CULTURE
“面白い”が価値になる。
永遠の先輩──加藤 渉が語る
“ニッポンのカスタム魂”。
2025.3.7
“永遠の先輩”ことリバティーウォーク(LBWK)の加藤 渉。日本が世界に誇るこの稀代のカスタム・エンターテナーが熱く本音で語る、“ニッポンのカスタム魂”。
Words:髙田興平 / Ko-hey Takada
Photography:田村 翔 / Sho Tamura
世の中の当たり前を崩したい
さらに言えば固定概念を崩したい
「そりゃ“カッコいい”も大事だけどさ、やっぱり突き詰めるべきは“面白い”なんですよ。“面白い”っていうのは実はとっても難しくって、それこそお笑いの世界なんかと同じで、ときには指をさされて馬鹿にだってされるし、やりすぎたら叩かれたりもする。それでも、自分の信じた“面白い”を貫く。それが大切。
カスタムはね、オレにとっては立派なエンターテイメントなんです。そこに確かなプライドだってある。単なる改造じゃなく、自分たちのカスタムのカタチを通して少しでも多くの人たち、中でもここから先の未来を生きる若い世代や子供たちに向かって、自分の想いを思い切って貫けば、より多くの人たちの気持ちを動かせる、ってことを伝えたい。本当に、ただそれだけを信じてオレはここまで突き進んできたわけだから。やっぱり何だかんだと言っても自分の作ったもので誰かを笑顔にできたら、それがすべてなんですよ」
東京オートサロン(TAS2025)の開幕直前、名古屋郊外にあるリバティーウォーク(LBWK)のカスタム工房で、“永遠の先輩”こと加藤 渉はいつも以上に熱い言葉でそう語った。

(写真:LBWK)
目の前には完成したばかりのLBWKのミウラがある。これまでにもフォードGT40のレプリカをベースにしたカスタム・ミウラを作ったことはあるが、今度のやつは正真正銘、“ランボルギーニの王様”と誰もが認めるモノホンのミウラである。コレクタブルカーのマーケットでは余裕で数億円もの値が付く究極のヴィンテージスーパーカー。それを一切の迷いなく“自分のカタチ”にカスタムしてしまえるのがLBWKの凄みであり、加藤 渉という男のブレることのない“面白さ”なのだと改めて思い知る。
「一昨年にフェラーリのF40をやったときも賛否両論はあったけど、自分の耳には否定よりもむしろ喜びや賞賛の声の方が遥かに多く入ってきた。とはいえもちろん、否定の声だって聞こえてはいましたけどね(笑)。F40は元からカッコよくって当たり前。それをわざわざカスタムする必要なんてない、ってね。そんなことは、誰より自分自身がとっくの昔に気づいてた。でもね、それでもカスタムをする。
オレはさ、当たり前を崩したい。もっと言えば固定概念を崩したい。だってそれこそがアートだと思うから。人と同じことを皆でやっていたってきっと何も変わらないですよ。人とは違うことにこそ、価値がある。だからこそ人との違いをとことん面白がって、そこに生まれる価値を追い求める。それが、リバティーウォークの貫くカスタムの精神」
加藤のそんな言葉を聞いていると、2012年のSEMAショーに出展したLBワークスのムルシエラゴのことを思い出す。筆者は当時、SEMAショーの搬入前にワークスフェンダーの取り付け製作を行うサンフランシスコ近郊のとあるガレージまで取材に赴いていた。そこには、電動カッターを手にランボルギーニのフラッグシップモデルのフェンダーを恐る恐るぶった斬る、加藤の姿があった。
「あのときに怖さがなかったと言ったら嘘になる。でも、それ以上に信念の方が強かった。昭和の改造車文化のシンボルでもあったビス留めのワークスフェンダーをスーパーカーのシンボルであるランボルギーニに取り付ける。もちろん、そのためにはフェンダーをぶった斬るしかない。そりゃはじめはビビったし、いろんな人にも言われましたよ、『そんなことしたら価値が落ちる』ってね。でも、そのときにオレは思ったんだ。価値を落とすんじゃなくって、オレたちの手で魂を込めたカスタムをして逆に価値を上げてやる!ってね」
2012年11月のSEMAショーでデビューしたLBワークスのムルシエラゴ。昭和の改造車文化のシンボルであるビス留めのワークスフェンダーをランボルギーニのフラッグシップモデルにフェンダーカットをして取り付けた異色作は、アメリカのカスタムマーケットに衝撃を与え拍手喝采を浴びた。その後のLBWK大躍進の起爆剤となった記念碑的1台。(写真:モーターヘッド)
LBWKと加藤 渉の快進撃はあのときからはじまった。やがて世界の人々が彼の創り出すカスタム作品たちの姿と、何より加藤自身の発する真っ直ぐな熱さそのものに魅了され、LBWKの名は今では世界中に浸透し、驚くほど多くのファンを得るに至っている。
「ジュネーブでもエッセンでもグッドウッドでも、ニッポンのカスタム魂を真っ直ぐに見せ続けることにこだわった。元を正せば昭和のヤンチャな改造車文化が自分の原点にはある。そういうスタイルを好まない人たちが多くいることだって知っている。でもさ、オレはそれでもその文化が好きだし、ヤンチャな改造車に乗る先輩たちの背中を見ながら自分の意志でこの世界に足を踏み入れた。だからこそ、貫きたい。ニッポンの改造車文化で世界に挑みたい。何より絶対に、世界に負けたくない。ヨーロッパは実際、クルマの文化では歴史的にも日本の数段上でしょ?

紋付袴でジュネーブの舞台に立ったときは自分史上でいちばんの緊張だってしましたよ。あと当時はウェットカーボンのエアロ(ヨーロッパはより高価なドライカーボンが主流)を馬鹿にされたりもしたけど、それでも想いだけなら絶対に負けないと思ったし、実際、とことんまで自分たちの想いを貫いたらヨーロッパにだって多くのファンが生まれた。オレはね、オリンピックに出ているつもりなんです。カスタムのオリンピックに。そこはかなり真剣に日の丸の旗を背負ってね」
これまで世界各地で日の丸を高らかに掲げて“ニッポンのカスタム魂”を啓蒙してきたLBWKだが、TAS2025では日本を舞台に本格的な“和”のパフォーマンスを披露。津軽三味線の吉田兄弟による演奏に合わせて着物姿のダンサーが舞う演出は海外から多数押し寄せたオーディエンスたちの目を存分に楽しませていた。(写真:LBWK)
TAS2025のLBWKブースは例年以上の熱気に包まれていた。鈴なりに幾重にも重なるオーディエンスたち。海外からのファンの姿も驚くほど多く、子供連れのファンだってたくさんいる。何よりそこに居合わせた誰もが目をキラキラと輝かせながら、LBWK一流の“和”のカスタムパフォーマンスに魅入っている。
そして遂に、“日の丸カラー”の「LB-Silhouette WORKS GT Lamborghini Miura」がアンヴェールされた。ともあれその姿は唯一無二の存在として映った。そう、これこそが加藤 渉という不屈のエンターテナーの魂が存分に込められた、日本が世界に誇るべき、ひとつの究極のカスタムのカタチとして映ったのだ。
(写真:LBWK)
売るべきものは
モノではなく気持ち
「今年のオートサロンではブースに来てくれた人たちにF40に落書きしてもらったんですよ。好きな言葉や絵を好きなように描いてもらった。これこそがアートだよなって。だって、本当に世界にひとつだけしかないものだから」
TAS2025のLBWKブースではF40に来場者が自由に落書き出来るという実にリバティーウォークらしい試みを実施。ある種究極の“アート作品”がそこでは生み出されたのだった。(写真:LBWK)
怒涛のTAS2025が閉幕して2週間ほどが過ぎた頃、LBWKのアトリエ(通称マイアミ)で加藤はどこか楽しげにF40のボディに所狭しに描かれたその落書きを眺めていた。
「JDMって言うけどさ、それが本当に世界に定着したのはここ数年のことだよね。それまでは日本のカスタム文化は世界ではそれほど認められてはいなかった。それが現実。その現実を踏まえて言えば、大切なのはせっかく根付いたこの文化を、この先の世代にしっかりと繋いでいくってことだよ。
オレはさ、タイヤは昔からYOKOHAMAのADVANが好きだった。性能がどうのとかは正直よくわからないけど、赤と黒のハッキリとしたイメージとかタイヤのカタチとかがとにかく自分の性に合って好きだった。ほんと、イメージって大切なんですよ。明確なイメージがあるから、それをその先の世代にまでブレずに繋いでいける。オレたちみたいなカスタムショップにさ、タイヤメーカーの横浜ゴムさんが『コラボレーションをしよう』って声を掛けてくれるだなんて思ってもみなかった。すごく嬉しかったし、自分たちの貫いてきたカスタムのイメージをメーカーにまで認めてもらえたことが誇らしくもあった。だからこれからも一緒にJDMの価値をさらに高めていけたらいいなって、思うよね」
「改めて、どんなときだって常に面白がって、自分らしく何かを表現し続けることが大切だと思うよ」と加藤 渉は言う。そして、「売るべきものはモノではなくって気持ちだよ。金儲けばかりのビジネス目線ではなくってさ、そこにどれだけ想いや魂を落とし込んで、それを手に取ってくれる人たちに向けて渡していけるか。それが大事」とも。
“ニッポンのカスタム魂”を純粋な気持ちで真っ直ぐに貫くLBWKの進化はまだまだ衰えることはない。その唯一無二の存在感を放つカスタムマシンたちの足元を、この先もYOKOHAMA/ADVANが支え続けることだろう。
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