Grip the Soul

若者の主張2022―
“クルマ愛”は永久に不滅なり。

2022.10.14

若者のクルマ離れが叫ばれて久しい。実際のところ、若者はクルマへの興味、そしてその先にある情熱を本当に失ってしまったのか? 20代にして往年の日本の名スポーツカーを愛機とし、“自分のスタイル”で楽しむ若者2人(共にYOKOHAMA / ADVANユーザー)の姿、そして言葉を通して、今どきの若者が抱くクルマに対する主張を聞く。

Words:髙田興平 / Ko-hey Takada(Takapro Inc.)
Photography:真壁敦史 / Atsushi Makabe

好きであることに
世代なんて一切関係ない

「ADVANにはなかなか手が届かないブランドってイメージがありました。18歳で免許を取ってから好きが高じていろいろなクルマに乗ってきましたけれど、基本はハイグリップ系でも安いブランドのタイヤばかり履いていましたから。やっぱりADVANは性能の分だけ値段も高いじゃないですか。クルマを買ってイジって……とアレコレやっていると、いいタイヤを買うまでの余裕はなかなかなくって(笑)。あ、でも前に乗っていたEP3のシビックのときにはADVANのフレバを履いていました。ADVANの入門編的な存在。ただ憧れはやっぱり、NEOVAやA052でしたね」

そう語るのは、グラファイトガラスフレークという美しいブラックボディ(レクサスのカタログカラー)にホワイトのリーガマスター(タイヤはNEOVA AD08RS)が光るホンダS2000に乗る柴田裕季さん。平成7年生まれの27歳。愛車である2000年式のAP1前期は彼が生まれてから5年後に生産されたクルマだ。

2000年式のホンダS2000(AP1前期)に乗る柴田裕季さん。平成7年生まれの27歳で輸入車系のディーラーでメカニックとして働いている。

「父親がクルマ好きだったのでその影響で小さい頃からクルマの存在は身近でした。一緒にグランツ(Gran Turismo)で遊んでいろんな車種を覚えたり、クルマを操る感覚の面白さも知りましたね。その後、小学校の高学年で SUPER GTに出会い、中学でD1(ドリフト)に出会って。高校までは本気でレースメカニックになりたかったんです。レーサーではなくメカニック。小さい頃から自転車のチェーンの音とか気になって油を注してメンテナンスしたり、高校の頃は2輪にもハマりました。機械としてのクルマやバイクに興味があったんです。2輪は構造がシンプルだから、いろいろ機械の仕組みを覚えるのには最適な存在でしたね」

しかし、やがて高校も卒業が迫りいろいろ現実が見えてくると「レースメカニックで安定して食べていくのは難しい」と悟り、仕事としてはディーラー系メカニックを目指して卒業後は堅実に自動車整備の専門学校へ進んだ。

筆者のような50代目前の暑苦しい昭和熱血世代は「なぜ、夢を追いかけなかったの?」とかなりお節介な質問をして始末が悪いのだが、柴田さんは真っ直ぐな目をして「いや、僕は子供の頃からメカニックになりたかったので、それがディーラー系であっても夢を叶えられたと思っています。実際、とてもやりがいのある仕事ですから」と、実にクールに答えてくれるのだった。デジタルなメディアデバイスが増えそこから得られる情報量が飛躍的に広がった世代だからこそ、逆にその情報過多な世の中の流れに惑わされず、より冷静に自分自身に必要なものを俯瞰で捉えられるのだなと、妙に感心させられた。

若者のクルマ離れ――そんな言葉ですら今では死語になりつつあるほど、現代においてはクルマに対する若い世代の興味ははっきりと薄れ、情熱も冷め切っていると感じている人は多い。少なくともまるで熱病のように誰もがクルマに一度は心奪われた団塊ジュニア世代には、そう感じている向きがことのほか多いのだと思う。

「正直、そういう認識には違和感がありますね。少なくとも僕らの周りには今もフツウにクルマ好きがいるし、クルマに対する情熱も十分持っていますので。僕らの世代からすると、ものごとの対象が何であれ好きなヤツは相変わらず好き、ってことなんだと思います。それこそまだ小さな子供だって、僕らのクルマなんかを見てカッコいいって目を輝かせてくれるわけですから。世代がどうであれ、カッコいいものはカッコいいし、好きなものは真剣に好きなんだって、そこはシンプルにそう思います」

そう語るのは齋藤雄太さん。平成6年生まれの27歳で、愛車は元色から塗り替えられたパールイエローが眩い1991年式のホンダNSX(NA1)である。足元はブロンズのAVS MODEL5にADVAN NEOVA AD09を奢る。なんとも渋いセンスである。高校生の頃にチューニング雑誌OPTIONに出稿されていたYOKOHAMA WHEELの見開き広告で見たAVSを履くNSXの姿に魅せられて、長じてこの姿を作り上げたという話もいい。ちなみに齋藤さんのNA1前期は彼の生まれる4年前に生産されている。

1991年式のホンダNSX(NA1前期)に乗る齋藤雄太さん。平成6年生まれの27歳で通勤にも「フツウに」このNSXを使っているという。

「柴田と一緒で僕も親父の影響は大きかったです。子供が生まれてからはファミリータイプのクルマを選んでくれたみたいですけれど、昔は(マツダ)ルーチェをヤン車にして乗っていたらしく、そのDNAなのか自分もフツウに4枚ドアのセダンとか好きでしたし、VIPカーとかイジったクルマにも自然と興味を持ちましたね。NSXに関しては小学校の低学年の頃にトミカのミニカー(NA1のType R)を買ってもらって、まずはそのザ・スーパーカーなフォルムにヤラレました。トミカってサスペンションがないから押し潰すとグチャッと簡単にシャコタンになるんです。NSXのただでさえ低いフォルムをさらに低くしながら、子供心にまずはNSXというよりシャコタンの魅力に目覚めましたね(笑)。そしてその後、高校生でAVSの広告を見て改めてNSXそのもののカッコよさに魅せられて……」

そう言って目を輝かす齋藤さんが「ガチのクルマ好き」として目覚めたのは、高校時代の友人たちの存在が大きかったのだという。

「自分たちでクルマを触る姿に感化されました。それこそ免許を取る前からバイトしてクルマを先に買って準備するような本気のヤツらでしたから。免許を取ってからはS14や180(SX)で山に通うようになって、僕はその頃はまだ親のクルマでした。でも、友達の横乗りをしていたら走ることが純粋に楽しくなってきて、ハタチ手前で初めて自分のクルマを手に入れたんです。すでにドリ車仕様にイジってあったS15のシルビアでしたね」

“クルマに深くハマるきっかけは走り”という点は、やはりどの世代においてもクルマ好きの共通項と言えるのかもしれない。柴田さんも免許を取る前からスタンドでバイトをして整備を学びながら、ジムカーナやショートサーキット走行に打ち込む先輩から安く譲ってもらったEP91スターレットが最初の愛車となり、それで夜な夜な峠に通い、ときにはジムカーナなどの競技にも参加していたという。

「EP91の次はEG6のシビックに乗りましたがこれも走るクルマとして向き合っていました。でも、ちょうどその頃に周囲の仲間の影響もあってシャコタンやスタンスといった見せるカスタムのスタイルに目覚めてしまって。最初は環状スタイルから始まりキャンバー角付けて八の字命!みたいに(笑)。シャコタンで見せるスタイルに行くことで走りの質が少なからず落ちてしまうことは理解していましたけれど、そこはきっと若さですかね、すっかり見せることにハマりました。レクサスのIS250やBMWのF30、あとはアコードのユーロRとか、この辺りを基本べったりシャコタンにして乗り継ぎましたね」

ホワイトのディスモンド・リーガマスターがブラックメタリックのボディに映える。ツボを押さえたセットでシンプルかつどこかレーシーな雰囲気を醸す。今後はサーキット走行も楽しみたいという。タイヤは欧州モデルのNEOVA AD08RSを通販で購入している。A052には以前より憧れがあるのだとか。確かにこのS2000にはベストマッチとなることだろう。

一方のNSXに乗る齋藤さんもまた、一度は走りに目覚めかけたけれどもその後は見せるスタイルに走った口だという。

「S15では地元から近かったエビスサーキットにも通って本格的にドリフトにハマりかけてはいたんですけれど、就職を機に神奈川に越してきたらすぐに盗難に遭ってしまって。で、困っていたら知り合いがEP3のシビック・タイプRを格安で譲ってくれたんです。でも、EP3って卵みたいな形をしていて最初はいまいちだなって思っていました。そしたら周囲に『イジってみたら』って言われてUSDMを軸にシャコタンに仕上げてみることにしたんです。色も白から黄色に塗り替えてといろいろやり始めたらすっかりハマってしまって、そこから6年乗り続けて、改造費だけでも400万円くらいかけましたね。ブサイクちゃんを綺麗に仕上げていくことが本当に楽しくって好きでした(笑)。SNSを通して仲間になった柴田も、僕の影響でEP3に乗っていましたよ」

走ることもイジることも、そこに共通しているのは何より“好き”という真っ直ぐな想いであり、その想いこそが“情熱”となってその先に確かな“こだわり”を生み出すのだと、隙なくバチっとツライチに車高が決まった2人の愛機を見ていたら気付かされた。

高校時代に雑誌広告で見たYOKOHAMA WHEEL AVS MODEL5とNSXの姿に衝撃を受け、その姿を自らのスタイルに落とし込んで形にした。中期モデルのイエローに塗られており、初期モデルでは本来ブラックとなるルーフも同色としている。見事にツライチとしたことでNEOVA AD09のサイドプロファイルがより強調されている。NEOVAが“見せるタイヤ”でもあることをよく理解したモディファイセンスには脱帽である。

「バランスには本当にこだわりますね。NSXで僕と同じAVS MODEL5を履いている人もSNSを通して知っていますけれど、同じ仕様とはいえスタイルはまったく違う。僕のクルマのスタンスは今までの経験値から導き出した自分だけのスタイルですから。たかが車高と言っても、そこには本当にこだわっていますし、逆にそこが決ればクルマは本当にカッコよくなると信じてもいます。
ひとつ誤解しないでほしいのは、僕らはこの世代のクルマにだけこだわっていると思われがちですけれど、新しいモデルにだってメチャクチャ興味はあります。今度の新しいFL5の(シビック)タイプRなんて頑張って本気で増車しようかと思っているくらいです。でも、その反面で、僕らが今乗っている世代のクルマたちには“今じゃなきゃ乗れない”って感じているのも事実です」

クルマ好きは総じて写真好きというのもこの世代の特徴だという。齋藤さんも柴田さんもフルサイズの一眼レフで愛機を撮影する姿が印象的だった。撮った写真はSNSを通じて投稿し同好の士とのつながりを広げるのも今の時代ならではである。

その言葉に深く頷きながら柴田さんが続ける。

「この世代のスポーツモデルの価格の上昇率が異常過ぎて。正直、もうこれ以上値が上がってしまったら手が出せないし、パーツの供給だってNSXやS2000はホンダもまだ再販してくれているとはいえ、こちらも価格を含めてきちんと考えながら手に入れていく必要だってある。ある意味、この世代のクルマは少しずつレストアをしながら徐々に自分のスタイルに仕上げていくという感覚ですからね。それに何より、良いタマ自体がどんどん減ってきてもいる。こうなると確かに、僕らの次の世代の子たちが楽しめるかというと、それはちょっとどうかな?って、思う部分はあって」

でもだからこそ変に猫可愛がりをして床の間に飾るのではなく、敢えてしっかりとこの世代のモデルが持つ素晴らしいパフォーマンスと向き合いたい――と2人は口を揃える。

「改めてサーキットも走ってみようって思っています。ドリフトもグリップも楽しみたいですね。だから富士のマルチパーパスコースから行ってみようって。日本を代表するスポーツカーに乗っている訳ですから、やはりその性能の限界域とはきちんと向き合っていきたいですからね」と柴田さん。

実際、ストリートでその性能と真っ直ぐに向き合うことは許されづらい時代である。さらには環境の問題まで含めれば前時代の内燃機関のマシンの性能を思う存分に解き放つことだってもはや大声で正義とは言えない時代でもある。

齋藤さんは言う。

「このクルマだから出来ない、っていうのは嫌なんです。だから通勤にも使うし長距離だって走ります。NSXはトラブルも少なくはないけれど、そうしたことも含めてきちんと向き合って楽しみたい。今度、柴田のS2000と2台でキャンプに行くんです。ただクルマだけにのめり込む訳ではなく、カメラとかスノボーとか、クルマを軸にきちんと遊ぶ。それが僕らの世代のスタイルかもしれませんね。そりゃ、お金は掛かりますからその分しっかり働かないといけませんけれど、それこそが仕事のモチベーションにもなっています」

最後になぜYOKOHAMA / ADVANを履くのか? 2人に理由を尋ねてみた。

「僕はNEOVAのトレッドパターンが好きで、NEOVAの消しゴムも持っていましたよ。やっぱり走りのタイヤのイメージが昔から強かったからですね。サイドウォールで言えばA052は最強ですね。ムチッとしていて本当にレーシーで憧れます。サーキットにも行くようになるのでこの先に履いてみたいタイヤの筆頭候補ですね」(柴田さん)

「やっぱりAVSの広告の影響が大きいですね。カッコいいYOKOHAMAのイメージはアレが原点。1年前にいろんなタイミングが揃ってこのNSXを手に入れたとき、AVS MODEL5を履くことは絶対条件でした。フロント(17×8J)はヤフオクで落として、なかなか状態の良いものが見つからないリヤ(18×10J)はクルマ仲間の先輩から譲ってもらいました。そんなときに新しいNEOVAのAD09が出て、サイズもあるしデザインもよしでもうこれしかないなって。やっぱり、YOKOHAMA / ADVANってクルマ好きの心をくすぐる不思議な雰囲気があると思う。走りも見た目も両方いいし、歴史にも芯がきちんと通っている。本当にバランスがよいブランドですよね」(齋藤さん)

当初、若者のクルマ離れの実情に迫る目的で企画した今回の取材ではあったが、実際にその若者たちの姿に迫ってみれば、そこには世代云々を超えた今も昔も変わらぬ熱さがあって嬉しくなった。

走りを愛し、スタイルを愛する――クルマ好きの真っ直ぐな魂はいつの時代だって変わらないのだと、齋藤さんと柴田さんのキラキラとした目を見て団塊ジュニア世代の筆者は改めて確信した次第である。

そして、いつの時代もYOKOHAMA / ADVANはそんな好きモノたちの魂を掴み取る存在であり続けている――“GRIP THE SOUL”の精神はこの先にも走り続けるのだ。

(了)

いいね

Photo Gallery18枚