NEOVA AD09

ネオバとカレラは相思相愛?
ADVAN Circuit Experienceで試す
NEOVA AD09と911カレラの相性。

2025.5.30

「例えるならポルシェ911カレラのようなタイヤ」──ADVAN NEOVA AD09の開発チームをチーフドライバーとして牽引した織戸学の言葉である。レーシングマシンのストリートバージョンである911GT3ではなく、敢えてストリートも快適に何より安心感を持って楽しめる911カレラにNEOVA AD09のキャラクターを重ね合わせた真意を、タイプ996の911カレラを愛機としサーキット経験も豊富な“チューニングジャーナリスト”の加茂新が、岡山国際で開催されたADVAN Circuit Experienceでの走行を通して探った。

Words:加茂 新 / Arata Kamo

Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui

ストリートからサーキットまで
安定した走りを楽しめるのが魅力だ。

YOKOHAMA/ADVANの誇るスポーツタイヤNEOVA。ストリートタイヤとレーシングタイヤが別のものとして存在していた1990年代。1995年に発売されたNEOVA AD05/AD06はその世界を変えた。高いグリップでサーキットでの限界走行を楽しめる、それでいてストリートでは快適に、街乗りも高速道路も気持ちよく走れる。ハイグリップラジアルタイヤと言われる新たなカテゴリーの代名詞的存在となった。

そこからAD07、AD08、AD08Rと進化し、AD09になったのは2022年のこと。YOKOHAMA/ADVANにはさまざまなタイヤがあり、それぞれのキャラクターがある。もっとも高いグリップを持つのはモータースポーツ向けタイヤとして作られたA050。ストリートとの併用も念頭に開発されているが、極めて高いグリップを持つサーキットメインのタイヤA052。そして、次にスポーティな立ち位置のタイヤとしてNEOVA AD09がある。AD09のキャラクターについて、その開発ドライバーを務めた織戸学は「NEOVAはCARRERA/カレラ」だと言う。

空冷エンジンから水冷エンジンへと進化を遂げるポルシェ911シリーズの大変換期の記念すべきモデルとなったタイプ996。今回はその前期型となる2001年式のカレラと NEOVA AD09との相性を試してみる。タイプ996のカレラは前期型が3.4ℓ/300psの水平対向6気筒エンジンを採用(後期型は3.6ℓ化)。後輪駆動軸の後ろにエンジンを搭載するRRレイアウトとなる。

カレラとはポルシェ911のグレードのことを指す。そもそもはスペイン語でレースを指す言葉で、現在のGT3シリーズに通じる高性能モデル911カレラRS(1973年)に使われたのが最初(厳密にはカレラ6などポルシェのレーシングカーに古くから使われていた)。だが、時とともに911ではスタンダードモデルがカレラというグレードになり、ストリートでの上位グレードはターボ、よりサーキット指向ならGT3という棲み分けになっていった。ここで織戸学の言うのは現代(水冷化されたタイプ996以降)のカレラのことで、つまりスタンダードなモデルということだ。

ポルシェ911カレラは、街乗りではそのしっかりとしたボディから操作に対する正確な応答性を持ち小気味よいハンドリングを楽しめる。ワインディングではリヤエンジンを活かした強大なトラクションが、淀みないエンジンパワーを路面に伝え、前に前にとクルマ進めてゆく。時にはサーキットも楽しめ、ストリート主体のグレードでありながら、スポーツカーらしい正統派の走りを楽しめる。あらゆる条件、コンディションを受け止めて、その上で安心感があり走りを純粋に楽しめる。そして、そのすべての操作に対して驚くほど正確性が高い。それが30年以上911 カレラに伝わるキャラクターである。そして、ADVANラインアップにおいてNEOVA AD09はまさにそのカレラの性質に似ていると開発ドライバーの織戸学は言う。つまりストリートを主体としてその走りを楽しめながら、時にはサーキットの限界走行も受け止める。そんな懐の広さと包容力の大きさがAD09と911カレラに重なるのだと。

5月10日(土)に岡山国際サーキットで開催されたADVAN Circuit Experience/エキスパート・クラスに参加。岡山国際を1分55秒未満でラップする車両を対象としたクラスだけに速さの光る腕利きの参加者が多い。朝方まで雨が残った影響でウェット路面だったため筆者は朝イチの枠(1日3枠走行可能)での走行は控えた。

であれば、カレラにNEOVA AD09を履いて、街乗りからサーキットまでを体感してみたい。遠方のサーキットまで自走で行き、サーキットを走り、また自走で帰る。911 カレラ本来の使い方を改めて体験してみたい。そこで横浜ゴムが主催するADVAN Circuit Experienceに参加し、その性能を確かめることにした。

参加車両は筆者の愛車である2001年式のポルシェ911(タイプ996)カレラ。水冷になった最初の911であるタイプ996の前期型で、3.4ℓ水平対向6気筒エンジンは6速マニュアルミッションを介して300psのパワーをリヤタイヤに伝える。言うまでもなくカレラはRRレイアウトの2WDモデル。装着するタイヤサイズはフロントに225/40R18、リヤに265/35R18。タイプ996用のサイズはいくつか選択肢があるがこのサイズは純正サイズのうちのひとつ。ホイールは996後期純正でフロント8J、リヤ10J。筆者が普段のアシとして乗り始めて2年目になり、購入後すでに約1.5万kmを走ってきた。純正サスペンションにダウンスプリングが入れられていて車高が下がっているが、それに合わせてアライメントは調整済み。あとはシートがフルバケットになっている意外はノーマルという個体だ。

装着サイズはフロント225/40R18 92W、リヤ265/35R18 97W。このサイズはタイプ996前期型カレラの純正サイズにも設定されている。ホイールはタイプ996後期型カレラの純正でフロント18×8J、リヤ18×10Jとなる。

NEOVA AD09の新品タイヤを都内で装着。そこから数日ほど都内を走り、ある程度慣らしてから岡山国際サーキットへと向かった。街乗りでまず感じたのはそのしっかり感。グリップの高さがヒシヒシと伝わってくるのは、操作に対する反応があるから。ステアリングをわずかでも操作するとタイムラグなく、クルマが反応してくれるのが心地よい。これは街乗りの極低速から高速道路まで変わらず、自分の思い通りにクルマを動かせる自信が得られるからこそ、安心感を持ってドライブできる。実に気持ち良く走れる。素直にドライビングが楽しくなる。高速道路の走行では当たり前のことのようだが「まっすぐ走る」。より分かりやすく言えばタイヤからまっすぐ走ろうとする意思を感じる。そのため、左右にフラフラすることなく自然と直進してくれる。それでいてスポーツタイヤにありがちなパターンノイズも気にならない。

走行会前日に東京から高速で岡山国際サーキット近くまで向かったが天候は激しい雨。気温も低く車内は暖房を入れるほど。路面には轍に水膜が張り、太めのスポーツタイヤを履いたクルマには絶妙に嫌なコンディションだったが、そこでの安心感の高さが印象に残る。昨今のスポーツタイヤはゴムのヨレを抑えるために浅溝設計が多いがAD09は比較的溝は深い。その溝がしっかりと水膜をかき分けてくれるのでタイヤが路面を掴んでいる感触がある。

前日の東京から岡山国際サーキットまでの移動は生憎の雨模様。しかもかなり激しい雨に見舞われた。とは言えNEOVA AD09で走る雨の高速道路はその安心感の高さが光るものだった。浅溝設計のスポーツタイヤが多い中NEOVA AD09は比較的溝が深く、その溝がしっかりと水膜をかき分けてくれるのでタイヤが路面を掴んでいる感触があって安心感も高まる印象となった。

サーキットに着いて走行前にやや空気圧を落とした。このクルマはフロント2.5kg/cm2、リヤ3.0kg/cm2が推奨空気圧として定められている。サーキットでは温間と呼ばれるタイヤが温まったときの空気圧で管理するが、ハイグリップラジアルタイヤは概ね2.0kg/cm2付近にするとグリップを引き出せることが多い。だが、RRのポルシェ911の場合、極端にリヤの軸重が重いのである程度リヤの空気圧は必要。そこで今回はフロント2.0kg/cm2、リヤ2.8kg/cm2を目指し、走行前にタイヤが冷えた状態で空気圧はフロント1.8kg/cm2、リヤ2.5kg/cm2に調整した。

今回の走行レポートはチューニング&ドラテク誌のREVSPEED編集長を経て、現在は「自動車チューニングジャーナリスト」として活動する加茂新が自身の愛機を用いて務めてくれた。モータースポーツ歴も長く、86/BRZレースなどワンメイクシリーズを中心に参戦しチャンピオン経験もある実力派。近年はスーパー耐久ST5クラスへの参戦などさらなる高みを目指している。

ADVAN Circuit Experienceは速さやスキルによって「マスター」「エキスパート」「ミドル」「エンジョイ」の4クラスに分けて走行する。朝のミーティングでは谷口信輝、松田次生、平手晃平各講師(名うてのトップドライバーが顔を揃えるのが嬉しい)によるアドバイスも送られる。この日は朝方まで雨が残ったが、「最終コーナー立ち上がりの外側の縁石には絶対に触れないこと。そこで滑ってそのままイン側の壁にクラッシュします」「モスS(伝説のレーサー、スターリング・モスの名に因んだS字コーナー)はドライなら直線的なラインで抜けられるけれど、ウエット時は全開では抜けられないコーナーになる。だから雨のモスSはプロドライバー全員が嫌いなところ」と具体的にアドバイスがされる。「ビビらせまくってますけど、それでアクシデントがなければその方が良い。無事に走り終えたら、クラッシュのダメージを直すつもりで、そのお金でチューニングしてください。もちろんタイヤやホイールも買ってくだいね」と谷口信輝選手は笑う。

ADVAN Circuit Experienceは参加者ごとの速さやスキルによって「マスター」「エキスパート」「ミドル」「エンジョイ」の4クラスに分けて走行する。新旧様々な顔ぶれの車両の走りが見られるのも楽しみのひとつだが、谷口信輝、松田次生、平手晃平という現役トップドライバーが顔を揃え、的確かつユーモアにも満ちたドライビング指南も得られるのが何よりの魅力となる。タイヤメーカー主催によるサーキット走行イベントの中でも、「走りを楽しむ」という要素において質・量ともにADVAN Circuit Experienceはとても充実したコンテンツを取り揃えていると感じる。

コースインしてまず感じたのはNEOVA AD09の冷間時のグリップの高さ。ほぼドライ路面となったところでコースインとなったが、タイヤが冷えているようなナーバスさはない。走り出しからしっかりとグリップしている。そこからペースアップしていくとタイヤが徐々に温まっていくが、「さあ、グリップが来たぞ!」という感じはない。もともと冷えているときからグリップが高いだけに、温まったからといって急激にグリップが上がるわけではなく緩やかにピークを迎える。そこから連続周回していくとピークを過ぎてグリップは落ち始めるが、その推移もゆっくり。グリップを山の形状に例えて表現すると、冷えている時から温まってそして熱ダレしていくときまでのイメージは尖った鋭利な山ではなく、緩やかに大きな山。ピークグリップはA050やA052に譲る。しかし、タイヤが冷えているときからヒートしたときまでその山の全体面積は間違いなくNEOVA AD09が優る。それこそが織戸学がNEOVAはカレラだと言った意味が理解できる。

限界域まで攻めていったときのグリップの限界も、その山が大きく限界を超えるとゆっくりとタイヤが滑り出す。それこそがNEOVAらしさである。歴代NEOVAに共通するグリップの限界域での扱いやすさがある。このギリギリの領域が扱いやすいからこそ、ビギナーでも限界性能を引き出しやすい。もっとグリップのピークと限界域がシビアなタイヤもある。プロドライバーはそれでも性能を引き出せるが、アマチュアにはそれは厳しい。限界を超えた際の瞬時のカウンターステアなど、ある程度のスキルが必要とされていく。そして、その領域まで到達する練習さえ難しいものになる。何よりその領域でのNEOVA AD09はフレンドリーなのが魅力。限界を感じやすく、超えたところでもコントロールしやすい。AD09にはADVAN NEOVAのキャラクターが満ちている。

連続してサーキット走行をしてもトレッド面(フェイス)の崩れが少ないのはNEOVA AD09の大きな魅力。タイヤ全体が均一に路面に接して、荷重を受け止めているからこそダメージが少ないことの証だと言えるだろう。

走行後のトレッド面を見ると、タイヤのOUT側だけが大きなダメージを受けることもなかった。サーキットでは荷重が掛かりがちなトレッド面のOUT側が荒れやすい。とくにこのクルマのように、車高調にしてキャンバー角を増すなどのチューニングをしていないとそれが起きやすい。この日は20分の走行を2回行い、体感としてはややフロントタイヤを強引に使った場面もあった。フロントのグリップの限界を探るべくやや強引に使ってみたが、なかなか限界が現れず、何度もその限界を探った。そのためショルダー部が相応のダメージを食らっていることを予想したが、降りてから見て驚くほどそのダメージはなかった。タイヤ全体が均一に路面に接して、荷重を受け止めているからこそダメージが少ないと予想される。IN/OUT側指定の設計とされたことによって均一に路面を捉えることができるのだろう。

そして、1日の走行を終えるとある程度タイヤカスが付着していた。特にフロントタイヤの内側にはそれなりに付いていて、これが普段乗りでの乗り心地の悪化やロードノイズを生み出したりするが、帰路を普通に走っていると自然と解消された。これはストリートタイヤとして嬉しいところ。普段から使っていれば、タイヤの表面はまたクリーニングされていき、本来の性能を発揮できる。

岡山から神奈川の自宅まで約650kmの帰路についてもその印象は変わらない。スポーツタイヤでは1度サーキットで熱を入れるとキャラクターが変わってしまうタイヤも少なくないが、帰路のNEOVA AD09はやはり911カレラにピッタリの懐深い性格のタイヤのまま。むしろ徐々にタイヤカスがクリーンアップされていき、ハンドリングはサーキットを走る前の洗練されたものに戻っていった。レーシングマシン直系の911GT3(やGT3RS)ならばA050やA052がサーキットメインとして楽しめるかもしれない。しかし、普段使いからしている911カレラには確かにNEOVA AD09がマッチする。足として、ドライブの相棒として楽しみ、サーキットでベストタイムに挑みながら、また走って帰る。翌日はまた911で仕事へ行く。そんなカレラらしい使い方にNEOVA AD09は素晴らしくマッチしていた。

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