだ。また、タイヤ側に残ったバルーンの破片はミクロのエッジ効果を発揮する。

「プレミアム吸水ゴム」の吸水イメージ図(左)とエッジ効果のイメージ図

<イメージ図>

<イメージ図>

横浜ゴムのスタッドレスタイヤとしては初めて大量のシリカを配合して密着効果を高めたのも大きな特徴だ。さらにシリカ高反応ホワイトポリマーを配合することで、性能に大きく影響するシリカの分散性を高めている。ちなみにシリカ粒子の直径は約20ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)。つまり0.00002㎜である。当然、ポリマーもシリカも電子顕微鏡を使わなければ観察できない。またベースとなるゴムには長期間にわたって低温時のゴムの柔軟性を保つオレンジオイルSを採用し、経時劣化を抑制した。

こうした技術によって、「iceGUARD 6」は氷上性能を大きく向上。制動試験では従来品(iceGUARD 5 PLUS)に対し15%短く止まることができる。さらに、ウェットグリップや燃費(転がり抵抗)、騒音も改善している。

<イメージ図>

広がる選択肢。スタッドレスor欧州ウィンターorオールシーズン

氷雪路での性能に特化したスタッドレスタイヤは積雪地帯のドライバーに大きな安心感を与える。だからこそ日本で圧倒的なシェアを誇り、海外でもジワジワと人気が高まってきている。しかし今後、ウェット性能や高速走行性能を高めた欧州ウィンタータイヤが日本で受け入れられる可能性もあるだろう。

とくに、氷雪路を走るのは年に数回程度、という非降雪地域に住んでいるユーザーであれば、スタッドレスタイヤほどの高い氷雪性能はいらないが、サマータイヤに迫るドライやウェット、高速道路でのしっかり感が欲しいと考えるのは合理的だ。また、たとえ氷雪路を走らなくても、目安として気温が7℃を下回るような低温環境下では、欧州ウィンタータイヤはドライやウェット性能でサマータイヤを上回る場合もある。万が一の雪への備え、あるいは低温時の性能を重視して冬期にはタイヤを履き替える。ドイツやその周辺国では浸透している習慣が、今後日本にも入ってくる可能性はある。

また欧州のタイヤ需要にも少し変化が見られる。ウィンタータイヤの需要は近年安定しているものの、新たに「欧州型オールシーズンタイヤ」の需要が規模は小さいながら拡大中だ。

ドイツにおける乗用車/小型トラック用タイヤのリプレイス需要(単位:百万本/出典BRV)

技術、開発拠点、そして人。持てる全てを駆使してウィンタータイヤ性能No.1へ

設計技術、材料技術、製造技術、テストコース、そしてやはり、人。横浜ゴムはこれらを駆使してウィンタータイヤ性能No.1を目指す。売上額でもシェアでもイメージでもなく、あくまで性能No.1。その結果として、ユーザー評価No.1を獲得するのがわれわれの目標である。

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