横浜ゴム独自の解析モデル「neo-FIALA」━━タイヤ性能発現のしくみを数式で紐解く

横浜ゴムの技術

横浜ゴム独自の解析モデル「neo-FIALA」タイヤ性能発現のしくみを数式で紐解く

基盤技術

路面とのわずかな接点で車の「走る」「止まる」「曲がる」を担うタイヤにはさまざまな力が掛かり、それによってタイヤの形状にはわずかな変化が生じます。この変形の仕方はタイヤ性能を左右する重要なカギとなりますが、走行中のタイヤ変形を実際に計測するのは極めて困難です。そこで、横浜ゴムでは回転するタイヤのダイナミクス(力学)とタイヤ性能の関係性を数式で記述した解析モデル「neo-FIALA(※)」を独自開発し、活用を進めています。

※「neo-FIALA」のモデルの名称はウィーン生まれの自動車エンジニアErnst Fiala博士にちなんだものです。Fiala博士は1950~70年代にダイムラー・ベンツやフォルクスワーゲンで活躍し、当時はバイアスタイヤが全盛の時代でしたが、博士の構築したコーナリングフォースについての理論「Fialaモデル」は、現在のラジアルタイヤの解析モデルにも大きな影響を与えています。

タイヤの変形が車の乗り味を左右する

下の図は、時速40kmで走行している車を下から撮影したところです(高速度ビデオによる合成画像)。よく喩えられるように、タイヤは本当に「ハガキ4枚分(タイヤ1本につきハガキ1枚分)」の面積で自動車を支え、その運動を制御(止まる・曲がる)しているのです。

自動車を支えるタイヤの接地面積

さらに、ごく大まかにいえば、空気入りタイヤは空気容器(風船)の外側をゴム・繊維・金属コードの複合素材で覆って形状を整えたものです。ほかの自動車部品と比較して非常に軟らかいこの構造体が、「自動車と路面の唯一の接点」として、わずかハガキ1枚ほどの面積で車両側から路面へ力を伝えますが、その際にタイヤ自体の変形も生じています。このようなタイヤの変形は力の伝達を不完全にする側面もある一方で、コーナリングや凹凸の路面を走行する際の車両運動の変化(揺れや振動など)をドライバーや同乗者に対して優しく、緩やかなものにする役割もあります。

コーナリング走行時に生じるタイヤの変形
※タイヤ変形がわかりやすいように極端に描画しています

正に自動車の乗り味はタイヤによって左右されるのです。「neo-FIALA」モデルはこのような「優しいタイヤの役割(伝達特性)」を数学モデルとして表現し、設計者がタイヤの機能設計を行う上で考えを整理・集中しやすくしたものです。

路面凹凸によって生じる衝撃の伝達

シンプルなモデル構造を活用しタイヤ開発を高効率化

「neo-FIALA」モデルの構成要素はトレッド、ベルト、サイドウォールの3つ(ラジアルタイヤにおける主要な構成要素)ですが、「タイヤ自身の変形プロセス」を組み込むことにより、精度の高い解析を実現しています。
「neo -FIALA」モデルにはタイヤの機能ごと(制動・コーナリング・乗心地など)の発現メカニズムを表現した数式がいくつかありますが、いずれもごく少数のパラメータによるモデルとなっています。

コーナリング走行時のトルクの伝達の数式モデル

このようなモデル構造は微細な構造を再現したCAE (Computer Aided Engineering: 計算機援用工学)モデルに比較して抽象度が高いとも言えますが、「あるタイヤ性能がどのようなタイヤ変形によってもたらされたか」をたどる逆解析プロセスにおいて極めて有効なものになります。
今後もDX時代における当社独自のデータ活用プロセスとして、「neo-FIALA」モデルのモデル群の適用範囲を拡大し、タイヤ設計開発の高効率化を進めていきます。

タイヤ周辺の空気の流れをコントロールし、自動車の空力性能を向上させるエアロダイナミクステクノロジー