RACE REPORT

タイムアタックという文化―
Attack筑波2023の熱度に触れる。

2023.3.14

10周年という節目を迎えた日本最高峰のタイムアタックイベント「Attack」。天候に恵まれた週末の筑波サーキット・コース2000のパドックには色とりどり、猛者揃いのタイムアタックマシンたちが所狭しに並んだ。言い訳のできない“一発勝負”――世界にまでその名を轟かす日本が誇るタイムアタックイベント、「Attack筑波2023」の熱度に触れる。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)Photography:望月勇輝 / Yuki Mochizuki(Weekend.)
岩井田涼太 / Ryota Iwaida(Unripe)

まさに悲喜交々
命運を分けた“NAクラス”

「悔しい。その一言に尽きる」

「Attack筑波2023」のイベント本番前日。その前哨戦(計測タイムがAttackの公式記録とされる)とも呼ぶべき「ズーミーレーシング走行会(通称:ズーミー走)」のスーパーラップ1回目(午前)に挑んだM’sマシンワークスの水本孝之代表は、トラブルで急遽ピットへと戻ってきたマシンを前にそう肩を落とす。

昨年の「Attack筑波2022」で55秒509というタイムを叩き出し、“NAクラス”の最速記録を4年ぶりに塗り替えた水本率いるM’sマシンワークスは、ポルシェ987ケイマンをベースに3.6ℓの排気量を3.8ℓにアップした911GT3カップ用のフラット6(M98/78)を搭載したスペシャルマシン(リヤはパイプフレーム化)をさらに磨き込み、これまで以上に高次元のパフォーマンスを携えて今回の筑波へと乗り込んできていた。

昨年の「Attack筑波」でNA最速タイムを更新したM’sケイマンGT3がメカニカルトラブルでまさかの本戦不出走。「これもモータースポーツの現実。言い訳はせずに来季の55秒切りを目指します。軽量化もさらに突き詰めるつもりです」と水本代表。

「メカニカルトラブルです。現時点では原因は特定出来ていないけれど、まだ1周もアタックしないうちにトラブルが発生して、明日までにこの場で直すことは不可能と判断しました。残念ですがここで終了です。また来年、リベンジするしかない。NAクラスは次がすぐそこまで迫ってきている。だからこの機会を逃せば、一気に抜かれて(タイムを更新されて)しまうかもしれない。悔しいですね」

SUPER GT / GT300クラスでも活躍する上村優太選手をアタックドライバーに迎え、万全の体制で前人未到の「NA55秒切り」を目指してきた“強豪”の呆気ない幕切れ。どこか非情に映るその光景に、「Attack」という競技の厳しい現実を見せつけられた気がした。

「ウオォーっっ!! やったあーーっっっっ!!!!」

パドックに歓声が沸き起こる。M’sケイマンGT3が筑波を去ってほどなくすると、浅井康児選手の駆るGNR☆RISE UP☆APJ EK9(ホンダ・シビック)がNAクラスの最速タイムを更新したのである。

55秒101――あと少しで54秒台が見えてくる数字。20年以上も前のFFマシンをベースにNAでここまでのタイムを叩き出してくるとは、ともあれ驚きである。

見事にNA最速を更新した浅井康児選手とGNR☆RISE UP☆APJ EK9(ホンダ・シビック)。“54秒台”も照準に入ったタイムが叩き出されたことで、今後の“NAクラス”の激闘はさらに加速することだろう。なお「Attack筑波2023」本番アタックではASRAN SPIRITのTON選手のEG6シビックが55秒240をマークして浅井のタイムに肉薄してみせた。

「シビックは速いです。まだまだ可能性がある。他にも同世代のシビックで挑んでいる仲間がいる。彼らにも『まだイケる!』って示せたことが何より嬉しい」

ドライバーの浅井はパドックに戻るとそう喜びの声をあげた。一発に賭けた勝負に挑み、その一発の壁に打ち勝った男の表情は、何より充足した輝きに満ちていた。

「空気が澄んで気温も低い朝イチより条件は悪いけど、さらにタイムが更新できてよかった。ただエンジンは……うん、明日のAttack本番で走れないのは残念だけれど、それだけやり切った感もあります」

浅井のEK9のボンネットをクルーが開けると、エンジンは煙を吹いていた。それほどまで追い込んだギリギリでのアタック。まさに“一発”に全身全霊を賭けた走りであったことが窺い知れる光景だ。

「午前も自己ベストが更新出来て、さらには気温の上がった午後も更新してクラス全体でのベストに立てるなんて、本当に素晴らしい日です。今回の目標は55秒3でしたけど、それが55秒1まで届いたことは正直、自分でも驚きですね。タイヤはこれまでいろいろ試しましたけど、やはりA050(G/S)は安定感があってコントロールがしやすい。だから安心して攻められるとても優れたタイムアタック用のタイヤだと、改めて確認することが出来ましたね。長い時間を掛けてここまで辿り着きました。でも、まだまだ先が狙える。次は54秒台を目指します!」

一発へ賭ける熱き想い――
それはひとつの文化へと昇華した

「チューニングカー最速王座決定戦」

「Attack」の本概はそれに尽きる。この“一発勝負”の世界を競い合うのはあくまでもチューニングカー。吊るしの優等生なマシンではなく、各々が熱く想いを込めて仕上げてきた“独創の最速アタッカー”が凌ぎを削り合うことを美徳とするステージなのである。

10周年を迎えた「Attack」には谷口信輝選手はじめ現役のプロドライバーも多数参戦。言い訳なしの“一発勝負”の世界には独自の緊張感があるという。恒例の朝イチのコース上ドラミの後には、10周年を祝して主催者の青木大輔(READY GO NEXT代表)を参加者たちが胴上げ。こうした仲間意識の強さも「Attack」の魅力だと感じる。

「タイムアタックの魅力? それは……言い訳ができないところかな」

言わずと知れたトップレーサーであり、タイムアタックのスペシャリストとしても名高い谷口信輝選手の言葉である。

「周回レースにはミスをしても取り返せる幾ばくかのチャンスはある。でも、一発勝負のタイムアタックにはそのチャンスが一切ない。ワンチャンですべてが決まる。単純といえば単純だけどそこにある緊張感はやはり特別なものがある。だから、やめられない」

“現行SHOPクラス”の1位(Gフォース神風YARIS / 56秒008)と2位(HKS Racing Performer GR86 / 56秒761)のタイムは谷口信輝選手がマーク。「Attack筑波2023」本番は前日に撒かれたオイル処理の影響などでコースコンディションは決して良いものではなかったものの、キッチリとベストを更新するあたりがさすが“アタック職人”ことNOB谷口である。

「Attack筑波2023」の本番日。天候にも恵まれた土曜日の筑波サーキット。そこには色とりどりのマシンたちが所狭しに溢れ、来場者数も驚くほどの賑わいを見せていた。記念すべき10周年の大会とのことだが、この想像を超えた盛況ぶりには驚かされる。

トップカテゴリーの“ターボクラス”に出走するド派手な羽根を生やしたモンスターマシンから、クリーンな印象の“現行SHOPクラス”のマシン、今回特別に設けられた“スリッククラス”を走る純粋なレースマシン、さらには軽自動車から果てはジムニー(!)まで、そのバラエティ豊かな顔ぶれは見ているだけでもすでに楽しい。

まさにバラエティに富んだマシンがタイムアタックに挑む。軽にジムニーまでその裾野の広さには夢を感じる。

前日のオイル処理の影響もあり万全とは言えないコースコンディションの中で次々と渾身のアタックが繰り広げられていく。

「自分との戦いですよね。誰かと競うのではなく、自分自身と競う」

YOKOHAMA / ADVANのタイヤ開発ドライバーでもある柴田優作選手の言葉である。

「ボクはチューニングショップを営んでいて、そこに来てくれるお客さんのタイムアタック車両も手掛けます。お客さんとは常にタイムアップを意識してクルマを仕上げ、ドライビングの技術の向上も図っています。常に切磋琢磨ですね。自分自身の極限を仲間と一緒に目指していける楽しさが、タイムアタックという競技にはある」

10周年を迎えた「Attack」は富士スピードウェイなど国内の他のサーキットでも開催されているが、やはり筑波(コース2000)という場所はその中でも特別な存在であり、世のタイムアタッカーにとっての“聖地”として多くの熱い想いが込められた場所である。

「いつか世界大会をこの場所でやりたい。筑波にはそれだけの魅力があるし、今日も驚くほど多くのアタック車両がエントリーしてくれました。ボクはチューニングの世界に育ててもらった世代の人間です。だからこそ、そのチューニングの世界が輝き続けることのできる舞台をこの先にも繋いでいきたい。若い世代にもその世界の価値を正しく伝えたい。そういうひとつの文化として、これからもAttackを続けていくつもりです」

主催者である青木大輔(READY GO NEXT代表)の言葉には、まさにひとつの文化として、タイムアタックというカテゴリーをここまで育て上げてきたというある種の誇りのようなものを感じた。

現時点での総合トップタイムは49秒897(ファイヤー安藤 / ESCORT Evo9)。まさに異次元の領域へと進化を続ける「Attack」の未来に、期待したい。

(了)

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