2021年5月9日
ショップブログ
作業事例 紹介シリーズ 「スズキ エブリ アライメント調整」
今回も一冬しか過ごしてないスタッドレスを外したら、めちゃくちゃ偏磨耗していたパターンです。

左前タイヤの外側が早期磨耗しています。

ただ、左前に比べると右前は大人しい減り方をしています。
それでも一冬でこれなので早期磨耗に間違いはないのですが・・・
今回のエブリのお客様は前回のRX-8とは決定的に違う点があります。
それは

一冬で走破した走行距離が尋常じゃないです。
4ヶ月で約12000km走っています。
つまり、年間3万6000kmペースなのです。
これは毎日お仕事で非常にハードに使われているからなのです。
こんな風に、同じひと冬の経験といっても、そのお客様の社会環境によって走行距離はまったく変わります。なのでメーター距離という客観的データをしっかり残すという事が、タイヤ磨耗診断では何よりも大切なのです。
あなたにアライメントの一番大切なものを(教えて)あげるとしたら、それは客観的なデータとなります。
そして、軽トラ軽VANに使われる145/80R12サイズのタイヤは、現状市販されている自動車用タイヤサイズの中では幅も直径も最も小さいサイズになるので、もっとも溝が減りやすくもなります。
これは単純な理屈です。直径が小さいので同じ距離を走った時に一番転がる回数が多くなりますし、幅が小さいので単一面積あたりの荷重も大きくなります。
そんなわけで、
①145/80R12のスタッドレスで
②軽VANのフロントで
③1万2000kmも走っていたら
日常的に走っている道路環境によって(カーブが超多いなど)は右前くらいには減ることもあります。
ですが、左は明らかにおかしいのは間違いないです。


今回も前回と同じく緊急のアライメント作業で、またその日は冬タイヤ→夏タイヤ履き替え作業で超繁忙状態だった為、夕刻の僅かな時間しか作業時間がとれず作業中写真は少なめです。
前途したように、お客様は1日の走行距離も非常に多いため、アライメント作業が後日にずれればずれるほど、蓄積するタイヤ磨耗が激しい為、なんとか当日中に作業を行いたいというご希望でしたので、緊急アライメント調整となりました。
結果としては、左前輪にかなり強いトーインが計測され、「あ、これが左前外べりの原因なんだね!?」とうっかり思ってしまうところですが、実はこれだけでは疑問符が残ります。
この左右トーのアンバランスが起きているのがリアで、外減りしているのがリアタイヤであったなら、その考えで理屈は合ってるんですが、これはフロントなのです。
ここでアライメントの勉強を始めたばかりの方は、最初に学習したトーイン磨耗特性(トーインは外減りする)の固定概念の罠に陥るんですが、忘れてはいけない重大な事実が一つ有ります。
それは
フロントの左右トーはハンドルの傾きで常に変化する
という事実です。
この事実を認識していないと、フロントタイヤの片輪だけ異常に磨耗する現象の原因を読み間違えてしまいます。
つまりは、こういうことです。

まず、この測定値の通り左前トーに過度なトーインが付いている状態というのは、このような状態になります。
ですが、これはハンドルを真っ直ぐにした静止状態での数字でしかありません。
では、この車が実際に走っている時は、どのようになっているかというと

こうなるわけです。
最初のイラストの状態だと車は右に右に流れて、すぐ対抗車線にはみ出してしまいます。
だから、ドライバーは自然と真っ直ぐ走る為にハンドルを左に傾けて、左右のトーが釣り合ったところで真っ直ぐ走るように運転をします。これは普通のドライバーなら誰もがやっている自然な操作です。
ですから、ハンドルまっすぐの静止状態では、フロントの片側だけに超トーインがついていたとしても、走っている最中は左右に等しく強トーインがついている状態で走っている事になります。
なので、静止状態でフロントの片方だけに過度なトーが計測されたとしても、実際走行時のフロント左右は等しいトーインかトーアウトのどちらかで釣り合って走っているので、起きる現象はフロント左右両輪の外減りか内減りとなるのです。
ですが、今回の車両は左前の外側だけに異常磨耗が出ていました。つまり、この車の異常磨耗原因は常に左右が連動するフロントトー以外に、左前輪のみに発生しているミスアライメントがあると推測されます。
では、どういった事が起きていれば現状のような左前輪磨耗を起こすのかを想像してみます。
まずはアライメントの概念をおさらいしましょう。
トー以外でアライメントといえば、まず代表的なのがキャンバーです。
次に、キャスター。
それとキャスターと密接な関係を持つSAI(KPI)
(この二つは同じ操舵軸を前から見るか、横から見るかの違いです)
アライメントで非常に重要となるスラスト角
車が進む向きを指し示す確度で、後輪アライメントの特にトーで決まります。
(スラスト角は前輪の偏磨耗にも多大な影響を与える要素なのですが、今回の測定結果ではそれほど問題があるように見えず、結果論から先に言ってしまうと作業後の試乗でも特に左右の流れは感じなかったのでスラスト角は問題ないように思えます)
併せて、セットバックやオフセットという概念も理解が必要です。
そして、もしかしたら今回の左前輪異常磨耗に影響を与える可能性は有ると思うのが、
T.O.O.T (トーアウトオンターン)というフロントトーに関わるメカニズムです。
バイクと違って左右に2本のタイヤをもつ車は、カーブを曲がる時に内側になるタイヤと外側になるタイヤの軌跡が描く円の直径が違う為、内側のタイヤの方が外側のタイヤのより自然に鋭角に角度をつける事で、車がスムーズに曲がれるという仕組みです。
これは昔の偉い人が考えた仕組みで、最初に特許を取ったのがイギリスにお住まいだったアッカーマンさん。その特許を更にに発展させたのがフランスのお住まいだったジャントーさん。なので、このお二人の名前をとってアッカーマン・ジャントー機構と呼ばれます。
トー・キャンバー・キャスター・SAIが、ハンドル真っ直ぐでの静止状態のアライメントであれば、T.O.O.T は動的状態のアライメントになるので、少し難しく思えますが、やっている事はわりと単純な仕組みです。
(詳しくはリンク先のSEK様の解説をご覧ください。基本的に文字とイラストだけの説明で、あれ以上の説明は無理ですw)
もし、この要素が上手く機能していないなら、カーブを曲がる回数が多ければ多いほど、左右のタイヤ磨耗に偏りは起きる事になりますが・・・これ以上は憶測の域を出ません。
何故ならば
トーとキャンバー以外のアライメントは
当店では計測できないからです。

では、どうすれば調べる事ができるのか?
ここで登場するのが
3Dアライメントテスター
というわけです。
3Dテスターは、上記したアライメント数値が全て計測できる超ハイテク機器なのです。
だから機械の値段もめちゃくちゃ高価です。めちゃくちゃ高価なので、使用料(測定料)もそれなりにかかってしまうわけです。
逆に言えば、そこまでの測定をしないなら測定器具が3Dテスターである必要はありません。
測定環境がしっかりしていて、作業に従事する者に確りとした理解があれば、デジタル3Dとアナログ2Dのトー調整にパフォーマンスの差は有りません。
そして、ここからがわりと重要なお話ですが。
もし、今ここに3Dアライメントテスターがあって、前途したアライメント数字に異常を発見し偏磨耗の原因が判ったとしても、当店ではそれを直す事は出来ません。
それは当店だけでなく、3Dアライメントテスターを持っている殆どの全国チェーン系のタイヤ専門ショップも同じです。
医療で例えるならば、MRIで椎間板ヘルニアだと診断できるけど、ヘルニアの手術は出来ないお医者さんみたいなものです。
うちの場合は、そのMRIは持って無くて、昔ながらのレントゲンで診断してるといったところです。
3Dテスターじゃないと分からないミスアライメントを直すというのは、人間で言えば外科手術をするに等しいレベルの修理になるのです。
MRIは持ってるけどヘルニアの手術は出来ない町のお医者さんは、大きな総合病院を紹介することになりますよね?
同じように、もし一般的なタイヤ屋で3Dテスターじゃないと分からないミスアライメントが分かっても、ボディアライメントが確りできる設備と経験を持った整備工場を紹介するしかないのです。
ですが、直すのが人間の身体であれば費用対効果(コストパフォーマンス=コスパ)なんて考えないでしょうが、直すのが車であれば多くの場合は純粋な費用対効果の話になります。
例えば、ミスアライメントによって2万円で買えるタイヤの磨耗寿命が、正常なアライメント状態に比べて半分になっとします。半分ということは50%です。
正常な磨耗寿命が20,000kmだとしたら、半分なら10,000kmです。
(1)このミスアライメントの状態に、1万円のアライメント作業を行えば磨耗寿命は80%まで回復します。
(2)このミスアライメントの状態に、10万円のアライメント作業を行えば磨耗寿命は100%まで回復します。
貴方ならどちらを選択しますか?
これはあくまで分かり易くするための極端な例ですが、単にタイロッド調整を行うだけの作業と、フレーム修正やサスペンション・メンバー交換を伴う作業を対比していますので、あながち大げさというものではありません。
また、忘れてはいけないのはタイヤには磨耗寿命の他に、時間的寿命も存在するという事です。アライメントが直って磨耗寿命が延びても、経年劣化の時間寿命は変わらないので、溝が有っても約5年を目処に交換が必要です。
もし前途の選択肢があったとしたら(1)しか選ばない! という需要にのみサービスの対象を限定したことで、当店のアナログアライメントは始まりました。
(それに、早期磨耗の原因がトーとキャンバーだけの場合なら(1)の選択肢で100%に戻ります)
めちゃくちゃ高価なテスターを買わなくて済んでいる分、測定料はとってもお安くなっております。
なので、当店のアライメントは主にタイヤの早期磨耗という実害が発生した方へアプローチしています。
早期磨耗の90%くらいはトーかキャンバーの問題なので、当店のアナログアライメントで十分効果がでます。
あとは真っ直ぐ走らないというのも、90%くらいはトーの問題なので、原因までは判ります。調整できるかどうかは場合によります。(これは3Dアライメントであっても一緒)
問題は、特に困ってないけど愛車のシャシーが全体的に正常かどうか見たいという方。
この需要には残念ですが当店のアナログテスターでは能力不足です。系列店の3Dアライメント測定をご紹介します。
他には、トーもキャンバーも異常が無いのに何故か真っ直ぐ走らないという方。この需要の場合もやはり3Dアライメントの力が必要です。
ちなみに、実はうちでアライメント作業を行っているリフトは、めちゃくちゃ高価なアライメント用リフトだったりします。
これはアライメントに絶対必要な水平な状態を保った上で、下回りの作業ができるようになっています。
こんな超高性能リフトが何故か設置されているのに、実質オイル交換リフトとしか使われてない宝の持ち腐れ状態だったのもの、このアライメント稼業を始める動機にもなりました。
何故当店には3Dアライメントテスターが無いのに、こんな高価なアライメント用リフトだけがあるのか、当代3代目店長である僕にとっては謎です(笑)

今回のアライメント作業は、フロントのトータルトーに強めのインが付いている状態を是正しました。
これだけでも前輪タイヤ磨耗には大きく影響するはずです。
調整後の試乗でもハンドル真っ直ぐで車も真っ直ぐ走っている事が確認できました。
おそらく、減りの左右差は残ったままになる可能性が高いですが、その磨耗速度は今までよりかなり緩やかになるかと思います。
ちなみに、今回の異常磨耗については、もう一つの怪しいポイントがあります。
実は、このお客様の車が2台続けて同様の減り方をしているという事実があるのです。
その1台目のアライメントも当店で紹介しています。
このエブリに乗る前、実はこのスクラムに乗っていたのが今回のお客様なのです。このスクラムはこの後、貰い事故で廃車になったらしいです。
そして、このスクラムの時も実は左前の外側が一番よく減っているのです。
これはお客様も気付かれていて、「前回と同じだ」と思ったそうです。
ですが、車はまったく別の固体に変わっているのです。
同じドライバーが同じ環境で使った別固体の車が、同じような偏磨耗を起こしている。
この事はつまり『偏磨耗の原因は車ではなく環境にあるかもしれない』という可能性も示唆しています。
そういった、色々な理由が考えられる中で、まずはトー調整で様子を見るというのが今回のアプローチです。
ご用命ありがとうございました。
■アライメント作業料金(スズキ エブリ)
・前輪トー調整(一般国産車) ¥5,500








