Life with ADVAN

旧車とADVAN―其の弐
速さよりも上手さを追い求めて―
空冷911とADVANの相性。

2022.4.15

旧車とのライフスタイルにマッチするYOKOHAMA / ADVANの選択肢をシリーズでご紹介している「旧車とADVAN」。「其の弐」として登場するのは“RR”に“フラット6”という唯一無二の個性をもつスポーツカー界の永遠のアイコン、空冷世代のポルシェ911である。ADVAN A052、そしてNEOVA AD09との相性には、どんな答えが見出せるのだろうか?

Words:髙田興平 / Kohey Takada(Takapro inc.)
Photography:安井宏充 / Hiromitsu Yasui(Weekend)

旧車とADVAN―其の弐

どこかで血が通っているクルマ。
空冷911とは対話ができる。

速さよりも上手さを追い求めたい――

そんなことを考えながらここしばらくドライビングと向き合っている。

空冷世代のポルシェ911はともあれ、不思議と乗り手にそう思わせてくれる類のクルマだと思う。

筆者の愛機は1993年式の911カレラ2。マニアの間ではタイプ964と呼ばれている。

1964年のデビューから1998年に水冷世代にバトンを受け渡すまで、34年もの長きにわたって基本骨格を変えずにスポーツカー・マーケットの第一線を走り続けた歴代空冷911シリーズの、その後半世代(製造期間は1989年から1994年)にあたるモデルだ。

それまでのGシリーズ(日本ではタイプ930と呼ばれることが多い)から実に8割近い技術刷新(4輪駆動のカレラ4やATのティプトロニックも設定)を図りながらも、ナロー世代のタイプ901から続く空冷911らしいギュッと身の詰まった塊感を失うことなく、走り込むほどに乗り手と一体化していく、ダイレクトで何よりクルマに血が通っているかのような生きた感触が、しっかりと残されているのが魅力である。

それでいて3.6ℓにまで増強されたフラット6(水平対向6気筒)エンジンはトルクフルで扱いやすく、さらにはクラシカルなトーションバーからコイルスプリングに改められたサスペンションなど現代のレベルで捉えても十分に速く、そして日常使いでは快適とも評せる幅のある走行性能までを手に入れているあたりが欲張りでたまらない。そう、タイプ964は旧と新の良さが非常に高い次元でバランスされた今なお一級のスポーツカーなのだ。

とはいえ、エンジンを後輪車軸の後ろに搭載するRRレイアウトの911だけに癖(くせ)のある 乗り味(=リヤヘヴィ)をもっていることも確かで、そのRR特有の癖をしっかり理解しながら懸命に走り込み、やがてその癖に慣れてその先の領域へと踏み込む頃にクルマからの手痛いしっぺ返しを喰い、それをまた克服しながら一歩ずつ乗りこなしていくことに悦びを見出す――といった具合に、こと“走らせる”という行為においては非常に奥の深い付き合い方ができる乗りものでもある。そう、今日のデジタルエイジなクルマには失われてしまった、最後のアナログ世代だからこそのクルマとの真っ直ぐな対話がそこには生まれるのだ。

コーナーの手前でしっかりとブレーキングして軽いフロントに荷重を与え、クリッピングまでタイヤを上手に転がして鼻向きを縦方向に変えたらグッとスロットルを踏み込み、あとは強大な後輪トラクションで一気呵成に出口に向かって立ち上がっていく――書いているだけでもゾクゾクするポルシェ911のコーナリングセオリーだが、これがどうして言葉で表すほど簡単なものではないのだから911というスポーツカーは本当に奥が深い。

ともあれ本気の911乗りを目指す以上、タイヤのグリップを最大限に生かしたドライビングテクニックを習得することは必須課題である。コーナーの立ち上がりでグリップが抜けようものなら911というクルマは容赦無くケツを振り出す。焦ってアクセルを戻しリヤのグリップ(荷重)を瞬時に失うことなど想像するだけでもゾッとする。とにかくタイヤの適正なグリップ(荷重)を常に意識すること、それが911を“上手く”走らせるための鉄則だ。

現代のスポーツカーには失われてしまった“塊感”があるのが空冷世代の911の魅力。「ポルシェを着る」という名⾔があるように、RRの特性を理解しながら真剣に走り込むことで、やがてクルマとの一体感を得ることができるのだ。

“吊るし”よりさらに上を求めた
“ハイグリップ”という選択。

筆者のタイプ964のカレラ2は3年ほど前に中古で購入した時点でビルシュタイン製の車高調整式サスペンション(B16)が装着されてはいたものの、タイヤは欧州ブランドの“Nマーク”(ポルシェ承認タイヤに与えられる)付きの17インチサイズ(フロント : 205/50ZR17 リヤ:255/45ZR17)を純正のカップホイールに履かせて、よりストックに近い、いわば“吊るし”の乗り味を残してこれまでの時間を過ごしてきた。

“Nマーク”の存在意義は大きい。操縦性、快適性、ブレーキ性能、耐用年数、回転抵抗、高速性能といった項目を、タイヤの寸法、さらにはゴム組成まで含めてポルシェ独自の徹底した基準に照らし合わせて仕立てているスペシャルタイヤである。特にRRの強大なトラクションも受け止めなければならない911のタイヤには専用の承認設定が不可欠であるというポルシェの理屈には、だから素直にうなずける。

その一方で、空冷は今や希少な存在だからとまるで床の間にでも飾るかのようなコレクタブルなものとして扱うオリジナル至上主義の人は別として、あくまで“現役”としてその性能をフルに引き出してみたいと考える向きとしては、“吊るしよりさらに上”の領域を一度は覗いてみたくなる――というのもまた、クルマ好きのごく素直な心情だとも思う。

となれば、まず真っ先に考えるのが足回りの強化というのは、今も昔も走り好きの定石。筆者も当然、引き締まったビルシュタインの足に合わせてハイグリップなより現代的なタイヤを試してみたいという思いは以前からあって、さらにはクルマ、そして自分のドライビングの腕までも限界まで追い込むことのできるサーキットでの走行も、その視野の片隅には常に見え隠れしていたのである。

限界領域がすこぶる高い。
A052はまさに“プロスペック”である。

さらなるグリップを求めたタイヤ選びの中で導き出されたのが、YOKOHAMA / ADVANがハイグリップ・スポーツタイヤのひとつの頂点として位置付けている「A052」だった。

「グリップという言葉の本来の意味がよく理解できるはずですよ。間違いなく走りの世界観が今より2ランクくらいは引き上げられるはずです」

モータースポーツの領域にも精通したYOKOHAMA / ADVANのスペシャリストにそう後押しされて、最初は少しドキドキしながらA052に履き替えた。なお、A052を履くにあたってはホイールも「ADVAN Racing GT for PORSCHE」の18インチ・サイズを贅沢にも奢らせてもらっている。

装着サイズはフロントが225/40R18、リヤが265/35R18。幅も外径もサイズアップとなるが、そこはその分だけグリップもさらに増すという前向きな解釈とした。実際、“Nコード”の付いたポルシェの純正設定と同じ17インチのサイズにこだわると、その選択肢がグッと狭まるという現実もあったからだ。

A052を履かせたタイプ964、ストリートで受けた印象はまさに衝撃の一言に尽きるものだった。本当に足回りが2世代くらい先のクルマに進化したような印象を受けたのである。たとえば同じコーナーを攻略する際に、それまでの17インチの承認タイヤでは「これ以上はちょっと不安かな…」と感じていた速度の2割ほど上の領域であっても、なんの不安もなくクリアできてしまったことにまずは驚かされた。“Sタイヤ級”と謳われるそのグリップ性能は、やはり伊達ではなかったのだ、と。

しかしながら、レーシング直系の非常に高いケーシング剛性(トレッド、サイドウォール、ビード各部で構成されるタイヤ断面容器の剛性)を誇るA052のグリップ性能の真の実力(限界)を知るにはストリートでは明らかに事足りないのも事実(何より危険)で、その実力を測るステージをクローズドのコースに移す必要に迫られることになったのである。

ならば念願のサーキット走行、という思いもあったのだけれど、腕の未熟な筆者がまず向かったのは富士スピードウェイの広大なパーキングスペースを舞台に、クルマの特性を最大限に引き出せるレイアウトのパイロンコースを特設した「パークトレーニング」だった。YOKOHAMA / ADVANのタイヤ開発ドライバーでもある織戸 学 選手(パークトレーニングの第一人者)がチーフインストラクターを務め、丸一日をかけてマンツーマンでクルマと乗り手の癖に見合ったドライビングテクニックを丁寧に指南してくれる。

このトレーニングにはスポーツドライビングに必要とされるほぼすべての要素が凝縮されている。スタートからの直線的なフル加速、アクセルのオン / オフで挙動をコントロールするような中高速コーナー、そしてブレーキングのタイミングと曲げるきっかけ作りが肝となる鋭角なコーナーにヘアピンまで、さまざまなコーナーを複合的に用意することで、コーナーごとのキャラクターの違いによるクルマの挙動変化、さらには自分自身の運転の癖まで、まさにスポーツドライビングの基本と真っ直ぐに向き合うことができるのである。

富士スピードウェイの広大なパーキングスペースを活用した「パークトレーニング」。さまざまなキャラクターのコーナーを複合的に組み合わすことで、コーナーごとのクルマの挙動の違い、さらには自分のドライビングの癖までを実践的に学ぶことができる。空冷911でのトレーニングは言うまでもなく難しく、そして楽しい。(写真:真壁敦史)

A052を履いたタイプ964でコースを攻めた印象の中でもっとも強かったこと。それはストリートで感じた以上にグリップの限界が高いというものだった。より正直に言うと、筆者はその恐ろしく高いグリップ性能にすっかり依存してしまってついついコーナーに突っ込み過ぎ、クルマを曲げるきっかけ(荷重移動のタイミング)を掴み損ねた挙句に立ち上がりでもグリップ任せに強引にアクセルを踏み込んで、特にヘアピンでは焦った果てにオーバーステアに陥りアクセルを戻して盛大にスピン!という、気持ちばかりが前へと急いてしまう負の連鎖を、恥ずかしながら10回近くもカマしてしまったのである。

グリップの限界がすこぶる高いタイヤだからこそ、それを目一杯に生かしたドライビングをするにはその限界の沸点を瞬時に読み取れるより鋭いセンサー、要は限界領域でのタイヤのグリップとしっかり対話ができる“プロスペック”の能力が求められることを、筆者は己のあまりの未熟さにうなだれつつも深く思い知らされたのだ。

A052にはRR特有の癖をギリギリまでカバーしてくれる懐の深さがあるものの、逆に限界を超えた先にはもはや破綻しかない――だからこそ“グリップの際(きわ)”を常に感じ取り、それをコントーロールしていくことの大切さ(そして難しさ)を、A052は正面から教えてくれたような気がした。

タイヤと対話ができる!
NEOVA AD09に感じた懐の広さ。

ハイグリップ・スポーツタイヤのひとつの頂点であるA052の凄み(と己の腕のなさ)を存分に体感(痛感)したのちに履き替えたのが、今年の2月にローンチされたばかりの新世代のストリート・スポーツタイヤ、「NEOVA AD09」だった。装着サイズはA052と同様にフロントが225/40R18、リヤが265/35R18である。

2月にローンチされた新世代のストリート・スポーツタイヤ「NEOVA AD09」。タイプ964のカレラ2にはフロント:225/40R18、リヤ:265/35R18をそれぞれ装着した。サイドからショルダーにかけてのムチッとしたフォルムが“カレラフェンダー”によくマッチしている。ホイールは「ADVAN Racing GT for PORSCHE」である。

AD09でストリートを走り出して最初に感じたのは、その角の丸さだった。A052の圧倒的なケーシング剛性の高さがすっかり馴染んでしまっていた体には、AD09の感触はとてもマイルドなものに感じられた。尖っている部分がなく、あくまで優しい印象。しかし、だからこそそこに一抹の物足りなさのようなものを感じたのもまた、正直な感想ではある。

しかし、履き替えてすぐに再び参加した「パークトレーニング」でその印象は一変することになる。それはどこか、眼から鱗が落ちるほどの有意義な経験でもあった。

A052で攻めたときとほぼ同じレイアウトのコースを全開で走ると、明らかにクルマとの一体感が増していることに気づく。A052のときはあくまで高いグリップに頼り切って“クルマに乗せられている”という感覚が強かったのが、AD09ではグリップの変化を感じ取りながら“自分でクルマを操っている”という確かな手応えを得ることができたのである。

しなやかに粘るイメージで4輪からのインフォメーションが掴み取りやすいNEOVA AD09。気持ちよく走ることができるナチュラルなフィーリングが印象的だった。(写真:真壁敦史)

攻めた先に感じたAD09の感触には、“しなやかさ”が終始あったように思う。限界領域はA052の方がより高いのは確かだけれど、そもそもハイグリップ・スポーツタイヤの限界域(スウィートスポット)を使いこなす技量がまだないドライバーに対しては、逆にその強いグリップそのものが、ときには仇となる側面だってあるのではないかとも思えた。

一方のAD09はタイヤがしっかりとねじれ、たわんでくれることで、コーナーごとのグリップの変化に対しても4輪からのより明確なインフォメーションが得られるように感じた。そう、なによりもナチュラルかつその奥には明確な芯(安心感)をも感じさせるAD09のグリップ性能は、走っていて素直に「楽しい」と思わせてくれる類のものなのである。

A052のときはタイヤのグリップ任せに突っ込み過ぎてすべてのリズムを崩してばかりいたヘアピンでも、AD09はグウーっと粘ってくれる感じがステアリングの奥から伝わってきて、前回はあれほどスピンをしまくっていたことがまるで嘘のように、この日は一度もスピンを喫せず(ケツが流れる場面でもしっかりコントロールができた!)して、タイヤと対話をしながら気持ちよくコーナーをクリアすることができて嬉しかった。

“懐の広さ”と“懐の深さ”――NEOVA AD09とA052の似て非なる本質は、改めてそう区分できるような気がする。

バランスを重視して乗り手に“操る歓び”を幅広く与えてくれるNEOVA AD09。

鋭くも奥の深い世界観でよりプロ視点の“突き詰めた速さ”を体現するA052。

共に懐の部分では“質の高い走り”を支えることに変わりはないが、それを乗り手にどう伝え、どう選び取らせるか? という部分においては、互いに異なるレベルでのアプローチを仕掛ける。

なるほど、これはポルシェ911においても同じことが当てはまるから面白い。

より普遍的なバランス性能をもったカレラと、レーシング直系のより尖った走り(速さ)を追求したRS(水冷ではGT3)との関係性によく似ているのと思うのだ。

そして、ドライビング・テクニックにおいてもまた、“上手さ”と“速さ”は質の高い走りの世界を追い求めるという意味では同義であっても、そこに至るまでのアプローチにはそれぞれに異なるレベルの経験値と技量が必要とされることもまた、事実だと思う。

上手さを突き詰めた先に速さがある。

空冷世代のポルシェ911という、唯一無二の奥深い走りの世界観を秘めたスポーツカーを素材に測ってみたA052とNEOVA AD09とのそれぞれの相性には、結局のところ、そんなシンプルな答えを見出すことができた。

よし、ドライビングの上手さをさらに追い求めて、まずは懐の広さを感じるNEOVA AD09でサーキット走行に挑んでみることにしよう。そしていつの日か、A052を完璧に履きこなして確かな速さまでを手にすることを目指して。

(了)

ADVAN A052
ADVAN NEOVA AD09

旧車とADVAN―其の弐

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