持続可能な天然ゴムとは?

天然ゴムはどんな資源?

皆さんは、ゴムと言うと何をイメージしますか?
柔らかいもの、よく伸びるもの、よく弾むもの、滑り止めになるもの、音や振動を抑えるもの・・・、色々なイメージがあると思いますが、それらがゴムの持っている機能です。
ゴムを大きく分けると天然ゴムと合成ゴムに分けられます。天然ゴムはパラゴムノキなどの植物から、合成ゴムは石油などから作られます。天然ゴムが工業的に使われるようになったのは約200年前からですが、これからの循環型社会では天然ゴムが果たす役割はますます大きくなってくると考えられています。

天然ゴムを作り出すパラゴムノキ

現在、工業的に使われているほとんどの天然ゴムはパラゴムノキ(Hevea braziliensis)の木の幹に傷をつけて採取される乳液(ラテックス)に含まれるゴム成分を凝固させて作られたものです。天然ゴムの主な産地は東南アジア、アフリカ、中南米の熱帯の高温多湿な地域です。中でも東南アジアは全世界の生産量の約80%が集中しています。

天然ゴムの主な用途

天然ゴムはタイヤ、輪ゴム、ホース、コンベヤベルトなどの産業用ゴム部品や日用品などに使われています。身近なものから普段は目に触れないものまでさまざまな用途で使われていますが、その約70%がタイヤ生産に用いられています。天然ゴムは強度が強いため、特にトラックやバス、産業用車両などの大型タイヤに多く使われています。

タイヤ
ホース
コンベヤベルト

横浜ゴムが購入している原料の約2割は天然ゴム

横浜ゴムはタイヤをはじめ多様な製品を作っています。タイヤは黒くて丸いゴムでできている製品というイメージがありますが、ゴム以外に金属や繊維、カーボンブラック、オイルなどさまざまな素材と部材でできています。横浜ゴムの購入している原料のうち、天然ゴムは約2割を占めている重要な原料です。
タイヤは乗用車用、トラック・バス用、重量物を運搬する車両や過酷な条件で活躍する車両用、農業用車両など、さまざまな種類があります。天然ゴムは大型で耐久性の要求されるタイヤにより多く用いられています。
横浜ゴムが製品をお客さまに安定して継続的にご提供するためには、天然ゴムをこれから先もずっと安定的に確保することが不可欠なのです。

PCR: 乗用車用タイヤ、TBR: トラック・バス用タイヤ

天然ゴムは優れた資源

パラゴムノキは空気中の二酸化炭素を吸収し、工業製品の原料となる天然ゴムを作ります。またパラゴムノキ自体にも炭素をため込むため、カーボンポジティブな(CO2吸収固定効果がある)天然資源です。同時に、天然ゴム産地に雇用と収入をもたらし、地域経済を支える産業を形成しています。

乳液が出なくなった木は伐採されて家具にも使われる

同質の天然ゴムを安定して生産するために、天然ゴム農園に栽培されているパラゴムノキは同じ遺伝子を持つクローンからできています。そのため通常は同じ系列の木から挿し木で苗を作ります。植えたパラゴムノキの苗から天然ゴムが取れるようになるのは植樹してから5~6年が経過して、十分な太さの幹に成長してからとなります。またパラゴムノキが盛んに乳液を出すのは植樹後20~25年位までで、その後は徐々に生産量を落としていくため、定期的に植え替えが必要となります。年を取り伐採されたパラゴムノキは家具やフローリング用の木材として広く使われています。無駄のない木ですね。

天然ゴム農園での社会的リスク

世界の天然ゴム需要規模はこの40年間で約3倍にも増えています。これは世界的な人口増加と急激なモータリゼーションの広がりが大きな原因となっています。その一方で違法な森林伐採や土地収奪、人権侵害などの問題、森林破壊や違法伐採による生物多様性への悪影響などが懸念されています。

熱帯多雨地域に広がる天然ゴム農園

天然ゴムの産地の中でも東南アジアは世界のおよそ8割の天然ゴムを供給しています。東南アジアには熱帯雨林が広がっています。熱帯雨林は数多くの希少な生き物が暮らす生物多様性の豊かな土地です。そこでの天然ゴムなどの農園の拡大は貴重な生き物の暮らしに影響を与えることがあります。また、自然公園内や保護地域での違法な農園開拓が行われることが危惧されている地域もあります。
天然ゴムの需要の増加に対して耕作面積を増やすのではなく、面積当たりの収量を増やしたり生産できる期間を延ばすことによって熱帯雨林を減少させることなく生産量を増やすことや、タイヤなどの製品を軽くしたりコンパクトにしたりすることによって使用する天然ゴムの量を減らすことも必要なことです。

天然ゴムの生育範囲は、赤道をはさんだ南北緯度15度付近
世界の熱帯雨林の場所(緑)と重複する

天然ゴムの主な生産国

人権や貧困などの社会的課題

天然ゴムの生産は大規模なプランテーションではなくスモールホールディングと呼ばれる小規模農園で多くを占められています。小規模農園で天然ゴムを栽培する農家(スモールホールダー)は東南アジアを中心に600万戸存在しているともいわれています。小規模農園では経済的な貧困や、ゴムの収穫の知識・ノウハウや経験の不足による生産の非効率や、環境への配慮不足による自然への負荷の増加といった問題が懸念されています。

トレーサビリティの困難さと重要性

天然ゴムは国際的なマーケットで価格が変動します。天然ゴム農家から原料ゴムを買い取ったディーラーはその日の価格をチェックし、どこに売るか、売らずに倉庫に保管するかを決めています。パラゴムノキから採取されたラテックスは非常に腐敗しやすいですが、ラテックスを固めたカップランプやシート状に固めたUSS(Unsmoked Sheet)などの原料ゴムは保存がきくため、場合によってはディーラーから他のディーラーへの取引や地域や国境を越えた取引も行われています。そのため生産者から天然ゴム加工工場までの流通ルートを明らかにすること(トレーサビリティを確保すること)は非常に困難です。それでも、購入した天然ゴムが森林破壊や人権侵害に加担している農園で生産したものではないということを証明していくことが必要になってきています。

天然ゴムのバリューチェーン

天然ゴムを持続可能な資源にするための取り組み

横浜ゴムはグローバルタイヤメーカーとしての責任を果たすために天然ゴムを持続可能な資源にするための取り組みを行っています。取り組みを通して購入した天然ゴムがどのような農園で生産されたかを明らかにする(トレーサビリティの確立)ことと地域や農園が抱えている問題に寄り添い、天然ゴムの生産がこれから先も持続的に行える仕組みを構築し、その地域で天然ゴムの生産が持続的に可能となることを目指しています。また、こうした活動を通してSDGsへの貢献を果たしていきたいと考えています。

持続可能な天然ゴムの活動を通したSDGsへの貢献

画面を左右に動かすと、表組みの情報がご覧になれます

SDGs Goal ターゲット
1.あらゆる場所であらゆる形態の貧困に終止符を打つ。
9.4 2030年までに資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う。
10.2 2030年までに、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況に関わりなく、全ての人々の能力強化及び社会的、経済的及び政治的な包含を促進する。
12.2 2030年までに天然資源の持続可能な管理及び効率的な利用を達成する。
12.a 開発途上国に対し、より持続可能な消費・生産形態の促進のための科学的・技術的能力の強化を支援する。
15.2 2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な経営の実施を促進し、森林減少を阻止し、劣化した森林を回復し、世界全体で新規植林及び再植林を大幅に増加させる。
16.2 子供に対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。
17.17 さまざまなパートナーシップの経験や資源戦略を基にした、効果的な公的、官民、市民社会のパートナーシップを奨励・推進する。

国際的な取り組みへの署名・参画

横浜ゴムは、2017年に国際ゴム研究会(International Rubber Study Group: IRSG)が提唱する天然ゴムを持続可能な資源とするためのイニシアティブ(Sustainable Natural Rubber Initiative: SNR-i)の趣旨に賛同し、活動に参画しました。また、持続可能な発展のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD)のタイヤ産業プロジェクト(Tire Industry Project:TIP)が主導して立ち上げた、持続可能な天然ゴムのためのプラットフォーム(Global Platform for Sustainable Natural Rubber:GPSNR)に創設メンバーとして参画しています。

持続可能な天然ゴム調達方針を改正

横浜ゴムは2021年9月、「持続可能な天然ゴムの調達方針」を改定しました。本方針は2018年10月に策定し、今回の改定では2020年9月に開催された持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム(GPSNR)の第2回総会で承認されたポリシーフレームワークを当社の調達方針に組み込み、より高いレベルで天然ゴムの持続可能性の実現を目指す意志を明確にしています。

持続可能な天然ゴム調達方針で目指すもの

  • トレーサビリティ構築
  • 人権尊重とあらゆる形態のハラスメントの禁止
  • 働く人の公平で公正な処遇
  • 児童労働・強制労働の禁止
  • コンプライアンス
  • 森林破壊ゼロへの取り組み
  • 生物多様性への配慮
  • 先住民等の土地の権利の尊重
  • 技術革新への挑戦
  • サプライヤーとのコミュニケーション
持続可能な天然ゴムの調達方針(34.4MB)

天然ゴムサプライヤーとの交流会

横浜ゴムは2016年より天然ゴムのサプライヤーを対象とした交流会(サプライヤーズデー)を開催しています。2018年4月の交流会では5カ国から25社42名の方を日本にお招きし、横浜ゴムのCSR方針に沿って天然ゴムを持続可能な資源にするための取り組みへのご協力をお願いし、サプライヤーとの共通理解を深めました。
2020年は新型コロナウイルス感染拡大により開催を見送りましたが2022年5月にシンガポールのグループ会社Yokohama Rubber Singapore pte. Ltd.との共催でオンラインにて開催しました。
交流会では、ESG中期計画の環境面に関する計画や2022年4月に策定した人権方針について説明するとともに当社の「持続可能な天然ゴムの調達方針」に基づいた取り組みへのご協力をお願いし、サプライヤーとの共通理解を深めました。当社への安定した品質の天然ゴムを提供していただいていることに対して社長より感謝のメッセージをお送りし、特に貢献していただいたサプライヤーへの表彰を行い、トロフィーを贈呈しました。また、持続可能な天然ゴムのためのプラットフォーム(GPSNR)のStefano Savi代表(Director)からも本イベントの開催を祝うビデオメッセージをいただきました。

サプライヤーズデー