Car Culture

ニッポンの“K-Car”が世界を席巻?!
その足元をYOKOHAMAが支える。

2024.8.9

日本の原風景の中に溶け込むクルマといえば、“K-Car / 軽自動車”こそが相応しい──そんな想いを抱いた一人のアメリカ人デザイナーが仕掛けるユニークな活動に今回はフォーカスする。我々日本人が想像する以上に海外からの大きな注目を集める軽自動車。ひとつの明確な“カルチャー”としての、軽自動車のこの先の可能性に触れてみたい。

Words:髙田興平 / Kohey Takada(Takapro Inc.)

Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui

日本が生んだ軽自動車の価値を
“この先”へと繋ぎ合わせて行きたい

小雨に濡れた早朝の浅草の小路。1台の軽トラック(軽トラ)が目の前にスウっと現れた。ボディの色は日本各地で日常的によく見かけるあの素っ気のないソリッドな白色ではなく、どこかクラシカルかつシックな雰囲気を醸し出す薄いブラウンに塗られていて、それだけで品よく映るのだから面白い。そしてさらに面白いのは、それが“6輪車”だということ。なるほどこの軽トラ、何はともあれ只者ではないようだ。

1994年に登場したホンダ・アクティ・クローラは、後輪にゴム製(脱着可能)のキャタピラー(クローラ)を装着した営農用のオフロード仕様。撮影車両はキャタピラーから通常のホイール&タイヤへと履き替えた6輪仕様となる。タイヤは145/80 R12 80/78NLTサイズのGEOLANDAR M/T G003を履く。ホイールはホンダ・シティ用を流用している。

ここ数年、海外のカーマニアたちの間では“軽トラブーム”が巻き起こっている。筆者は実際に、昨年の初夏にル・マン・クラシック(ル・マン24時間レースの100年にも及ぶ歴史を戦った名マシンたちが年代ごとのクラスに分かれて走る一大イベント)の取材で訪れたサルテサーキットのパドックで、色とりどりに塗られた軽トラが参戦チームのサービスカーとして使われる姿(かなりの数)を見て感動を覚えたものだった。ポルシェ962Cに代表されるような伝説のレースマシンのカラーリングとお揃いに塗られた日本製の“小さな働くクルマ”が、遠く離れたヨーロッパの、それも最高峰のクラシックレースの場で大活躍する姿が誇らしかったのである。

「ヨーロッパだけでなく、アメリカでも日本のK-Truck(軽トラ)は大人気だよ。なぜならこんなに効率的で理に適ったパッケージングのトラックは世界中を探しても、日本の軽トラしか存在しないからね。さらにはアメリカ市場の25年ルール(生産から25年が経過した車両は保安基準などの規制が解除され輸入登録が可能となる ※各州によって異なる)が適用されることで日本から中古の軽トラがたくさん輸入されて注目を集めているんだ。
ボク自身がはじめて軽トラの姿を間近で目にしたのは今から20年ほど前。大学の夏休みにヴェルモントというボストンの郊外にある田舎町の農場で手伝いをしたときのことだった。おそらく当時特別に輸入したと思われる2台の軽トラがそこで働いていたんだ。言うまでもなく、一目見た瞬間にすっかりと魅せられてしまったよ。サイズや設計に無駄がなくって何よりキビキビと機敏に動き回るその姿が、大きさばかりが際立つアメリカ車のピックアップトラックに見慣れた目にはとにかく新鮮に映ったんだ」

冒頭に登場したマニアックな6輪軽トラ、ホンダ・アクティ・クローラのオーナーであるクラーク・ソッパーが言う。アメリカ東海岸のボストン出身(育ちは上記のヴェルモント)で、ニューヨークで学び、その後はカリフォルニアに拠点を構えて活動してきたインダストリアルデザイナーである彼は、レストランやショップなどの空間デザイン、アパレル関連のウインドウディスプレイなどを皮切りに、バイクやエアプレーン、さらには人が乗れるドローンまで、実に幅のある分野でのデザインの仕事をこれまでに手掛けている。最近は英国の名門フェラーリ・レストアラーであるGTOエンジニアリングと308のグループ4マシンのレストモッドプロジェクトを立ち上げ、さらに日本では某国立大学のキャンパスのデザインにも関わったというから、ともあれその幅も奥行きもある仕事ぶりが興味深い。

アメリカ人インダストリアルデザイナーのクラーク・ソッパーはデザインと軽自動車をこよなく愛する。日本特有の空気感と軽自動車とのマッチングに魅せられ、現在は日本を拠点とした活動に自身の軸を置き換えている。

「ボクはエンジニアではなくデザイナー。あくまでクリエイティブな発想でテクノロジーと人間とのより良い繋がり方をデザインとして描き出し、その先の形へとよりカジュアル(分かりやすく)に繋ぎ合わせていくことを大切にしながら活動している。イノベーション(革新)は人間同士の中にある様々なアイデアのシェア(共有)によって生まれるとボクは考えている。そうした意味でも日本のK-Car(軽自動車)の存在はまさに革新的だと思うよ。もちろん、日本では軽自動車は昔から人々の日常生活の中に文化として根付いていたものだけれど、海外では今になってそれが革新的なものに映って、より多くの人たちがその価値を認めるようになっていきている。ボクの場合はより極端で、軽自動車の存在を通してすっかり日本特有の文化そのものに魅せられてしまって、自分の生活の拠点まで日本に移してしまったというわけさ」

クラークは現在、東京の下町エリアに生活の拠点を構え、そこに複数台軽自動車を格納するスペースまで用意している。サイズの小さな軽自動車なので普通車なら2、3台が限度の場所に、上手に並べれば6、7台は置けるところが実に効率的だとクラークは言う。

クラークのガレージには複数台の軽自動車が置かれている。狭い環境であっても普通車と比べて置き場が確保しやすい点も軽自動車の大きな魅力だと言う。

「まず東京のような都市部で使うには軽自動車ほど理に適ったものはないと思う。車体もエンジンもとにかくすべてのサイズが丁度いい。走らせてみてもストレスがないし、無駄に速くもないから交差点をただ曲がるようなときでも運転本来の楽しさまでが味わえる。このアクティ・クローラをさすがに日常使いはしないけれど、それでも今日のように早朝の空いた都内を駆け回るとなにか冒険をしているような気分になれる。軽トラや軽バンは日本人にとって当たり前の日常的なツールだから“カッコイイ”や“カワイイ”といった概念の外に置かれていることが多いのだろうけど、こうやって少しのアイデアで自分の好みにカスタムするだけで見違えるほど魅力的な遊び道具にもなるのさ」

クラークの普段の“アシ”はホンダのN-ONE RS(6速MT)。後述するが彼がオーガナイズする軽自動車のツーリングラリーを軸としたプロジェクト「RoundCat(ラウンドキャット)」のポップなカラーリングを纏っているから街中でも目を惹く。

「軽自動車の魅力は見る人に威圧感を与えないところ。あとはどんなときでも運転が楽しいところ。ボクのN-ONE RSはSPOONの手でチューニングが施されているからよりファンなドライビングが楽しめるけれど、だからといってスペックやコストが飛び抜けたものではないからこそ、より多くの人々が楽しめる懐の深さもある。そこら辺にあるフツウのコーナーを抜ける度にスポーツドライビングをしている感覚になれるのだからサイコーだよ」

ホンダ車チューニングの名門、SPOONの手でファインチューンが施されたN-ONE RSがクラークの普段のアシとなっている。必要十分なスペック、日本のどこへ行っても不便さを感じないサイズ感、そして見る人を和ませる愛くるしさ。日本が生み出した軽自動車というパッケージングにはインダストリアルデザイナーとして真っ直ぐな敬意を抱いていると言う。

ちなみにクラークは大の“ホンダ党”であり、ニューヨークに暮らしていた学生時代に手に入れたCR-Xが最初のホンダ車だった。本当はニューヨーク(のマンハッタン)でも軽自動車に乗りたかったそうだが、当時は輸入の仕方が分からず、その後にカリフォルニアに越してから手に入れたアクティ・ビッグキャブが彼にとっての初の“K-Car”になったという。他にもS2000、シビック、NSX、さらにはクラシックモデルのS800やTN360とホンダ車を多数コレクションしてきた生粋の“HONDA LOVER”である。

「ホンダのクルマはそのどれもがピュアなドライビングプレジャーに溢れている。アクティはミドシップの後輪駆動だからクルマとしてのバランスにも優れていてトラックとは思えないほどハンドリングもいい。日本ではクローラの他に限定車の“スピリットカラースタイル”も所有しているけど、その走りの良さは本当に惚れ惚れするね」

「トータルバランスに優れたフィーリングが好き」とクラークが絶賛するADVAN NEOVA AD09。N-ONE RSには165/55R15 75Vサイズを履かせている。軽トラはクローラの他に限定車のアクティ・スピリットカラー・スタイルも所有する。

クラークはホンダ党であるのと同時に大のYOKOHAMA贔屓でもある。アクティ・クローラには145/80 R12 80/78NLTサイズのGEOLANDAR M/T G003を、限定車のアクティ・スピリットカラー・スタイルには165/65R13 77QサイズのADVAN A035を、そしてN-ONE RSには165/55R15 75VサイズのADVAN NEOVA AD09をそれぞれ履かせている。

「ボクはYOKOHAMAのタイヤが持つトータルバランスに優れたフィーリングが好きなんだ。特にN-ONEに履かせているNEOVA AD09は素晴らしい。日本語で言い表すと“よい塩梅”と言うのかな? タイヤからのインフォメーションがとても素直でレインも含めてどんなシチュエーションでも心地よく何より安心感のあるグリップをもたらしてくれるんだ。あとはタイヤそのもののフォルムも好き。程よく張りがあって見た目もクールだから」

クラーク・ソッパーは現在、日本の“K-Carカルチャー”を世界へと広めていく活動に真剣に取り組んでいる。それも、舞台はあくまで日本で、だ。

クラークが仕掛ける新たな価値観のツーリングラリー「RoundCat(ラウンドキャット)」は、軽自動車を主体にゆっくりと時間をかけて日本の原風景の中を駆け抜けるラリーイベント。海外からのカーフリークから注目を集めこれまでに2回が開催されている。スピードを追い求めるのではなく、穏やかな速度で日本の原風景を堪能する。軽自動車のパッケージはまさにそのコンセプトに見合ったものだ。

「ボクが提案する新しいラリーコンセプト“RoundCat”にとって、軽自動車の存在は不可欠なものなんだ。これまで2回開催したこのツーリングラリーは、日本特有の景色や文化、そして特徴的なデザインの中を軽自動車で駆け巡ることをコンセプトにしている。駆け巡ると言っても速度はあくまでスローで、高速道路主体でもなく、林道などの田舎道を走って日本の原風景を参加者たちとゆっくりと分かち合う。参加者は海外からの人が多数でアメリカやヨーロッパからカーフリークたち(各界で活躍するプロフェッショナルな人々が多い)が集い、インターネットでよく見る景色よりも、日本にはプライドを持って世界に自慢できるスポットがまだまだあるという、新たな気付きを得ることがこのラリーにおける最大のテーマになっているんだ。そう、日本が生んだ“K-Car”(軽自動車)という偉大なカルチャーを、日本という唯一無二の美しい環境の中でより多くの人々に楽しんでもらって、その先の価値へと繋いでいく。軽自動車にはそういう可能性がまだまだたくさん秘められているんだ」

クラーク・ソッパーが描き出す“ニッポンのK-Carの可能性”──その足元を、この先もYOKOHAMA / ADVANが支えて行くことだろう。

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