Culture
開化堂とADVAN Racing──
長く愛され信頼される道具、
その哲学を語る。
2023.5.31
京都の最高級茶筒司「開化堂」の6代目・八木隆裕。日本国内はもとより世界でも高い評価を得る“ものづくりの男”が、自身の仕事(日常)クルマである“特別なハイエース”に「ADVAN Racing RG-D2 for HIACE」を履かせた理由とは? 自らが作り出す茶筒と同じく“長く愛され信頼される道具”と呼ぶべき日本の逸品たちと向き合い、そこに宿るそれぞれの哲学までを読み取ってもらった。
Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend.)
“日常の道具”だからこそ
“心地よさ”が備わっていてほしい
「日常で使う道具には皆のための性能、いわば誰が使っても心地よいと感じられるものが備わっていないといけません。開化堂の茶筒は100年以上の歳月をかけて、同じ工程、同じ作り方を1つひとつ手づくりで続けてきました。日常生活における用の機能を、基本を変えることなく突き詰めていったら、それがやがて美となり特長になった。うちの作る茶筒の蓋を開け閉めしてみれば、その意味がわかってもらえると思います」
最高級茶筒司 京都 開化堂・6代目──八木隆裕さんは創業明治8年(1875年)という、長い歴史を伴ったものづくりの家系を今日にまで受け継ぐ人である。開化堂はその名の示すとおり、文明開化の時代に英国から輸入されるようになった錻力(ブリキ)を使った丸鑵(缶)製造の草分けとして創業。以来、ブリキに加えて銅や真鍮などを素材に一貫した手づくりで一世紀を過ぎた今なお、初代からの手法を守って“開化堂の茶筒”を作り続けている。
茶筒を手に取り、その蓋を実際に開けてみる。蓋の脇を親指と中指、そして人差し指を添えて軽く掴み、そのまま持ち上げると、最初は気密性の高さを感じさせるように僅かなテンションがかかるものの、蓋が上がるにつれてスウっと滑らかにその力が抜けていく。あくまで自然に、筒の中にギュッと籠もっていたものが開放されていく心地よい感覚。
「高い気密性を保ち、茶葉などを湿気から守り保存する──茶筒の機能は実にシンプルなものですけれど、日常の営みにおいてはそれが何より大切な要素でもある。機能とは本来、使い勝手を突き詰めた先にこそ、その真の姿を現してくれるものです。今度は蓋を閉めてみてください。蓋と胴の継ぎ目同士を合わせて手を離すと、蓋がゆっくりと自分で勝手に落ちていくでしょう? 高い気密性を追い求めるだけではなく、そこに心地よいと感じてもらえる使い勝手までを時間をかけて落とし込んでいったからこそ表現できる、独特な動きです。日常に寄り添う使い勝手の先に宿る心地よさを追求する。それが開化堂のものづくりへのこだわりなのです」
“100年先まで残せる性能”を標榜して作られる開化堂の茶筒。ブリキ、銅、真鍮を素材としてさまざまなバリエーションを展開する。写真の銅の茶筒は右側が新品、左側が1年ほど使用したもの。人の手によって日常的に触れられていく“用の機能を備えた道具”だけに、触れるごとにその色味や表情が変わっていくことが楽しめるのも魅力である。
八木さんはクルマ趣味の領域においても強いこだわりを貫く人である。免許を取得して以来、バケットシートを備えたマニュアル車ばかりを乗り継ぎ、そのまま趣味が高じてレースの世界にハマり、今もランチア・デルタのEvo2をドンガラにしたストイック極まるマシンでクラブマンレースに興じている。さらにはレーシングカー直系のポルシェ911として知られるカレラRS(タイプ964)を主にストリート用の愛機にするというから只者ではない。
そんな根っからのカーガイである八木さんが最近新たに手に入れたのは、トヨタのハイエースだった。海外も含め頻繁に京都を訪れるゲストの送迎、さらには家族との余暇などに用いるための“移動の道具”として選んだ1台だという。
「大切なゲストを乗せるならアルファードやメルセデスのVクラスなどが良いだろうという意見もありましたが、僕は敢えて必要以上のラグジュアリーをそこに求めたくなかった。実際、これまではアルファードを使っていましたが、純粋な道具としての違和感は自分の中では最後まで拭えなかった。そうした道具感という意味ではVWのT6.1カラベルはシンプルで良いなとも考えましたが正規輸入されておらず、そこで改めて注目したのが、日本の働くクルマの雄たるハイエースでした」
「アルファードみたいな装備のハイエースがあればいいのに」──八木さんのそんな想いをストレートに叶える存在として現れたのが、トヨタ車体の架装による特別なハイエース、「ファインテックツアラー」だった。“ビジネスサルーン”というコンセプトで仕立てられたそれは、オットマン付きのキャプテンシート4脚に加え、オートスライドドアやリヤシート用のモニターなど充実した快適装備を誇る1台である。
「まずハイエースのボクシーなスタイルが気に入りました。道具としての潔さがある。選んだのはミドルルーフのロングボディ。5mを切る全長と2mを切る全幅ですが、これは京都の街中で使うにはギリギリの大きさ。でも、四角くて見切りが良いから特に不便は感じません。ただ唯一気になったのは商用車ベースの足回りでした。板バネですからどんなに頑張っても乗り心地はキツイだろうと考えましたが、調べるときちんと対応したもの(14段階の減衰力調整ショック付き)があって、しかも構造変更(板バネはシャシーの一部なので交換するには構造変更申請が必要)にも対応してディーラーで新車装着ができる。もうこれしかないと、このハイエースの購入を決めたわけです」
トヨタ車体が特別な架装を施してより快適な移動空間を実現した「ファインテックツアラー」。アルファードから流用したオットマン付きのキャプテンシートを4脚備え、リヤ用のモニターやオートスライドドアなどの快適装備のオプションも豊富に揃う。ミドルルーフ / ロングボディの他にハイルーフ / スーパーロングボディもラインナップされている。
購入後はバンプラバーの交換やスタビライザーの追加、さらには防音施工(デッドニング)も徹底し、とにかく“日本一快適なハイエース”を目指して手を入れていった。しかし、ある程度満足のいく仕上がりにはなったものの、それでもどうしても納得がいかないものがあったのだという。
「ホイールです。15インチのアルミホイールをオプションで新車装着しましたがこれがどうにも馴染めない。鉄ちんぽいというか常に重さを感じるし、ホイールに共鳴する路面からの音の響き方だって妙に安っぽくて嫌でした」
「ならば」とハイエース用のアフターホイールを探すもなかなかイメージに合うものは見つからなかったという。多くは装飾が必要以上に派手だったり、またはオフロード風だったりと、八木さんのこだわりに合うものはほぼ見当たらなかったのである。
そうした中で、ふと目に留まったのがYOKOHAMA WHEELが展開するADVAN Racingブランドの「RG-D2 for HIACE」だった。
ADVAN Racing RG-D2 for HIACE。その名の通りハイエース用に設らえられた仕様となり、PCD139.7 / 6ホールという独自の設定が与えられている。ステップリム形状の6スポーク(139.7の規格荷重に合わせてより太めに設定)に6ホールはデザイン性の面で見ても相性がよく、従来のレーシーさに加えてハイエースに似合う良い意味での骨太さまでが備わる。装着サイズは18×7.0Jとなりカラーは18インチのみに設定されるアンバーブロンズメタリック(UBM)。タイヤは「PARADA PA03」のブラックレター( Size: 225/50R18C)を履く。
「僕は自分のレース用のデルタにもずっとADVAN Racingを履かせています。タイヤはADVANのA050。そうした意味でも、自分の中でのADVANのイメージはあくまで“レーシング”だったのでハイエース用があるとは思わなかった。カタログを見るとサイズの展開も16、17、18(インチ)とあって、どれを選べばいいのかも迷いました。快適性を求めるなら16なのでしょうけれどそれではちょっとつまらない。じゃあ17か? とも考えましたけれど、18にしか設定されないカラーがあること知ってそれに惹かれました」
その色は「アンバーブロンズメタリック(UBM)」と呼ばれるもので、これが開化堂の作る銅の茶筒が経年変化していく過程で現す色味によく似ているのだという。
「18にサイズアップすると足下がバタつくかな? と多少は心配もありましたけれど、こういうときのために減衰力調整の付いたアシを入れたわけですから、ここは好みの乗り味にアジャストする楽しさを取ろうと、敢えて18を履くことにしたのです」
海外からの観光客も戻りかつての賑わいをすっかり取り戻した感のある京の街並を、八木さんはハイエースでゆっくりとクルーズしてくれた。後部座席に座り、スクエアで見切りの良い四方の窓から外の景色を眺めているとまさに“クルーズ”という表現が相応しい開けた視界があって楽しい。それはどこか“こもり感”のあるラグジュアリー系のミニバンの室内からでは得られない、まさに“道具”として割り切りのある、ハイエースだからこその特別な景色なのだと感じた。
言うまでもなく、ゆったりとしたキャプテンシートのかけ心地はよいが、それ以上に乗り心地そのものがよいことに驚かされる。商用バンとしてのハイエースはもちろん、グランドキャビンなどのパッセンジャー用のモデルにも筆者はそれなりに乗った経験(運転席、後席共に)はあるけれど、正直、どれも一定の(ときに一定以上の)突き上げ感と揺すられ感のある、いわば“トラックライド”であったことは否めない。
しかしながらこのファインテックツアラー、さらに言えば八木さんのこだわりがとことん注ぎ込まれた“開化堂スペシャル”に関して言えばそれがない。「皆無」と言ったら嘘になるけれど、それでも驚くほどにグッドライドであることは本当だ。これならスーパーセレブ級のゲストを乗せたとしても文句が出ることはないだろう。事実、先日は京のものづくりの世界の裏側をじっくり体感したいと、家族で来日した某有名ハリウッド女優を丸一日乗せてあちこちを回っても(ものづくりの世界の背景/文化に触れさせ、どういう場所で生まれたものかをきちんと知らせることを目的に、八木さんは主に海外ゲストに向けて京のものづくりの現場を巡るツアーを行っている)、大変満足した表情を得られたというからこの心地よい乗り味は本物だと思える。
茶筒は一見ただの丸い筒でしかない。しかしその芯はいくつもの素材同士が面と面を重ね合わせ、そこにさらに細かな手を加えて繋ぎ合わせていくことによって、“開化堂の茶筒”にしか表現できない、独特で特別な感触を生み出している。
「何より“しなやかさ”が大切なのだと思います。もちろん18インチですから最初はそれなりに跳ねました。でも、その理由を考えてしっかり合わせ込んで(減衰力を調整して)いったら、今では理想に近い快適な乗り味を手にすることができた。茶筒を作ることも同じで、気密性ばかりを追い求めてすべてをキツキツで合わせてしまうと、実際に手に取り開け閉めする際のあの心地よさは生まれない。茶筒って丸いものを作るようでいて実はスパイラルなのです。切り出した素材同士の面と面を細かく整えて組み合わせていく。ときに金槌で叩いて微妙な膨らみを与えていく。丸い(円い)ものとは本来、そうやって(素材や面が)つながり合った先の最後の最後に、真の性能が宿るものなのです」
上蓋を90度回したときの胴の継ぎ目との微妙な引っ掛かり、蓋を抜いたときのあの独特のふわっとした感触、そして何より、長くストレスなく使える優しく頼れる気密性をもっているからこそ、開化堂の茶筒は150年に近い長く深い歴史を通して、多くの人々の日常の中で飽きることなく、まさに唯一無二の道具として今日まで愛され続けてきたのだと思う。
開化堂の6代目として創業から150年近くに及ぶ“ものづくり”の哲学を受け継ぎ、それをこの先の時代へと繋ぎ合わせていくことに日々精力を注いでいる八木隆裕さん。世界に向けて日本の工芸品の可能性、その真の価値を伝える活動も多数仕掛け、国内外から訪れる人々によりリラックスした形で京のものづくりを感じ取ってもらおうと、工房の近くには歴史ある建物を改装した「Kaikado Café」( kaikado-cafe.jp/ )も展開する。
「ADVAN Racingのホイールにも同じような哲学を感じます。レーシング直系だからといってただ尖らせるだけではなく、さまざまなバランスを細かく見極めて、真に心地よい丸みへと繋げている。ホイールなんてどれも同じ──そう思う人には響かないかもしれないけれど、こだわり抜いたからこそ生み出されるこの特別な感触は、履いていて本当に心地よい。ホイール自体はカチッと剛性があるのに、当たりは不思議と柔らかい。そう、まさに“しなやか”なんですね。さらにはデザインへの細やかなこだわりや色味の遊び心までがあって、あくまでシンプルなのにその表情に飽きがこない。これはとても素晴らしい用の機能、いわば究極と言える日常の道具を手にすることができたなと、とても嬉しく感じています。ハイエース同様、末永く愛し使い続けたいですね」
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